コリン・ジョイス(在英ジャーナリスト)
<選挙で大勝したのに出だしで致命的につまずいた地味な英首相には、態勢立て直しの時間だけはたっぷりある>
彼は2024年7月のイギリス総選挙で、労働党を約20年ぶりの勝利に導いた。さらにそれは、彼に変化の舵取りのための明確な権限を与えるほどの大勝だった。
キア・スターマー英首相は今後5年間は首相の座にあり、2025年は彼が真に名を成す年になるはずだ。ところが、今の彼にはこんな質問がふさわしい──なんでこうなっちゃったの、キア?
国民の支持は気まぐれなもの。野党時代に大胆な公約を掲げていた政党は、実際に政権を担うようになると魅力を失う場合が多い。それでも、スターマーの転落は目を見張るものがある。
選挙の大勝から数カ月で、彼の支持率はリシ・スナク前首相を下回った。年末のある世論調査では、労働党の支持率は下野した保守党だけでなく、傍流だった極右「リフォームUK」にも僅差で負けている。
それで、何がまずかったのだろうか? まず「不測の事態」という問題がある。就任わずか数週間でスターマーは危機に直面した。北西部サウスポートで発生した殺傷事件が全土で反移民暴動を引き起こしたのだ。
暴徒を逮捕、投獄して毅然と対処したのは評価された。だが、刑務所の過密緩和のため何千人もの犯罪者の早期釈放を認めたせいで、「ダブスタ・キア」と揶揄される羽目に。政治的に好まざる人に厳しく、強盗犯や窃盗犯に甘いと批判されたのだ。
そもそもカリスマ性なし
その他の問題は、「政権運営の現実」と関わっている。政府は決定を下さなければならず、それは必然的に一部の人を動揺させる。特に彼らから金を取り上げるような場合には。
例えば労働党は財政負担軽減のため、66歳以上の国民に支給していた冬季燃料手当を一部を除き廃止した。また、相続税なしに農場を相続できる抜け穴も改正された。
巨額の資産を持つ農家に免税など必要ないと思う人もいるかもしれない。だがそれは、大金を工面して納税しなければ家業の農場を無傷で受け継げないことを意味する。単純に考えて農業の場合はこれでは十分な利益が得られず、農村部は激怒している。
そもそもスターマーにカリスマの印象はなかったが、時に飛び出す冗談(私も次のジェームズ・ボンドになれる、とか)は痛々しいほど。トニー・ブレアやボリス・ジョンソンら前任首相らと違い、魅力に欠ける。
■【動画】痛すぎて見ていられないジョーク「私も次のジェームズ・ボンドになれる」 を見る
スターマーにとっての課題はもちろん、「ここからどう進む?」だ。良い知らせは、出だしの失敗を修正する時間があるということ。
サッカーファンの彼は、もしもビハインドするなら試合の早い段階のほうがはるかにいいと知っているだろう。29年まで総選挙の予定はなく、それまでに景気が回復し、スターマーが(地味でも)有能な仕事ぶりなら、有権者はずっと好意的になるだろう。
そうした仕事こそ、彼が誓ったこと。彼の公約は生活水準向上や医療の待機時間短縮、住宅危機緩和のための住宅建設、就学前教育の改善だ。
それは新時代のマニフェストというようなものではない。だが、人々が彼を「オー・ディア(やばいよ)・キア」ではなく「ノー・ドラマ(ドラマなき)・スターマー」と考えるようになれば、まずは本調子スタートということになるだろう。
「私も次のジェームズ・ボンドになれる」
Starmer jokes he could be next James Bond as he mocks Badenoch over working at McDonald's
<選挙で大勝したのに出だしで致命的につまずいた地味な英首相には、態勢立て直しの時間だけはたっぷりある>
彼は2024年7月のイギリス総選挙で、労働党を約20年ぶりの勝利に導いた。さらにそれは、彼に変化の舵取りのための明確な権限を与えるほどの大勝だった。
キア・スターマー英首相は今後5年間は首相の座にあり、2025年は彼が真に名を成す年になるはずだ。ところが、今の彼にはこんな質問がふさわしい──なんでこうなっちゃったの、キア?
国民の支持は気まぐれなもの。野党時代に大胆な公約を掲げていた政党は、実際に政権を担うようになると魅力を失う場合が多い。それでも、スターマーの転落は目を見張るものがある。
選挙の大勝から数カ月で、彼の支持率はリシ・スナク前首相を下回った。年末のある世論調査では、労働党の支持率は下野した保守党だけでなく、傍流だった極右「リフォームUK」にも僅差で負けている。
それで、何がまずかったのだろうか? まず「不測の事態」という問題がある。就任わずか数週間でスターマーは危機に直面した。北西部サウスポートで発生した殺傷事件が全土で反移民暴動を引き起こしたのだ。
暴徒を逮捕、投獄して毅然と対処したのは評価された。だが、刑務所の過密緩和のため何千人もの犯罪者の早期釈放を認めたせいで、「ダブスタ・キア」と揶揄される羽目に。政治的に好まざる人に厳しく、強盗犯や窃盗犯に甘いと批判されたのだ。
そもそもカリスマ性なし
その他の問題は、「政権運営の現実」と関わっている。政府は決定を下さなければならず、それは必然的に一部の人を動揺させる。特に彼らから金を取り上げるような場合には。
例えば労働党は財政負担軽減のため、66歳以上の国民に支給していた冬季燃料手当を一部を除き廃止した。また、相続税なしに農場を相続できる抜け穴も改正された。
巨額の資産を持つ農家に免税など必要ないと思う人もいるかもしれない。だがそれは、大金を工面して納税しなければ家業の農場を無傷で受け継げないことを意味する。単純に考えて農業の場合はこれでは十分な利益が得られず、農村部は激怒している。
そもそもスターマーにカリスマの印象はなかったが、時に飛び出す冗談(私も次のジェームズ・ボンドになれる、とか)は痛々しいほど。トニー・ブレアやボリス・ジョンソンら前任首相らと違い、魅力に欠ける。
■【動画】痛すぎて見ていられないジョーク「私も次のジェームズ・ボンドになれる」 を見る
スターマーにとっての課題はもちろん、「ここからどう進む?」だ。良い知らせは、出だしの失敗を修正する時間があるということ。
サッカーファンの彼は、もしもビハインドするなら試合の早い段階のほうがはるかにいいと知っているだろう。29年まで総選挙の予定はなく、それまでに景気が回復し、スターマーが(地味でも)有能な仕事ぶりなら、有権者はずっと好意的になるだろう。
そうした仕事こそ、彼が誓ったこと。彼の公約は生活水準向上や医療の待機時間短縮、住宅危機緩和のための住宅建設、就学前教育の改善だ。
それは新時代のマニフェストというようなものではない。だが、人々が彼を「オー・ディア(やばいよ)・キア」ではなく「ノー・ドラマ(ドラマなき)・スターマー」と考えるようになれば、まずは本調子スタートということになるだろう。
「私も次のジェームズ・ボンドになれる」
Starmer jokes he could be next James Bond as he mocks Badenoch over working at McDonald's