曽我太一
<2023年10月7日で思考が停止したイスラエル人。イスラエルを止められない国際社会に深く失望するパレスチナ人。かつてパレスチナ問題は「中東和平」の核心であった...>
2024年、中東は揺れ動いた。イスマイル・ハニヤとヤヒヤ・シンワールというイスラム組織ハマスを代表する2人の指導者が殺害され、レバノンのシーア派組織ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師もイスラエルによって排除された。
イランが史上初めてイスラエルへの直接攻撃に乗り出し、イスラエルも報復で応じた。緊張と緊迫が続くなか、この混乱に不意を突く形で、シリアでは反政府勢力がアサド政権をあっけなく崩壊させた。
バイデン政権は少数派の権利尊重や人道支援の受け入れなどの条件を守れば、アサド政権を倒した反政府勢力の中心的存在であるシャーム解放機構(HTS)による新政府を支持する意向を示している。HTSのリーダーは旧アルカイダ系の組織出身だが、現在は同組織とたもとを分かち、穏健化をアピールしている。
一方、混乱に拍車をかけかねないのがイスラエルだ。アサド政権が崩壊したとみるや、シリアとの間にある非武装地帯やシリア領内に侵攻し占拠。シリア国内の軍事拠点を空爆し、戦闘機などを無力化した。
戦力を無力化しておけば、新政権が今後どう転んでも脅威を最小化できるというイスラエルの身勝手な考えによるものだ。この思考の背景には自国に牙が向けられるかもしれないという「不安」がある。この根源にあるのがパレスチナ問題だ。
2023年10月以降、ガザ地区で4万5000人を超える犠牲者が出ると、国際社会は突然思い出したかのように、パレスチナ問題の解決を訴えた。アイルランドやスペイン等がパレスチナ国家の承認に踏み切り、また大国のイギリスやフランスも承認に前向きとされる。
パレスチナ問題が解決すれば、国交のない隣国との和平への道筋が開かれるが、解決の見込みがない今、イスラエルは「自国を守れるのは自国だけ」という孤立感と焦りに駆り立てられている。それが過剰なまでの軍事行動につながっている。
パレスチナ問題はかつて「中東和平」の核心であった。
「中東和平」とは、狭義ではイスラエルとパレスチナ間の和平実現という意味だが、パレスチナ問題が解決すれば、地域に和平が訪れるという広義の意味もある。それが国際情勢の変化や当事者の不決断により、いつしか世間の関心を失い、中東和平の核心ではなくなったと思われていた。
しかし、イスラエル・ハマスの戦争により、逆説的ながらもいまだ核心部分であり続けていることが改めて認識された。
残念ながら、当事者の間でパレスチナ問題解決への機運は高まっていない。
「自分たちは未来志向」と常々口にするイスラエル人だが、その多くはハマスがイスラエルを奇襲した23年10月7日で思考が停止し、前に進む勇気はない。
また、ガザ地区を無惨なまでに破壊されたパレスチナ人にとっては、イスラエルを止められない国際社会への失望は深く、2国家解決への希望も失われている。
そんななかでレバノンやシリア情勢の変化によって、パレスチナ問題が再びかすみつつあることに懸念が広がる。
ただし、イスラエルのオルメルト元首相と、アラファト元議長の甥でパレスチナ自治政府のキドワ元外相が共同で独自の2国家解決案を発表し、元高官による新たな草の根の動きも見られる。
また、両親をハマスに殺害されたイスラエル人男性がパレスチナ人の仲間と開催した和平サミットに数千人が集まり、入り口には行列ができるなど、市民の間にはわずかな希望もまだ残されている。
イスラエルとパレスチナの間で永遠に争いが繰り返されるのか、それとも終止符に向けて歩みを進めるのか。パレスチナ問題の進展はまさに分水嶺にある。
<2023年10月7日で思考が停止したイスラエル人。イスラエルを止められない国際社会に深く失望するパレスチナ人。かつてパレスチナ問題は「中東和平」の核心であった...>
2024年、中東は揺れ動いた。イスマイル・ハニヤとヤヒヤ・シンワールというイスラム組織ハマスを代表する2人の指導者が殺害され、レバノンのシーア派組織ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師もイスラエルによって排除された。
イランが史上初めてイスラエルへの直接攻撃に乗り出し、イスラエルも報復で応じた。緊張と緊迫が続くなか、この混乱に不意を突く形で、シリアでは反政府勢力がアサド政権をあっけなく崩壊させた。
バイデン政権は少数派の権利尊重や人道支援の受け入れなどの条件を守れば、アサド政権を倒した反政府勢力の中心的存在であるシャーム解放機構(HTS)による新政府を支持する意向を示している。HTSのリーダーは旧アルカイダ系の組織出身だが、現在は同組織とたもとを分かち、穏健化をアピールしている。
一方、混乱に拍車をかけかねないのがイスラエルだ。アサド政権が崩壊したとみるや、シリアとの間にある非武装地帯やシリア領内に侵攻し占拠。シリア国内の軍事拠点を空爆し、戦闘機などを無力化した。
戦力を無力化しておけば、新政権が今後どう転んでも脅威を最小化できるというイスラエルの身勝手な考えによるものだ。この思考の背景には自国に牙が向けられるかもしれないという「不安」がある。この根源にあるのがパレスチナ問題だ。
2023年10月以降、ガザ地区で4万5000人を超える犠牲者が出ると、国際社会は突然思い出したかのように、パレスチナ問題の解決を訴えた。アイルランドやスペイン等がパレスチナ国家の承認に踏み切り、また大国のイギリスやフランスも承認に前向きとされる。
パレスチナ問題が解決すれば、国交のない隣国との和平への道筋が開かれるが、解決の見込みがない今、イスラエルは「自国を守れるのは自国だけ」という孤立感と焦りに駆り立てられている。それが過剰なまでの軍事行動につながっている。
パレスチナ問題はかつて「中東和平」の核心であった。
「中東和平」とは、狭義ではイスラエルとパレスチナ間の和平実現という意味だが、パレスチナ問題が解決すれば、地域に和平が訪れるという広義の意味もある。それが国際情勢の変化や当事者の不決断により、いつしか世間の関心を失い、中東和平の核心ではなくなったと思われていた。
しかし、イスラエル・ハマスの戦争により、逆説的ながらもいまだ核心部分であり続けていることが改めて認識された。
残念ながら、当事者の間でパレスチナ問題解決への機運は高まっていない。
「自分たちは未来志向」と常々口にするイスラエル人だが、その多くはハマスがイスラエルを奇襲した23年10月7日で思考が停止し、前に進む勇気はない。
また、ガザ地区を無惨なまでに破壊されたパレスチナ人にとっては、イスラエルを止められない国際社会への失望は深く、2国家解決への希望も失われている。
そんななかでレバノンやシリア情勢の変化によって、パレスチナ問題が再びかすみつつあることに懸念が広がる。
ただし、イスラエルのオルメルト元首相と、アラファト元議長の甥でパレスチナ自治政府のキドワ元外相が共同で独自の2国家解決案を発表し、元高官による新たな草の根の動きも見られる。
また、両親をハマスに殺害されたイスラエル人男性がパレスチナ人の仲間と開催した和平サミットに数千人が集まり、入り口には行列ができるなど、市民の間にはわずかな希望もまだ残されている。
イスラエルとパレスチナの間で永遠に争いが繰り返されるのか、それとも終止符に向けて歩みを進めるのか。パレスチナ問題の進展はまさに分水嶺にある。