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JO1やINIが所属するLAPONEの崔社長「日本の音楽の強みは『個性』。そこを僕らも大切にしたい」

ニューズウィーク日本版 2024年12月30日 12時40分

大橋希(本誌記者)
<所属グループの合同ライブLAPOSTAの意義や、メンバーと向き合うことの大切さ、日韓それぞれの音楽の強みなどについて話を聞いた>

日本の吉本興業と韓国のCJ ENMという両エンタメ企業が組んで2019年に設立した「LAPONEエンタテインメント」と、24年設立の「LAPONE GIRLS」。オーディション番組を経て20年3月にデビューしたJO1をはじめ、INI、DXTEEN、ME:I、IS:SUEという5組のボーイズグループ、ガールズグループが所属するまでに成長し、音楽シーンでの存在感を増している。

25年1月27日~2月2日には東京ドームとその周辺施設で、5組の合同ライブ「LAPOSTA 2025 Supported by docomo」が開催される。

LAPONEの崔信化(チェ・シンファ)社長に12月中旬、LAPOSTAの意義や、KポップとJポップを融合させたグループをかかえる事務所として目指している点、日韓それぞれの音楽の強みなどについて話を聞いた。

――3回目となるLAPOSTAは会社やアーティストにとってどんな意義があるのか。

JO1のメンバーがオーディション番組で選ばれ、翌20年3月にデビューした時、1人で考えていたんです。彼らの後輩グループが出てきたら、みんなでファミリーコンサートのようなイベントができれば面白い、それを東京ドームでやったら......と。

その後にINIやDXTEENなどもデビューしたが、メンバーは制作側で決められた演出やクリエイティブの中でパフォーマンスすることがほとんどだった。だから彼らの成長のためにも、会社が決めたことではなく、自分たちで意見を出してやりたいことをやってほしい、と考えたのがLAPOSTAなんです。

例えばスケジュールなどもそうで、CDをここで発売する、イベントの場に立つなど、会社側が決めたことをとにかくやっていかないといけない。そうなるとどうしても忙しくなり、ストレスをかかえてしまうと、彼らの活動を見て分かっていたんです。なので、少しでも彼らの成長につながる場を作り、彼ら自身が考えていること、やりたいことを積極的に提案してもらい、受け入れること。それがLAPOSTAを実施する意義です。

ファミリーコンサートという、僕が6年前に思っていたものとはちょっと違う。でも結局はメンバーがやりたいことをやってもらうのが正しいかなと思っている。

「LAPOSTA 2025」で5組のアーティストが大集合する ©LAPONE ENTERTAINMENT/©LAPONE GIRLS

――東京ドームでLAPOSTAを開催するという発表が9月にあった時、SNSでは「JO1が東京ドームに初めて立つなら合同ライブでなく、単独にしてほしかった」というファンの声が目立っていたが(注:取材は単独ドーム公演発表の前に行われた)。

JO1のファンがそう思うのは当たり前だし、僕もLAPOSTAで先に東京ドームに立つのが正しいとは思っていなかった。グループ単独でドームに立ってほしいと思っていたが、それができなかったというだけなんです。それをするためにも、LAPOSTAが必要だった。

ファンの声には僕も常に耳を傾けているが、さまざまな事情で思い通りにいかないことがどうしてもある。それはビジネスとして当然だし、事務所の力がないだけと言われるかもしれない。だからこそLAPOSTAなど通して、世間にLAPONEの存在をアピールしていかないといけないと考えている。

――所属アーティストも増えた今、LAPONEとして目指すところは。

経営者らしい考え方ではないかもしれないが、やっぱりメンバーが楽しく仕事ができて、一人一人の能力をもっと上げられるような会社にしていきたい。オーディションで選ばれた人々をデビューさせてきた会社であり、素人から育てることの責任はとても重い。だから今ではなく、5年後あるいは10年後のJO1、INI、DXTEEN、ME:I、IS:SUEのことを考えないといけない。それに合わせて会社は成長していく、と僕は思っている。

――今は社長とアーティストとの関係がとても近いと思う。「社長がライブを立見席で見ていた」というファンの目撃情報もある。

全グループのライブに行くが、3年ほど前から立ち見席で見ている。ライブってすごく大変で、そのがんばっている姿を見たときに「自分が座っている場合ではない」と思った。それからはずっと立ち見です。

ストレス解消はどうしているのか?とよく聞かれるので考えてみたのですが、やっぱりメンバーやファンの姿を見て、アーティストの新しい未来を描くことが自分にとっては一番のストレス解消法なんですね。

――世界進出についてどんな目標を描いているのか?

まずJO1とINIについて話をすると、JO1もテビューして5年を超え、INIも3年を超えた。これからは自分たちで考えていかないといけない時期です。「海外に行くか?」「行きます」という形ではなく、メンバーと話し合って一緒に決めていく。同じ気持ちになれないのは結局、会社にとってもアーティストにとってもいいことではない。

グローバルで活躍していく道のりは簡単なものではなく、それはメンバーに厳しく説明している。(初のワールドツアーが25年2月から始まる)JO1はこれからもっと険しい道を行くことになる。でも、僕らと一緒に乗り越えていこうとメンバーとはよく話をしています。

――Kポップが海外で成功した理由は何だと考えているか。

Kポップのように歌がうまい、ダンスがうまい、みんなが合わせてパフォーマンスできるというのは、これまで見たことのない新しいジャンルだった。そのジャンルに世界の人々が慣れるのに少し時間がかかって、ちょうどBTSのタイミングでうまく花開いたんだと思う。

――LAPONEは吉本とCJ ENMで作った会社なので、韓国側のノウハウを取り入れられるという強みがある。

もちろんです。やはり韓国の業界と日本の業界は違う部分もあって、とにかく韓国の業界は展開が早い。例えばSNSもそうだし、制作の環境もそう。そこは自分たちも積極的に取り入れていきたい。

昔は韓国では音楽番組も少なかったし、大手事務所のアーティスト以外はなかなかテレビに出演できなかった。そうなるとSNS――「自社媒体」と言い方を僕はしているが――で表現していくしかなかったんですよね。

ただそれが全てかといえば、違う。日本の良さは何かというと、やはり個性が強いところだ。それぞれの個性を生かしている点が韓国とは違っていて、それを僕らもうまく生かしていかないといけない。

――つまりKポップのアーティストは画一的な感じがするということ?

世界的に流行っているKポップ、韓国の音楽は何かと言ったら、一から十までほぼアイドルだ。では、世界で受け入れられている日本の音楽は? アニメソングもあるが、バンドなども含めていろいろな個性で勝負している。一つに偏らないのが強さだし、それは一つの文化だと思う。

僕らの事務所にとってはアイドル事業をやりつつ、自分たちの個性をどう表現していくかが大きな課題。「僕らの色を付けていく」という言い方をしているが、そこが非常に大切だと思っている。

――LAPONEのグループは韓国の音楽番組にも出演しているが、日本の番組に出る時と変わらなくパフォーマンスはできている?

アーティストのみんなは大変だと思っているのではないか。やっぱり雰囲気も含めて違うんですよね。言い方は難しいが、制作スタイルから、番組の構成、収録方法などさまざまな点で日本とは全然違う。「それが韓国だから、理解しないと」という感じで、韓国のやり方に合わせなくてはいけない。

――崔社長は韓国出身で法政大学に留学し、2000年に吉本興業に入社したという経歴だが、入社のきっかけは。

エンタメ業界に特に興味はなかった僕が吉本に入ったのは、本当にたまたまなんです。アルバイト先で、当時の吉本興業の役員の方と出会ったのがきっかけだった。まだ日韓エンタメの関係は今ほど強くなく、少し前に映画『シュリ』が日本でもヒットした頃です。

入社後に最初関わったのが、浜田雅功さんの番組「人気者でいこう!」。番組内で女の子5人組のアイドル、BONITAが韓国でデビューするという企画を担当した。

本当に大変でしたね。いろいろなことを一から全部やらないといけないし、韓国語を喋れる人は私だけだったし。番組制作のスタッフも、彼女たちもフォローしないといけない、それを全て一人でやっていたので。

――吉本での経験が今に生きている点は?

僕がスタッフやメンバーに常に言っているのは「基本を守ってほしい」ということ。難しいことを考えずに、まずは基本を守りなさい、と。例えばちゃんと挨拶をする、自分に余裕がある時は人を助けるといったことが大事だと思うんです。

人から助けられる人、嫌なところがあっても憎めないから助けてあげようと思ってもらえる人になってほしい。それは吉本での経験から学んだことです。僕は吉本で、いろいろな人に助けてもらった、かわいがってもらった。みんなにもそういう人になってほしいと強く思う。だから挨拶をしなかったり、態度が悪い時は必ず注意します。

ほかにも言っているのは、僕らがどこかの会社に仕事を与えると考えるのではなく、僕らが助けてもらっていると考える必要があるということ。実際、いろいろな方々から助けてもらっていますし。

――芸能界ではパワハラやセクハラがたびたび問題になるが、会社として気を付けている点は。

それはどこの会社もやられていると思いますが、僕らも教育などを含めて対策を取っています。若い社員が多いので、その問題はきちんと教えていかないといけない。

僕自身、社内を回りながら、できる限り声をかけるようにしているし、基本的に社長室のドアは常にオープンにしている。仕事のことでもプライベートのことでもいいから、いつでも話をしに来てください、と。

「所属してくれているアーティストの歌は常に聞いています」と話す崔 HISAKO KAWASAKI-NEWSWEEK JAPAN

――アイドルを誕生させるオーディション番組は飽和状態に見える。

かなりそうだと思っています。私の経験上、上昇・下降のサイクルは絶対にあるが、どちらかというと今は下降しているタイミングですね。

――では今後はグループを増やすよりも、所属グループのファンを海外に広げていく戦略を取る?

そこは常に会社としても検討しながら、正しい判断をしていければ。もちろん個々のアーティストの活動の方向性に関しては本人たちとも話し合いをしっかり行い、向かう方向も考えていければいいかなと思う。

――「私たちは海外の活動はそれほど望みません」というグループがあれば、国内の活動にとどまるということか。

そうじゃないですか。ただ、(海外での活動が)絶対に必要だと思ったら、僕らは何度でも説得するし、その意味や理由を納得できるように説明する。だから、会社が「こうしてください。やりなさい」と言うのではなく、ちゃんと説明して、話し合いをしていく。

彼らも一人の人間であり、考えを尊重してあげないと。この会社は嫌だ、精神的に病んでしまう、となると、会社にとっても彼らにとっても損失なので、そういう環境は作りたくない。僕らもどこまでできているか分からないが、メンバーに寄り沿った考えをしていかないと、とは常に思っている。

――個人的にはどんな音楽を聞いている?

その質問で思い出した面白い話があるのですが......3年くらい前にJO1のメンバーとサッカーをやっていて足を折ってしまい、手術をしないといけなくなった。僕は知らなかったが、最近の病院では手術中に自分が希望する曲を流してくれるんですよね。「何を聴きますか?」と言われて、僕はJO1の曲をずっと流してくださいと答えたことを、いま急に思い出しました。弊社に所属してくれているアーティストの歌は常に聞いています。

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