サム・ポトリッキオ
<アサド一家はモスクワ郊外の超富裕層地区で各国の亡命指導者たちと暮らすことになるだろう。プーチンがアサドに安全で優雅な生活を保障した見返りに得たものは?>
わが国はアメリカと違い、地政学上の忠実な手駒を見捨てたりしない──シリアのアサド前大統領とその家族をモスクワに迎えることで、ロシアはそんなメッセージを発した。ロシアの力を国外に広める役割を果たし終えた後でも、避難場所を与えるというわけだ。
ロシアの高官の1人、ミハイル・ウリヤノフ国際機関常駐代表はメッセージアプリのテレグラムにこう書き込んだ。「速報! バシャル・アサドとその家族はモスクワにいる。ロシアは困難な状況でも友人を裏切らない」
私の予想では、アサドはモスクワ郊外の超富裕層地区バルビハに居を構える公算が大きい。同地区の住宅価格は2500万ドル〜7500万ドルで、セルビア、ウクライナ、キルギスなどの元指導者の家族が住んでいる。
アサドを保護することには、帝国建設の野望が失敗したことをロシア国民に思い起こさせるリスクがある。ロシアはウクライナに注力しすぎた結果、アルメニアとジョージアで屈辱的な影響力低下を経験した。
ロシアにとって、シリアはアラブ中東地域で唯一の同盟国であり、アフリカでの過大な影響力を支える主要拠点だ。シリア反体制派による電光石火の勝利は、ロシアに大きな衝撃を与えた。それを察知できなかったせいで、ロシアはシリア国内の軍事施設を維持するため、敗北を認めて可能な限り最良の取引を目指すしか手がなくなった。
これは言わばロシアにとって過去3年間で2度目の重大な情報戦の失敗であり、最初の失敗──ロシアの侵攻に対するウクライナの抵抗をひどく過小評価した結果、ロシアは他の国や地域で人的・物質的な資源不足に陥った──と複雑に絡み合っている。
もしロシアがシリア北西部ラタキアの空軍基地とタルトゥースの海軍基地を失えば、アフリカ進出強化のための補給や補充がより困難になる。ロシアは2017年、両基地の49年間の租借契約を結んだ。シリア国内から仲間を失うことは、その全てを危険にさらすことになる。
他の失脚したロシアの傀儡大統領(ウクライナのヤヌコビッチやキルギスのアカエフ両元大統領)の前例を見れば、アサドとその家族を一般のロシア人が街中で見かけることはまずなさそうだ。そして彼らは警護役のロシア連邦保安局(FSB)職員の給与を含め、全ての費用を自分たちの資産から払わなければならないだろう。
ロシアはシリアの基地を維持する見返りにアサドを退陣させ、自費でモスクワに住まわせると反体制派に伝えたはずだ。それによって、将来ロシアの地政学的野望に協力しようとする独裁者たちに「仲間は裏切らない」とメッセージを送ることにもなる。
アサド一家にとって、亡命先はロシアが最高の選択肢だったはずだ。私がロシアに滞在して大学で教えていた12~22年、アサド家をめぐって常に2つの噂が流れていた。1つ目は、アサドの子供たちがロシア占領下のクリミア半島でサマーキャンプに参加したというもの。2つ目は、アサド一家がモスクワ市内の高級マンションを買いあさっているというものだ。
反体制派がアレッポを制圧した日、アサドの長男はロシアの一流大学に学位論文を提出した。ダマスカスの10億ドルの宮殿には住めないが、ロシアの新興財閥と同等の暮らしを、もっと安全に楽しめるだろう。
ロシアにとって、同盟相手の元独裁者を自国に亡命させるのは屈辱だが、もしアサドを交渉の切り札として効果的に使い、シリアの基地を維持できるのであれば、ロシアの地政学的な野望にとって状況はさほど変わらない。だが、基地を失えば全てご破算になる。
<アサド一家はモスクワ郊外の超富裕層地区で各国の亡命指導者たちと暮らすことになるだろう。プーチンがアサドに安全で優雅な生活を保障した見返りに得たものは?>
わが国はアメリカと違い、地政学上の忠実な手駒を見捨てたりしない──シリアのアサド前大統領とその家族をモスクワに迎えることで、ロシアはそんなメッセージを発した。ロシアの力を国外に広める役割を果たし終えた後でも、避難場所を与えるというわけだ。
ロシアの高官の1人、ミハイル・ウリヤノフ国際機関常駐代表はメッセージアプリのテレグラムにこう書き込んだ。「速報! バシャル・アサドとその家族はモスクワにいる。ロシアは困難な状況でも友人を裏切らない」
私の予想では、アサドはモスクワ郊外の超富裕層地区バルビハに居を構える公算が大きい。同地区の住宅価格は2500万ドル〜7500万ドルで、セルビア、ウクライナ、キルギスなどの元指導者の家族が住んでいる。
アサドを保護することには、帝国建設の野望が失敗したことをロシア国民に思い起こさせるリスクがある。ロシアはウクライナに注力しすぎた結果、アルメニアとジョージアで屈辱的な影響力低下を経験した。
ロシアにとって、シリアはアラブ中東地域で唯一の同盟国であり、アフリカでの過大な影響力を支える主要拠点だ。シリア反体制派による電光石火の勝利は、ロシアに大きな衝撃を与えた。それを察知できなかったせいで、ロシアはシリア国内の軍事施設を維持するため、敗北を認めて可能な限り最良の取引を目指すしか手がなくなった。
これは言わばロシアにとって過去3年間で2度目の重大な情報戦の失敗であり、最初の失敗──ロシアの侵攻に対するウクライナの抵抗をひどく過小評価した結果、ロシアは他の国や地域で人的・物質的な資源不足に陥った──と複雑に絡み合っている。
もしロシアがシリア北西部ラタキアの空軍基地とタルトゥースの海軍基地を失えば、アフリカ進出強化のための補給や補充がより困難になる。ロシアは2017年、両基地の49年間の租借契約を結んだ。シリア国内から仲間を失うことは、その全てを危険にさらすことになる。
他の失脚したロシアの傀儡大統領(ウクライナのヤヌコビッチやキルギスのアカエフ両元大統領)の前例を見れば、アサドとその家族を一般のロシア人が街中で見かけることはまずなさそうだ。そして彼らは警護役のロシア連邦保安局(FSB)職員の給与を含め、全ての費用を自分たちの資産から払わなければならないだろう。
ロシアはシリアの基地を維持する見返りにアサドを退陣させ、自費でモスクワに住まわせると反体制派に伝えたはずだ。それによって、将来ロシアの地政学的野望に協力しようとする独裁者たちに「仲間は裏切らない」とメッセージを送ることにもなる。
アサド一家にとって、亡命先はロシアが最高の選択肢だったはずだ。私がロシアに滞在して大学で教えていた12~22年、アサド家をめぐって常に2つの噂が流れていた。1つ目は、アサドの子供たちがロシア占領下のクリミア半島でサマーキャンプに参加したというもの。2つ目は、アサド一家がモスクワ市内の高級マンションを買いあさっているというものだ。
反体制派がアレッポを制圧した日、アサドの長男はロシアの一流大学に学位論文を提出した。ダマスカスの10億ドルの宮殿には住めないが、ロシアの新興財閥と同等の暮らしを、もっと安全に楽しめるだろう。
ロシアにとって、同盟相手の元独裁者を自国に亡命させるのは屈辱だが、もしアサドを交渉の切り札として効果的に使い、シリアの基地を維持できるのであれば、ロシアの地政学的な野望にとって状況はさほど変わらない。だが、基地を失えば全てご破算になる。