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悲報:宇宙飛行士は老化が早い

ニューズウィーク日本版 2025年1月9日 17時16分

ジェス・トムソン(科学担当)
<無重力と宇宙放射線への曝露が宇宙飛行士の健康リスクを高める>

宇宙での生活は限られた人しか体験できない特権かもしれないが、それが身体に悪影響を及ぼす可能性がある。

NASAは、宇宙生活が宇宙飛行士の健康に与える影響に関する共同研究プロジェクト「宇宙オミックスと医療アトラス(SOMA)」の成果を示し、宇宙飛行は老化を加速させると発表した。英科学誌サイエンティフィック・リポーツ掲載の論文によると、宇宙での生活は炎症やゲノムの不安定性を増幅し、ミトコンドリア機能不全を引き起こして老化を早めるという。

宇宙生活は「身体的老化に関わる遺伝子発現パターンの明らかな変化と、老化を示すような筋力低下を引き起こす」と、NASAは発表した。「宇宙環境への曝露は、マウスと人間の両方で見られた炎症や筋肉の衰え、その他老化にまつわる生体機能の変化につながる」

NASAの発表は、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中のサニータ・ウィリアムズ船長が不健康なほど痩せてしまったという指摘の後に出された。しかし、ある医師が彼女の頬が最近「こけている」と指摘した点については、2024年11月に米テレビの機内取材で本人が「宇宙に到着した時と体重は同じだ」と答えている。ウィリアムズは、宇宙飛行士がISSで行う運動療法のウエートリフティングで筋肉量が増えたことで体形が変わったと主張した。

一方、SOMAの研究によると、宇宙飛行は「DNAの損傷、免疫活性化、ミトコンドリアの分裂、身体虚弱、筋力低下、多臓器における健康リスクの加速」などをもたらすという。これまでの研究でも、低重力の宇宙環境での長期間滞在は人体に損傷を与えることが判明している。

重力が微小な環境では、筋肉は体を支える必要がないため衰えていき、骨折リスクも高まる。宇宙飛行士は予防として毎日運動するが、地球への帰還後に完全に回復するまでには時間がかかる。

「宇宙飛行士は驚異的な速度で骨量減少を経験する。重度の骨粗鬆症の約12倍の速さだ」と、骨の健康に関するクリニックを営むカイル・ザグロツキーは本誌に語った。「骨への重力負荷がないため、骨密度と強度が急速に低下し、数カ月で潜在的な骨粗鬆症が進行してしまう」と、ザグロツキーは言う。「骨粗鬆症が原因で股関節を骨折すれば自立が奪われるし、死亡リスクも高まる。深刻な問題だ」

無重力下では血液やリンパ液などの体液が頭部方向へ移動するため、顔のむくみや眼球圧迫につながり、視力障害を引き起こす。「宇宙にいる人は体液が体全体に均等に行き渡るため、頭が少しだけ大きく見える」と、ウィリアムズは言う。

さらに、宇宙は放射線量が高い。ISS内は地球磁気圏にいるおかげで放射線が部分的に遮断されているが、そこでも宇宙飛行士が長時間被曝すると、発癌率や中枢神経系の損傷、その他放射線関連の健康リスクが高まる。

ウィリアムズら2人の宇宙飛行士は、彼らをISSに打ち上げた宇宙船の故障により昨年6月からISSで立ち往生している。今年2月にスペースXの宇宙船「クルードラゴン」9号機で地球に帰還する予定だ。

【参考文献】
Mathyk, B., Imudia, A. N., Quaas, A. M., Halicigil, C., Karouia, F., Avci, P., Nelson, N. G., Guzeloglu-Kayisli, O., Denbo, M., Sanders, L. M., Scott, R. T., Basar, M., Guevara-Cerdán, A. P., Strug, M., Monseur, B., Kayisli, U. A., Szewczyk, N., Mason, C. E., Young, S.Savas Tasoglu, Sylvain V. Costes & Afshin Beheshti. (2024). Understanding how space travel affects the female reproductive system to the Moon and beyond. Npj Women S Health, 2(1).

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