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アルミ缶収集だけではない...ホームレスの仕事・生き方は10種類ぐらいある

ニューズウィーク日本版 2025年1月11日 10時55分

文・写真:趙海成
<日本のホームレスに興味を持ち、取材を続けてきた中国人ジャーナリストの趙海成氏。「援助交際」「投げ銭」など、アルミ缶収集だけでない多様なホームレスの生きる道について調べると、そこには想像以上の人間ドラマがあった>

38年前に初めて日本に来た頃、街頭や公園のホームレスが気になったのを覚えている。当時、私は少し戸惑っていた。

これだけ経済が発達した日本社会に、どうしてこんなにホームレスの貧困者が多いのか。

それについて友達に教えてもらったことは、彼らがさまざまな理由で仕事を失い、ホームレスになったということだ。それに彼らは、ホームレスでない人とは接することはなく、お互いに近づかないという。私も郷に入っては郷に従い、日本に来てからずっとホームレスと話をしたことがなかった。

しかし、ついに2年前のある日、「神亀」(中国で「吉祥」「長寿」「知恵」「力」「神と通じること」の象徴)が現れて、私をホームレスの世界に引き入れた(詳しくは、シリーズ第13話「ホームレスは助け合うのか、それとも冷淡で孤独なのか...不思議な『兄弟分』の物語」参照) 。

それによって、私は彼らホームレスについての物語をいくつか世に出すことになったのだ。

この「神亀」が現れて、自分の命が危険にさらされていたにもかかわらず、私をホームレスの世界に引き入れてくれた

YouTubeに増えるホームレスのドキュメンタリー

同じホームレスと言っても、一人一人の過去の経験と現在の生活状況は、さまざまである。

何人かのホームレスと友人として付き合って、ほとんど知らなかった彼らの生活のリアルな部分をいくらか知るようになった。しかし、ホームレスの全体的な現状、例えばアルミ缶集めの他にお金を得る手段があるのか、働けなくなっても生きていく方法があるのかなど、広く深く調べなければ分からないことがある。

YouTubeには、日本の「セルフメディア」(中国語で「自媒体」。マスメディアから独立した個人によるニュースアカウント)のジャーナリストが撮影したホームレス生活のドキュメンタリーがいくつもあり、それらが私の視野を広げてくれた。

なるほど、ホームレスにはさまざまな生きる道があり、私が取材で聞いた話も含めると、大体10種類に分類できると言えそうだ。

YouTubeには、個人が撮影したホームレス生活を紹介するドキュメンタリーがいくつか存在している

アルミ缶収集で生計を立てるのが難しくなる?

1つ目は、集めたアルミ缶を売る仕事。

本シリーズの第2話の中ですでに紹介したが、ここでも補足したい。

アルミ缶を売ってお金を稼ぐ、ホームレスにとって重要なこの生存手段に懸念すべき小さな変化が現れている。近い将来、ひょっとしたらこの仕事は、ホームレスでない人に奪われるかもしれない。

不景気で、定住所があっても失業や賃金減で生活が苦しくなった人なども、アルミ缶拾いを始めているようだ。それだけでなく、どこの国ともなく、外国人の「機械化部隊」が現れた。彼らは軽トラックでやって来て、住民のゴミ捨て場からアルミ缶を瞬時に持って行ってしまうという。

これは明らかにホームレスたちの生計を左右する問題だ。失業でホームレスになった人は、これから2度目の失業の打撃に直面するかもしれない。

日本では、手段はともかく、ゴミ捨て場などに出されたアルミ缶を勝手に持っていくことは、法律や条例に違反する行為とされている。東京や他の地方都市では、車でアルミ缶を集めて換金した外国人に罰金を科す例がすでに出ているのだ。

私が知っている数人のホームレスは、自分たちの安定したアルミ缶「サプライチェーン」を持っているので、まだその影響を受けておらず、心配もなさそうだ。

彼らの「サプライチェーン」とは、簡単に言えば、こういうことだ。彼らと、一部のビル管理人や住宅地のおじいさん・おばあさんとの間に、ある種の了解と黙認が成立している。決まった時間にゴミ捨て場からアルミ缶を持って行くかぎりは、決して「自分勝手」な行為と見られず、通報されたり、罰金を科されたりすることが避けられるという。

日雇い労働、アルミ缶以外の資源回収、ゴミ箱から食べ物...

2つ目は、建設現場での日雇い労働者としての道。

これは工事現場での肉体労働なので、身体が弱いお年寄りにはできない。請負業者は、原則として65歳以下のホームレスしか雇わないという話も聞く。

3つ目は、アルバイトや修理サービス。

公園や道路や河川敷などの清掃作業とか、店の広告看板を持って街頭で宣伝を行うこととか、個人で自転車修理のサービスなど、さまざまだ。

4つ目は、アルミ缶以外の回収可能な資源を集めて売る商売。

主に、廃棄されたケーブルや金属ゴミなどを集めて売る。中でも、銅線や各種のフライパンの売価が比較的高い。フライパンはアルミと鉄をミックスして出来た商品なので、売るために、アルミと鉄を分ける手作業が必要だという。

他にも、古本や古雑誌、段ボール箱などを集めて売るホームレスもいる。

5つ目は、働かず、ゴミから食べ物を探して飢えをしのぐ方法。

日本社会は食品の賞味期限をとても重視している。そのため、コンビニ、レストラン、パン屋などでは、期限切れの食品がほぼ毎日ゴミに出されている。ホームレスたちは、これらのゴミ置き場から食べ物を得られるのだ。

6つ目は、年金をもらいながらのホームレス生活。

彼らが受け取る年金は比較的少なく、食べたり飲んだりするのには十分だが、家賃や光熱費を払う余裕まではない。そのため、アパートをあきらめてテント生活にする。たまにアルミ缶を拾えば収入が増えて、生活は楽になるという。

「施し」や「ギャンブル」で...さらに多様なホームレスの生き方

7つ目は、人からの施しで生きる道。

このような人は大体70歳以上で、年金もなく、仕事もできない場合が多い。

彼らは東京の大きな駅(新宿、上野、池袋、渋谷など)の近くに集中している。昼間、炊き出し場に行って弁当と飲み物をもらう。お腹を満たした後は、どこかに座って、目の前に小さな茶碗を置いて、通行人が通るとき、小銭を入れてくれるのを待つ。夜になると、彼らは駅の地下通路で寝る。

8つ目は、ギャンブルを「仕事」にする生活。

ギャンブルが習慣になっているホームレスは少なくないが、本当にそれで生計を立てている人はごくわずかである。

私がよく知っている5人のホームレスのうち3人は昔、競馬、競艇、パチンコなどのギャンブルが好きだったが、みんな今はやめているという。

噂では以前、荒川の河川敷にギャンブルで生計を立てているホームレスがいたそうだ。彼は賭けると勝つことが多かったが、可哀そうなことに、一回大儲けをした後、誰かに殺された。ヤクザとの間にお金についてのトラブルがあったという。

家族と仕事の両方でうまくいかず、「援助交際」で生計を...

9つ目は、「援助交際」に頼る生き方。

YouTubeチャンネル「アットホームチャンネル」の動画「上野公園でホームレスをされているオトさん(19)が若くしてホームレスになった理由を伺いました【東京ホームレス オトさん】」に登場する女の子が印象に残った。

動画の中で彼女自身が語った話によれば、彼女は19歳で、シングルマザーの家庭で育った。幼い頃から母親と一緒に暮らしてきたが、親子の関係は気まずいもので、よく小さなことで口論になったという。

彼女は高校を卒業せずに就職したが、うまくいかなくてすぐに辞めてしまった。家族との不和に仕事の不調が重なり、彼女は悩んで、自殺しようと考えているうちに、また母親と口論し、家を出て、路上生活のホームレスになった。

そして手元のお金がなくなった後、生計を立てるため、「援助交際」を始めたのだという。

収入ができた彼女は、自分が自立して生活できると感じるようになって、自分の未来を改めて計画し始めた。頑張って学費を貯め、大学に行き、卒業後は「養護教諭」の資格を取って、小学校の保健室の先生になりたいという夢がある。なぜなら、彼女自身が中学校時代、そういう先生にとてもお世話になったことが忘れられないからだという。

私はYouTubeで、彼女と同じように「援助交際」で生計を立てている女の子のドキュメンタリーをいくつか見たことがあるが、そのほとんど自暴自棄なように見え、夢を持たないことが多い。それに比べて、この女の子が自分の夢を持っていることは素晴らしいと思う。

ただ自由な暮らしを求めてホームレスになる

最後は、ただ一人での自由なホームレス生活だ。

自由な生き方をするために、敢えてホームレスになる人もいる。本当は生活を支えるだけの年金があり、子供もいて、自分の家も持っている場合が多い。

自然と静かな環境が好きなのか、それとも一人だけの自由な生活を望んでいるのか、とにかく自分の家を家族(子供や孫など)に住まわせて、一人だけ家を出て、野外で生活をしている。

お金を稼ぐために働いていないことを除けば、他のホームレスの暮らしと変わらない。

以上が、私がまとめた日本のホームレスの10種類の生き方だ。それぞれ特徴が異なるが、生きるために一生懸命に頑張っていること変わらないと思う。

(編集協力:中川弘子)

[筆者]
趙海成(チャオ・ハイチェン)
1982年に北京対外貿易学院(現在の対外経済貿易大学)日本語学科を卒業。1985年に来日し、日本大学芸術学部でテレビ理論を専攻。1988年には日本初の在日中国人向け中国語新聞「留学生新聞」の創刊に携わり、初代編集長を10年間務めた。現在はフリーのライター/カメラマンとして活躍している。著書に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)、『私たちはこうしてゼロから挑戦した──在日中国人14人の成功物語』(アルファベータブックス)などがある。



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