まつもとたくお
<レコード大賞や紅白歌合戦にアーティストが出演するK-POP。今年のトレンドは?>
2024年のK-POP界隈の大きなトピックというと、NewJeansの所属事務所とのトラブルをあげる人が多いだろう。米ビルボードでトップに輝くほどの人気者と、それを発掘・育成した敏腕プロデューサー、トップクラスの芸能事務所が起こした騒動ゆえに、周囲が騒然とするのもわからないではない。とはいえ、肝心のサウンドに触れないまま、こうした芸能ニュースを中心に隣国の音楽シーンを振り返るのはあまりにも寂しいことだ。やはり主役は楽曲。というわけで、このコラムでは音楽的な傾向に焦点を当てて2024年のK-POPシーンを語ってみたいと思う。
サウンド面でもNewJeansは欠かせぬ存在
NewJeansの知名度が上がるとともにクローズアップされるようになったのが、"イージーリスニング"だ。中高年のリスナーであれば、「ポール・モーリア? それともパーシー・フェイス? ムードミュージックのことでしょ?」となりそうだが、さにあらず。近年は洒落たコード進行とクールなアレンジが印象的なサウンドを指す言葉として知られている。テイストは少し前に"チルアウト"と呼ばれていたものに近いかもしれない。
NewJeansは2024年「Supernatural」で日本デビュー。カップリング曲「Right Now」とともに日英韓がシャッフルされた歌詞が印象的だった。
シティポップ旋風が少し落ち着きはじめたのを見計らうように登場したイージーリスニングは、具体的に音の組み立てがどうのこうのと語れるわけではなく、むしろ制作サイドの姿勢と言ったほうが的確である。この方面では、BOYNEXTDOORが秋にリリースした「Nice Guy」が典型的な例で、「ラテン風だけど本格的にアプローチしているわけではなく、心地よさを追求しただけ」と言わんばかり。この雰囲気重視で楽曲を作るのが、2024年のトレンドのひとつになっている。
ZICOが手掛けたボーイズグループとして登場したBOYNEXTDOORは2024年、日本デビューを果たすなどの活躍を見せた。
全世界的なムーブメントで韓国でも盛り上がっているのが、レトロなサウンドメイクである。これは数年前から見られた現象だが、NewJeansの活躍のおかげでさらに目立ってきた印象が強い。ここ最近は80年代~90年代に流行ったジャンルが受けているようで、"ハウス"を取り入れたRIIZE「Impossible」やNCT DREAM「When I'm With You」、大御所のチョー・ヨンピルが「Feeling Of You」を発表した2023年あたりから急増した"エレポップ"では、TOMORROW X TOGETHER「Love Story」、"ドラムンベース"だとNewJeans「Right Now」、tripleS「Untitled」といった具合に、例をあげれば切りがない。
NCT DREAMは2024年ミニアルバム「DREAM( )SCAPE」、フルアルバム「DREAMSCAPE」、日本オリジナルシングル「Moonlight」に加えて、「Rains in Heaven」でアメリカでもシングルをリリースした。
バンドサウンドが人気に
バンドサウンドも2024年のK-POPシーンを語る上で外せないほど、たくさんの人に愛された。メンバー全員が兵役を終えて、再び本格的に活動を開始したDAY6は、常にヒットチャートの上位にいるほどの人気ぶり。彼らの場合は、一部のメンバーが軍隊にいる時期に行った公演が評判を呼び、復帰後の大ブレイクにつながったわけだが、それを差し引いても、これだけ売れたのは、ひとえにサウンドの良さと言えるだろう。
DAY6はミニアルバム「Fourever」の収録曲「HAPPY」が韓国の大手配信サイトMelOnの9・10月の月間チャート1位を獲得するヒットとなった。
この方面でもう1組押さえておきたいのが、前回のコラムでも紹介した女性4人組のQWER。日本の4コマ漫画『ぼっち・ざ・ろっく!』やアニメ『推しの子』にインスパイアされて始めた企画から登場したバンドで、デビューから程なくしてスターダムへ。「悩み中毒」「私の名前は晴れ」といった、日本のアイドルが歌うような明るく元気なナンバーをバンド演奏する様子が、韓国の若いリスナーを中心に歓迎されたのは想像に難くない。
QWERは「バンドサウンド」と「J-POPの影響」という2024年のK-POPトレンドを代表するようなサウンドが特徴的だ。
J-POPなど日本の音楽の影響も
日本のカルチャーが隣国に刺激を与えているケースは、実は他にもある。それは昭和・平成の歌謡曲で、「ギンギラギンにさりげなく」(近藤真彦)や「道化師のソネット」(さだまさし)、「雪の華」(中島美嘉)など、日本の人たちにとっては懐かしいヒットソングが現地で大きな注目を集めているのだ。
韓国のバラエティ番組『日韓歌王戦』で韓国のファンを獲得した歌心りえは1995年に音楽ユニット「Letit go」のメンバーとしてデビュー、現在はソロとして活動をしているベテラン。
こうした曲の魅力を広めているのが、日本では無名に近い女性シンガーたちだったのが興味深い。彼女たちは日本のオーディション番組『トロット・ガールズ・ジャパン』の出身で、春にトロット(日本の演歌に相当するジャンル)系の歌手たちと対決する韓国のバラエティ番組『日韓歌王戦』に出演。そこで披露された日本の曲が老若男女問わず受けているのだ。おそらく「美しい曲を上手に歌う素晴らしさにあらためて気づく」という原点回帰なのだろう。これはダンスポップ至上主義だったK-POPシーンの劇的な変化であり、同時に新たな日韓交流の幕開けとなる出来事だけに、来年も引き続き動向を追っていきたい。
グローバル化で手にしたものは?
Bruno Marsとのコラボレーションで「APT.」が世界的に大ヒットしたROSÉは2025年はBLACKPINKでの活動がメインになる予定。
一方で、韓国の宴席でよくやるゲームを題材にした「APT.」(ROSÉ & Bruno Mars)が米ビルボードのメインチャートでトップ10入りを果たし、大韓ヒップホップの魅力をこれでもかと詰め込んだG-DRAGONの「POWER」が国内の若者の間で評判になるなど、"韓国らしさ"を濃厚に感じさせるナンバーが次々とヒットする----。そのような2024年のK-POPシーンを俯瞰して思うのは、世界的な人気ジャンルになったことで手に入れた、韓国人アーティストたちの"自信と貫禄"である。他国の良いところを吸収しつつも、自身の美学も大切にする姿勢。これを維持し続けるK-POPは、今後も巨大化の一途をたどるに違いない。
11月23日に大阪で開催された韓国のケーブル局MnetのイベントMAMAに出演したG-DRAGONのステージには、他のBIGBANGのメンバーも登場、復活への期待を高めた。
<レコード大賞や紅白歌合戦にアーティストが出演するK-POP。今年のトレンドは?>
2024年のK-POP界隈の大きなトピックというと、NewJeansの所属事務所とのトラブルをあげる人が多いだろう。米ビルボードでトップに輝くほどの人気者と、それを発掘・育成した敏腕プロデューサー、トップクラスの芸能事務所が起こした騒動ゆえに、周囲が騒然とするのもわからないではない。とはいえ、肝心のサウンドに触れないまま、こうした芸能ニュースを中心に隣国の音楽シーンを振り返るのはあまりにも寂しいことだ。やはり主役は楽曲。というわけで、このコラムでは音楽的な傾向に焦点を当てて2024年のK-POPシーンを語ってみたいと思う。
サウンド面でもNewJeansは欠かせぬ存在
NewJeansの知名度が上がるとともにクローズアップされるようになったのが、"イージーリスニング"だ。中高年のリスナーであれば、「ポール・モーリア? それともパーシー・フェイス? ムードミュージックのことでしょ?」となりそうだが、さにあらず。近年は洒落たコード進行とクールなアレンジが印象的なサウンドを指す言葉として知られている。テイストは少し前に"チルアウト"と呼ばれていたものに近いかもしれない。
NewJeansは2024年「Supernatural」で日本デビュー。カップリング曲「Right Now」とともに日英韓がシャッフルされた歌詞が印象的だった。
シティポップ旋風が少し落ち着きはじめたのを見計らうように登場したイージーリスニングは、具体的に音の組み立てがどうのこうのと語れるわけではなく、むしろ制作サイドの姿勢と言ったほうが的確である。この方面では、BOYNEXTDOORが秋にリリースした「Nice Guy」が典型的な例で、「ラテン風だけど本格的にアプローチしているわけではなく、心地よさを追求しただけ」と言わんばかり。この雰囲気重視で楽曲を作るのが、2024年のトレンドのひとつになっている。
ZICOが手掛けたボーイズグループとして登場したBOYNEXTDOORは2024年、日本デビューを果たすなどの活躍を見せた。
全世界的なムーブメントで韓国でも盛り上がっているのが、レトロなサウンドメイクである。これは数年前から見られた現象だが、NewJeansの活躍のおかげでさらに目立ってきた印象が強い。ここ最近は80年代~90年代に流行ったジャンルが受けているようで、"ハウス"を取り入れたRIIZE「Impossible」やNCT DREAM「When I'm With You」、大御所のチョー・ヨンピルが「Feeling Of You」を発表した2023年あたりから急増した"エレポップ"では、TOMORROW X TOGETHER「Love Story」、"ドラムンベース"だとNewJeans「Right Now」、tripleS「Untitled」といった具合に、例をあげれば切りがない。
NCT DREAMは2024年ミニアルバム「DREAM( )SCAPE」、フルアルバム「DREAMSCAPE」、日本オリジナルシングル「Moonlight」に加えて、「Rains in Heaven」でアメリカでもシングルをリリースした。
バンドサウンドが人気に
バンドサウンドも2024年のK-POPシーンを語る上で外せないほど、たくさんの人に愛された。メンバー全員が兵役を終えて、再び本格的に活動を開始したDAY6は、常にヒットチャートの上位にいるほどの人気ぶり。彼らの場合は、一部のメンバーが軍隊にいる時期に行った公演が評判を呼び、復帰後の大ブレイクにつながったわけだが、それを差し引いても、これだけ売れたのは、ひとえにサウンドの良さと言えるだろう。
DAY6はミニアルバム「Fourever」の収録曲「HAPPY」が韓国の大手配信サイトMelOnの9・10月の月間チャート1位を獲得するヒットとなった。
この方面でもう1組押さえておきたいのが、前回のコラムでも紹介した女性4人組のQWER。日本の4コマ漫画『ぼっち・ざ・ろっく!』やアニメ『推しの子』にインスパイアされて始めた企画から登場したバンドで、デビューから程なくしてスターダムへ。「悩み中毒」「私の名前は晴れ」といった、日本のアイドルが歌うような明るく元気なナンバーをバンド演奏する様子が、韓国の若いリスナーを中心に歓迎されたのは想像に難くない。
QWERは「バンドサウンド」と「J-POPの影響」という2024年のK-POPトレンドを代表するようなサウンドが特徴的だ。
J-POPなど日本の音楽の影響も
日本のカルチャーが隣国に刺激を与えているケースは、実は他にもある。それは昭和・平成の歌謡曲で、「ギンギラギンにさりげなく」(近藤真彦)や「道化師のソネット」(さだまさし)、「雪の華」(中島美嘉)など、日本の人たちにとっては懐かしいヒットソングが現地で大きな注目を集めているのだ。
韓国のバラエティ番組『日韓歌王戦』で韓国のファンを獲得した歌心りえは1995年に音楽ユニット「Letit go」のメンバーとしてデビュー、現在はソロとして活動をしているベテラン。
こうした曲の魅力を広めているのが、日本では無名に近い女性シンガーたちだったのが興味深い。彼女たちは日本のオーディション番組『トロット・ガールズ・ジャパン』の出身で、春にトロット(日本の演歌に相当するジャンル)系の歌手たちと対決する韓国のバラエティ番組『日韓歌王戦』に出演。そこで披露された日本の曲が老若男女問わず受けているのだ。おそらく「美しい曲を上手に歌う素晴らしさにあらためて気づく」という原点回帰なのだろう。これはダンスポップ至上主義だったK-POPシーンの劇的な変化であり、同時に新たな日韓交流の幕開けとなる出来事だけに、来年も引き続き動向を追っていきたい。
グローバル化で手にしたものは?
Bruno Marsとのコラボレーションで「APT.」が世界的に大ヒットしたROSÉは2025年はBLACKPINKでの活動がメインになる予定。
一方で、韓国の宴席でよくやるゲームを題材にした「APT.」(ROSÉ & Bruno Mars)が米ビルボードのメインチャートでトップ10入りを果たし、大韓ヒップホップの魅力をこれでもかと詰め込んだG-DRAGONの「POWER」が国内の若者の間で評判になるなど、"韓国らしさ"を濃厚に感じさせるナンバーが次々とヒットする----。そのような2024年のK-POPシーンを俯瞰して思うのは、世界的な人気ジャンルになったことで手に入れた、韓国人アーティストたちの"自信と貫禄"である。他国の良いところを吸収しつつも、自身の美学も大切にする姿勢。これを維持し続けるK-POPは、今後も巨大化の一途をたどるに違いない。
11月23日に大阪で開催された韓国のケーブル局MnetのイベントMAMAに出演したG-DRAGONのステージには、他のBIGBANGのメンバーも登場、復活への期待を高めた。