アリス・コリンズ for WOMAN
<「失敗例には全く触れない」「とても腹が立つ」...すがりたい気持ちに付け込む、ちまたにあふれる、科学的根拠のないがんの代替治療について乳癌サバイバーの医師がメスを入れる>
イギリス在住のリズ・オリオーダン(50)は乳癌の治療法に詳しい。元乳腺外科顧問医師で、彼女自身2015年に乳癌と診断され、闘病を続けてきた。
乳房切除手術、抗癌剤や放射線、ホルモン阻害薬による治療。いずれも確実に信頼できる方法だが、代替療法を試したがる患者が増えているという。
今年9月にはオーストラリア出身のモデル、エル・マクファーソン(60)が、17年に乳癌と診断され、抗癌剤などを使わないホリスティック療法を選んだことを公表。元MTV司会者アナンダ・ルイス(51)もこの10月、18年にステージ3の乳癌と診断されたが乳房切除手術を拒否したことを明かした(その後、癌はステージ4に進行)。
こうした補完・代替医療(CAM)の利用は1970年代の約25%から2000年以降は49%と、近年増加傾向にある。昨年のある調査では、癌患者の52%がCAMを利用、5%がCAMを優先して従来型の治療を後回しにしていた。
オリオーダンは癌と診断されたのを機にオンラインでCAMについて調べ、誤った情報の多さにぞっとしたという。
「主流派の医師なら絶対に治るなんて言えないが、代替療法や(自然治癒力を高めるという)ホメオパシー療法の医師の中には治ると請け合う者もいる」とオリオーダンは言う。「私は再発予防のための治療を拒否する患者にてこずった経験がある。理解できず、とても腹が立った」
「女性たちにもっと良識ある情報を提供したくて乳癌のガイドブックを書いた」と言うオリオーダンは、特に人気の代替療法の嘘を著書『The Complete Guide to Breast Cancer(乳がん完全ガイド)』で暴いている。その一部を紹介しよう。
ジュースクレンズのような科学的根拠のない「治療法」を優先する傾向に警鐘を鳴らす VERA_PETRUNINA/ISTOCK
ジュースクレンズ
栄養豊富なスムージーを飲めば癌予防になる──。そんな説を信じている人たちもいる。だが「ジュースで癌が治るという科学的根拠は全くない。それで癌が治ったと主張する人たちは大抵、最初に外科手術を受けている」とオリオーダンは言う。
「手術で癌を切除した後にジュースで再発を予防している。果物や野菜の豊富なヘルシーな食生活で体重を健全なレベルに保てば、再発リスクを減らせることが分かっている」
ジュースやスムージーを飲むのは必ずしも悪くないが、それだけでは食物繊維やタンパク質が不足する。これらが足りないと腸の健康や筋肉量に悪影響が出る。
ビーガンダイエット
卵や乳製品も口にしない完全菜食主義の食生活も、それだけでは癌は治せないとオリオーダンは言う。「完全菜食主義にすればヘルシーかもしれないが、カルシウムやタンパク質も摂取する必要がある。ビーガンダイエットは癌を治したり再発リスクを下げたりするものではない──あくまでもライフスタイルの好みだ」
各種サプリメント
サプリは治療によるダメージを緩和する可能性はあっても治療の代わりにはならない。1日の必要量を果物や野菜だけで摂取するのは難しいので、抗癌剤治療中の患者にビタミン剤を処方する医師もいるだろう。治療中のサプリ服用については、治療薬と干渉する可能性もあるので担当医に相談するべきだ。
カーニボアダイエット
1日の食事は肉や魚や卵など動物性食品のみで炭水化物は一切取らず、野菜や果物や豆類や種子類など植物由来の食品もカットする。
米クリーブランド・クリニックによれば、こうした食生活は飽和脂肪が多く、コレステロール値の上昇や心臓病のリスク増大が懸念されるという。また、ベーコンなどの加工肉はナトリウムを多く含んでおり、腎臓病や高血圧を招きかねない。
「とにかく非常に不健康。食事療法では癌は治せない。治療効果が証明されているのは外科手術だけだ。その上で化学療法と放射線治療を行い、再発リスクを減らす」
断食・低カロリー療法
減量には役立つかもしれないが、それだけだとオリオーダンは言う。「(1週間のうち5日間は普通の食事をし、残りの2日間は摂取カロリーを4分の1に減らす)5:2ダイエットなどは減量には非常に効果的だが、癌は治せない」
代替療法の人気の理由
つらい化学療法や外科手術抜きで癌を治療するという考えに魅力を感じる人が多いと、オリオーダンは考えている。「怖くてたまらず、生き延びるためなら何でもしたいという気持ちは理解できる。ほとんどの癌患者は確実性と希望を求めているが、医師は確実な返事などできない」
「エル・マクファーソンのようなセレブが自分の体験談を語れば、彼女が言うのだからきっと正しいんだと誰もが考える。皆が信じるのは、この手の(代替療法の)製品の巧みな販促マーケティングと、そうした製品にすがりたい患者の思いがあるからだ」
副作用に対処し、ストレスを緩和し、自分で努力している気分になるためにCAMを利用してもいいが、「自然」だから安全とは限らないと、米国立癌研究所(NCI)は警告。代替療法を試したければリスクや副作用や費用などについて担当医に質問し、保険が利くかどうか確認するべきだという。
「ルイスの癌が非常に速く進行したのは悲劇で、乳房を切除していたらどうなっていたかは知る由もない」とオリオーダンは言う。
「CAMで治らなかったという話はめったに聞かない。クリニックや医師たちのウェブサイトは輝かしい成功談だらけで失敗例には全く触れていない。これが現実だ。だからこのメッセージをだまされやすい患者たちに届けて、彼らが生死に関わる決断を下す前にCAMのメリットとデメリットの両方を理解できるようにすることが重要だ」
「選ぶのは患者だが、それは十分な情報に基づく決断でなくてはならない」
『The Complete Guide to Breast Cancer(乳がん完全ガイド)』
Trisha Greenhalgh, Liz O'Riordan[著]
Vermilion[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
代替療法の嘘について語るリズ・オリオーダン医師
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<「失敗例には全く触れない」「とても腹が立つ」...すがりたい気持ちに付け込む、ちまたにあふれる、科学的根拠のないがんの代替治療について乳癌サバイバーの医師がメスを入れる>
イギリス在住のリズ・オリオーダン(50)は乳癌の治療法に詳しい。元乳腺外科顧問医師で、彼女自身2015年に乳癌と診断され、闘病を続けてきた。
乳房切除手術、抗癌剤や放射線、ホルモン阻害薬による治療。いずれも確実に信頼できる方法だが、代替療法を試したがる患者が増えているという。
今年9月にはオーストラリア出身のモデル、エル・マクファーソン(60)が、17年に乳癌と診断され、抗癌剤などを使わないホリスティック療法を選んだことを公表。元MTV司会者アナンダ・ルイス(51)もこの10月、18年にステージ3の乳癌と診断されたが乳房切除手術を拒否したことを明かした(その後、癌はステージ4に進行)。
こうした補完・代替医療(CAM)の利用は1970年代の約25%から2000年以降は49%と、近年増加傾向にある。昨年のある調査では、癌患者の52%がCAMを利用、5%がCAMを優先して従来型の治療を後回しにしていた。
オリオーダンは癌と診断されたのを機にオンラインでCAMについて調べ、誤った情報の多さにぞっとしたという。
「主流派の医師なら絶対に治るなんて言えないが、代替療法や(自然治癒力を高めるという)ホメオパシー療法の医師の中には治ると請け合う者もいる」とオリオーダンは言う。「私は再発予防のための治療を拒否する患者にてこずった経験がある。理解できず、とても腹が立った」
「女性たちにもっと良識ある情報を提供したくて乳癌のガイドブックを書いた」と言うオリオーダンは、特に人気の代替療法の嘘を著書『The Complete Guide to Breast Cancer(乳がん完全ガイド)』で暴いている。その一部を紹介しよう。
ジュースクレンズのような科学的根拠のない「治療法」を優先する傾向に警鐘を鳴らす VERA_PETRUNINA/ISTOCK
ジュースクレンズ
栄養豊富なスムージーを飲めば癌予防になる──。そんな説を信じている人たちもいる。だが「ジュースで癌が治るという科学的根拠は全くない。それで癌が治ったと主張する人たちは大抵、最初に外科手術を受けている」とオリオーダンは言う。
「手術で癌を切除した後にジュースで再発を予防している。果物や野菜の豊富なヘルシーな食生活で体重を健全なレベルに保てば、再発リスクを減らせることが分かっている」
ジュースやスムージーを飲むのは必ずしも悪くないが、それだけでは食物繊維やタンパク質が不足する。これらが足りないと腸の健康や筋肉量に悪影響が出る。
ビーガンダイエット
卵や乳製品も口にしない完全菜食主義の食生活も、それだけでは癌は治せないとオリオーダンは言う。「完全菜食主義にすればヘルシーかもしれないが、カルシウムやタンパク質も摂取する必要がある。ビーガンダイエットは癌を治したり再発リスクを下げたりするものではない──あくまでもライフスタイルの好みだ」
各種サプリメント
サプリは治療によるダメージを緩和する可能性はあっても治療の代わりにはならない。1日の必要量を果物や野菜だけで摂取するのは難しいので、抗癌剤治療中の患者にビタミン剤を処方する医師もいるだろう。治療中のサプリ服用については、治療薬と干渉する可能性もあるので担当医に相談するべきだ。
カーニボアダイエット
1日の食事は肉や魚や卵など動物性食品のみで炭水化物は一切取らず、野菜や果物や豆類や種子類など植物由来の食品もカットする。
米クリーブランド・クリニックによれば、こうした食生活は飽和脂肪が多く、コレステロール値の上昇や心臓病のリスク増大が懸念されるという。また、ベーコンなどの加工肉はナトリウムを多く含んでおり、腎臓病や高血圧を招きかねない。
「とにかく非常に不健康。食事療法では癌は治せない。治療効果が証明されているのは外科手術だけだ。その上で化学療法と放射線治療を行い、再発リスクを減らす」
断食・低カロリー療法
減量には役立つかもしれないが、それだけだとオリオーダンは言う。「(1週間のうち5日間は普通の食事をし、残りの2日間は摂取カロリーを4分の1に減らす)5:2ダイエットなどは減量には非常に効果的だが、癌は治せない」
代替療法の人気の理由
つらい化学療法や外科手術抜きで癌を治療するという考えに魅力を感じる人が多いと、オリオーダンは考えている。「怖くてたまらず、生き延びるためなら何でもしたいという気持ちは理解できる。ほとんどの癌患者は確実性と希望を求めているが、医師は確実な返事などできない」
「エル・マクファーソンのようなセレブが自分の体験談を語れば、彼女が言うのだからきっと正しいんだと誰もが考える。皆が信じるのは、この手の(代替療法の)製品の巧みな販促マーケティングと、そうした製品にすがりたい患者の思いがあるからだ」
副作用に対処し、ストレスを緩和し、自分で努力している気分になるためにCAMを利用してもいいが、「自然」だから安全とは限らないと、米国立癌研究所(NCI)は警告。代替療法を試したければリスクや副作用や費用などについて担当医に質問し、保険が利くかどうか確認するべきだという。
「ルイスの癌が非常に速く進行したのは悲劇で、乳房を切除していたらどうなっていたかは知る由もない」とオリオーダンは言う。
「CAMで治らなかったという話はめったに聞かない。クリニックや医師たちのウェブサイトは輝かしい成功談だらけで失敗例には全く触れていない。これが現実だ。だからこのメッセージをだまされやすい患者たちに届けて、彼らが生死に関わる決断を下す前にCAMのメリットとデメリットの両方を理解できるようにすることが重要だ」
「選ぶのは患者だが、それは十分な情報に基づく決断でなくてはならない」
『The Complete Guide to Breast Cancer(乳がん完全ガイド)』
Trisha Greenhalgh, Liz O'Riordan[著]
Vermilion[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
代替療法の嘘について語るリズ・オリオーダン医師
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