冷泉彰彦
<バンス副大統領や、一旦は距離を置いた長女イヴァンカ夫妻が共和党議員団とのパイプ役となる可能性も>
2017年からの第一次トランプ政権は、比較的単純な構造を持っていました。大統領のトランプの周辺には、ボスの言うままに当時はツイッターでメッセージを流す「忠臣」ホープ・ヒックス氏がいました。また、そうしたメッセージ発信においてはスティーブ・バノン分析官(当時)が助言をしていました。彼らが支える中で、現職の大統領であるにもかかわらず、暴言気味のメッセージが流され、コア支持者の「期待」に応えていたのでした。
けれども、そんな「トランプ・カルチャー」は当然、非現実的なファンタジーであり、実際には「現実」との折り合いをつけながら、政策の実行に結びつけるルートが必要でした。具体的には、議会共和党との調整や連絡が必要です。こうした「現実との連絡係」としては、長女のイヴァンカ氏とその夫のジャレッド・クシュナー氏が担当していました。
更に、ホワイトハウスでは、首席補佐官が「現実」との調整の責任者として動いていました。当初はラインス・プリーバス元共和党全国本部長、政権後期は元海兵隊員で国土安全保障長官だったジョン・ケリー氏が首席補佐官として閣僚をまとめ、議会との調整を行っていました。また、マイク・ペンス副大統領(当時)も、現実との橋渡しの役割を支えていたのでした。
そんな中で、最初の4年間の任期を通じて、トランプ大統領は独自の世界と現実の間を行き来していたのでした。バノンの助言を得て「白人至上主義」を認めるなど、様々な暴言を流してコア支持者を喜ばせたかと思うと、プリーバスやイヴァンカ夫妻らの言うことを聞いて「普通の共和党大統領」的な発言をするというような、振幅の幅を常に見せていました。
第二次トランプ政権が現実との接点を失う危険
ですが、来年1月に発足予定の第二次政権では、まず第一次政権を支えたプリーバス、ケリー、ペンスといった人々は、トランプ本人と激しく対立して決別しています。一方で、首席補佐官にはスーザン・ワイルズ女史という「選挙に当選させるだけのプロ」が選ばれています。そして、閣僚のメンバーについては、現実との接点の薄い「トランプ的な世界に忠実な人材」ばかりで固められているという印象です。
このままで行くと、第二次政権は「現実との接点を失う」危険があり、その結果として弊害だらけの極端な政策に走る可能性が懸念されています。
そうではあるのですが、ここへ来て、第二次政権として「それなりに現実との接点」が機能するかもしれない、そんな兆候も見えてきました。2点指摘したいと思います。
1つは、司法長官候補に内定していたマット・ゲーツ元議員の指名を、アッサリ取り下げたエピソードです。ゲーツ氏に関しては、議会下院共和党の議員団の中で、最も強硬な右派、最もトランプ氏に忠実ということで指名されたという印象がありました。その上で、トランプ氏自身が受けている訴訟への対抗、2021年1月の議会襲撃犯の恩赦など、賛否両論のある法的問題をトランプ氏に有利に導くことが期待されていたのでした。
しかし、ゲーツ氏には未成年の女性に関する買春疑惑があるなどの理由から、議会上院における承認は難航すると言われていました。但し、トランプ氏は上院議員の自分への忠誠度を測るという意味合いで、ゲーツ指名を強行する構えだったのです。そんな中、バンス次期副大統領は、上院議員としての同僚という立場を利用して、議員を一人一人説得する役回りをしていました。
そんな中、突然、11月21日にゲーツ氏は、自ら指名を辞退すると表明、彼を司法長官に指名する計画は断念に追い込まれました。その経緯ですが、直前まで「過半数をまとめる」としていたバンス氏から、トランプ氏に電話があり「実は議員の反対が根強く、ゲーツ承認は数合わせが成立しない」という一報が入ったのだそうです。これをトランプ氏が受け入れて、ゲーツ指名断念という判断となったといいます。
微妙なニュアンスは本人同士しか分からない世界ではありますが、バンス氏という実務家がトランプワールドと現実との橋渡しに動いているというのは、この事例からは明らかだと思います。
もう一つは、クシュナー父子の問題です。とにかく、2021年1月の議会襲撃事件以降、イヴァンカ氏夫妻は父親の政治活動とは一線を画すと表明、今回の選挙戦でも顔を見せていませんでした。ですが、そのイヴァンカ夫妻は、11月6日未明の勝利集会には顔を見せていたようです。また、クシュナー氏の父親である、チャールズ・クシュナー氏が、フランス大使に指名されたというのも、注目すべき事件だと思います。
フランス大使に指名したクシュナー父は不動産業のライバル
表面的には、娘婿の父親への身内びいき人事に見えます。ですが、そもそも、チャールズ・クシュナー氏は、ニューヨークの不動産王として、トランプ氏とは犬猿の仲のライバルです。またその息子が溺愛している長女と結婚した後に、その長女夫妻はペンス氏などと一緒に父親を批判する立場に回っていたわけです。
そんな中でのチャールズ・クシュナー氏のフランス大使指名というのは、もしかしたら、再びイヴァンカ夫妻が父親を支えるかもしれない可能性を示していると思います。極端なファンタジーからできているトランプワールドと、現実との橋渡し役を夫妻が再び担うという可能性です。
仮にバンス氏の頭脳と、イヴァンカ夫妻の人脈が連動すれば、共和党議員団との連携は意外とスムーズに進むかもしれません。そうなれば、第二次政権についても、現実との連動ができる体制が回り始めるかもしれない、そんな見方もしておきたいと思います。
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2017年からの第一次トランプ政権は、比較的単純な構造を持っていました。大統領のトランプの周辺には、ボスの言うままに当時はツイッターでメッセージを流す「忠臣」ホープ・ヒックス氏がいました。また、そうしたメッセージ発信においてはスティーブ・バノン分析官(当時)が助言をしていました。彼らが支える中で、現職の大統領であるにもかかわらず、暴言気味のメッセージが流され、コア支持者の「期待」に応えていたのでした。
けれども、そんな「トランプ・カルチャー」は当然、非現実的なファンタジーであり、実際には「現実」との折り合いをつけながら、政策の実行に結びつけるルートが必要でした。具体的には、議会共和党との調整や連絡が必要です。こうした「現実との連絡係」としては、長女のイヴァンカ氏とその夫のジャレッド・クシュナー氏が担当していました。
更に、ホワイトハウスでは、首席補佐官が「現実」との調整の責任者として動いていました。当初はラインス・プリーバス元共和党全国本部長、政権後期は元海兵隊員で国土安全保障長官だったジョン・ケリー氏が首席補佐官として閣僚をまとめ、議会との調整を行っていました。また、マイク・ペンス副大統領(当時)も、現実との橋渡しの役割を支えていたのでした。
そんな中で、最初の4年間の任期を通じて、トランプ大統領は独自の世界と現実の間を行き来していたのでした。バノンの助言を得て「白人至上主義」を認めるなど、様々な暴言を流してコア支持者を喜ばせたかと思うと、プリーバスやイヴァンカ夫妻らの言うことを聞いて「普通の共和党大統領」的な発言をするというような、振幅の幅を常に見せていました。
第二次トランプ政権が現実との接点を失う危険
ですが、来年1月に発足予定の第二次政権では、まず第一次政権を支えたプリーバス、ケリー、ペンスといった人々は、トランプ本人と激しく対立して決別しています。一方で、首席補佐官にはスーザン・ワイルズ女史という「選挙に当選させるだけのプロ」が選ばれています。そして、閣僚のメンバーについては、現実との接点の薄い「トランプ的な世界に忠実な人材」ばかりで固められているという印象です。
このままで行くと、第二次政権は「現実との接点を失う」危険があり、その結果として弊害だらけの極端な政策に走る可能性が懸念されています。
そうではあるのですが、ここへ来て、第二次政権として「それなりに現実との接点」が機能するかもしれない、そんな兆候も見えてきました。2点指摘したいと思います。
1つは、司法長官候補に内定していたマット・ゲーツ元議員の指名を、アッサリ取り下げたエピソードです。ゲーツ氏に関しては、議会下院共和党の議員団の中で、最も強硬な右派、最もトランプ氏に忠実ということで指名されたという印象がありました。その上で、トランプ氏自身が受けている訴訟への対抗、2021年1月の議会襲撃犯の恩赦など、賛否両論のある法的問題をトランプ氏に有利に導くことが期待されていたのでした。
しかし、ゲーツ氏には未成年の女性に関する買春疑惑があるなどの理由から、議会上院における承認は難航すると言われていました。但し、トランプ氏は上院議員の自分への忠誠度を測るという意味合いで、ゲーツ指名を強行する構えだったのです。そんな中、バンス次期副大統領は、上院議員としての同僚という立場を利用して、議員を一人一人説得する役回りをしていました。
そんな中、突然、11月21日にゲーツ氏は、自ら指名を辞退すると表明、彼を司法長官に指名する計画は断念に追い込まれました。その経緯ですが、直前まで「過半数をまとめる」としていたバンス氏から、トランプ氏に電話があり「実は議員の反対が根強く、ゲーツ承認は数合わせが成立しない」という一報が入ったのだそうです。これをトランプ氏が受け入れて、ゲーツ指名断念という判断となったといいます。
微妙なニュアンスは本人同士しか分からない世界ではありますが、バンス氏という実務家がトランプワールドと現実との橋渡しに動いているというのは、この事例からは明らかだと思います。
もう一つは、クシュナー父子の問題です。とにかく、2021年1月の議会襲撃事件以降、イヴァンカ氏夫妻は父親の政治活動とは一線を画すと表明、今回の選挙戦でも顔を見せていませんでした。ですが、そのイヴァンカ夫妻は、11月6日未明の勝利集会には顔を見せていたようです。また、クシュナー氏の父親である、チャールズ・クシュナー氏が、フランス大使に指名されたというのも、注目すべき事件だと思います。
フランス大使に指名したクシュナー父は不動産業のライバル
表面的には、娘婿の父親への身内びいき人事に見えます。ですが、そもそも、チャールズ・クシュナー氏は、ニューヨークの不動産王として、トランプ氏とは犬猿の仲のライバルです。またその息子が溺愛している長女と結婚した後に、その長女夫妻はペンス氏などと一緒に父親を批判する立場に回っていたわけです。
そんな中でのチャールズ・クシュナー氏のフランス大使指名というのは、もしかしたら、再びイヴァンカ夫妻が父親を支えるかもしれない可能性を示していると思います。極端なファンタジーからできているトランプワールドと、現実との橋渡し役を夫妻が再び担うという可能性です。
仮にバンス氏の頭脳と、イヴァンカ夫妻の人脈が連動すれば、共和党議員団との連携は意外とスムーズに進むかもしれません。そうなれば、第二次政権についても、現実との連動ができる体制が回り始めるかもしれない、そんな見方もしておきたいと思います。
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