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日本で性犯罪が起訴に至るケースはたったの1.1%

ニューズウィーク日本版 2024年12月25日 11時0分

舞田敏彦(教育社会学者)
<性犯罪の推定被害のうち、実際に警察が検挙しているのは2.82%、刑事事件として起訴されるのはわずか1.1%に過ぎない>

滋賀医大生の性的暴行事件の控訴審で、逆転無罪判決が下った。脅迫とされた加害者の発言は、性的行為の際の卑猥な言動とされ、被害者の明瞭な拒絶の言葉があったにもかかわらず、同意の上での行為と判断された。被害者が、加害者宅に(ためらいもなく)上がったことも、同意があったことを推認する材料となったようだ。

「疑わしきは被告人の利益に」という原則があるものの、社会通念と著しくかけ離れていると、この判決には批判が寄せられている。性犯罪者が無罪放免になってしまうことが懸念されるが、今の日本は、これに近い状態になっている。被害届を警察に受理させ、事件化させることすら容易でない。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)の統計によると、2022年の1年間に警察が認知したレイプ事件数は日本が1655件、スウェーデンが9029件。人口10万人あたりの数にすると順に1.3件、85.6件となる。桁違いの差がある。主要国の数値を棒グラフにすると<図1>のようになる。

警察統計に計上されたレイプ事件数だが、日本は他国と比べて非常に少ない。かつ、この10年あまりでほとんど変化がない。

これをもって「日本では性犯罪がほぼ皆無」などと考えるのは間違いだろう。事件化されず、闇に葬られた「暗数」があることを疑わなければならない。

性犯罪の被害者は、恐怖心や羞恥心から被害を訴え出るのをためらう。勇気を出して警察に行っても、「よくあること、証拠がないので難しい」などと被害届をつっぱねられる。異性の警察官に被害時の状況を根掘り葉掘り聞かれる「セカンド・レイプ」に遭い、訴えを取り下げる。多かれ少なかれどの国でもそうだが、日本ではこうした問題が特に大きいのではないか。<図1>のグラフを見ると、そう思わざるを得ない。

2019年初頭に法務省が実施した『犯罪被害実態調査』によると、16歳以上の女性のうち、過去5年間(2014~18年)に性犯罪の被害に遭った人の割合は1.69%。人口統計にかけて実数にすると94万3923人。

同じ5年間において、警察が認知した強制わいせつ・強制性交事件数は3万7314件。警察の認知事件数は、推定被害者数の3.95%でしかない。飛躍を承知で言うと、警察によって事件化されるのは、実際に起きた事件の4%弱でしかない可能性がある。

この5年間に、警察が検挙した強制わいせつ・強制性交事件数は2万6645件。先ほどの認知事件数で割って、検挙率は71.41%となる。検挙された犯人は検察に送られ、起訴するかどうかが判断されるが、同じ5年間の同罪種の被疑者で起訴されたのは8861人、不起訴となったのは1万3823人。よって起訴率は39.06%。

被害届受理率3.95%、検挙率71.41%、起訴率39.06%という数字をかけ合わせることで、性犯罪事件の何%が裁判まで行くかを視覚化できる<図2>。

大雑把に言うと、実際に起きた事件のうち警察によって事件化されるのは3.95%、裁判まで行くのは1.10%ということになる。91件中1件だ。性犯罪が立件され、裁判にまで至る確率は低い。滋賀医大生事件の二審判決を下した裁判官に批判が集まっているが、それ以前の段階で大半の事件が闇に葬られている。

国もこういう状況に無関心ではなく、昨年の刑法改正で性犯罪の構成要件が大幅に変わった。強制性交等罪が不同意性交等罪に変わり、体の硬直(フリーズ)、地位に基づく不利益の憂慮等により拒絶の意思を表明できなかった場合も、この罪は成立する。これまでは加害者の暴行・脅迫、被害者の明瞭な拒絶という要件が壁になり立件が阻まれてきたが、今後はそうでなくなる。

こうした法改正は、日本のあまりにも酷い現状を変えようという運動の成果だ。

<資料:UNODC「Statistics on crime」>

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