竹田ダニエル(ジャーナリスト)
<その本には今の日本のあらゆる世代に、強く響く言葉が詰まっていた...。アメリカ在住の筆者が、スタンフォード大学発のロングセラー本を再読して気づいたこと>
私が『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』を初めて読んだのは、高校生の時だった。
当時は英語で読んだが、今回、日本語でその新版を久々に読み返しても納得のいく「人生アドバイス」が詰まった本。英語のタイトルは「What I Wish I Knew When I Was 20: A Crash Course on Making Your Place in the World」で、副題の方には「世界に爪痕を残す」「自分の居場所を作る」の2つの意味があると思う。
この2つは、違うようで共通する部分がある。自分にとって重要な意味を持つ何らかのことを「成し遂げ」、世界に爪痕を残すことで、「自分の居場所を作る」ことができるのだ。
このテーマから見えるようにこの本が伝えるのは、ただ待っているだけでは幸運もチャンスも成功も訪れない、ということ。
毎日の中で「モヤモヤ」とした不完全燃焼感を抱いたり、社会の中で居心地の悪さや狭苦しさを感じている人こそ、この本で紹介されるエピソードや「人生の秘訣」からヒントを得られるのではないだろうか。
スタンフォード大学と聞くと、アメリカのエリートのお金持ち学生というイメージを持つ人が多いかもしれない。しかし実際には、世界中から「チャンス」をつかむために、さまざまな野望を抱いた学生たちが集まっている。
私が今も通っているカリフォルニア大学バークレー校も、シリコンバレーの地域性的に似たカルチャーがある。ビジネススクールの授業で何度も繰り返し主張されるのが、「行動すること」の重要性だ。
とにかく行動する。確率を上げることで、成功の道が近づく。つまり、失敗を繰り返してはじめて、成功のレールに乗ることができる。多様な人種や価値観のあるアメリカにおいて、「成功」の定義は絞りづらい。
この本はスタートアップ企業やテック企業の起業家などの経験談、そしてスタンフォード大学の学生と接する中での筆者の個人的な経験談などを交えながら、幸せや成功を定義することなく、「チャンスをつかむ方法」を教えてくれる。
それはスピリチュアルなものでもマッチョなものでもなくかなり泥臭いもの。私はこの本を読んで以来、とにかく全ての出会いは「新しい自分を知るチャンス」だと捉えるようになったし、あらゆる出来事も無駄ではないという考えを持つようになった。
本当にここまでガツガツしている人がいるのか、と日本の読者は疑問に思うかもしれない。
しかし、アメリカで「生き残っていく」には、確かにこのくらいの忍耐と特攻力と図太さが必要になってくる。
日本よりもはるかに「自分で成功をつかむ」必要がある(逆に言い換えれば、基本的には他者には頼れないし簡単には助けてもらえない)アメリカ社会では、待っているだけではチャンスはほぼ確実に訪れない。
今後の日本においても、未来への不確実さや将来への不安は増していく一方だろう。自己責任論やマッチョなストイックさをうたう自己啓発本も、その心理に漬け込むことでどんどん人気を得やすい状況になっている。
しかし本書が提示してくれるのは「自分だけがうまく行く方法」というよりも、不確実性さえも楽しみ、あえてその予測不可能な未来の中に可能性を見出す試行方法なのではないだろうか、と思う。
締めくくりで書かれている「この本で何より伝えたかったのは、快適な場所から離れ、失敗を恐れず、不可能だと決めつけることなく、あらゆる機会をとらえれば、可能性は無限に広がり、輝くことができる、ということでした」という言葉は、「正解」が決して一つではなく、臨機応変に未来に対応していく必要が求められている今の日本のあらゆる世代に、強く響く言葉なのではないだろうか。
竹田ダニエル(Daniel Takeda)
1997年生まれ、カリフォルニア州出身・在住。現在カリフォルニア大学バークレー校大学院在学中。「カルチャー ×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストを繋げるエージェントとしても活躍。著書に『世界と私のA to Z』『#Z世代的価値観』『SNS時代のカルチャー革命』(すべて講談社)、『ニューワード ニューワールド 言葉をアップデートし、世界を再定義する』(集英社)など。
『新版 20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』
ティナ・ シーリグ[著]
高遠裕子[訳]/ 三ツ松 新[解説]
CCCメディアハウス[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
<その本には今の日本のあらゆる世代に、強く響く言葉が詰まっていた...。アメリカ在住の筆者が、スタンフォード大学発のロングセラー本を再読して気づいたこと>
私が『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』を初めて読んだのは、高校生の時だった。
当時は英語で読んだが、今回、日本語でその新版を久々に読み返しても納得のいく「人生アドバイス」が詰まった本。英語のタイトルは「What I Wish I Knew When I Was 20: A Crash Course on Making Your Place in the World」で、副題の方には「世界に爪痕を残す」「自分の居場所を作る」の2つの意味があると思う。
この2つは、違うようで共通する部分がある。自分にとって重要な意味を持つ何らかのことを「成し遂げ」、世界に爪痕を残すことで、「自分の居場所を作る」ことができるのだ。
このテーマから見えるようにこの本が伝えるのは、ただ待っているだけでは幸運もチャンスも成功も訪れない、ということ。
毎日の中で「モヤモヤ」とした不完全燃焼感を抱いたり、社会の中で居心地の悪さや狭苦しさを感じている人こそ、この本で紹介されるエピソードや「人生の秘訣」からヒントを得られるのではないだろうか。
スタンフォード大学と聞くと、アメリカのエリートのお金持ち学生というイメージを持つ人が多いかもしれない。しかし実際には、世界中から「チャンス」をつかむために、さまざまな野望を抱いた学生たちが集まっている。
私が今も通っているカリフォルニア大学バークレー校も、シリコンバレーの地域性的に似たカルチャーがある。ビジネススクールの授業で何度も繰り返し主張されるのが、「行動すること」の重要性だ。
とにかく行動する。確率を上げることで、成功の道が近づく。つまり、失敗を繰り返してはじめて、成功のレールに乗ることができる。多様な人種や価値観のあるアメリカにおいて、「成功」の定義は絞りづらい。
この本はスタートアップ企業やテック企業の起業家などの経験談、そしてスタンフォード大学の学生と接する中での筆者の個人的な経験談などを交えながら、幸せや成功を定義することなく、「チャンスをつかむ方法」を教えてくれる。
それはスピリチュアルなものでもマッチョなものでもなくかなり泥臭いもの。私はこの本を読んで以来、とにかく全ての出会いは「新しい自分を知るチャンス」だと捉えるようになったし、あらゆる出来事も無駄ではないという考えを持つようになった。
本当にここまでガツガツしている人がいるのか、と日本の読者は疑問に思うかもしれない。
しかし、アメリカで「生き残っていく」には、確かにこのくらいの忍耐と特攻力と図太さが必要になってくる。
日本よりもはるかに「自分で成功をつかむ」必要がある(逆に言い換えれば、基本的には他者には頼れないし簡単には助けてもらえない)アメリカ社会では、待っているだけではチャンスはほぼ確実に訪れない。
今後の日本においても、未来への不確実さや将来への不安は増していく一方だろう。自己責任論やマッチョなストイックさをうたう自己啓発本も、その心理に漬け込むことでどんどん人気を得やすい状況になっている。
しかし本書が提示してくれるのは「自分だけがうまく行く方法」というよりも、不確実性さえも楽しみ、あえてその予測不可能な未来の中に可能性を見出す試行方法なのではないだろうか、と思う。
締めくくりで書かれている「この本で何より伝えたかったのは、快適な場所から離れ、失敗を恐れず、不可能だと決めつけることなく、あらゆる機会をとらえれば、可能性は無限に広がり、輝くことができる、ということでした」という言葉は、「正解」が決して一つではなく、臨機応変に未来に対応していく必要が求められている今の日本のあらゆる世代に、強く響く言葉なのではないだろうか。
竹田ダニエル(Daniel Takeda)
1997年生まれ、カリフォルニア州出身・在住。現在カリフォルニア大学バークレー校大学院在学中。「カルチャー ×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストを繋げるエージェントとしても活躍。著書に『世界と私のA to Z』『#Z世代的価値観』『SNS時代のカルチャー革命』(すべて講談社)、『ニューワード ニューワールド 言葉をアップデートし、世界を再定義する』(集英社)など。
『新版 20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』
ティナ・ シーリグ[著]
高遠裕子[訳]/ 三ツ松 新[解説]
CCCメディアハウス[刊]
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