コリン・ジョイス
よくある兄弟げんかと和解が世界の大ニュースになる、オアシスがここまで人々を熱狂させる理由は
仲たがいした兄弟が和解した――。それは、分かり切った出来事リストの中でもほぼトップに来るたぐいのもの。クマは森の中でふんをするとか、教皇はカトリック教徒だ、と同じだ。
ところが、ギャラガー兄弟が昨年8月、2025年にオアシスの再結成ツアーを行うと発表すると、イギリスでは大ニュースになった。
再結成ツアー「OASIS LIVE ’25」ワールドツアーUK・アイルランド国内公演告知、24年8月
オアシスは一大事だし、公然の不和は長年続いていたので、この興奮もある意味理にかなっている。それでも疑問は残るし、オアシスの謎はほかにも多々ある。
まず、ギャラガー兄弟の「確執」がこんなにも伝説的な位置付けになったことが奇妙だ。研究によれば、兄弟姉妹がいる人の約4人に1人が、成人後に兄弟姉妹のうちの1人と疎遠になるという。さらに、そのほとんどが永久的な絶縁というよりは一時的な疎遠で、何度かそんな状態を繰り返している可能性がある。
とはいえ、ギャラガー兄弟に起こったことはありがちなことだというために、僕はそこまで確固たる科学的根拠に頼らない。まず、そもそも彼らはマンチェスター出身の「北部人」だから、やや攻撃的な気質と考えられがち。ステレオタイプかもしれないが、大阪人はお金にうるさいというのと同じようなものだ。
さらに、彼らは(僕と同じく)アイルランド系。同胞に対して申し訳ないが、アイルランド系は家族の確執をよく起こしがちだ。大規模な結婚式があったと聞けば、僕たちは冗談で「で、けんかはあった?」と聞く。
ともすると、オアシスで普通じゃないところは、兄弟が仲たがいしたことではなく、その前に初期メンバーの3人を脱退させたことと、交代した1人も辞めさせたことかもしれない。
北部人はやっぱりけんか好きなだけだろう、という結論になるかもしれない(同じ時代を代表した他の2つのマンチェスターのバンド、ザ・スミスとストーン・ローゼスも非友好的な解散をしたことを付け加えておこう)。
ギャラガー兄弟の確執には興味深い力学が働いた。それを乗り越えるに値する莫大な金銭的動機があったのだ。実際、不和が長引くほどその金額は膨れ上がった。オアシスが15年前に解散したという事実は再結成ツアーに巨大な需要があることを意味していた。
今回の感動的な和解は、ノエル・ギャラガーが2000万㍀(約39億円)の離婚請求に直面しているさなかに起こったことは注目されている(モンティ・パイソンのコメディアン、ジョン・クリーズの悪名高い慰謝料ツアーを思い起こす人もいるだろう)。
チケット争奪戦で詐欺も発生>
再結成のビッグニュースの後には、コンサートチケット争奪戦のビッグニュースも続いた。誰もかれもが、「Be Here Now(今、ここ)」ならぬBe There Then(その時、そこ)に行きたがっているかのようだ。
サイトで何時間も待機した挙げ句、順番が回ってきた瞬間に回線が切れた、などといったシステムの過重負荷でありがちなトラブルも起こった。
チケット価格が定価より数百ポンドもつり上がることを意味する「ダイナミック・プライシング」にも怒りの声が上がった。そして、必死な上にだまされやすい人々に詐欺師が架空チケットを売りつけるという、ありがちな詐欺事件も発生した。
もちろん大きな謎は、なぜオアシスがここまで人気があるのかということだ。彼らは最も独創的なバンドというわけではない(彼ら自身でさえ、『ステンディング・オン・ザ・ショルダー・オブ・ジャイアンツ』のアルバム名でそれを認めている。要は、自分の業績は巨人のごとき先人たちの業績の上に乗って成し得たことだという意味だ)。
リアムはフロントマンとしてはいいが、どちらかと言えば「シャウト的」なボーカリストだ。ローリング・ストーン誌が2023年に発表した「歴史上最も偉大な歌手200人」のリストに入っていないのも当然だ。
ちなみにビートルズからはポールとジョンの2人がランクインしていて、ジョージも含めれば、オアシス随一のボーカリストを上回る歌手が1つのバンドに3人もいたことになる。
オアシスにはいい感じの曲が数曲あるが、史上最高だと思うオアシスの曲を4曲以上挙げろと言われたらほとんどの人は苦労するだろう。僕は個人的には「ホワットエヴァー」が好きだが、他の曲は「クラシック」というより「盛り上げソング」っぽい感じだ。
オアシスはかなり運がいい。彼らは優れたブリティッシュバンドがたくさんいた時代に広く受け入れられ、いわゆるブリットポップ時代を「定義」する存在になった。
同時代のバンド(スウェードやブラー、パルプ)と比べて抜きん出ているわけでもなく、ましてや他の時代の偉大なアーティストたち(ローリング・ストーンズやクイーン)に勝ることなどない。
でも、オアシスは多くの人々の人生のサウンドトラックになった。後に結婚する相手と出会った時に「ワンダーウォール」が流れていたことや、21歳のバースデーパーティーで友人たちと「リヴ・フォーエヴァー」を歌ったことを、人々は思い出す。
だからオアシスの音楽は人々の心を動かし、人々はあの時を追体験したくなる。唯一無二というよりありふれた存在のオアシスは、新たなビートルズではなくエッジの効いたダイアー・ストレイツなのだ。
96年8月10日、2日間で25万人を動員した伝説の野外ライブ、ネブワース公演Day 1「ワンダーウォール(Wonderwall)」
94年「リヴ・フォーエヴァー(Live Forever)」──インディーズバンドだった俺たちを 「Live Forever」 が世界一のバンドに押し上げたんだ(ノエル)
よくある兄弟げんかと和解が世界の大ニュースになる、オアシスがここまで人々を熱狂させる理由は
仲たがいした兄弟が和解した――。それは、分かり切った出来事リストの中でもほぼトップに来るたぐいのもの。クマは森の中でふんをするとか、教皇はカトリック教徒だ、と同じだ。
ところが、ギャラガー兄弟が昨年8月、2025年にオアシスの再結成ツアーを行うと発表すると、イギリスでは大ニュースになった。
再結成ツアー「OASIS LIVE ’25」ワールドツアーUK・アイルランド国内公演告知、24年8月
オアシスは一大事だし、公然の不和は長年続いていたので、この興奮もある意味理にかなっている。それでも疑問は残るし、オアシスの謎はほかにも多々ある。
まず、ギャラガー兄弟の「確執」がこんなにも伝説的な位置付けになったことが奇妙だ。研究によれば、兄弟姉妹がいる人の約4人に1人が、成人後に兄弟姉妹のうちの1人と疎遠になるという。さらに、そのほとんどが永久的な絶縁というよりは一時的な疎遠で、何度かそんな状態を繰り返している可能性がある。
とはいえ、ギャラガー兄弟に起こったことはありがちなことだというために、僕はそこまで確固たる科学的根拠に頼らない。まず、そもそも彼らはマンチェスター出身の「北部人」だから、やや攻撃的な気質と考えられがち。ステレオタイプかもしれないが、大阪人はお金にうるさいというのと同じようなものだ。
さらに、彼らは(僕と同じく)アイルランド系。同胞に対して申し訳ないが、アイルランド系は家族の確執をよく起こしがちだ。大規模な結婚式があったと聞けば、僕たちは冗談で「で、けんかはあった?」と聞く。
ともすると、オアシスで普通じゃないところは、兄弟が仲たがいしたことではなく、その前に初期メンバーの3人を脱退させたことと、交代した1人も辞めさせたことかもしれない。
北部人はやっぱりけんか好きなだけだろう、という結論になるかもしれない(同じ時代を代表した他の2つのマンチェスターのバンド、ザ・スミスとストーン・ローゼスも非友好的な解散をしたことを付け加えておこう)。
ギャラガー兄弟の確執には興味深い力学が働いた。それを乗り越えるに値する莫大な金銭的動機があったのだ。実際、不和が長引くほどその金額は膨れ上がった。オアシスが15年前に解散したという事実は再結成ツアーに巨大な需要があることを意味していた。
今回の感動的な和解は、ノエル・ギャラガーが2000万㍀(約39億円)の離婚請求に直面しているさなかに起こったことは注目されている(モンティ・パイソンのコメディアン、ジョン・クリーズの悪名高い慰謝料ツアーを思い起こす人もいるだろう)。
チケット争奪戦で詐欺も発生>
再結成のビッグニュースの後には、コンサートチケット争奪戦のビッグニュースも続いた。誰もかれもが、「Be Here Now(今、ここ)」ならぬBe There Then(その時、そこ)に行きたがっているかのようだ。
サイトで何時間も待機した挙げ句、順番が回ってきた瞬間に回線が切れた、などといったシステムの過重負荷でありがちなトラブルも起こった。
チケット価格が定価より数百ポンドもつり上がることを意味する「ダイナミック・プライシング」にも怒りの声が上がった。そして、必死な上にだまされやすい人々に詐欺師が架空チケットを売りつけるという、ありがちな詐欺事件も発生した。
もちろん大きな謎は、なぜオアシスがここまで人気があるのかということだ。彼らは最も独創的なバンドというわけではない(彼ら自身でさえ、『ステンディング・オン・ザ・ショルダー・オブ・ジャイアンツ』のアルバム名でそれを認めている。要は、自分の業績は巨人のごとき先人たちの業績の上に乗って成し得たことだという意味だ)。
リアムはフロントマンとしてはいいが、どちらかと言えば「シャウト的」なボーカリストだ。ローリング・ストーン誌が2023年に発表した「歴史上最も偉大な歌手200人」のリストに入っていないのも当然だ。
ちなみにビートルズからはポールとジョンの2人がランクインしていて、ジョージも含めれば、オアシス随一のボーカリストを上回る歌手が1つのバンドに3人もいたことになる。
オアシスにはいい感じの曲が数曲あるが、史上最高だと思うオアシスの曲を4曲以上挙げろと言われたらほとんどの人は苦労するだろう。僕は個人的には「ホワットエヴァー」が好きだが、他の曲は「クラシック」というより「盛り上げソング」っぽい感じだ。
オアシスはかなり運がいい。彼らは優れたブリティッシュバンドがたくさんいた時代に広く受け入れられ、いわゆるブリットポップ時代を「定義」する存在になった。
同時代のバンド(スウェードやブラー、パルプ)と比べて抜きん出ているわけでもなく、ましてや他の時代の偉大なアーティストたち(ローリング・ストーンズやクイーン)に勝ることなどない。
でも、オアシスは多くの人々の人生のサウンドトラックになった。後に結婚する相手と出会った時に「ワンダーウォール」が流れていたことや、21歳のバースデーパーティーで友人たちと「リヴ・フォーエヴァー」を歌ったことを、人々は思い出す。
だからオアシスの音楽は人々の心を動かし、人々はあの時を追体験したくなる。唯一無二というよりありふれた存在のオアシスは、新たなビートルズではなくエッジの効いたダイアー・ストレイツなのだ。
96年8月10日、2日間で25万人を動員した伝説の野外ライブ、ネブワース公演Day 1「ワンダーウォール(Wonderwall)」
94年「リヴ・フォーエヴァー(Live Forever)」──インディーズバンドだった俺たちを 「Live Forever」 が世界一のバンドに押し上げたんだ(ノエル)