※JICAトピックスより転載
<世界と日本の教育の現状、海外で注目される日本の「特別活動」、教育格差を乗り越えるカギ──自身で塾を運営する笑い飯・哲夫さん、教育政策や子どもの非認知能力に詳しいお茶の水女子大学の浜野隆教授、元中学校教諭のJICA人間開発部・田口晋平課長とともに、これからの教育に必要なことを考える>
世界が直面しているさまざまな社会問題について、タレント・大学生の世良マリカさんと一緒に考える「世界をもっとよく知りたい!」。第4回のテーマは「教育」。スペシャルゲストにお笑いコンビ「笑い飯」の哲夫さんを迎え、お茶の水女子大学教授の浜野隆さん、JICA人間開発部の田口晋平課長にお話を聞きました。
(動画と記事でお伝えします)
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世界の教育・日本の教育の現状とは?
世良マリカさん(以下、世良) 哲夫さんは塾を運営されているんですね。
笑い飯 哲夫さん(以下、哲夫) 激安塾なんですけどね。以前吉本の社員さんが「子どもの塾代が月に6〜7万かかる」と言ってて、そうなるとお金持ちの家の子しか塾に行かれへんなと。自分が小学生のときは近所のおばあちゃんが3000円の月謝で教えてくれたんですよ。それでいろんな家庭環境の子が通える塾を始めました。
世良マリカ(せら・まりか) モデル・タレントとして活動。2002年神奈川県生まれ、慶應義塾大学総合政策学部に在籍中
笑い飯・哲夫(わらいめし・てつお) 2000年にお笑いコンビ「笑い飯」結成。関西学院大学哲学科卒業。2014年から低料金の補習塾「寺子屋こやや」を運営
JICA広報部 伊藤綱貴さん(以下、伊藤) 世良さんは「子どもの教育が進んでいる国」というと、どこをイメージしますか。
世良 香港、シンガポールといったアジアの国々ですね。
JICA人間開発部 田口晋平課長(以下、田口) そうなんです。2022年の国際学力調査(PISA)ではシンガポールが1位で、「シンガポールMath」という算数学習が特徴的です。例えばバーに100と書き、それを2つに割ると50になるというように、視覚的・具体的な「バーモデル」で数学的な思考を深めるものです。
世良 日本の教え方とはどう違うんですか。
田口 実は、日本もPISAで世界トップレベルの結果が出ています。「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」の3分野すべてで、前回の2018年の調査よりも平均点と順位が上がっています。算数学習に関して言うと、日本の小学校でもシンガポールと同様に、おはじきセットなどを使って具体的に数学的概念を教えます。そして日本の算数学習の特徴は、自ら問題を解く方法を見つける「問題解決型学習」が行われていることです。シンガポールでも問題解決型学習は行われていますが、子どもたちが先にいくつかの解法を学び、その中から適切な解法を選んで問題を解くやり方です。一方で日本は、子どもたちが試行錯誤しながら自ら解法を探し出す、より自由な学び方です。
写真中央:田口 晋平(たぐち・しんぺい) JICA人間開発部 課長。公立中学校教諭、JICA海外協力隊(南アフリカ)などを経て、2013年JICA入構
写真右: 伊藤綱貴(いとう・つなき) JICA広報部。2014年JICA入構。本企画の進行役を務める
世良 日本の数学も良い学び方なんですね。
田口 そうなんです。JICAは、そのような日本の問題解決型学習を取り入れた、途上国の理数科教育の質を向上させる協力を行なっています。そのためには先生方の教える技術も必要になりますので、学校の先生へ向けた研修も行っています。
伊藤 先生というと、哲夫さんの塾ではお笑い芸人の方が教えているそうですね。
哲夫 そうなんです。芸人は面白いことを言うのが性ですから、子どもは笑いながら楽しんで勉強できます。そして、芸人にとって子どもは一番笑かすのが難しいお客さん。簡単な言葉で子どもをどう笑かすか考えることで話芸が向上するんですね。だから、お互いに成長できるwin-winの関係性が成り立っているなと思います。
日本式「TOKKATSU」で非認知能力が向上
世良 最近はAIが教育現場で使われていますが、それによって子どもたちに求められる能力も変わるのでしょうか。
お茶の水女子大学教授の浜野隆さん(以下、浜野) 暗記や計算、言語生成はAIが代替する部分もあると思います。しかし一方で、どれだけAIが進化しても「何か困難に直面しても最後までやり抜く」「失敗を跳ね返す」など人間が主体にならざるを得ない場面があります。そういった能力を「非認知能力」と呼びます。非認知能力が上がると学業面や仕事での成功につながり、さらには健康にも良い影響があると言われています。そして意外かもしれませんが、日本の学校教育では非認知能力を大切にしています。いわゆるお勉強だけではなく、掃除や給食、日直、班活動といった「特別活動」ですね。日本では明治時代から、学校は勉強だけでなく、全人的な発達を促す場だと考えられてきました。
浜野 隆(はまの・たかし) お茶の水女子大学基幹研究院教授。国際協力や教育政策、子どもの非認知能力に詳しい
田口 日本の特別活動は海外からも注目を集めており、JICAは非認知能力を高める特別活動「TOKKATSU」の実践協力をエジプトやマレーシアで実施しています。マレーシアでは、TOKKATSUを導入していない学校に比べ、子どもの自尊心やリーダーシップ、やる気が高まったという成果が出ています。
浜野 日本は学校教育以外にも家庭や地域社会など、さまざまな場所で非認知能力を伸ばす機会があります。非認知能力は急激に伸びるものではなく、いろんな経験をする中で少しずつ形成されるのですが、その中で摩擦がある程度あった方がいいと言われています。
哲夫 僕は、子育てで大事なんは「子どもがいろんな大人に会うこと」やと思ってるんですよ。子どもにとって、学校や家以外に集える場所があるのは大事やなって。僕がやってるような激安塾も全国で自然発生的に増えていってくれたらいいのにと思います。
浜野 まさにその通りです。親や先生以外の大人と話すときは言葉を選び、お互いの立場を踏まえて話しますから、それが非認知能力の育成に繋がります。
田口 学校の掃除もTOKKATSUのひとつですが、海外では一般的に掃除は「クリーナー」と呼ばれる方々の仕事ですので、TOKKATSUを導入した学校では「なんでうちの子に掃除をさせるんだ」と保護者からクレームが入ったこともあります。しかし、徐々に「子どもたちが家でも掃除するようになった」「身の回りの整理整頓をするようになった」と、理解を示してくれるようになりました。
エジプトのTOKKATSUで子どもたちが掃除に取り組む様子
教育格差を乗り越える ノンフォーマル教育の効果
伊藤 日本では学校以外にも教育の受け皿がありますね。
浜野 はい。日本には民間の学習塾、通信教育などがたくさんあります。私立学校も多いですね。義務教育では一斉授業ですが、習熟度に合わせて学びたいという個人のニーズを満たすために、民間の教育施設が大きな役割を果たしています。
田口 日本では公教育を昼間に受け、夕方や夜に塾に行くという形で民間の教育を受けられます。しかし、途上国には昼間の授業すらも受けられない子どもがたくさんいます。例えば、パキスタンでは、政府が「全ての人に教育を届けることは難しい」という前提のもと、学校の代替教育である「ノンフォーマル教育」を国の教育制度として認めています。パキスタンでは文化的に女性が不利な立場にあり、自分のコミュニティの外に出ることが難しい場合があるため、そこに学校がなければ中学校以上の教育も受けられない場合があります。しかし、ノンフォーマル教育の学校を作れば、学ぶ場所を提供できます。地域の一軒家を借り、哲夫さんがおっしゃったような近所のおじいちゃん、おばあちゃんが先生となり、授業をしています。
パキスタンのノンフォーマル教育を受ける女性たち
浜野 日本でも親の経済力や学歴が子どもの学力に影響するというデータがあります。ただ、この教育格差・学力格差を克服するために、ボランティアや学校外での学習支援活動などのノンフォーマル教育が功を奏しているという報告があります。
伊藤 大学入試で総合型選抜入試が拡大すると、お金持ちの家庭の子のほうが入試に有利な活動が多くできる、経験格差が広がるという話もあります。
浜野 やはりある程度の体験はお金で買えるので、家庭の経済力はどうしても影響します。ただ、お金をかける体験だけが価値があるわけではありません。今は外遊びをする子どもが減っていますが、外遊びが非認知能力を高めるという研究結果もあります。家庭の経済力に関係なく、いろんな取り組みや活動を用意するのが望ましいので、官民連携でプログラムを提供できるといいですね。
哲夫 僕は奈良県の田舎で育ったので、土をさわったり、川遊びしたり、山に行ったり。それで非認知能力を養えたんかなと思います。がんばって偏差値が高めの高校行ったら、田んぼをやっているような家はうちだけで。それまで、みんな家で自分とこの米を作ってると思ってたから、友達と「え、米買ってんの?」「米作ってんの?」ってお互いびっくりしました。
多文化に対応する教育現場の必要性
伊藤 これからの教育には何が必要でしょうか。
浜野 日本はどこでも日本語が通じ、日本語だけで授業ができるために教えやすい。そのために学力差は少ないといわれてきました。ただ、今は外国にルーツを持つ子どもが増えつつあります。多様性に対応できる教師が必要で、JICA海外協力隊を経験された方が教師やサポートスタッフとして活躍していると聞きます。学校教育の現場が多文化化するとひとつの国際社会のようになり、「校内国際協力」ができます。それは将来の国際協力人材を育てることにもつながります。
田口 実は、私自身もJICA海外協力隊員として南アフリカ共和国で理数科教師をしていました。途上国を2年間見てきたことで、子どもたちにその体験をもって話せるようになりました。
伊藤 JICAでは日本国内の教育も支援しています。学校の先生をアフリカや中南米などに短期間派遣し、そこでの国際協力の経験を日本の教育現場に還元してもらう取り組みです。世良さんはまだ教育を受ける学生という立場ですが、今日のお話を聞いてどう思いましたか。
世良 経済的な格差は存在すると思いますが、お金をかけた体験だけが価値があるわけではないと分かりました。学生が興味を持てば自分でチャンスをつかめると思いますし、私自身もそのことを忘れないようにしたいです。
哲夫 子どもが親や先生以外の大人に会うことはチャンスにもつながります。僕もいろんな大人に出会って憧れができたんですよね。憧れが自分の仕事になることもあるし。僕自身「芸人になりたい」と思ったなんて、どこでそんな面白い人と出会ったんかなと。
子どもは次の地球を支えてくれる大事な存在やし、地球を健康的に次の世代に伝えていくのは僕らの使命です。先の世代が地球を温暖化がなかった産業革命以前の状態に戻す装置をつくってくれるんとちゃうか、そしたら夏も涼しく過ごせるなと期待してます。これからも子どもたちへの教育を滞りなく、続けていかなあかんですね。
世良 これからもいろんなニーズに合った教育の場が増え、子どもたちにも自分に合った場所を見つける意欲を持ってもらいたいと感じました。
<関連リンク>
エジプト「特別活動を中心とした日本式教育モデル発展・普及プロジェクト」
マレーシア「全人教育推進プロジェクト」
パキスタン「オルタナティブ教育推進プロジェクト」
JICA海外協力隊
【教育】なぜ今世界に広がる?日本の教育 世界をもっとよく知りたい!#4
※当記事は「JICAトピックス」からの転載記事です。
<世界と日本の教育の現状、海外で注目される日本の「特別活動」、教育格差を乗り越えるカギ──自身で塾を運営する笑い飯・哲夫さん、教育政策や子どもの非認知能力に詳しいお茶の水女子大学の浜野隆教授、元中学校教諭のJICA人間開発部・田口晋平課長とともに、これからの教育に必要なことを考える>
世界が直面しているさまざまな社会問題について、タレント・大学生の世良マリカさんと一緒に考える「世界をもっとよく知りたい!」。第4回のテーマは「教育」。スペシャルゲストにお笑いコンビ「笑い飯」の哲夫さんを迎え、お茶の水女子大学教授の浜野隆さん、JICA人間開発部の田口晋平課長にお話を聞きました。
(動画と記事でお伝えします)
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世界の教育・日本の教育の現状とは?
世良マリカさん(以下、世良) 哲夫さんは塾を運営されているんですね。
笑い飯 哲夫さん(以下、哲夫) 激安塾なんですけどね。以前吉本の社員さんが「子どもの塾代が月に6〜7万かかる」と言ってて、そうなるとお金持ちの家の子しか塾に行かれへんなと。自分が小学生のときは近所のおばあちゃんが3000円の月謝で教えてくれたんですよ。それでいろんな家庭環境の子が通える塾を始めました。
世良マリカ(せら・まりか) モデル・タレントとして活動。2002年神奈川県生まれ、慶應義塾大学総合政策学部に在籍中
笑い飯・哲夫(わらいめし・てつお) 2000年にお笑いコンビ「笑い飯」結成。関西学院大学哲学科卒業。2014年から低料金の補習塾「寺子屋こやや」を運営
JICA広報部 伊藤綱貴さん(以下、伊藤) 世良さんは「子どもの教育が進んでいる国」というと、どこをイメージしますか。
世良 香港、シンガポールといったアジアの国々ですね。
JICA人間開発部 田口晋平課長(以下、田口) そうなんです。2022年の国際学力調査(PISA)ではシンガポールが1位で、「シンガポールMath」という算数学習が特徴的です。例えばバーに100と書き、それを2つに割ると50になるというように、視覚的・具体的な「バーモデル」で数学的な思考を深めるものです。
世良 日本の教え方とはどう違うんですか。
田口 実は、日本もPISAで世界トップレベルの結果が出ています。「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」の3分野すべてで、前回の2018年の調査よりも平均点と順位が上がっています。算数学習に関して言うと、日本の小学校でもシンガポールと同様に、おはじきセットなどを使って具体的に数学的概念を教えます。そして日本の算数学習の特徴は、自ら問題を解く方法を見つける「問題解決型学習」が行われていることです。シンガポールでも問題解決型学習は行われていますが、子どもたちが先にいくつかの解法を学び、その中から適切な解法を選んで問題を解くやり方です。一方で日本は、子どもたちが試行錯誤しながら自ら解法を探し出す、より自由な学び方です。
写真中央:田口 晋平(たぐち・しんぺい) JICA人間開発部 課長。公立中学校教諭、JICA海外協力隊(南アフリカ)などを経て、2013年JICA入構
写真右: 伊藤綱貴(いとう・つなき) JICA広報部。2014年JICA入構。本企画の進行役を務める
世良 日本の数学も良い学び方なんですね。
田口 そうなんです。JICAは、そのような日本の問題解決型学習を取り入れた、途上国の理数科教育の質を向上させる協力を行なっています。そのためには先生方の教える技術も必要になりますので、学校の先生へ向けた研修も行っています。
伊藤 先生というと、哲夫さんの塾ではお笑い芸人の方が教えているそうですね。
哲夫 そうなんです。芸人は面白いことを言うのが性ですから、子どもは笑いながら楽しんで勉強できます。そして、芸人にとって子どもは一番笑かすのが難しいお客さん。簡単な言葉で子どもをどう笑かすか考えることで話芸が向上するんですね。だから、お互いに成長できるwin-winの関係性が成り立っているなと思います。
日本式「TOKKATSU」で非認知能力が向上
世良 最近はAIが教育現場で使われていますが、それによって子どもたちに求められる能力も変わるのでしょうか。
お茶の水女子大学教授の浜野隆さん(以下、浜野) 暗記や計算、言語生成はAIが代替する部分もあると思います。しかし一方で、どれだけAIが進化しても「何か困難に直面しても最後までやり抜く」「失敗を跳ね返す」など人間が主体にならざるを得ない場面があります。そういった能力を「非認知能力」と呼びます。非認知能力が上がると学業面や仕事での成功につながり、さらには健康にも良い影響があると言われています。そして意外かもしれませんが、日本の学校教育では非認知能力を大切にしています。いわゆるお勉強だけではなく、掃除や給食、日直、班活動といった「特別活動」ですね。日本では明治時代から、学校は勉強だけでなく、全人的な発達を促す場だと考えられてきました。
浜野 隆(はまの・たかし) お茶の水女子大学基幹研究院教授。国際協力や教育政策、子どもの非認知能力に詳しい
田口 日本の特別活動は海外からも注目を集めており、JICAは非認知能力を高める特別活動「TOKKATSU」の実践協力をエジプトやマレーシアで実施しています。マレーシアでは、TOKKATSUを導入していない学校に比べ、子どもの自尊心やリーダーシップ、やる気が高まったという成果が出ています。
浜野 日本は学校教育以外にも家庭や地域社会など、さまざまな場所で非認知能力を伸ばす機会があります。非認知能力は急激に伸びるものではなく、いろんな経験をする中で少しずつ形成されるのですが、その中で摩擦がある程度あった方がいいと言われています。
哲夫 僕は、子育てで大事なんは「子どもがいろんな大人に会うこと」やと思ってるんですよ。子どもにとって、学校や家以外に集える場所があるのは大事やなって。僕がやってるような激安塾も全国で自然発生的に増えていってくれたらいいのにと思います。
浜野 まさにその通りです。親や先生以外の大人と話すときは言葉を選び、お互いの立場を踏まえて話しますから、それが非認知能力の育成に繋がります。
田口 学校の掃除もTOKKATSUのひとつですが、海外では一般的に掃除は「クリーナー」と呼ばれる方々の仕事ですので、TOKKATSUを導入した学校では「なんでうちの子に掃除をさせるんだ」と保護者からクレームが入ったこともあります。しかし、徐々に「子どもたちが家でも掃除するようになった」「身の回りの整理整頓をするようになった」と、理解を示してくれるようになりました。
エジプトのTOKKATSUで子どもたちが掃除に取り組む様子
教育格差を乗り越える ノンフォーマル教育の効果
伊藤 日本では学校以外にも教育の受け皿がありますね。
浜野 はい。日本には民間の学習塾、通信教育などがたくさんあります。私立学校も多いですね。義務教育では一斉授業ですが、習熟度に合わせて学びたいという個人のニーズを満たすために、民間の教育施設が大きな役割を果たしています。
田口 日本では公教育を昼間に受け、夕方や夜に塾に行くという形で民間の教育を受けられます。しかし、途上国には昼間の授業すらも受けられない子どもがたくさんいます。例えば、パキスタンでは、政府が「全ての人に教育を届けることは難しい」という前提のもと、学校の代替教育である「ノンフォーマル教育」を国の教育制度として認めています。パキスタンでは文化的に女性が不利な立場にあり、自分のコミュニティの外に出ることが難しい場合があるため、そこに学校がなければ中学校以上の教育も受けられない場合があります。しかし、ノンフォーマル教育の学校を作れば、学ぶ場所を提供できます。地域の一軒家を借り、哲夫さんがおっしゃったような近所のおじいちゃん、おばあちゃんが先生となり、授業をしています。
パキスタンのノンフォーマル教育を受ける女性たち
浜野 日本でも親の経済力や学歴が子どもの学力に影響するというデータがあります。ただ、この教育格差・学力格差を克服するために、ボランティアや学校外での学習支援活動などのノンフォーマル教育が功を奏しているという報告があります。
伊藤 大学入試で総合型選抜入試が拡大すると、お金持ちの家庭の子のほうが入試に有利な活動が多くできる、経験格差が広がるという話もあります。
浜野 やはりある程度の体験はお金で買えるので、家庭の経済力はどうしても影響します。ただ、お金をかける体験だけが価値があるわけではありません。今は外遊びをする子どもが減っていますが、外遊びが非認知能力を高めるという研究結果もあります。家庭の経済力に関係なく、いろんな取り組みや活動を用意するのが望ましいので、官民連携でプログラムを提供できるといいですね。
哲夫 僕は奈良県の田舎で育ったので、土をさわったり、川遊びしたり、山に行ったり。それで非認知能力を養えたんかなと思います。がんばって偏差値が高めの高校行ったら、田んぼをやっているような家はうちだけで。それまで、みんな家で自分とこの米を作ってると思ってたから、友達と「え、米買ってんの?」「米作ってんの?」ってお互いびっくりしました。
多文化に対応する教育現場の必要性
伊藤 これからの教育には何が必要でしょうか。
浜野 日本はどこでも日本語が通じ、日本語だけで授業ができるために教えやすい。そのために学力差は少ないといわれてきました。ただ、今は外国にルーツを持つ子どもが増えつつあります。多様性に対応できる教師が必要で、JICA海外協力隊を経験された方が教師やサポートスタッフとして活躍していると聞きます。学校教育の現場が多文化化するとひとつの国際社会のようになり、「校内国際協力」ができます。それは将来の国際協力人材を育てることにもつながります。
田口 実は、私自身もJICA海外協力隊員として南アフリカ共和国で理数科教師をしていました。途上国を2年間見てきたことで、子どもたちにその体験をもって話せるようになりました。
伊藤 JICAでは日本国内の教育も支援しています。学校の先生をアフリカや中南米などに短期間派遣し、そこでの国際協力の経験を日本の教育現場に還元してもらう取り組みです。世良さんはまだ教育を受ける学生という立場ですが、今日のお話を聞いてどう思いましたか。
世良 経済的な格差は存在すると思いますが、お金をかけた体験だけが価値があるわけではないと分かりました。学生が興味を持てば自分でチャンスをつかめると思いますし、私自身もそのことを忘れないようにしたいです。
哲夫 子どもが親や先生以外の大人に会うことはチャンスにもつながります。僕もいろんな大人に出会って憧れができたんですよね。憧れが自分の仕事になることもあるし。僕自身「芸人になりたい」と思ったなんて、どこでそんな面白い人と出会ったんかなと。
子どもは次の地球を支えてくれる大事な存在やし、地球を健康的に次の世代に伝えていくのは僕らの使命です。先の世代が地球を温暖化がなかった産業革命以前の状態に戻す装置をつくってくれるんとちゃうか、そしたら夏も涼しく過ごせるなと期待してます。これからも子どもたちへの教育を滞りなく、続けていかなあかんですね。
世良 これからもいろんなニーズに合った教育の場が増え、子どもたちにも自分に合った場所を見つける意欲を持ってもらいたいと感じました。
<関連リンク>
エジプト「特別活動を中心とした日本式教育モデル発展・普及プロジェクト」
マレーシア「全人教育推進プロジェクト」
パキスタン「オルタナティブ教育推進プロジェクト」
JICA海外協力隊
【教育】なぜ今世界に広がる?日本の教育 世界をもっとよく知りたい!#4
※当記事は「JICAトピックス」からの転載記事です。