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「肌の色による壁は私自身が作っていた」...退屈な会議から「TEDxの舞台」へ、殻を破りアメリカンドリームを突き進む

ニューズウィーク日本版 2024年12月26日 13時45分

クリストファー・チン(講演者、コンサルタント)
<人に言われて初めて「私はアジア系だ」と気づいたクリストファー・チン(Christopher Chin)。音楽家を目指した彼が辿り着いたのは「データを音楽的に伝える方法」だった>

自分がアジア系であることに気付いた瞬間を覚えている。

学校の校庭で友人と遊んでいると、誰かが「白人の男の子」と遊んでいるんだねと私に言った。友人とはいつも楽しく遊んでいたのだが、その言葉を聞いた後に鏡を見たら、私の顔は友人と違っていた。

私はニューヨークのクイーンズ区で、アジア系に囲まれて育った。民族的に私たちは多数派だった。私は何の心配もなく暮らし、映画音楽の作曲家になるというアメリカンドリームを描いていた。

ほかの子供たちと同じく、私は『スター・ウォーズ』や『ライオン・キング』『スパイダーマン』のような映画に夢中になっていた。しかし私にとってこれらの映画の最大の魅力は、ほかの子供たちが好きな目まぐるしいアクションではなく、音楽だった。

自分で作曲を始め、大学では短編映画の音楽を作った。映画音楽の授業を受講し、アメリカンドリームがゆっくりと形になるのを感じていた。

しかし、鏡を見て気付いた。私はアジア系だった。そして、『スター・ウォーズ』や『ライオン・キング』『スパイダーマン』の作曲家たちのように白人ではなかった。

作曲の仕事にはありつけず、それは私が「仲間」ではないからだと思った。食べていくためにテック業界に入り、楽器に触れることはなくなった。

コロナ禍のさなかに、リモートの会議があった。退屈なデータが退屈な方法で示された。自室の退屈な椅子で私は思った。「残りの人生をこうやって過ごすのか?」

もう一度クリエーティブにやりたい。そうしないと人生最後の記憶が、退屈なパワーポイントのプレゼンテーションになってしまう。

個人ブランドの構築を始めた。複雑なデータや情報分析から得られた結果を、説得力あるストーリーとして分かりやすく伝える「データストーリーテリング」についてSNSに投稿すると、フォロワーが驚くほど増えた。動画コンテンツを作り、YouTubeチャンネルを立ち上げた。

成功を深くかみしめた

人前で話をする機会が増え、世界中で講演するようになった。YouTubeで見せたのはアジア系の「顔」だったが、講演では自分という「人間」をさらけ出すことになる。

しかし大きなチャンスに挑戦したくてTEDxに応募したところ、なんと合格した(TEDxとは優れたアイデアを講演で広めるTEDの精神を受け継ぎ、世界各地で独自に運営されているプログラム)。

How Music Can Make Your Data Sing | Christopher Chin | TEDxLogan Circle

自分が達成したことを深くかみしめた。確かに偏見や人種差別は存在する。だが私を最も縛っていたのは、ほかでもない私自身だったのだ。

TEDxでは私の音楽遍歴について話すことにした。音楽は10年間作っていなかったが、データストーリーテリングについてコーチングや講演をするたびに、音符ではなく数字で音楽を作っていたと気付いた。

会議で周りを退屈させないよう、データを音楽的に作る方法を教えていたのだ。

TEDxでは10年ぶりにピアノの前に座った。さび付いた指で音符を1つずつ弾くうち、自分を取り戻していった。ステージを降りたとき、本当に夢を実現したと思った。

このときの写真に映っているのは、私が拒んできたアジア系の顔。私は思った。「この顔が、私のような人々にアメリカンドリームに挑む勇気を与えられますように」

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