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犬との生活が人の死亡リスクを抑制する...ほか、2024年に発表された動物にまつわる最新研究5選

ニューズウィーク日本版 2024年12月30日 17時45分

茜 灯里
<ネコのおしっこがクサくなかったら要注意? 似て非なるオオアナコンダ? ペットとして人気の動物ベスト3と「今年の干支の辰年」「新年の巳年」にちなんだ動物にまつわる最新研究を紹介する>

2024~25年の年末年始は、カレンダーの並びから最長9連休となる「奇跡の大型連休」となっています。旅行などでアクティブに動く人もいれば、この機会に改めて家族とゆっくり過ごす人もいるでしょう。

今やすっかり家族の一員として認知されている伴侶動物(コンパニオンアニマル。いわゆる「ペット」を家族や友人として認識する表現)ですが、博報堂生活総研が24年に行った調査によると、日本で一番飼われているペットの種類は1位・犬(15.2%)、2位・猫(12.0%)、3位・金魚および熱帯魚(8.6%)でした。

これら3種の「家族同様の動物」と、「今年の干支の辰年」「新年の巳年」にちなんだ動物について、24年に発表された最新研究を紹介します。

他のどの動物よりも犬との生活が人の死亡リスクを抑制

国立環境研究所環境リスク・健康領域の谷口優主任研究員らの研究チームは、オーストラリアの1万5000人以上を対象とした追跡研究から、猫、鳥、魚ではなく犬との生活が最も人の死亡リスクを抑制していることを明らかにしました。研究成果は、科学学術誌「PLOS ONE」に8月14日付で掲載されました。

犬は1万1000年以上前から人と共生していたことが知られています。谷口研究員らは先行研究で、犬との生活が加齢による心身の衰えや認知症、自立喪失の発症に対して保護的に作用することを明らかにしてきました。また、他の研究チームによって、犬との生活が死亡リスクを抑制していることを示唆する研究成果もありました。けれど、犬と犬以外の伴侶動物について人との生活を十分に考慮しながら人の死亡リスクと関連づけて分析する研究は、これまでに報告されていませんでした。

本研究は、The Household, Income and Labour Dynamics in Australiaの15,735名のデータ(2018年)を用いました。犬、猫、鳥、魚、その他の伴侶動物と生活する人の特徴として社会学的要因、身体的要因、心理的要因、社会的要因について15の尺度から評価し、伴侶動物の有無での背景要因の影響を考慮した上で死亡リスクを分析しました。死亡情報はThe National Death Index から22年までのデータを引用して突き合わせました。

追跡調査を4年間行った結果、「伴侶動物なし」群に対する「伴侶動物あり」群の全死亡発生オッズ比(概ね「死亡リスクの倍率」のこと)は0.74で、伴侶動物との生活が死亡のリスクを抑制することが示されました。

なかでも、犬を飼育している人たちのオッズ比は、伴侶動物なし群に対して0.77であり、犬との生活によって死亡リスクが23%抑制されることが示されました。一方、猫、鳥、魚との生活では、オッズ比だけを見ると犬と同等、もしくはそれ以下の動物もありましたが、いずれも飼育と死亡のリスクとの間に意味のある関係性(有意差)は見られませんでした。

研究者たちは、伴侶動物の中で犬がとりわけ死亡リスクを抑制している理由について、「犬の世話を通じた運動習慣(身体活動量)の維持が、心血管疾患による死亡のリスクを抑制しているから」と解釈しています。犬以外の伴侶動物との生活では、運動習慣への影響が小さいことも考えられます。

今後は、伴侶動物との生活と健康アウトカム(健康状態の変化)との間にあるメカニズムを解明し、人と動物が共生できる社会の仕組みづくりにも寄与したいと言います。

ネコの「クサい尿」は健康の証拠?

岩手大学農学部応用生物化学科の宮崎雅雄教授らの研究チームは、「ネコの腎臓病が進行すると、尿のクサいにおいが低減する」ことを明らかにしました。研究成果は日本獣医学会の英文誌「The Journal of Veterinary Medical Science」電子版に12月3日付で掲載されました。

腎臓病は高齢ネコに多く見られる病気で、早期診断が治療や適切なケアのために非常に重要です。けれど、腎臓病の症状は徐々に進行するため、発見が遅れることは少なくありません。動物病院での尿検査や血液検査は腎臓病の診断に有効ですが、むやみに回数を増してもネコや飼い主の大きな負担になります。そのため、飼い主が日常生活でネコを観察して腎臓病を見つける手がかりになる指標が求められていました。

ネコ特有の「クサい尿臭」は、アミノ酸の一種である「フェリニン」が原因物質とされています。フェリニンは分解されると硫黄を含む揮発性物質が生成され、独特の臭気を放ちます。

本研究では、健康なネコ34匹と腎臓病を患ったネコ66匹を対象に、フェリニンの生成や排泄、尿臭の違いを比較しました。その結果、腎臓病が進行するにつれて、フェリニンの排泄量が顕著に減少することが分かりました。対して、フェリニンの前駆体であるトリペプチドは逆に増加し、病気の進行に伴い尿のにおいに関わる代謝経路が変化していることが示されました。

さらに、尿中のにおい成分を詳細に分析すると、フェリニンから生成される揮発性の硫黄化合物も腎臓病が進行したネコでは減少していることが分かりました。これにより、腎臓病が進行したネコの尿のにおいが弱くなる理由が解明されました。

腎臓病が進行すると、腎臓の濃縮機能が低下し、薄い尿が排泄されるようになります。本研究では、尿のクサい臭いの低減は尿が健康な時よりも希釈されていることだけが原因ではなく、ネコ特有の尿臭成分の生成量自体が低下することが主因であることを初めて示しました。

この成果から、飼い主がトイレ掃除の際に「尿臭が以前より弱くなった」といった変化に気づくことで、腎臓病のリスクを早期に察知できる可能性が示されました。日頃から「猫のトイレの臭い」に注意していると、獣医師の診察を受けるきっかけが分かり、ネコの健康維持に大きく貢献できるかもしれません。

「透明金魚」のさらなる透明化に成功

静岡大学創造科学技術大学院バイオサイエンス専攻の徳元俊伸教授らの研究チームは、17年に開発した「透明金魚」をさらに透明化することに成功しました。研究成果は魚類専門誌「Fish Physiology and Biochemistry」に5月31日付で掲載されました。

透明な動物では、生きたままの状態で臓器などの体内組織を観察することができます。徳本教授らは17年、DNAの塩基を一つだけ変化させる化学変異源物質「エチルニトロソウレア(ENU)」を和金に作用させることで、突然変異で銀色の色素が形成できなくなり透明に変化した金魚を選別交配し、「透明金魚」の作出に成功しました。

ただし、17年版透明金魚は、稚魚のうちは完全に透明で体内の様子が観察できますが、成長に伴って白色素が現れるため、成魚になると体全体が半透明になりました。そこで今回、研究チームは、メダカの研究で解明された白色素細胞の形成に必要な「pax7遺伝子」をゲノム編集技術で破壊したら透明金魚をより透明にできるのではないかと考えました。

ゲノム編集により高度透明化金魚の作出に成功しました https://t.co/zUqviUixvo pic.twitter.com/JH6WRkdTkm— PR TIMESライフスタイル (@PRTIMES_LIFE) May 31, 2024

ところが、透明金魚の卵は通常の卵より柔らかくゲノム編集の溶液を注入することが困難でした。そこで、和金のメスと透明金魚のオスを交配させた受精卵でゲノム編集を行い、変異導入が確認された魚を透明金魚と交配することを繰り返すことで、pax7ゲノム編集透明金魚系統を作出しました。その結果、白色素細胞が形成されず、成魚でもより透明な金魚が生み出されました。

24年版透明金魚は、初期発生の過程や、卵巣や精巣の観察が可能であることから、生殖生物学分野の研究に有用であると期待されます。

新年を迎えると、十二支は辰年から巳年に変わります。これにちなんで、恐竜とヘビの最新研究を紹介しましょう。

糞の化石から恐竜類の食物の変化を推測

スウェーデンのウプサラ大などによる研究チームは、糞の化石によって、恐竜類の繁栄にまつわる食物の変化と当時の生態系を推測しました。研究成果は総合科学学術誌「Nature」に11月27日付で掲載されました。

恐竜類は、中生代中期三畳紀(約2億4000万年~2億3000万年前頃)に出現したと考えられています。その後、約2億130万年前に発生した「大量絶滅」を生き延び、ジュラ紀~白亜紀に繁栄して陸生脊椎動物の頂点に立ちます。けれど、約6550万年前の「大量絶滅」によって鳥類を除いて絶滅してしまいました。

恐竜の歴史で最もよく分かっていないのは、出現から繁栄までの約3000万年間です。今回、研究者らは、ポーランドの約2億3000万年前~約2億年前の地層から採集された恐竜類の糞や消化管の内容物の化石500個以上を調べました。

その結果、当時の気候のデータや植物、食物網の変化と恐竜の体格変化などを明らかになりました。消化管の内容物の化石は、時代が進むとともに大きくなり、種類も多様になっていきました。このことは、恐竜類の体が大きくなるのにしたがって、新しい食物を食べるようになっていったためと考えられます。

さらに、①恐竜類の出現初期にそれ以外の脊椎動物が雑食の恐竜類に取って代わられ、②最初の肉食恐竜が多様化し始めた時期に昆虫食や魚食の獣脚類や小型で雑食の恐竜類が出現、③三畳紀末期の気候変化により、それまで優勢だった植物食の偽鰐類や獣弓類が多様な植物を食べることのできる大型の竜脚形類や初期の竜盤類に取って代わられ、④新たな植物食恐竜が出現したことで獣脚類が急速に進化して体が大きくなった、という進化過程の仮説が立てられました。

研究者たちは、恐竜たちに起こった一連の変化は全世界的に起こっていたのではないかと考えています。

2種に分けられるオオアナコンダ

米ニューメキシコ・ハイランズ大などによる研究チームは、世界最大のヘビの1つとされるオオアナコンダ(Eunectes murinus、英名Green Anaconda)は遺伝的に異なる2つの種に分けられることを明らかにしました。研究成果は生物多様性に関する学術誌「MDPI Diversity」に2月16日付で掲載されました。

オオアナコンダは南米のアマゾン川流域に分布しています。体長は3~6メートルで、5メートルを超えるものは体重が100キロ以上のものも少なくありません。最大記録とされる個体は、体重227キロ以上、体長8.9メートル以上といいます。

研究者らは生態を調べるために、エクアドル、ベネズエラ、ブラジルなど南米各地のオオアナコンダの形態を観察し、血液と組織のサンプルを集めました。その結果、専門家でも区別できないほど見た目は似ていますが、遺伝子検査で南部(ペルー、ボリビア、フランス領ギアナ、ブラジル)と北部(エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、トリニダード・トバゴ、ガイアナ、スリナム、フランス領ギアナ)に生息するものが別種であることが分かりました。

彼らは、従来のEunectes murinusをミナミオオアナコンダ(英名Southern Green Anaconda)、北部で見つかった新種をキタオオアナコンダ(Eunectes akayima、英名Northern Green Anaconda)と名付けようと提案しています。

共同研究者の1人である豪クイーンズランド大のブライアン・フライ教授は「遺伝的には5.5%異なります。私たちとチンパンジーの遺伝的差異が約2%だといえば、この違いの大きさが分かっていただけるでしょう」と語っています。

オオアナコンダは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト(絶滅のおそれがある野生動物リスト)で最も低い「低危険種(Least Concern)」に分類されていますが、新発見されたキタオオアナコンダの生息範囲は狭く、より絶滅の危険があると考えられます。研究者らは今後もより詳細な生息調査を続けていく予定です。

なおオオアナコンダは、その巨大さから「ヒトを丸呑みにして殺す」と考えられていますが、大蛇がヒトを殺す例が実際に観察されているのはアジアのアミメニシキヘビであり、オオアナコンダは現地では牛や豚を襲って食べる「害獣」と認識されています。

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24年も多種の動物に対する多様な研究が進みました。来る25年もますます動物の謎の解明が進み、成果を知った私たちに知的好奇心を与えてほしいですね。

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