ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
<世界的に有名になった彼女は8歳のときから作家だった>
2024年のノーベル文学賞を受賞した韓国人作家韓江(ハン・ガン)は、12月7日午後5時(現地時間)、スウェーデン・アカデミーで記念講演を行った。折しも韓国では尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による戒厳令による混乱が起きたばかりだったが、彼女は講演の中で、1980年の光州事件を扱った著作「少年が来る」について多くの時間を割いて語った。韓国メディア聯合ニュース、朝鮮日報、イーデイリーなどが報じた。
9歳まで光州で生まれ育った「書く人」
「愛ってどこにあるんだろう? / ぴょんぴょん跳ねる私の胸の中にある。// 愛って何だろう? / 私たちの胸と胸の間をつなぐ金糸だよ」
「光と糸」と題された講演は、彼女が1979年4月、8歳の時に書いた詩を偶然見つけたエピソードから始まった。彼女は「昨年1月、引越しのために倉庫を整理して古い靴箱が出てきた」と語った。「その8才の子供が使った単語のいくつかが、今の私とつながっていると感じた」と話した。14年が経って22歳になったとき、彼女は「書く人」になり、5年後に初の長編小説「黒い鹿」を発表した。
ハン・ガンは長編小説を書くたびに質問の中に住みながら「質問の最後にたどり着く時、小説を完成することになる」と回想した。彼女は人間の暴力と愛、生と死に対する根源的な「質問」がドミノのように続き、新しい作品に進んだ。
彼女の「質問」は光州民主化運動の被害者の話を扱った「少年が来る」(2014)を執筆した際に頂点に達した。9歳のときに引っ越すまで光州で生まれ育った彼女は、2012年の冬、光州事件の犠牲者が眠る墓地に行き、「正面から光州を扱う小説を書くと決心した」という。「そこで虐殺が起きた時、私は9歳だった」と回想した。彼女は光州だけでなく世界で行われてきた虐殺の記録を隅々まで調べた。そうして誕生したのが代表作「少年が来る」だった。ノーベル委員会が選考理由の第1順位に挙げた作品は、歴史の真ん中に立った個人の苦痛と内面を繊細に描いた。
光州は一つの都市ではなく普通名詞になる
「その時期に私が思い出したりした2つの質問がある。『現在が過去を助けることができるのか?』『生きている者が死者を救うことができるのか?』。この小説をこれ以上書くことができないとほとんどあきらめた時、ある若い夜学教師の日記を読んだ。 1980年5月、軍人たちが戻ってくると予告された夜明けまで道庁のそばのYWCAに残っていて殺害されたパク·ヨンジュンは最後の夜にこのように書いた。『神様、どうして私には良心があってこんなに私を刺して痛くするのですか。私は生きたいです』」
「この小説がどちらに行くべきか雷のように分かった。二つの質問をこのように逆にひっくり返すべきだということにも気づいた。『過去が現在を助けることができるのか?』『死んだ者が生きている者を救うことができるのか?』。以後、この小説を書く間、実際に過去が現在を助けていると、死んだ者が生きている者を助けていると感じた瞬間があった」
「人間の残酷性と尊厳が極限の形で同時に存在した時、空間を光州と呼ぶ時、光州は一つの都市を指す固有名詞ではなく普通名詞になるということを私はこの本を書いている間に知った。時間と空間を渡り、私たちに戻ってくる現在形だ」
ハン・ガンは、さらに前に進むという覚悟も明らかにした。自らを「書く人」と命名した彼女は「まだ私は次の小説を完成できずにいる」と打ち明け、「とにかく私はゆっくりとでも書き続ける。今まで書いた本を後にしてもっと前に進むつもりだ。いつの間にか角を曲がってこれ以上過去の本が見えないほど、人生が許す限り最も遠く」と話した。
講演の最後にハンガンは読者に向けて次のようなメッセージを贈った。
「私が感じるその生々しい感覚を電流のように文章に吹き込もうとし、その電流が読む人々に伝わることを感じる時は驚き感動する。言語が私たちをつなぐ糸だということを実感する。その糸につながってくれるすべての方々に心から感謝の言葉を申し上げます」
図書館が「赦免措置」を実施
ノーベル賞の贈呈式が行われる10日、韓国ではハン・ガンのノーベル文学賞受賞を祝うイベントなどが開かれた。彼女が生まれ育った光州市のある全羅南道では、10日午後4時、全羅南道立美術館で道民祝賀行事を開催したほか、道立図書館では、本を借りる道民124人にバラの花を一輪ずつプレゼントした。また全南道立図書館を含む全南道75カ所の公共図書館では授賞式当日の10日から31日まで「図書延滞特別解除」が行われる。これは過去に返却遅延で貸出禁止となった人に、再度貸出を行うようにする措置だ。
ソウル市も10日にソウル図書館で「2024世界ノーベル文学祭」を開催した。午後2時から8時までわたって行われたイベントでは、俳優のユ·ソンがハン・ガンの代表小説「菜食主義者」などを朗読したほか、文学評論家のカン·ジヒ、詩人のソン·ギワン、ソウル大学独文学科教授ホン·ジンホなどがノーベル文学賞の過去、現在、未来をテーマにした講演やブックトークを行った。
また全羅南道と同様に、ソウル図書館などソウル市の公共図書館232カ所で貸出制限の赦免を行った。ソウルでは約10万人が「赦免」の恩恵を受けるとされており、対象者は11日からソウル図書館および管内の公共図書館の貸出サービスを再び正常に利用できるという。
【動画】ハン・ガンの記念講演
スウェーデン・アカデミーで記念講演を行うハン・ガン arirang news / YouTube
<世界的に有名になった彼女は8歳のときから作家だった>
2024年のノーベル文学賞を受賞した韓国人作家韓江(ハン・ガン)は、12月7日午後5時(現地時間)、スウェーデン・アカデミーで記念講演を行った。折しも韓国では尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による戒厳令による混乱が起きたばかりだったが、彼女は講演の中で、1980年の光州事件を扱った著作「少年が来る」について多くの時間を割いて語った。韓国メディア聯合ニュース、朝鮮日報、イーデイリーなどが報じた。
9歳まで光州で生まれ育った「書く人」
「愛ってどこにあるんだろう? / ぴょんぴょん跳ねる私の胸の中にある。// 愛って何だろう? / 私たちの胸と胸の間をつなぐ金糸だよ」
「光と糸」と題された講演は、彼女が1979年4月、8歳の時に書いた詩を偶然見つけたエピソードから始まった。彼女は「昨年1月、引越しのために倉庫を整理して古い靴箱が出てきた」と語った。「その8才の子供が使った単語のいくつかが、今の私とつながっていると感じた」と話した。14年が経って22歳になったとき、彼女は「書く人」になり、5年後に初の長編小説「黒い鹿」を発表した。
ハン・ガンは長編小説を書くたびに質問の中に住みながら「質問の最後にたどり着く時、小説を完成することになる」と回想した。彼女は人間の暴力と愛、生と死に対する根源的な「質問」がドミノのように続き、新しい作品に進んだ。
彼女の「質問」は光州民主化運動の被害者の話を扱った「少年が来る」(2014)を執筆した際に頂点に達した。9歳のときに引っ越すまで光州で生まれ育った彼女は、2012年の冬、光州事件の犠牲者が眠る墓地に行き、「正面から光州を扱う小説を書くと決心した」という。「そこで虐殺が起きた時、私は9歳だった」と回想した。彼女は光州だけでなく世界で行われてきた虐殺の記録を隅々まで調べた。そうして誕生したのが代表作「少年が来る」だった。ノーベル委員会が選考理由の第1順位に挙げた作品は、歴史の真ん中に立った個人の苦痛と内面を繊細に描いた。
光州は一つの都市ではなく普通名詞になる
「その時期に私が思い出したりした2つの質問がある。『現在が過去を助けることができるのか?』『生きている者が死者を救うことができるのか?』。この小説をこれ以上書くことができないとほとんどあきらめた時、ある若い夜学教師の日記を読んだ。 1980年5月、軍人たちが戻ってくると予告された夜明けまで道庁のそばのYWCAに残っていて殺害されたパク·ヨンジュンは最後の夜にこのように書いた。『神様、どうして私には良心があってこんなに私を刺して痛くするのですか。私は生きたいです』」
「この小説がどちらに行くべきか雷のように分かった。二つの質問をこのように逆にひっくり返すべきだということにも気づいた。『過去が現在を助けることができるのか?』『死んだ者が生きている者を救うことができるのか?』。以後、この小説を書く間、実際に過去が現在を助けていると、死んだ者が生きている者を助けていると感じた瞬間があった」
「人間の残酷性と尊厳が極限の形で同時に存在した時、空間を光州と呼ぶ時、光州は一つの都市を指す固有名詞ではなく普通名詞になるということを私はこの本を書いている間に知った。時間と空間を渡り、私たちに戻ってくる現在形だ」
ハン・ガンは、さらに前に進むという覚悟も明らかにした。自らを「書く人」と命名した彼女は「まだ私は次の小説を完成できずにいる」と打ち明け、「とにかく私はゆっくりとでも書き続ける。今まで書いた本を後にしてもっと前に進むつもりだ。いつの間にか角を曲がってこれ以上過去の本が見えないほど、人生が許す限り最も遠く」と話した。
講演の最後にハンガンは読者に向けて次のようなメッセージを贈った。
「私が感じるその生々しい感覚を電流のように文章に吹き込もうとし、その電流が読む人々に伝わることを感じる時は驚き感動する。言語が私たちをつなぐ糸だということを実感する。その糸につながってくれるすべての方々に心から感謝の言葉を申し上げます」
図書館が「赦免措置」を実施
ノーベル賞の贈呈式が行われる10日、韓国ではハン・ガンのノーベル文学賞受賞を祝うイベントなどが開かれた。彼女が生まれ育った光州市のある全羅南道では、10日午後4時、全羅南道立美術館で道民祝賀行事を開催したほか、道立図書館では、本を借りる道民124人にバラの花を一輪ずつプレゼントした。また全南道立図書館を含む全南道75カ所の公共図書館では授賞式当日の10日から31日まで「図書延滞特別解除」が行われる。これは過去に返却遅延で貸出禁止となった人に、再度貸出を行うようにする措置だ。
ソウル市も10日にソウル図書館で「2024世界ノーベル文学祭」を開催した。午後2時から8時までわたって行われたイベントでは、俳優のユ·ソンがハン・ガンの代表小説「菜食主義者」などを朗読したほか、文学評論家のカン·ジヒ、詩人のソン·ギワン、ソウル大学独文学科教授ホン·ジンホなどがノーベル文学賞の過去、現在、未来をテーマにした講演やブックトークを行った。
また全羅南道と同様に、ソウル図書館などソウル市の公共図書館232カ所で貸出制限の赦免を行った。ソウルでは約10万人が「赦免」の恩恵を受けるとされており、対象者は11日からソウル図書館および管内の公共図書館の貸出サービスを再び正常に利用できるという。
【動画】ハン・ガンの記念講演
スウェーデン・アカデミーで記念講演を行うハン・ガン arirang news / YouTube