木村正人
<リフォームUK(改革英国党)を率いるファラージ氏は「伝統の保守党ブランドは完全に崩壊」と投稿。経済不振でイギリス政治の二大政党制は崩壊>
[ロンドン発]英国の欧州連合(EU)離脱を主導した反移民ポピュリスト、ナイジェル・ファラージ氏率いる強硬右派の新興政党「改革英国」が1ポイント差でキア・スターマー首相の左派・労働党に肉薄していることが世論調査会社ユーガブと英紙タイムズの調査で分かった。
ファラージ氏はX(旧ツイッター)に「改革英国党、ユーガブの総選挙後初の世論調査で労働党にわずか1ポイント差。英国伝統の保守党ブランドは完全に崩壊した。われわれはこの悲惨な政府に対する真の野党だ」と投稿した。単純小選挙区の英国でも二大政党制は崩壊した。
原因は経済不振だ。英国経済は2023年最後の2四半期連続して縮小し景気後退した。24年前半に回復し国内総生産(GDP)は1~3月0.7%、4~6月0.5%増えたものの、7~9月はゼロ成長。10月、レイチェル・リーブス財務相は初の財政演説で400億ポンドの大幅増税を発表した。
労働党政権の突破口はAIと中国?
道路・鉄道・インフラに支出して公共サービスを立て直し、成長を促すため4年間で年平均850億ポンドを借り入れる。財政ルールを緩和し5年間で資本支出を1000億ポンド増やすと宣言した。しかし昨年11月の消費者物価指数は前年比で3.5%上昇し、長期金利は4.9%を突破した。
英国は物価上昇と景気後退が同時進行するスタグフレーションの症状を呈する。この状況を打破するには英中銀・イングランド銀行が動くしかないものの、粘着質のインフレが利下げを阻む。リーブス氏は手足を縛られたまま、溺死寸前の状態だ。
スターマー、リーブス両氏は人工知能(AI)と中国に突破口を見出そうとしている。英国独自のAIモデルを開発、2030年までに公的管理下にあるAIコンピューティングパワーを20倍に増やすとともに、教師の授業準備支援など公共部門でAIをフル活用する青写真を描く。
労働党支持者からも見限られる
リーブス氏は訪中し何立峰副首相と会談。世界第2の経済大国・中国と英国の関係は「意見が対立する分野では率直でオープン」な一方「安全な貿易と投資の機会を見つける」という点で現実的だと強調した。香港の民主派弾圧で悪化した両国関係修復のため自らすり寄った格好だ。
24年7月の総選挙で労働党が411議席(定数650)という地滑り的勝利を収めてから半年。労働党支持者のうち次の総選挙でも同党に投票すると答えたのは54%に過ぎず、政党支持率では労働党26%、改革英国党25%、保守党22%、自由民主党14%、緑の党8%となった。
18~24歳の若者層では19%が次の総選挙ではファラージ氏の改革英国党を支持すると答えており、保守党を支持する人は5%。しかし労働党は若者層では最も人気のある政党で支持率は36%、緑の党は22%で、若者のリベラル志向は依然として強いことが確認された。
男性では「改革英国党30%」対「労働党27%」
65歳以上の高齢者層では引き続き保守党の人気が最も高く35%。改革英国党は30%と猛追する。女性は労働党と保守党が25%対25%。男性では改革英国党30%対労働党27%だった。改革英国党の台頭を抑えるための保守党のケミ・ベーデノック新党首の右旋回戦略は奏功していない。
ドナルド・トランプ次期米大統領との蜜月ぶりを誇示する米テスラ、スペースXの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏は自らが所有するXで「6年間、検察トップを務めた時に『英国の国家的』レイプに加担したスターマー氏は辞任せよ」と糾弾している。
意気投合するトランプ氏とファラージ氏に対し、トランプ氏とスターマー氏の相性は最悪だ。第二次大戦以来の英米「特別関係」はスエズ危機やベトナム戦争、グレナダ侵攻でも利害が対立したものの、トランプ・スターマー時代に再び危機を迎える恐れが現実味を増す。
<リフォームUK(改革英国党)を率いるファラージ氏は「伝統の保守党ブランドは完全に崩壊」と投稿。経済不振でイギリス政治の二大政党制は崩壊>
[ロンドン発]英国の欧州連合(EU)離脱を主導した反移民ポピュリスト、ナイジェル・ファラージ氏率いる強硬右派の新興政党「改革英国」が1ポイント差でキア・スターマー首相の左派・労働党に肉薄していることが世論調査会社ユーガブと英紙タイムズの調査で分かった。
ファラージ氏はX(旧ツイッター)に「改革英国党、ユーガブの総選挙後初の世論調査で労働党にわずか1ポイント差。英国伝統の保守党ブランドは完全に崩壊した。われわれはこの悲惨な政府に対する真の野党だ」と投稿した。単純小選挙区の英国でも二大政党制は崩壊した。
原因は経済不振だ。英国経済は2023年最後の2四半期連続して縮小し景気後退した。24年前半に回復し国内総生産(GDP)は1~3月0.7%、4~6月0.5%増えたものの、7~9月はゼロ成長。10月、レイチェル・リーブス財務相は初の財政演説で400億ポンドの大幅増税を発表した。
労働党政権の突破口はAIと中国?
道路・鉄道・インフラに支出して公共サービスを立て直し、成長を促すため4年間で年平均850億ポンドを借り入れる。財政ルールを緩和し5年間で資本支出を1000億ポンド増やすと宣言した。しかし昨年11月の消費者物価指数は前年比で3.5%上昇し、長期金利は4.9%を突破した。
英国は物価上昇と景気後退が同時進行するスタグフレーションの症状を呈する。この状況を打破するには英中銀・イングランド銀行が動くしかないものの、粘着質のインフレが利下げを阻む。リーブス氏は手足を縛られたまま、溺死寸前の状態だ。
スターマー、リーブス両氏は人工知能(AI)と中国に突破口を見出そうとしている。英国独自のAIモデルを開発、2030年までに公的管理下にあるAIコンピューティングパワーを20倍に増やすとともに、教師の授業準備支援など公共部門でAIをフル活用する青写真を描く。
労働党支持者からも見限られる
リーブス氏は訪中し何立峰副首相と会談。世界第2の経済大国・中国と英国の関係は「意見が対立する分野では率直でオープン」な一方「安全な貿易と投資の機会を見つける」という点で現実的だと強調した。香港の民主派弾圧で悪化した両国関係修復のため自らすり寄った格好だ。
24年7月の総選挙で労働党が411議席(定数650)という地滑り的勝利を収めてから半年。労働党支持者のうち次の総選挙でも同党に投票すると答えたのは54%に過ぎず、政党支持率では労働党26%、改革英国党25%、保守党22%、自由民主党14%、緑の党8%となった。
18~24歳の若者層では19%が次の総選挙ではファラージ氏の改革英国党を支持すると答えており、保守党を支持する人は5%。しかし労働党は若者層では最も人気のある政党で支持率は36%、緑の党は22%で、若者のリベラル志向は依然として強いことが確認された。
男性では「改革英国党30%」対「労働党27%」
65歳以上の高齢者層では引き続き保守党の人気が最も高く35%。改革英国党は30%と猛追する。女性は労働党と保守党が25%対25%。男性では改革英国党30%対労働党27%だった。改革英国党の台頭を抑えるための保守党のケミ・ベーデノック新党首の右旋回戦略は奏功していない。
ドナルド・トランプ次期米大統領との蜜月ぶりを誇示する米テスラ、スペースXの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏は自らが所有するXで「6年間、検察トップを務めた時に『英国の国家的』レイプに加担したスターマー氏は辞任せよ」と糾弾している。
意気投合するトランプ氏とファラージ氏に対し、トランプ氏とスターマー氏の相性は最悪だ。第二次大戦以来の英米「特別関係」はスエズ危機やベトナム戦争、グレナダ侵攻でも利害が対立したものの、トランプ・スターマー時代に再び危機を迎える恐れが現実味を増す。