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【2025年経済展望】期待しづらい中国、外部環境に脆弱な日本、2%成長が続く米国

ニューズウィーク日本版 2024年12月27日 11時40分

村上尚己
<2024年は米国を除き、多くの経済大国が世界経済の足かせとなった。トランプ2.0が始動するが、各国は適切な財政金融政策を実現できるのか。2025年の世界経済を展望する>

2024年は多くの先進国で政権交代が起きるなど政治情勢は不安定だったが、米国が2%以上の成長が続いたことが牽引して、世界経済は安定した。

一方で、財政金融政策が十分に効かなかった日本やドイツでは経済成長にブレーキがかかった。また中国では公式統計のGDP成長率は5%前後のままだが、すっかりデフレが定着する中で経済停滞が続いた。2024年は、米国を除けば、多くの経済大国は世界経済の足かせになったということだ。

2025年の世界経済はどうなるか。

まずは、トランプ2.0が始動する米国だが、11月28日コラムで述べたように、関税引き上げのネガティブな影響、減税政策などのプラスの影響がほぼ相殺するとみられ、2025年の米国経済は引き続き2%超の成長が続くと予想する。

財務長官に指名されているスコット・ベッセント氏が掲げる3%の成長は難しいだろうが、関税引き上げでブレーキを踏みながらも、財政金融政策をしっかり機能させることは十分可能である。

今後、追加の減税政策がどの程度実現するかが重要になり、法人税の減税に加えて、税制の見直しによって家計の税負担軽減が2025年後半には実現する可能性がある。また、バイデン政権が行った介入的な政策を是正する格好で、公的部門の無駄を削減しながら、規制や税負担を減らして競争原理を働かせて経済成長を目指す姿勢は望ましい。

問題は、中国が経済成長を高める政策を実現できるか否か

一方で、トランプ政権から各国に関税引き上げが要求され、サプライチェーンの見直しを迫られる企業が増えるだろう。輸出依存度が高い国は影響を受けざるを得ないが、最も大きな影響を受けるのは、米国から挑戦国と認識されている中国である。

すべての対米輸出品目に60%の関税賦課には至らないと筆者は想定しているが、それでも関税引き上げで米国への輸出はかなり難しくなり、中国の輸出・生産活動には急ブレーキがかかるだろう。問題は、中国自身が経済成長を高める政策を実現するかどうかである。

ただ、12月12日コラムで書いたように、習近平国家主席による政治的な独裁が強まる中で、経済成長を押し上げる財政金融政策が実現する可能性は低いだろう。

かつての日本の経験を踏まえると、政治リーダーが市場経済に嫌悪感を持っていると緊縮志向が強い経済官僚の対応が自ずと続くことになり、脱デフレにつながる政策転換は期待しづらい。

中国ほど酷くはなかったが、2024年の経済成長が冴えなかった日本とドイツはどうなるか。両国がどの程度米国から関税引き上げが要求されるかは現時点では分からないが、自動車などの品目には関税引き上げが実現するだろう。中国経済の停滞が長期化するとすれば、日本とドイツも経済成長を高める実効性を有した財政金融政策がカギになる。

ドイツでは、ロシアからのエネルギー輸入に頼る経済政策が失敗したつけが伸し掛かり、コロナ禍後からの経済の浮上に失敗した。

こうした中で、ショルツ内閣が政権を維持できずに2025年2月の解散総選挙となる見通しだが、厳格な債務拡大ルールの見直しを含めた財政政策が争点になるとみられる。可能性は高くないが、総選挙によってドイツの財政政策が変わるとすれば、ドイツの経済成長率は1%を超えるかもしれない。

日本銀行は冷静な判断で追加利上げの時期の見極めを

日本についてはどうか。中国への輸出割合が高く、また日本企業の中国ビジネスへの依存度はドイツよりも大きい。

このため、中国当局の不十分な対応が続いて停滞が続けば、日本経済へのマイナスの影響は大きくなる。外部環境がドイツよりも厳しくなるのだから、適切な財政金融政策を続けることが経済回復にとって必要になるだろう。

日本銀行は、2024年12月の金融政策決定会合において現状維持を決めた。日本経済は2024年にほぼゼロ成長に減速しており、需給ギャップがマイナスの状況での追加利上げは引き締め過ぎの失政となりかねない。日本銀行による政策金利据え置きは適切な判断だったと言える。

植田和男総裁らは、「オントラック」「実質金利が低すぎる」などの理由で2024年の秋口以降も追加利上げを模索してきたが、想定よりもインフレが上振れるまで追加利上げを見送るべきだろう。潜在成長率を超えて経済成長が続くことを待って、追加利上げを行う冷静な判断を続ければ、日銀は2%インフレの安定に成功する。

ただ、「もうワンノッチ(1段階)欲しい」などの植田総裁の発言を踏まえると、2025年1月会合にでも追加利上げが行われる可能性があり、筆者は2024年夏と同様の政策ミスを警戒している。

財政政策については、国民民主党が主張する基礎控除引き上げに伴う減税が実現するか否かである。この減税政策は、インフレ率に応じた税制見直しという必然的な政策措置であると同時に、家計所得を押し上げる対応である。

日本では財政政策が緊縮的に作用して成長を抑制する可能性も

一方で、自民・公明の与党側は所得税が課される年収の最低ラインである「103万円の壁」の見直しについて、123万円への引き上げを税制改正大綱で明記した。これでは、マクロ的に成長率を押し上げる効果は全くないと試算される。国民民主党が主張する178万円との差は依然大きく、与野党の折衝の行方は流動的である。

更に、与党の予算案に対して教育無償化政策を条件に賛成する考えを、日本維新の会の前原誠司共同代表は示している。世論の支持を得た国民民主党による「正論」に自民党は抗せないだろうと筆者は予想していたが、日本維新の会が新たなプレーヤーとして割り込んでくる予想外の展開となった。

仮に、与党と維新の会による妥協によって2025年度予算が成立した場合は、財政政策は2024年前半同様に緊縮的に作用して経済成長を抑制するだろう。

金融政策、財政政策がいずれも成長率を高めるのが望ましい経済状況にあるが、それは期待しづらい。このため、2025年の日本経済は、外部環境の変化に脆弱なままだろう。

米国経済の成長が続く中で、日本経済はどうなるのか。景気後退には至らないにしても、潜在成長率を下回る小幅なプラス成長程度となり、2%インフレ安定の実現も道半ばにとどまるにちがいない。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)


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