若杉忠弘(グロービス経営大学院教授)
<運動不足は健康に悪いだけではない。ビジネススクール教授が説く、驚きの「効果」そして具体的なアドバイスとは?>
「運動不足は健康に悪いだけではなく、思考力や感情にも悪影響を及ぼす。できるリーダーほど忙しい中でも運動している」と、グロービス経営大学院でリーダーシップ・組織開発などを教える若杉忠弘氏は言う。
「忙しい」を言い訳にせず、今こそ生活を改め、運動を始めるチャンスだ。研究から、運動に「効果的な時間帯」も分かっている。
運動が及ぼす効果から具体的なアドバイスまで――。若杉氏の近著『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』(かんき出版)の一部を再編集する。
『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』抜粋
※第1回:睡眠不足の上司は部下に当たり散らし、心を落ち着かせている...「仕事と睡眠」の驚きの関係
※第2回:リーダーこそ「自分にやさしく」...食生活の人間関係への影響、休み上手の4法則を知る
◇ ◇ ◇
運動不足は思考や感情にも悪影響を及ぼす
感情的にも体力的にも負担のあるリーダーという仕事をこなすには、何といってもフレッシュなコンディションが必要です。
「食事」「睡眠」「運動」「休み」が、コンディションを整えるための4つの柱です。
この4つを改善すれば、明日にでもみなさんのパフォーマンスが向上します。
ご自身のコンディションをケアすることは、短期的にも長期的にも、チームと組織のためになるのです。
運動不足は、健康に悪いだけではありません。運動を定期的にしていないと、私たちの思考、感情、行動も乱れることをご存じでしょうか。
まず、思考です。専門家は「運動しないと、中年以降に思考力が低下する」と警笛を鳴らしています。運動しないことは、リスクでしかないのです。
この根拠となっているのは、イギリスの公務員1万308人を対象に、11年にわたって行われた大規模調査です。
運動を定期的にしていない人は、していた人に比べて、短期記憶、抽象的な思考力、創造性、新しい問題を解く力、応答時間のパフォーマンスのどれもが低かったというのです。
こうした思考力は、リーダーにとって不可欠であることは言うまでもありません。
しかし、今まで運動をしてこなかった人にも朗報です。エアロビックなどの運動をはじめれば、1年を待たずに、思考力が改善されるという結果も出ています。運動は認知症の予防にも有効です。思考力を高めたければ、運動なのです。
運動は強力な薬と同じくらい効果を発揮する
運動は、思考だけでなく感情にもプラスに働きかけます。
運動は、ストレスや不安への対処にも抜群の威力を発揮します。専門家は、運動はストレスに対処するのに、きわめて効果的にもかかわらず、そのことが認識されていないと嘆いているほどです。
有名な研究を紹介しましょう。デューク大学の研究では、抑うつ症状のある患者156人を調べています。1回あたり30分の軽い運動を週3回、行ってもらいました。
そこで明らかになったことは、驚くべきことに、運動は、抑うつ症に効く最も強力な薬を投与するのと同じくらい効果を発揮したというのです。
運動することによって、私たちの体にセロトニンやドーパミンなど、気分をよくするホルモンが放出されます。これにより、運動は感情にポジティブな影響があるのです。
ネガティブな感情に飲み込まれないようにしたければ、運動です。
気分が落ち込んだときは、うちにひきこもりがちですが、とにかく、「えいや」と、体を動かすことが効果的です。
運動している従業員ほど問題行動が少ない
運動は、行動にもプラスに働くというデータも出てきています。
インドのサービス企業に働く従業員166人を5週間にわたって調べた研究では、運動している従業員ほど、問題行動が少なかったことがわかりました。
「組織の物品を許可なく持ち帰る」「職場で相手を傷つけることを言う」といった、悪さが少なかったのです。
なぜ、このような結果が出るかと言えば、この研究によると運動をしている人ほど、自分を律することができることを指摘しています。だから、不正な行動に走りにくいのです。
私たちは、運動することで、思考力、感情、行動の乱れを整えることができることがわかりました。
では、いつ運動するといいのでしょうか。
仕事のあとや、休日に運動することを考える方が多いのではないでしょうか。もちろん、それもよいのですが、仕事が始まる前や、仕事の合間に運動することも効果的です。
社会人74人に、運動量や心拍数を測るデバイスを腕に着けてもらい、運動量を調べた研究があります。
それによれば、最大心拍数の50〜70%程度の軽い運動をしたあとは、仕事中の自信が高まり、仕事に集中しやすくなることがわかりました。「運動が楽しい」と思える人であれば、最大心拍数の85〜100%程度の激しい運動をしても、仕事への集中力は高まるという結果も出ています。
運動したほうがむしろ仕事後に疲れにくい
別の研究では、社会人71人に万歩計を着けてもらい、運動量を調査しています。ここからわかったことは、起きてから仕事が終わるまでの運動量が多いほうが、仕事を終えたときの疲れが少なかったのです。
1日中動かないほうが、むしろ疲れを感じてしまうというわけですね。
そして、1日の運動量が多いほうが、仕事が終わったあともリラックスできて、家族と充実した時間を過ごせていたこともわかりました。体を動かしていると、ワーク・ライフ・バランスが改善されるのです。
私たちは、仕事の前や、合間に運動をしてしまうと疲れ果ててしまい、仕事に悪影響が出そうと思いがちです。よほど激しい運動をしない限り、これは単なる思い込みといえそうです。
では、私たちはどれくらい運動するといいのでしょうか。
医学、生理学、運動学、公衆衛生の専門家10人が1つのガイドラインを明快に打ち出しています。
それは、健康のために、「早歩き程度の運動を週5回・30分以上行うか、ジョギング程度の運動を週3回・20分以上行うべきである」というものです。さらに、「週に2回ほど、体の主要な筋肉を鍛えるとよい」としています。
じつは、それほど多くの運動量が求められているわけではありません。通勤時に早歩きをするなど工夫すれば、ガイドラインを超えられそうです。
『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』
若杉忠弘 著
かんき出版
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
若杉忠弘
グロービス経営大学院教授(リーダーシップ・組織開発など)。東京大学工学部・大学院を経て、外資系コンサルティングファームBooz Allen Hamilton(現PwCコンサルティング)に入社。経営コンサルタントとして活躍。企業の経営戦略策定、組織開発、変革実行支援に従事。
その後渡英し、ロンドン・ビジネス・スクールでMBAを取得。イギリスでは教育ベンチャーの立上げに参画。帰国後、グロービスで英語MBAプログラムのディレクターや英語オンラインMBAの設立などにかかわってきた。
仕事をする傍ら、一橋大学大学院に入学。経営学を研究するなかで、「セルフ・コンパッション」に出会う。当時、リーダーの役割を息苦しく感じ、「自己犠牲をしながら、成果を出さなければならないのか」と悶々とする日々だったが、セルフ・コンパッションから「自分へのやさしさが強さを育む」ことを学び、苦況を抜け出す。この経験をきっかけに、日本のビジネスパーソン1800人を対象に、組織におけるセルフ・コンパッションの調査と実験を繰り返し、研究にまい進。その研究成果が評価され、同大学院にて経営学博士を取得。
世界のセルフ・コンパッション教育をリードするアメリカの「センター・フォー・マインドフル・セルフ・コンパッション」で講師資格を得て、日本におけるセルフ・コンパッションのエバンジェリスト(伝道師)としても活動している。本書が初の著書となる。
<運動不足は健康に悪いだけではない。ビジネススクール教授が説く、驚きの「効果」そして具体的なアドバイスとは?>
「運動不足は健康に悪いだけではなく、思考力や感情にも悪影響を及ぼす。できるリーダーほど忙しい中でも運動している」と、グロービス経営大学院でリーダーシップ・組織開発などを教える若杉忠弘氏は言う。
「忙しい」を言い訳にせず、今こそ生活を改め、運動を始めるチャンスだ。研究から、運動に「効果的な時間帯」も分かっている。
運動が及ぼす効果から具体的なアドバイスまで――。若杉氏の近著『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』(かんき出版)の一部を再編集する。
『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』抜粋
※第1回:睡眠不足の上司は部下に当たり散らし、心を落ち着かせている...「仕事と睡眠」の驚きの関係
※第2回:リーダーこそ「自分にやさしく」...食生活の人間関係への影響、休み上手の4法則を知る
◇ ◇ ◇
運動不足は思考や感情にも悪影響を及ぼす
感情的にも体力的にも負担のあるリーダーという仕事をこなすには、何といってもフレッシュなコンディションが必要です。
「食事」「睡眠」「運動」「休み」が、コンディションを整えるための4つの柱です。
この4つを改善すれば、明日にでもみなさんのパフォーマンスが向上します。
ご自身のコンディションをケアすることは、短期的にも長期的にも、チームと組織のためになるのです。
運動不足は、健康に悪いだけではありません。運動を定期的にしていないと、私たちの思考、感情、行動も乱れることをご存じでしょうか。
まず、思考です。専門家は「運動しないと、中年以降に思考力が低下する」と警笛を鳴らしています。運動しないことは、リスクでしかないのです。
この根拠となっているのは、イギリスの公務員1万308人を対象に、11年にわたって行われた大規模調査です。
運動を定期的にしていない人は、していた人に比べて、短期記憶、抽象的な思考力、創造性、新しい問題を解く力、応答時間のパフォーマンスのどれもが低かったというのです。
こうした思考力は、リーダーにとって不可欠であることは言うまでもありません。
しかし、今まで運動をしてこなかった人にも朗報です。エアロビックなどの運動をはじめれば、1年を待たずに、思考力が改善されるという結果も出ています。運動は認知症の予防にも有効です。思考力を高めたければ、運動なのです。
運動は強力な薬と同じくらい効果を発揮する
運動は、思考だけでなく感情にもプラスに働きかけます。
運動は、ストレスや不安への対処にも抜群の威力を発揮します。専門家は、運動はストレスに対処するのに、きわめて効果的にもかかわらず、そのことが認識されていないと嘆いているほどです。
有名な研究を紹介しましょう。デューク大学の研究では、抑うつ症状のある患者156人を調べています。1回あたり30分の軽い運動を週3回、行ってもらいました。
そこで明らかになったことは、驚くべきことに、運動は、抑うつ症に効く最も強力な薬を投与するのと同じくらい効果を発揮したというのです。
運動することによって、私たちの体にセロトニンやドーパミンなど、気分をよくするホルモンが放出されます。これにより、運動は感情にポジティブな影響があるのです。
ネガティブな感情に飲み込まれないようにしたければ、運動です。
気分が落ち込んだときは、うちにひきこもりがちですが、とにかく、「えいや」と、体を動かすことが効果的です。
運動している従業員ほど問題行動が少ない
運動は、行動にもプラスに働くというデータも出てきています。
インドのサービス企業に働く従業員166人を5週間にわたって調べた研究では、運動している従業員ほど、問題行動が少なかったことがわかりました。
「組織の物品を許可なく持ち帰る」「職場で相手を傷つけることを言う」といった、悪さが少なかったのです。
なぜ、このような結果が出るかと言えば、この研究によると運動をしている人ほど、自分を律することができることを指摘しています。だから、不正な行動に走りにくいのです。
私たちは、運動することで、思考力、感情、行動の乱れを整えることができることがわかりました。
では、いつ運動するといいのでしょうか。
仕事のあとや、休日に運動することを考える方が多いのではないでしょうか。もちろん、それもよいのですが、仕事が始まる前や、仕事の合間に運動することも効果的です。
社会人74人に、運動量や心拍数を測るデバイスを腕に着けてもらい、運動量を調べた研究があります。
それによれば、最大心拍数の50〜70%程度の軽い運動をしたあとは、仕事中の自信が高まり、仕事に集中しやすくなることがわかりました。「運動が楽しい」と思える人であれば、最大心拍数の85〜100%程度の激しい運動をしても、仕事への集中力は高まるという結果も出ています。
運動したほうがむしろ仕事後に疲れにくい
別の研究では、社会人71人に万歩計を着けてもらい、運動量を調査しています。ここからわかったことは、起きてから仕事が終わるまでの運動量が多いほうが、仕事を終えたときの疲れが少なかったのです。
1日中動かないほうが、むしろ疲れを感じてしまうというわけですね。
そして、1日の運動量が多いほうが、仕事が終わったあともリラックスできて、家族と充実した時間を過ごせていたこともわかりました。体を動かしていると、ワーク・ライフ・バランスが改善されるのです。
私たちは、仕事の前や、合間に運動をしてしまうと疲れ果ててしまい、仕事に悪影響が出そうと思いがちです。よほど激しい運動をしない限り、これは単なる思い込みといえそうです。
では、私たちはどれくらい運動するといいのでしょうか。
医学、生理学、運動学、公衆衛生の専門家10人が1つのガイドラインを明快に打ち出しています。
それは、健康のために、「早歩き程度の運動を週5回・30分以上行うか、ジョギング程度の運動を週3回・20分以上行うべきである」というものです。さらに、「週に2回ほど、体の主要な筋肉を鍛えるとよい」としています。
じつは、それほど多くの運動量が求められているわけではありません。通勤時に早歩きをするなど工夫すれば、ガイドラインを超えられそうです。
『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』
若杉忠弘 著
かんき出版
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若杉忠弘
グロービス経営大学院教授(リーダーシップ・組織開発など)。東京大学工学部・大学院を経て、外資系コンサルティングファームBooz Allen Hamilton(現PwCコンサルティング)に入社。経営コンサルタントとして活躍。企業の経営戦略策定、組織開発、変革実行支援に従事。
その後渡英し、ロンドン・ビジネス・スクールでMBAを取得。イギリスでは教育ベンチャーの立上げに参画。帰国後、グロービスで英語MBAプログラムのディレクターや英語オンラインMBAの設立などにかかわってきた。
仕事をする傍ら、一橋大学大学院に入学。経営学を研究するなかで、「セルフ・コンパッション」に出会う。当時、リーダーの役割を息苦しく感じ、「自己犠牲をしながら、成果を出さなければならないのか」と悶々とする日々だったが、セルフ・コンパッションから「自分へのやさしさが強さを育む」ことを学び、苦況を抜け出す。この経験をきっかけに、日本のビジネスパーソン1800人を対象に、組織におけるセルフ・コンパッションの調査と実験を繰り返し、研究にまい進。その研究成果が評価され、同大学院にて経営学博士を取得。
世界のセルフ・コンパッション教育をリードするアメリカの「センター・フォー・マインドフル・セルフ・コンパッション」で講師資格を得て、日本におけるセルフ・コンパッションのエバンジェリスト(伝道師)としても活動している。本書が初の著書となる。