サム・ポトリッキオ
<四半世紀に及ぶロシアの「超・長期独裁者」ウラジミール・プーチン。一見して前途洋々だが、勇み足や失言が命取りになる恐れも>
2025年がどんな年になるのかは見当もつかないが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナとの戦争をやめないのは確実だ。
2000年の大統領就任から首相時代も含めて25年という節目の年に、彼は大きな勝利を収めるのか、それとも破滅するのか。
「世界秩序の破壊者」たるプーチンが成功すれば、世界秩序のドミノ倒しが欧米優位にとどめを刺すのは必至。つまずけばプーチンの支配は幕を閉じかねない。
24年後半、プーチンは前途洋々に見えた。10月にはイスラム教徒が多数を占めるロシア西部タタールスタン共和国の首都カザンでBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会議を開催。
国際社会から孤立しているというイメージを払拭し、ウクライナ戦争の戦犯容疑で国際刑事裁判所(ICC)から訴追されているにもかかわらず、世界の他の指導者に受け入れられていることを見せつけた。
一方、「自由世界」の新たなリーダーにはドナルド・トランプ次期米大統領が就く。
NATO懐疑派で、自国の情報当局よりプーチンの肩を持つことで有名だ。ロシア軍のウクライナ侵攻当初は政治生命が尽きたと思われていたが、ロシア軍が支配地域を拡大する間に返り咲きを果たした。
12月初め、アメリカの人気保守派司会者タッカー・カールソンはモスクワでロシア外相にインタビューした動画を公開。
アメリカは「ほとんどのアメリカ人が知らないままロシアと激しい戦争状態にある」と主張した。トランプに絶大な影響力を持つ彼は、プーチンの利害の強力な擁護者だ。
ウクライナ東部の強固な防衛線をロシア軍が突破するなか、プーチンの大敵であるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の発言にも変化の兆しが見えた。
24年11月、ゼレンスキーはトランプ寄りのFOXニュースのインタビューで、「法的には、ロシア軍が占領したウクライナの領土をロシア領と認めることはできない」と発言。
ロシアが一方的に併合を宣言したクリミアについては「クリミア奪回のために何万というウクライナ人の命を犠牲にするわけにはいかない」と語り、戦争終結と引き換えに少なくとも事実上の領土割譲には同意する用意があることをにおわせた。
欧米でNATOに懐疑的な政権が勢力を増し(最大の支援国アメリカもその1つ)、プーチンの望むとおりになりつつある。
とはいえ、プーチンはウクライナに執着するあまり自分の首を絞めることも珍しくない。権力を手にして5年目のこと。
ロシア経済が成長し、国内での支配力も増した04年末、プーチンはウクライナ大統領選前日に首都キーウを訪れ、親ロ派の候補を応援した。この軽率な内政干渉はオレンジ革命につながり、ウクライナのロシア離れを招いた。
「ウクライナへのあからさまな内政干渉は重大な侮辱であり、ウクライナの国家としての地位に対する軽視の表れと広く受け止められた。その結果、世論に緊張が走り、それまで政治に無関心だった大勢のウクライナ人を動員する一助となった」と、ある識者は指摘した。
その約10年後、プーチンがウクライナの親ロ派大統領にEUとの連合協定署名を見送らせた結果、第2の革命が起きてプーチンは軍事侵攻に踏み切った。
つまりプーチンは有利な状況になると、ウクライナ支配に執着して読みを誤り、自国の経済と国際的地位に悪影響を及ぼしがちだ。
「ロシア離れ」が止まらない
24年末、ロシアの経済と影響力に陰りが見え始めた。シリアではプーチンが支援してきたアサド政権が、21年のアフガニスタンの政権崩壊を上回る速さで崩壊。ロシア軍はシリアの複数の基地から撤退した。
ジョージアの親ロ派分離地域アブハジア自治共和国では、ロシアとの投資協定をめぐり不動産市場からの締め出しを懸念するデモ隊が議会に乱入した。
首都トビリシでは「ロシアの特殊作戦」によって選挙が盗まれたと抗議する数万人のデモが行われた。カザフスタンでも、首脳会議でプーチンに「ロシア語圏」と言われたカザフスタンの大統領がカザフ語で話す一幕があった。
11月下旬には、ロシアから天然ガスを輸入した国の代金決済窓口となっているロシアの銀行に米政府が制裁を発動。その影響でルーブルは対米ドルで15%、対人民元で7%急落した。
兵器用部品などを中国から輸入しているロシアにとっては憂慮すべき事態だ。
優勢で勇み足になったプーチンがウクライナに対し強硬な攻めに出れば、トランプが態度を硬化させる恐れもある。
トランプの対ロ強硬派の国家安全保障チームは、ブッシュ政権下でジョージア、オバマ・バイデン両政権下でウクライナの領土を奪ったロシアが、トランプ政権下では他国の領土を奪わなかったと進言し、彼の競争心をくすぐるだろう。
トランプはウクライナへの武器供与を増やし、グローバル市場をアメリカの製品やエネルギーであふれ返らせるはずだ。
それでも従来のプーチンなら、ウクライナをロシアの支配下に置こうとするだろう。確実なのは「1日で戦争を終わらせる」というトランプの約束が実現しないということだ。
<四半世紀に及ぶロシアの「超・長期独裁者」ウラジミール・プーチン。一見して前途洋々だが、勇み足や失言が命取りになる恐れも>
2025年がどんな年になるのかは見当もつかないが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナとの戦争をやめないのは確実だ。
2000年の大統領就任から首相時代も含めて25年という節目の年に、彼は大きな勝利を収めるのか、それとも破滅するのか。
「世界秩序の破壊者」たるプーチンが成功すれば、世界秩序のドミノ倒しが欧米優位にとどめを刺すのは必至。つまずけばプーチンの支配は幕を閉じかねない。
24年後半、プーチンは前途洋々に見えた。10月にはイスラム教徒が多数を占めるロシア西部タタールスタン共和国の首都カザンでBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会議を開催。
国際社会から孤立しているというイメージを払拭し、ウクライナ戦争の戦犯容疑で国際刑事裁判所(ICC)から訴追されているにもかかわらず、世界の他の指導者に受け入れられていることを見せつけた。
一方、「自由世界」の新たなリーダーにはドナルド・トランプ次期米大統領が就く。
NATO懐疑派で、自国の情報当局よりプーチンの肩を持つことで有名だ。ロシア軍のウクライナ侵攻当初は政治生命が尽きたと思われていたが、ロシア軍が支配地域を拡大する間に返り咲きを果たした。
12月初め、アメリカの人気保守派司会者タッカー・カールソンはモスクワでロシア外相にインタビューした動画を公開。
アメリカは「ほとんどのアメリカ人が知らないままロシアと激しい戦争状態にある」と主張した。トランプに絶大な影響力を持つ彼は、プーチンの利害の強力な擁護者だ。
ウクライナ東部の強固な防衛線をロシア軍が突破するなか、プーチンの大敵であるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の発言にも変化の兆しが見えた。
24年11月、ゼレンスキーはトランプ寄りのFOXニュースのインタビューで、「法的には、ロシア軍が占領したウクライナの領土をロシア領と認めることはできない」と発言。
ロシアが一方的に併合を宣言したクリミアについては「クリミア奪回のために何万というウクライナ人の命を犠牲にするわけにはいかない」と語り、戦争終結と引き換えに少なくとも事実上の領土割譲には同意する用意があることをにおわせた。
欧米でNATOに懐疑的な政権が勢力を増し(最大の支援国アメリカもその1つ)、プーチンの望むとおりになりつつある。
とはいえ、プーチンはウクライナに執着するあまり自分の首を絞めることも珍しくない。権力を手にして5年目のこと。
ロシア経済が成長し、国内での支配力も増した04年末、プーチンはウクライナ大統領選前日に首都キーウを訪れ、親ロ派の候補を応援した。この軽率な内政干渉はオレンジ革命につながり、ウクライナのロシア離れを招いた。
「ウクライナへのあからさまな内政干渉は重大な侮辱であり、ウクライナの国家としての地位に対する軽視の表れと広く受け止められた。その結果、世論に緊張が走り、それまで政治に無関心だった大勢のウクライナ人を動員する一助となった」と、ある識者は指摘した。
その約10年後、プーチンがウクライナの親ロ派大統領にEUとの連合協定署名を見送らせた結果、第2の革命が起きてプーチンは軍事侵攻に踏み切った。
つまりプーチンは有利な状況になると、ウクライナ支配に執着して読みを誤り、自国の経済と国際的地位に悪影響を及ぼしがちだ。
「ロシア離れ」が止まらない
24年末、ロシアの経済と影響力に陰りが見え始めた。シリアではプーチンが支援してきたアサド政権が、21年のアフガニスタンの政権崩壊を上回る速さで崩壊。ロシア軍はシリアの複数の基地から撤退した。
ジョージアの親ロ派分離地域アブハジア自治共和国では、ロシアとの投資協定をめぐり不動産市場からの締め出しを懸念するデモ隊が議会に乱入した。
首都トビリシでは「ロシアの特殊作戦」によって選挙が盗まれたと抗議する数万人のデモが行われた。カザフスタンでも、首脳会議でプーチンに「ロシア語圏」と言われたカザフスタンの大統領がカザフ語で話す一幕があった。
11月下旬には、ロシアから天然ガスを輸入した国の代金決済窓口となっているロシアの銀行に米政府が制裁を発動。その影響でルーブルは対米ドルで15%、対人民元で7%急落した。
兵器用部品などを中国から輸入しているロシアにとっては憂慮すべき事態だ。
優勢で勇み足になったプーチンがウクライナに対し強硬な攻めに出れば、トランプが態度を硬化させる恐れもある。
トランプの対ロ強硬派の国家安全保障チームは、ブッシュ政権下でジョージア、オバマ・バイデン両政権下でウクライナの領土を奪ったロシアが、トランプ政権下では他国の領土を奪わなかったと進言し、彼の競争心をくすぐるだろう。
トランプはウクライナへの武器供与を増やし、グローバル市場をアメリカの製品やエネルギーであふれ返らせるはずだ。
それでも従来のプーチンなら、ウクライナをロシアの支配下に置こうとするだろう。確実なのは「1日で戦争を終わらせる」というトランプの約束が実現しないということだ。