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究極のリサイクル? 死後も役立つ「堆肥葬」が広がる背景

ニューズウィーク日本版 2024年12月3日 13時20分

アンドリュー・スタントン
<人生を締めくくる究極のリサイクル? 大気も土壌も汚染しない「第3の選択肢」を考える>

人間の遺体を土に返す「堆肥葬(自然有機還元葬)」。アメリカでは合法化する州が相次ぎ、デスケアサービス(葬儀、火葬・埋葬など死に関連するサービス)の未来になるかもしれない。

堆肥葬は伝統的な埋葬に代わる新たな選択肢だと賛成派は言う。通常は数年かかる遺体の分解プロセスをわずか数週間に短縮して土に返す。より環境に優しく、悲嘆に暮れる遺族にも重要な社会的利益をもたらし得ると言う。

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堆肥葬は火葬や土葬より二酸化炭素(CO2)排出量が少なく環境に優しいと賛成派は主張する。「火葬1回のCO2排出量は車で言えば970キロ近く走ったときの排出量に相当する」と、堆肥葬企業アース・フューネラルのトム・ハリーズCEOは言う。

堆肥葬は今年に入ってこれまでに少なくとも6州で合法化され、間もなくさらに数百万人が利用できるようになる可能性がある。

基本的に堆肥葬は遺体を納めた容器にムラサキウマゴヤシや木片など植物性の天然素材を入れ、最適の温度・条件下で分解プロセスを加速させる。通常約45日で分解が完了、利用前に堆肥の養分と品質を確認すると、同社の広報担当ヘイリー・モリスは言う。

最近では今年3月にアリゾナ州が堆肥葬を合法化。合法化法案は民主・共和両党の超党派の支持を受けてすんなり議会を通過。4月にケイティ・ホッブス州知事が署名して成立した。

模擬納棺の様子 MAT HAYWARD/GETTY IMAGES FOR RECOMPOSE

まず民主党寄りの州が合法化を支持したが、「個人の選択」として受け入れることが「溝を埋める」のに役立ち、超党派の支持が拡大してきたと、ワシントン州シアトルにあるアメリカ初の堆肥葬施設「リコンポーズ」の顧客サービス責任者モーガン・ヤーボローは言う。

「前進するにつれてコインの両面で」、つまり党派を超えて支持が拡大していると言う。「それが当社のクライアントにも表れている。リベラル派や民主党支持者以外にも、個人の選択という観点から考える人が増えている」

2019年にワシントン州が全米で初めて堆肥葬を合法化。21年にコロラド州とオレゴン州、22年にバーモント州とカリフォルニア州、ニューヨーク州が続いた。23年はネバダ州。今年は3月に前述のアリゾナ州、5月にメリーランド州とデラウェア州とミネソタ州、6月にはメーン州も合法化法案を可決。ニュージャージー州なども合法化を検討中だ。

課題はいくつもあるが

堆肥葬合法化法の動きの背景にあるのは、人々の関心が増すなかで、埋葬をめぐる新たな選択肢を支持する個人や団体の声が高まっていることだと、アース・フューネラルのモリスは言う。

「この選択は特に個人的なものなので、当社は誰もが自分にとって最も適した方法を選べることを何よりも重視している」

遺体に模した植物で棺に納めた様子を実演 RECOMPOSE

リコンポーズのヤーボローによれば、合法化はアメリカでの堆肥葬実用化への重要なステップだが、法案成立後もいくつものステップが必要だと言う。業界のリーダーたちは政府、保健当局、葬儀場・墓地の役員らと協力して規則や規制を堆肥葬に合うように変えなければならない。

このプロセスを約1年で終えられる州もあるが、カリフォルニア州では企業が堆肥葬サービスの提供を開始できるのは、法律が発効する27年以降だとヤーボローは言う。

ニューヨーク州では22年に州議会が堆肥葬を合法化して以降、クライアントからの関心が増していると、ニューヨーク市のエコ葬儀会社フィッティング・トリビュート・フューネラル・サービシズの創業者で葬儀ディレクターのエイミー・カニングハムは語る。

ニューヨークは昔から葬儀関連の政策に「慎重で保守的」だが、合法化法案の成立は「利用者がよりエコな方法にいかに積極的かの証し」だと言う。合法化は少々意外で、大きな政争がなかったのは推進派のほうが反対派より組織化されていたからだとカニングハムは指摘する。

ニューヨーク州では、堆肥葬合法化後も実用化には至っていない。サービスを提供する施設がまだ西海岸にしかないためだ。業界関係者は施設の立地やムラサキウマゴヤシなど必要な材料の入手方法を含め、実用化の方法を模索中だ。

最期まで環境に優しく

「多くの人々が期待に胸を膨らませる一方、どうすればうまくいくか慎重に見極めようと、周囲の出方をうかがっている」と、カニングハムは語った。

賛成一色だったわけではない。反対派の筆頭格はカトリック教会だ。

昨年3月、米国カトリック司教協議会(USCCB)の協議委員会は堆肥葬に反対する覚書を発表。土葬が望ましいというのがカトリック教会の長年の見解だが、火葬についても遺灰が「神聖な場所に安置される」ことを条件に認めている。一方、堆肥葬は「遺体に十分な敬意を払っていない」と、同委員会は結論した。

それでもカニングハムによれば、堆肥葬への関心は増している。「ヒッピー的」な自然回帰を求める人たちばかりではなく、もっと環境に配慮すべきだと考える保守的なキリスト教徒なども関心を持っていると言う。

「大地の善き管理者となることも生きることの一部」だと、カニングハムは言う。「私の番が来たら、環境に配慮し、生分解可能で(防腐処理などで)大地を汚染する心配のない葬儀にしたい。わが社のビジネスは環境に優しい葬儀を軸にしており、会社は間違いなく成長している」

死後も肉体が大地の役に立つ。「誰もが最期に残したい、復活・再生・新たな命という究極のメッセージだ」

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