茜 灯里
<「逆立ち」で着陸できた理由、予定されていなかった越夜の成功...ほか、小型月着陸実証機「SLIM」プロジェクトを総括する会見で語られたこととは──>
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は26日、1月に世界初のピンポイント着陸に成功した小型月着陸実証機「SLIM」のプロジェクトを総括する会見を行い、活動成果や着陸直前に起きたメインエンジンのトラブルについての調査結果を報告しました。
会見のポイントとなった5つのトピックスから、今年宇宙ファンが最高に盛り上がったイベントと言っても過言ではないSLIMプロジェクトの成功を改めて振り返りましょう。
◇ ◇ ◇
1.SLIMの概要と「設計のここがすごい」
SLIMは2023年9月7日にH-II Aロケット47号機で打ち上げられました。同年12月25日に月周回軌道への投入に成功、24年1月20日午前0時過ぎに「神酒(みき)の海」近くのクレーターに着陸しました。月面着陸(ソフトランディング)成功は、旧ソビエト(1966年)、アメリカ(同年)、中国(2013年)、インド(23年)に続く5カ国目です。
もっともSLIMは、単に月面着陸に成功したのではありません。正式名の「Smart Lander for Investigating Moon」が示すように、①狙った場所へのピンポイント着陸と、②着陸に必要な装置の軽量化が開発目標で、いずれも達成しました。
従来の月着陸の精度は数キロから10数キロでしたが、SLIMは世界初の100メートルオーダーを目指し、「『降りやすいところに降りる』から『降りたいところに降りる』着陸へ」がスローガンでした。実際には「10メートル程度ないしそれより良好」と評価される着陸精度を実現しました。
さらに、これまでの月着陸機は基本的に「海」と呼ばれる平坦な広い領域に着陸していましたが、SLIMは着陸が困難な小さな窪地(クレーター)に降りており、月面での自由自在な着陸・探査に向けて「新しい扉」を開きました。SLIMの坂井真一郎プロジェクトマネージャによると、現在は「SLIMに続け」とばかり、NASAがピンポイント着陸を目指した機体を開発しているそうです。
また、SLIMは将来の高頻度の月探査を見越してコスト削減のため小型・軽量化しています。高さは約2.4メートル、重さは燃料を除き約200キロと非常にコンパクトです。直近に月面着陸に成功した機体と比べると、インドのChandrayaan-3(23年8月)は約1750キロ、民間企業で初成功したNova-C(24年2月)は約1900キロでした。
2.なぜ「逆立ち状態」で着陸したのか
SLIMは着陸中、月面から高度50メートル付近でトラブルが発生し、2つのメインエンジンのうち片方(マイナスX側メインエンジン)のノズルが脱落し、推力が約55%まで落ちました。その結果、SLIMは目標地点から東に約60メートル流され、予定では上側だった部分を下にした「逆立ち」状態で着陸しました。
今回の総括会見で、坂井マネージャは「トラブルはメインエンジンそのものが原因ではなく、推進系システムに由来する可能性が高い」と、調査結果を説明しました。
SLIMは「これまでに月着陸に成功したものでは、おそらく最軽量の探査機」(坂井マネージャ)であるため、軽量化のために「攻めた設計が行われた」(同)と言います。その中には「ブローダウン方式」と呼ばれる、通常の月探査機では使われていない燃料供給方法もありました。
ブローダウン方式とは、燃料の消費と共に徐々にエンジンへの燃料供給圧力が低下していく方式を指します。一般に探査機では、気蓄機や調圧装置を用いて供給圧を一定に保つ「調圧方式」を採用しますが、必要な装置が多いため探査機が重くなってしまいます。
トラブルは、SLIMが分離されてから着陸までの総噴射のうち約98%を終えた時点で起こりました。つまり、発生時の燃料供給圧はもともとかなり低下していました。そこに着陸に向けたメインエンジン噴射開始のタイミングと姿勢制御のための12個の補助スラスターの噴射開始が重なり、メインエンジンへの供給圧はさらに低下しました。
その結果、2基同時に着火するはずのメインエンジンのうち、マイナスX側はこのタイミング着火できず、供給された燃料はエンジン内に滞留してしまいました。約1秒後、補助スラスターが一斉に噴射を停止すると、メインエンジンへの燃料供給圧が回復し、マイナスX側メインエンジンは着火することができました。けれど滞留していた燃料にも引火した結果、過大な"着火衝撃"が生じてノズルが脱落してしまったとのことです。
このトラブルは複数回行われた地上試験では認められませんでした。坂井マネージャは「総噴射の98%まで正常だったということは、そもそもあまり起こらない事象と考えられる。試験は大気圧下で行うので、月という真空環境との違いもあったのかもしれない」と分析しています。
3.予定されていなかった越夜の成功
SLIMはもともと、月着陸後、機器が熱くなりすぎて電気系統などが機能しなくなるまでの数日間の活動を想定しており、月の起源を探るために搭載された「マルチバンド分光カメラ(MBC)」を使って周囲のカンラン岩(カンラン石を豊富に含む岩石)の撮影を行う予定でした。
けれど、メインエンジンのトラブルで想定とは異なる姿勢での着陸となり、太陽電池パネルに太陽光が当たらないため一時電源がオフとなりました。その後、月の夕方になり、西を向いているSLIMの太陽電池パネルに太陽光が当たるようになった1月28日に地上との通信が再度行えるようになり、運用が再開されました。
月は昼が約14日間、夜が約14日間続きます。赤道付近では昼は110℃、夜はマイナス170℃に達します。極寒の夜に耐えて次の昼に太陽電池が復旧して運用を再開する「越夜」は、設計上は想定されていませんでした。
しかし実際は「越夜」に3回も成功。4月28~29日の運用終了後、4回目の夜を迎えて以降もSLIMとの通信を試みましたが、成功しませんでした。そのため、8月23日にSLIMの活動を停止させるコマンドを送信し、運用を終了しました。
坂井マネージャは「越夜できた理由を解明することは難しいが、部品の精度や実装、ハンダ付けなど細かいところも含めて、メーカーが丁寧に仕上げてくれたことが功を奏したのではないか」と話しています。
実は、運用終了後もSLIMは活躍が見込まれています。NASAとの国際協力の一環としてSLIMに搭載されたリフレクター(LRA:反射板)は、月周回軌道からレーザーを照射して反射光を調べることで、精密な測距が行えます。
24年5月にはNASAの月周回機「LRO」(Lunar Reconnaissance Orbiter)が実際にレーザー測距を試みて、成功しています。NASAは継続的に測距を試みるということなので、SLIMは今後も月面上で測距の標的・基準点としての役割を果たし続けます。
4.辛口評価で知られる國中宇宙研所長の最終評価は?
会見にはJAXA宇宙科学研究所(宇宙研)の國中均所長も同席しました。坂井マネージャは宇宙研教授でもあるので、國中所長は所属組織の長です。
國中所長は、成功したミッションに対しても辛口の評価をすることで有名です。報道陣が「今回の成果は何点ですか?」と尋ねるのも恒例になっています。
SLIM着陸直後の記者会見では「(着陸姿勢が乱れたため起動しない)太陽電池のことが気になって仕方がない」と言いながら硬い表情で「100点満点でギリギリ合格の60点」とコメント。着陸6日目は「60点に、LEV-1(超小型月面探査ローバ)の放出成功、LEV-2(変形型月面ロケット)の放出成功、マルチバンドカメラが正常に動作したことに対して各1点ずつ加点して63点」と採点しました。
今回の会見では、3回の越夜成功で貴重なデータが取得できたことなどを評価し、「69点にしたい」と笑顔で語りました。特に、越夜後のSLIM内の温度を測定したデータは、今後の月面探査車や月面用装置の開発に活用できる非常に有益な情報で、「将来に向けた宝物だ」と力を込めました。
5.坂井マネージャ、國中所長の感想と今後の展望
坂井マネージャ、國中所長とも、SLIMミッションでもっとも印象的だったこととして「LEV-2が撮影した月面にいるSLIMの写真」を挙げています。
「LEV-1」「LEV-2」は、着陸直前の高度5メートル付近でSLIMから切り離されました。LEV-2は直径約80ミリ、質量約250グラムの野球ボール程度の大きさのロボットです。変形可能で、車輪を出してSLIMの周りを走行し、前後に1台ずつ付いているカメラで撮影します。画像処理によりSLIMが写っている画像を適切に選び、LEV-1を通して地球に送信しました。
「(逆立ちの)姿勢は予想通りだったが、数値データではなく本当に宇宙空間にいるSLIMの姿を画像で見ることができて衝撃を受けた」(坂井マネージャ)
「報道陣はもっとLEV-2のことを書いて宣伝してほしい。SLIMの開発当初、小型ロボットを乗せる余裕はなかったが、私が『最終的に、絶対に搭載できる余裕が生まれるはずだから』と説得して、ロボット開発を先導して進めてもらった」(國中所長)
月面の砂地に逆立ちをしながら踏ん張っているSLIMの姿は、地球で見守る私たちに月を身近に感じさせる、これ以上ないアピールとなりました。さらに、国際連合が今年の「International Moon Day」(月の国際デー:7月20日)に発行した記念切手にも、SLIMが逆立ちしているこの画像は採用されています。
「SLIMの技術や知見や経験をさらにステップアップしていけば、月での縦横無尽な活動も実現できる。火星での活動もいよいよ、本当に少しだが見えてきたと思う」(國中所長)
SLIMで得られた高精度着陸に関する技術や知見は、月着陸を目指す国内の民間業者(ispace社)にも提供する方向で調整しています。惑星科学研究という観点からも、トラブルで予定よりも東に流され姿勢が変わったことが「怪我の巧妙」のように働き、月の成り立ちや進化の謎を解く「カンラン石」が広く分布する場所を分光カメラで捉えることができたと言います。
構想検討開始から20年、プロジェクト発足から8年半を経て得られたSLIMの成果は、この先の宇宙開発と惑星科学の発展に貢献していくでしょう。
<「逆立ち」で着陸できた理由、予定されていなかった越夜の成功...ほか、小型月着陸実証機「SLIM」プロジェクトを総括する会見で語られたこととは──>
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は26日、1月に世界初のピンポイント着陸に成功した小型月着陸実証機「SLIM」のプロジェクトを総括する会見を行い、活動成果や着陸直前に起きたメインエンジンのトラブルについての調査結果を報告しました。
会見のポイントとなった5つのトピックスから、今年宇宙ファンが最高に盛り上がったイベントと言っても過言ではないSLIMプロジェクトの成功を改めて振り返りましょう。
◇ ◇ ◇
1.SLIMの概要と「設計のここがすごい」
SLIMは2023年9月7日にH-II Aロケット47号機で打ち上げられました。同年12月25日に月周回軌道への投入に成功、24年1月20日午前0時過ぎに「神酒(みき)の海」近くのクレーターに着陸しました。月面着陸(ソフトランディング)成功は、旧ソビエト(1966年)、アメリカ(同年)、中国(2013年)、インド(23年)に続く5カ国目です。
もっともSLIMは、単に月面着陸に成功したのではありません。正式名の「Smart Lander for Investigating Moon」が示すように、①狙った場所へのピンポイント着陸と、②着陸に必要な装置の軽量化が開発目標で、いずれも達成しました。
従来の月着陸の精度は数キロから10数キロでしたが、SLIMは世界初の100メートルオーダーを目指し、「『降りやすいところに降りる』から『降りたいところに降りる』着陸へ」がスローガンでした。実際には「10メートル程度ないしそれより良好」と評価される着陸精度を実現しました。
さらに、これまでの月着陸機は基本的に「海」と呼ばれる平坦な広い領域に着陸していましたが、SLIMは着陸が困難な小さな窪地(クレーター)に降りており、月面での自由自在な着陸・探査に向けて「新しい扉」を開きました。SLIMの坂井真一郎プロジェクトマネージャによると、現在は「SLIMに続け」とばかり、NASAがピンポイント着陸を目指した機体を開発しているそうです。
また、SLIMは将来の高頻度の月探査を見越してコスト削減のため小型・軽量化しています。高さは約2.4メートル、重さは燃料を除き約200キロと非常にコンパクトです。直近に月面着陸に成功した機体と比べると、インドのChandrayaan-3(23年8月)は約1750キロ、民間企業で初成功したNova-C(24年2月)は約1900キロでした。
2.なぜ「逆立ち状態」で着陸したのか
SLIMは着陸中、月面から高度50メートル付近でトラブルが発生し、2つのメインエンジンのうち片方(マイナスX側メインエンジン)のノズルが脱落し、推力が約55%まで落ちました。その結果、SLIMは目標地点から東に約60メートル流され、予定では上側だった部分を下にした「逆立ち」状態で着陸しました。
今回の総括会見で、坂井マネージャは「トラブルはメインエンジンそのものが原因ではなく、推進系システムに由来する可能性が高い」と、調査結果を説明しました。
SLIMは「これまでに月着陸に成功したものでは、おそらく最軽量の探査機」(坂井マネージャ)であるため、軽量化のために「攻めた設計が行われた」(同)と言います。その中には「ブローダウン方式」と呼ばれる、通常の月探査機では使われていない燃料供給方法もありました。
ブローダウン方式とは、燃料の消費と共に徐々にエンジンへの燃料供給圧力が低下していく方式を指します。一般に探査機では、気蓄機や調圧装置を用いて供給圧を一定に保つ「調圧方式」を採用しますが、必要な装置が多いため探査機が重くなってしまいます。
トラブルは、SLIMが分離されてから着陸までの総噴射のうち約98%を終えた時点で起こりました。つまり、発生時の燃料供給圧はもともとかなり低下していました。そこに着陸に向けたメインエンジン噴射開始のタイミングと姿勢制御のための12個の補助スラスターの噴射開始が重なり、メインエンジンへの供給圧はさらに低下しました。
その結果、2基同時に着火するはずのメインエンジンのうち、マイナスX側はこのタイミング着火できず、供給された燃料はエンジン内に滞留してしまいました。約1秒後、補助スラスターが一斉に噴射を停止すると、メインエンジンへの燃料供給圧が回復し、マイナスX側メインエンジンは着火することができました。けれど滞留していた燃料にも引火した結果、過大な"着火衝撃"が生じてノズルが脱落してしまったとのことです。
このトラブルは複数回行われた地上試験では認められませんでした。坂井マネージャは「総噴射の98%まで正常だったということは、そもそもあまり起こらない事象と考えられる。試験は大気圧下で行うので、月という真空環境との違いもあったのかもしれない」と分析しています。
3.予定されていなかった越夜の成功
SLIMはもともと、月着陸後、機器が熱くなりすぎて電気系統などが機能しなくなるまでの数日間の活動を想定しており、月の起源を探るために搭載された「マルチバンド分光カメラ(MBC)」を使って周囲のカンラン岩(カンラン石を豊富に含む岩石)の撮影を行う予定でした。
けれど、メインエンジンのトラブルで想定とは異なる姿勢での着陸となり、太陽電池パネルに太陽光が当たらないため一時電源がオフとなりました。その後、月の夕方になり、西を向いているSLIMの太陽電池パネルに太陽光が当たるようになった1月28日に地上との通信が再度行えるようになり、運用が再開されました。
月は昼が約14日間、夜が約14日間続きます。赤道付近では昼は110℃、夜はマイナス170℃に達します。極寒の夜に耐えて次の昼に太陽電池が復旧して運用を再開する「越夜」は、設計上は想定されていませんでした。
しかし実際は「越夜」に3回も成功。4月28~29日の運用終了後、4回目の夜を迎えて以降もSLIMとの通信を試みましたが、成功しませんでした。そのため、8月23日にSLIMの活動を停止させるコマンドを送信し、運用を終了しました。
坂井マネージャは「越夜できた理由を解明することは難しいが、部品の精度や実装、ハンダ付けなど細かいところも含めて、メーカーが丁寧に仕上げてくれたことが功を奏したのではないか」と話しています。
実は、運用終了後もSLIMは活躍が見込まれています。NASAとの国際協力の一環としてSLIMに搭載されたリフレクター(LRA:反射板)は、月周回軌道からレーザーを照射して反射光を調べることで、精密な測距が行えます。
24年5月にはNASAの月周回機「LRO」(Lunar Reconnaissance Orbiter)が実際にレーザー測距を試みて、成功しています。NASAは継続的に測距を試みるということなので、SLIMは今後も月面上で測距の標的・基準点としての役割を果たし続けます。
4.辛口評価で知られる國中宇宙研所長の最終評価は?
会見にはJAXA宇宙科学研究所(宇宙研)の國中均所長も同席しました。坂井マネージャは宇宙研教授でもあるので、國中所長は所属組織の長です。
國中所長は、成功したミッションに対しても辛口の評価をすることで有名です。報道陣が「今回の成果は何点ですか?」と尋ねるのも恒例になっています。
SLIM着陸直後の記者会見では「(着陸姿勢が乱れたため起動しない)太陽電池のことが気になって仕方がない」と言いながら硬い表情で「100点満点でギリギリ合格の60点」とコメント。着陸6日目は「60点に、LEV-1(超小型月面探査ローバ)の放出成功、LEV-2(変形型月面ロケット)の放出成功、マルチバンドカメラが正常に動作したことに対して各1点ずつ加点して63点」と採点しました。
今回の会見では、3回の越夜成功で貴重なデータが取得できたことなどを評価し、「69点にしたい」と笑顔で語りました。特に、越夜後のSLIM内の温度を測定したデータは、今後の月面探査車や月面用装置の開発に活用できる非常に有益な情報で、「将来に向けた宝物だ」と力を込めました。
5.坂井マネージャ、國中所長の感想と今後の展望
坂井マネージャ、國中所長とも、SLIMミッションでもっとも印象的だったこととして「LEV-2が撮影した月面にいるSLIMの写真」を挙げています。
「LEV-1」「LEV-2」は、着陸直前の高度5メートル付近でSLIMから切り離されました。LEV-2は直径約80ミリ、質量約250グラムの野球ボール程度の大きさのロボットです。変形可能で、車輪を出してSLIMの周りを走行し、前後に1台ずつ付いているカメラで撮影します。画像処理によりSLIMが写っている画像を適切に選び、LEV-1を通して地球に送信しました。
「(逆立ちの)姿勢は予想通りだったが、数値データではなく本当に宇宙空間にいるSLIMの姿を画像で見ることができて衝撃を受けた」(坂井マネージャ)
「報道陣はもっとLEV-2のことを書いて宣伝してほしい。SLIMの開発当初、小型ロボットを乗せる余裕はなかったが、私が『最終的に、絶対に搭載できる余裕が生まれるはずだから』と説得して、ロボット開発を先導して進めてもらった」(國中所長)
月面の砂地に逆立ちをしながら踏ん張っているSLIMの姿は、地球で見守る私たちに月を身近に感じさせる、これ以上ないアピールとなりました。さらに、国際連合が今年の「International Moon Day」(月の国際デー:7月20日)に発行した記念切手にも、SLIMが逆立ちしているこの画像は採用されています。
「SLIMの技術や知見や経験をさらにステップアップしていけば、月での縦横無尽な活動も実現できる。火星での活動もいよいよ、本当に少しだが見えてきたと思う」(國中所長)
SLIMで得られた高精度着陸に関する技術や知見は、月着陸を目指す国内の民間業者(ispace社)にも提供する方向で調整しています。惑星科学研究という観点からも、トラブルで予定よりも東に流され姿勢が変わったことが「怪我の巧妙」のように働き、月の成り立ちや進化の謎を解く「カンラン石」が広く分布する場所を分光カメラで捉えることができたと言います。
構想検討開始から20年、プロジェクト発足から8年半を経て得られたSLIMの成果は、この先の宇宙開発と惑星科学の発展に貢献していくでしょう。