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米メタが「ファクトチェック」廃止...SNSの「ノーチェックでの」言論の自由は、何をもたらすか?

ニューズウィーク日本版 2025年1月10日 17時30分

木村正人
<投稿に対するチェックは「検閲だ」とドナルド・トランプ次期米大統領が批判するなか、Facebookなどを運営するメタがファクトチェックの廃止を発表>

[ロンドン発]「Woke(ウォーク、リベラルな価値観を他人に押し付ける人たち)は死んだ!」。英国の欧州連合(EU)離脱を主導した強硬右派ポピュリストの新興政党「改革英国」のナイジェル・ファラージ党首は自身のX(旧ツイッター)でこう雄叫びを上げた。

1月7日、米IT大手メタは運営するフェイスブックやインスタグラム、スレッズについて米国を手始めに報道機関や第三者団体によるファクトチェックを廃止すると発表した。ユーザーコミュニティーが虚偽や誤解を招きかねない投稿にノートを追加できるX同様のモデルに移行する。

「メタのプラットフォームは人々が自由に自己表現できる場として構築されている。それは厄介なことかもしれない。何十億もの人々が声を上げることができるプラットフォームでは良いことも悪いことも醜いこともすべて表示される。しかし、それが自由な表現なのだ」(メタ発表)

メタの「投稿削除」1、2割は間違いだった可能性も

メタは民主党のバイデン政権になった2021年以降、市民が目にする選挙、政治、社会問題に関する投稿を減らすよう変更した。例えば昨年12月には毎日何百万ものコンテンツを削除した。コンテンツ全体の1%未満だが、1、2割は間違って削除した可能性があることを認める。

今後はよりパーソナライズされたアプローチでより多くの政治的コンテンツを見たいと思う人々が見られるようにする。ファラージ氏が喝采を叫んだのは、主要メディアからの批判にさらされるポピュリストにとってソーシャルメディア(SNS)は最大の武器になるからだ。

メタは「言論抑制はどんなに良かれと思っても既存の制度や権力構造を強化することが多い」というメタ共同創業者マーク・ザッカーバーグ氏の信念に立ち返ったと強調するが、投稿チェックは「検閲」と批判するドナルド・トランプ次期米大統領にひれ伏したとみるのが自然だろう。

「これで移民について話すことも許される」

ファラージ氏は7日、Xに「言論の自由がフェイスブックに戻ってきた」と投稿し、動画で「素晴らしいニュースだ。ニック・クレッグ元英副首相がメタを辞めた。代わりに米総合格闘技団体UFCのダナ・ホワイト最高経営責任者(CEO)が入った」と大歓迎した。

「ザッカーバーグ氏は言論の自由の原点に戻ると声明を出した。これで移民について話すことも許される。アカウントをブロックしていた第三者のチェッカーは全員解雇された。Xが採るモデルに移行する。閉鎖や停止を恐れずにコンテンツを出せる」(ファラージ氏)

クレッグ氏は中道・英自由民主党の元党首。正真正銘のEU残留派でグローバリストのリベラルだ。18年10月からメタ社のグローバル担当最高責任者を務め、シリコンバレーの豪邸に住んでいた。ホワイト氏は格闘技の興行を通じてトランプ氏と知り合った側近中の側近だ。

世界はカオスの渦に放り込まれる

クレッグ氏は「退任する適切な時期だと考えるようになった。本当に一生に一度の冒険だった! イノベーションが透明性と説明責任の向上、新しいガバナンスの形態と両立できるよう会社全体のチームを率い、サポートしてきたことを誇りに思っている」とXに投稿した。

メタは21年の米連邦議会襲撃事件を受け、トランプ氏のフェイスブックアカウントを一時凍結したため関係が悪化。トランプ氏が先の大統領選で返り咲きを決めた後、100万ドルを大統領就任基金に寄付し、トランプ氏にすり寄る。

格差拡大とともに世界は分断し、常識は通じなくなった。大統領選でトランプ氏に急接近したイーロン・マスク氏は自身が保有するXに極論を連続投稿して労働党のスターマー政権への攻撃を強める。ザッカーバーグ氏がトランプ氏の軍門に下り、世界はカオスの渦に放り込まれる。


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