ジェス・トムソン
<気候変動が鳥の結婚生活を脅かす...セイシェルの調査が明かす現実>
雨が降ると人間でも多少みじめな気分になる。だが小鳥同士の関係にはとんでもない影響を及ぼしかねない。
セイシェル諸島の5島にのみ生息する鳥類「セイシェルヤブセンニュウ」は、雨が多すぎたり少なすぎたりする日が続くと「離婚」が増える傾向があるという論文が、アニマル・エコロジー誌に掲載された。
この発見は、気候変動による気象パターンの変化が、世界中の多数の種の繁殖に広く影響を及ぼし得ることを示唆している。
論文を発表した研究チームはクーザン島のセイシェルヤブセンニュウの繁殖行動について16年分のデータを分析し、同じ時期の気象パターンと照らし合わせた。
セイシェルヤブセンニュウは、雄と雌が複数の繁殖期、あるいは生涯を通して長期間つがいになるソーシャルモノガミーの関係をもつ。鳥類の90%はソーシャルモノガミーだが、どちらか一方が死んだわけではないのにこの絆が壊れることを離婚と呼ぶ。
「離婚(両方とも生きているのにつがいの絆を絶つこと)は、多くのソーシャルモノガミー種で観察される繁殖戦略であり、うまくいかない繁殖と関係することが多い」と論文では解説している。
離婚はソーシャルモノガミーの鳥類の約92%で確認されている現象で、離婚率は種によって異なる。
セイシェルヤブセンニュウの場合、調査期間中の離婚率は年間1~16%と幅があった。
研究チームはこの種の鳥の離婚率と降雨の変動の間に関係があることを発見。平年に比べて降雨が異常に少ない年や異常に多い年の方が、離婚率が多いことが分かった。
「16年分のデータを分析した結果、降雨パターンと離婚率の間に複雑な非線形の関係があることが分かった。雨が少ない年も多い年も離婚が増える傾向があった」。マッコーリー大学で行動生態学を専攻する論文共著者のフリッグ・スピールマンはそう解説する。
「この関係は特に、ある異常気象、つまり1997年のエルニーニョがもたらした豪雨の影響が顕著だった」
1997年の大雨をデータから除外した場合、雨量の増加と離婚率の低下との間には強い相関関係があった。しかし1997年の豪雨以降は離婚率も急増した。
「1997年は生物学的に重要だったと我々は考える。こうした影響をもたらす異常な豪雨は、将来的な気候変動によってもっと頻繁になると予想される」。論文の中で研究者はそう指摘する。
雨が少なければ餌が減り、雨が多ければ鳥が体温を保ちにくくなって生息地や巣にも被害が出る。離婚率の増加はそのことに起因している可能性がある。
「これは雨が繁殖の成功に影響を及ぼした結果だった可能性がある。恐らくは餌が見つけにくくなり、親鳥は現在の繁殖成功と未来の繁殖成功のどちらに投資するかのトレードオフを迫られた」
加えて、雨が多かったり少なかったりしたために、つがいの相手選びの重大な要因となる精神的ストレスが強まってこうしたパターンが生じた可能性もある。
離婚の可能性と、繁殖の成功や生まれた雛の数との間に直接的な関係は見られなかった。従ってそれ以外の要因が離婚率に影響している可能性が大きい。
気候変動が急速に進む中、ただでさえ保護が難しくなっているセイシェルヤブセンニュウにとって憂慮すべき発見だった。世界中の鳥たちも同じような状況にある。
「どんな種であれ、生存のためには気温、湿度、日光、さらには他の生物との相互関係(例えば獲物、天敵、餌と隠れ場所をめぐる争いなど)といった、一定の物理的・生物学的条件や資源を必要とする」。オーストリア・フリンダース大学のエコロジー研究フェロー、フレデリック・サルトレ(今回の研究にはかかわっていない)はかつて本誌にそう語っていた。
「そうした要因は、種の地理的分布を決める『ニッチ』を構成する。気候変動にそうした条件(気温、降雨、餌の入手可能性)がかき乱されて生息地が種の許容限界を超え、生息不可能になる」
過去の研究でも気温と離婚率の関係は指摘されていた。気温の上昇や降雨パターンの変動は、鳥類の社会を大混乱に陥れる恐れがある。
「気候変動が加速する中で、降雨のような環境条件の変動がソーシャルモノガミー種の安定にどう影響するかを理解することが欠かせない」とスピールマンは言い、「今回の研究は気候変動性にさらされる動物の行動について私たちの理解を深めてくれるだけでなく、気候変動の影響を受けやすい種の保護活動に役立つ貴重な知見を与えてくれる」と評している。
(翻訳:鈴木聖子)
【参考文献】
Bentlage, A. A., Speelman, F. J. D., Komdeur, J., Burke, T., Richardson, D. S., & Dugdale, H. L. (2024). Rainfall is associated with divorce in the socially monogamous Seychelles warbler. Journal of Animal Ecology.
<気候変動が鳥の結婚生活を脅かす...セイシェルの調査が明かす現実>
雨が降ると人間でも多少みじめな気分になる。だが小鳥同士の関係にはとんでもない影響を及ぼしかねない。
セイシェル諸島の5島にのみ生息する鳥類「セイシェルヤブセンニュウ」は、雨が多すぎたり少なすぎたりする日が続くと「離婚」が増える傾向があるという論文が、アニマル・エコロジー誌に掲載された。
この発見は、気候変動による気象パターンの変化が、世界中の多数の種の繁殖に広く影響を及ぼし得ることを示唆している。
論文を発表した研究チームはクーザン島のセイシェルヤブセンニュウの繁殖行動について16年分のデータを分析し、同じ時期の気象パターンと照らし合わせた。
セイシェルヤブセンニュウは、雄と雌が複数の繁殖期、あるいは生涯を通して長期間つがいになるソーシャルモノガミーの関係をもつ。鳥類の90%はソーシャルモノガミーだが、どちらか一方が死んだわけではないのにこの絆が壊れることを離婚と呼ぶ。
「離婚(両方とも生きているのにつがいの絆を絶つこと)は、多くのソーシャルモノガミー種で観察される繁殖戦略であり、うまくいかない繁殖と関係することが多い」と論文では解説している。
離婚はソーシャルモノガミーの鳥類の約92%で確認されている現象で、離婚率は種によって異なる。
セイシェルヤブセンニュウの場合、調査期間中の離婚率は年間1~16%と幅があった。
研究チームはこの種の鳥の離婚率と降雨の変動の間に関係があることを発見。平年に比べて降雨が異常に少ない年や異常に多い年の方が、離婚率が多いことが分かった。
「16年分のデータを分析した結果、降雨パターンと離婚率の間に複雑な非線形の関係があることが分かった。雨が少ない年も多い年も離婚が増える傾向があった」。マッコーリー大学で行動生態学を専攻する論文共著者のフリッグ・スピールマンはそう解説する。
「この関係は特に、ある異常気象、つまり1997年のエルニーニョがもたらした豪雨の影響が顕著だった」
1997年の大雨をデータから除外した場合、雨量の増加と離婚率の低下との間には強い相関関係があった。しかし1997年の豪雨以降は離婚率も急増した。
「1997年は生物学的に重要だったと我々は考える。こうした影響をもたらす異常な豪雨は、将来的な気候変動によってもっと頻繁になると予想される」。論文の中で研究者はそう指摘する。
雨が少なければ餌が減り、雨が多ければ鳥が体温を保ちにくくなって生息地や巣にも被害が出る。離婚率の増加はそのことに起因している可能性がある。
「これは雨が繁殖の成功に影響を及ぼした結果だった可能性がある。恐らくは餌が見つけにくくなり、親鳥は現在の繁殖成功と未来の繁殖成功のどちらに投資するかのトレードオフを迫られた」
加えて、雨が多かったり少なかったりしたために、つがいの相手選びの重大な要因となる精神的ストレスが強まってこうしたパターンが生じた可能性もある。
離婚の可能性と、繁殖の成功や生まれた雛の数との間に直接的な関係は見られなかった。従ってそれ以外の要因が離婚率に影響している可能性が大きい。
気候変動が急速に進む中、ただでさえ保護が難しくなっているセイシェルヤブセンニュウにとって憂慮すべき発見だった。世界中の鳥たちも同じような状況にある。
「どんな種であれ、生存のためには気温、湿度、日光、さらには他の生物との相互関係(例えば獲物、天敵、餌と隠れ場所をめぐる争いなど)といった、一定の物理的・生物学的条件や資源を必要とする」。オーストリア・フリンダース大学のエコロジー研究フェロー、フレデリック・サルトレ(今回の研究にはかかわっていない)はかつて本誌にそう語っていた。
「そうした要因は、種の地理的分布を決める『ニッチ』を構成する。気候変動にそうした条件(気温、降雨、餌の入手可能性)がかき乱されて生息地が種の許容限界を超え、生息不可能になる」
過去の研究でも気温と離婚率の関係は指摘されていた。気温の上昇や降雨パターンの変動は、鳥類の社会を大混乱に陥れる恐れがある。
「気候変動が加速する中で、降雨のような環境条件の変動がソーシャルモノガミー種の安定にどう影響するかを理解することが欠かせない」とスピールマンは言い、「今回の研究は気候変動性にさらされる動物の行動について私たちの理解を深めてくれるだけでなく、気候変動の影響を受けやすい種の保護活動に役立つ貴重な知見を与えてくれる」と評している。
(翻訳:鈴木聖子)
【参考文献】
Bentlage, A. A., Speelman, F. J. D., Komdeur, J., Burke, T., Richardson, D. S., & Dugdale, H. L. (2024). Rainfall is associated with divorce in the socially monogamous Seychelles warbler. Journal of Animal Ecology.