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子どもを育てる保育士・幼稚園教員を軽視する日本社会

ニューズウィーク日本版 2024年12月11日 11時20分

舞田敏彦(教育社会学者)
<資格を擁する専門職にもかかわらずベテラン保育士でも年収は小学校教員のおよそ半分しかない>

就学が始まるのは小学校からだが、現在では、その前の時期に教育ないしは保育を受けさせるのが一般的だ。教育を行うのは幼稚園、保育を行うのは保育所だ。昔は前者が多かったが、共稼ぎの増加に伴い、現在では後者の比重が高くなっている。

その保育所だが、保育士の不足が深刻化している。今年7月時点の保育士の有効求人倍率は2.69倍で、約2万7000人の保育士が不足しているという(厚労省)。少子化で人余りになっているかと思いきや、現状はその逆だ。

人が集まらない原因としてよく指摘されるのは、待遇がよくないことだ。厚労省の『賃金構造基本統計』(2023年)によると、保育士の所定内月収は25.1万円で、全職業の28.0万円よりも低い。小・中学校教員の39.9万円、高校教員の42.3万円とは大違いだ。平均値に丸める前の分布を比較すると、差はもっと明瞭になる<図1>。

小学校以降の教員では月収40万円以上が過半だが、保育士や幼稚園教員ではわずかしかいない。月収30万以上も4人に1人で、大半が月収20万円台。20万円未満も1割弱いる。まさにワーキングプアだが、私立園に限るともっと多いだろう。

同じ子どもを相手にする仕事であるにもかかわらず、給与の差は非常に大きい。就学前教育・保育が軽視されている、としか言いようがない。小さい子と遊ぶだけの、誰にでもできる仕事と思われているのか。それは大間違いで、保育士や幼稚園教員は資格を要する専門職だ。人間形成の初期に関わり、かつ幼い命を預かる重責も伴う。給与の低さ、小学校以降の教員との格差は不当だ。

「保育士や幼稚園教員は、若い人が多いからでは」という疑問もあるだろう。経験年数ごとのデータもあるので、年収を計算して線でつないだグラフにすると<図2>のようになる。

保育士・幼稚園教員と小学校以降の教員では、折れ線の傾斜が違っている。前者は直線的に上がっていくのに対し、後者は経験を重ねても昇給の幅が小さい。経験15年以上のベテラン層になると、保育士の年収は464万円なのに対し小・中教員は826万円と、倍近い開きがある。

あと一つ示したいのは、全職業の中での位置だ。厚労省の『賃金構造基本統計』には、144の職業の月収と年間賞与額(ボーナス)が出ている。これを使って職業別の年収を出し、高い順に並べたランキングにした。<表1>は、主な職業を取り出したものだ。

パイロット、医師、法務従事者(裁判官・弁護士等)、大学教授は年収1000万を超える。高校教員は11位で、小・中教員は13位。しかし幼稚園教員は89位、保育士に至っては100位だ。運転手や介護職はもっと低く、いわゆるエッセンシャル・ワークが冷遇されている。

保育士の給与は安い。広く知れ渡っていることだが、絶対水準で見ても、他の職業と比較した相対水準で見てもそれが事実であることが、データではっきりと分かる。以前と比べて改善は進んでいるものの、まだまだ余地はありそうだ。

2026年度より、保護者の就労に関係なく、3歳未満の子どもが保育所等に通える「子ども誰でも通園制度」が始まる。だが保育士の待遇が改善されないことには、この制度も機能するか疑念を抱かざるを得ない。

<資料:厚労省『賃金構造基本統計』(2023年)>

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