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リーダーこそ「自分にやさしく」...食生活の人間関係への影響、休み上手の4法則を知る

ニューズウィーク日本版 2024年12月27日 6時30分

若杉忠弘(グロービス経営大学院教授)
<健康の重要性は当然知っている? だが「食事」と「休息」は想像以上に大きな影響を及ぼす。自分の心身をうまくケアするには?>

この1年、食事も休息もそこそこに仕事に没頭してきたという人は多いかもしれない。しかし、不健康な生活は人間関係や組織のパフォーマンスにまで影響を及ぼす。

グロービス経営大学院でリーダーシップ・組織開発などを教える若杉忠弘氏は、こう言う。「すぐれたリーダーは、自分の心身をうまくケアしている」

若杉氏の近著『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』(かんき出版)より、心身のケアの重要性とその方法を紹介する(本稿は同書の一部を再編集したもの)。

『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』抜粋
※第1回:睡眠不足の上司は部下に当たり散らし、心を落ち着かせている...「仕事と睡眠」の驚きの関係
※第3回:中高年は、運動しないと「思考力」「ストレス耐性」低下...いつ・どれだけ運動すればいいか

◇ ◇ ◇

心身をケアするために食生活を見直す

総合スーパーで、エリアマネジャーとして働く新田祐介さんは、どうしても仕事が忙しく、生活が不規則になりがちで、心身のケアが十分にできていません。

メディアやニュースなどで、健康の重要性やノウハウがよく特集されます。新田さんはそうした情報に触れるたびに、いっこうに健康習慣を実践できない自分にうんざりしていました。

そこで、自己批判してしまいがちな新田さんは、セルフ・コンパッションを学ぶことにしたのです。

欧米で自己肯定感を高めるアプローチに代わって取り入れられるようになっているセルフ・コンパッションのスキルは、ひと言で言えば、「自分にやさしくすること」。自分の心身をケアすることで、仕事の成果が上がることはもちろん、チームのメンバーのケアにもつながります。

セルフ・コンパッションの考え方を取り入れると、新田さんは、「自分のことを大事にしていいんだ」という、新鮮な気づきを得ました。「自分の心身をケアしよう」という意欲も湧いてきました。

新田さんは、今度こそ健康習慣を改めることで、健康的でよりパワフルな自分になれることへの期待感に胸がふくらみます。

心身を大事にしたいと思ったとき、私たちは、何を実践すればよいのでしょうか。

リーダーがおさえておくべきは、「睡眠」「食事」「運動」「休み」の4つです。

今回は、この中の「食事」と「休息」について見てみましょう。

不健康な食事は同僚との人間関係を悪くする

新田さんは、もちろん食事が健康に直結することを知っていました。

しかし、店舗回りで移動が多く、どうしても外食が多くなりがちで、食生活がいいとは決して言えません。

食生活が悪いと、体調を崩しやすくなるだけではありません。同僚との人間関係も悪くなるリスクがあります。食事と人間関係は、いったいどうつながるのでしょうか。

ある大学で、162人の職員に調査をしたところ、職場で不健康な食事をしている職員は、避けられていることがわかりました。いつもジャンクフードなど、不摂生な食事をとっている職員は、だらしないと思われていたのです。

私たちは、だらしない人と一緒に仕事をしたくないと、本能的に思います。そして、そのだらしなさのシグナルが食習慣だったというわけです。

逆に、健康的な食事をとっている職員は、自分を律する力があると思われ、多くの同僚がその職員に協力的だったのです。

もし、みなさんが周りのメンバーが自分に協力的でない、と嘆いていたとすると、その原因は食生活にあるのかもしれません。

とくに、リーダーの一挙手一投足は、メンバーに細かく観察されています。リーダーの食習慣は、一般の社員より、とくに注目されていることでしょう。

不健康な食事は翌日のパフォーマンスを低下させる

では、仕事の時間外での食事は、どうでしょうか。メンバーや同僚が見ていないから、職場の人間関係に影響を及ぼさないと思うかもしれません。

これが違うのです。仕事の時間外の食事も、職場の人間関係に影響を及ぼす証拠が出てきています。

ある研究によれば、仕事のあとに不健康な食事をとると、翌日、自分の殻に閉じこもりがちになっていることがわかりました。不健康な食事の悪影響は、翌日、すぐに職場で現れていたのです。

仕事のあとの不健康な食事とは、次の4つが代表例です。

①仕事のあとに、ジャンクフードを食べすぎた。
②仕事のあとに不健康なお菓子を食べすぎた。
③仕事のあとに食べすぎ、そして飲みすぎた。
④夜、寝る前にお菓子を食べた。

どれも、やってしまいそうな食生活ですよね。こうした不健康な食事をとってしまうと、その翌朝、お腹の調子がよくないなどの、身体症状として現れやすいのです。

ここまでは、そうだろうな、と思いますが、ダメージはそれだけではなかったのです。「あー、食べすぎたぁ。あんなに食べなければよかった」と、罪悪感も覚えてしまうのです。

不健康な食事をとると、体だけでなく、心のダメージをくらうという、文字通りダブルパンチを受けてしまうのです。

その結果、その日のパフォーマンスは低下。さらには、周りのメンバーをサポートすることも減り、自分の殻にひきこもりがちになっていました。こうした行動は、リーダーとして致命的です。

新田さんは何を食べるかが、すぐ翌日の仕事のパフォーマンスに直結することを知り、規律ある食生活をしようと、気持ちを新たにしました。少なくとも、不健康なスナックやファーストフードは封印することにしました。

上手に休むための4つのポイント

新田さんは、休みの日も管轄の店舗のことが気になってしまいます。そして、自分が休んでしまうと、そのとき働いている同僚やスタッフの方に申し訳ないという気持ちを感じてしまいます。

新田さんは、上手に休めていませんね。

疲れやすい人は、上手に休めていないことが原因かもしれません。働きすぎが問題なのではなく、休めていないことが問題なのです。

実際、休み上手であればあるほど、心身が健康になり、仕事のパフォーマンスも高まります。逆に、休まないと、パフォーマンスは落ちるのです。

休み上手な人は、休みにどんなことをしているのでしょうか。

仕事が終わった後や、週末の過ごし方のポイントは、「心理的距離」「リラックス」「熟達」「コントロール」の4つです。

「心理的距離」とは、仕事のことや抱えている問題について考えないことです。仕事と切り離された時間をもつということです。休みのときでも、仕事のことをグルグルと考えているのは、「心理的距離」がとれていません。

「リラックス」とは、あくせくせず、ゆったりと過ごすことです。お風呂に長めにつかったり、サウナを楽しんだり、心地よい音楽を聴いたりするとよいですね。

「熟達」とは、新しいことを学んだり、何かに挑戦したりすることです。ボランティア活動や趣味に没頭する時間をもつことです。

「コントロール」とは、休みの時間の使い方を自分で決められることです。誰かに決められた活動はどうしても「こなす」感じになってしまい、よい休みになりません。

つまり、休み上手は、休みを休みとして純粋に楽しんでいるのです。休みは、仕事の疲れを抜くための手段ではありません。仕事のために休みを使うのではなく、自分のために休みを使うのです。

仕事のために休まないという、休み方をしたほうが、結果的には仕事にプラスになります。実際、こうした休み方をすると、仕事のストレスもとれ、仕事への意欲も高まり、パフォーマンスが上がることが示されています。

機嫌のいいリーダーのもとではメンバーも機嫌がよくなる

ある研究では、100人のリーダーを1週間にわたって、オンとオフの切り替えについて調査しています。仕事のあと、ちゃんとオンからオフへ切り替えることができていたリーダーは、翌朝、疲れがとれていました。

オンとオフの切り替えができていたリーダーは、翌朝、「自分はリーダーだ」という気概が強まっていたのです。「よし、今日もリーダーとして頑張るぞ」という気持ちが強く、その日はメンバーの目からみても、そのリーダーは活躍していました。

大事なポイントは、休み上手なリーダーはリーダーの自覚が強いということです。

逆に、仕事が終わったあとも仕事のことを心配していたリーダーは、その翌日、「自分はリーダーだ」という気概も弱く、その日は、周りの目からみてもリーダーとしてのパフォーマンスが落ちていました。

別の研究では、仕事のあとの休みを楽しんでいたリーダーほど、翌朝も機嫌がよいことがわかりました。

さらに、面白いことにご機嫌なリーダーのもとでは、その日、メンバーも機嫌がよくなっていたのです。リーダーのポジティブな感情がメンバーへと伝染したのです。

その結果、ご機嫌なメンバーは仕事がはかどり、かつ、創造性も増していました。

これらのデータから言えることは、今晩、みなさんがしっかり休息できるかどうかが、明日のリーダーシップを左右するということです。

新田さんは、休みの最中に仕事をすることが熱心なリーダーの証拠、と思っていたところがありました。これからは、自分が率先して休みをとるロールモデルになる必要がある、と考えるようになりました。

『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』
 若杉忠弘 著
 かんき出版

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若杉忠弘
グロービス経営大学院教授(リーダーシップ・組織開発など)。東京大学工学部・大学院を経て、外資系コンサルティングファームBooz Allen Hamilton(現PwCコンサルティング)に入社。経営コンサルタントとして活躍。企業の経営戦略策定、組織開発、変革実行支援に従事。

その後渡英し、ロンドン・ビジネス・スクールでMBAを取得。イギリスでは教育ベンチャーの立上げに参画。帰国後、グロービスで英語MBAプログラムのディレクターや英語オンラインMBAの設立などにかかわってきた。

仕事をする傍ら、一橋大学大学院に入学。経営学を研究するなかで、「セルフ・コンパッション」に出会う。当時、リーダーの役割を息苦しく感じ、「自己犠牲をしながら、成果を出さなければならないのか」と悶々とする日々だったが、セルフ・コンパッションから「自分へのやさしさが強さを育む」ことを学び、苦況を抜け出す。この経験をきっかけに、日本のビジネスパーソン1800人を対象に、組織におけるセルフ・コンパッションの調査と実験を繰り返し、研究にまい進。その研究成果が評価され、同大学院にて経営学博士を取得。

世界のセルフ・コンパッション教育をリードするアメリカの「センター・フォー・マインドフル・セルフ・コンパッション」で講師資格を得て、日本におけるセルフ・コンパッションのエバンジェリスト(伝道師)としても活動している。本書が初の著書となる。



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