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「信頼失墜」のメディア...トランプ再登場で試される「報道戦略」

ニューズウィーク日本版 2025年1月17日 15時50分

ヘスス・メサ
<信頼回復を模索するメディアは、トランプ氏の復帰にどう対応すべきか問われている>

昨年11月、ドナルド・トランプ前大統領が歴史的な政治的復帰を果たして数日後、MSNBCの「モーニング・ジョー」の共同司会者ジョー・スカボローとミカ・ブレジンスキーは、次期大統領であるトランプ氏と会うためにフロリダ州パームビーチのマー・ア・ラゴに飛んだ。

「我々が合意したのは、コミュニケーションを再開することだった」とスカボローは会談後に語った。

「多くの問題で意見が一致しなかったが、そのことも彼に伝えた」

ブレジンスキーも「なぜ私たちが、特にこの緊張した時期に次期大統領と話すのかと疑問に思う人がいるなら、逆に『なぜ話さないのか?』と聞き返したい」と付け加えた。

これは、選挙戦中にスカボローがトランプ氏の言動をたびたびアドルフ・ヒトラーになぞらえるなど、対立が激化していた関係からの劇的な変化だった。このマー・ア・ラゴでの会談は、メディア業界の関係者たちを驚かせ、MSNBCの視聴者の多くに裏切られたという感情を抱かせた。

しかし、これはメディアがトランプ氏の「第二幕」に対応するためには新たな戦略が必要であるという厳しい現実も示していた。

トランプ氏の最初の任期中、メディアは彼の挑発的なツイートや物議を醸す発言に即座に反応し、その報道は他のどの政権よりも熱狂的だった。多くの報道は、トランプ氏が偶然の産物として大統領になったと示唆していた。ロシアの干渉、Facebook、ウィキリークス、ヒラリー・クリントンの選挙戦略、あるいは特定の激戦州の有権者など、理由は様々だった。

元CNNワシントン支局長でベテラン記者のフランク・セズノ氏は本誌に対して「1期目では、メディアや政治エリートたちはトランプ氏を異常な存在として扱っていた」と語る。

「だが、トランプ2.0は違う。国民は何を選んでいるのか分かった上で投票した。これは偶然ではなく、選択なのだ」

この選択は、主流メディアに対して、より洗練された報道姿勢を求めるものとなった。トランプ氏の発言にいちいち憤慨して反応する旧来の手法は、信頼が揺らぐ現在ではもはや通用しないかもしれない。最新のギャラップ調査によると、主流メディアはアメリカで最も信頼されていない機関となっており、議会よりも下位に位置している。

この信頼の低下は一夜にして起こったわけではない。SNSやTikTokのような代替プラットフォームの台頭により、従来のメディア環境は分断され、視聴者は次第にニッチな情報発信者に流れている。長尺のポッドキャストや独立系クリエイターが影響力を増し、伝統的なメディアから視聴者を奪っている。ジョー・ローガンのポッドキャストは、主要3ネットワークのニュース放送すべてを合わせたよりも多くのリスナーを持つ。

メディア分析家のブラッド・アドゲイト氏は本誌に対し、「トランプ氏はこの変化を誰よりも理解していた」と語る。

「これらの形式は、対立なしに何時間もの無編集の発言を許す。事実が埋もれ、責任追及が消える懸念があるが、結果は明らかだ」

伝統的なメディアの課題は、ポッドキャスターやインフルエンサーとの競争だけにとどまらない。アメリカの報道界の重鎮たちも苦境に立たされている。ジェフ・ベゾス氏が所有するワシントン・ポストでは、ベゾス氏がカマラ・ハリス氏への推薦を編集委員会に禁じたことで内部対立が起きた。この決定によりリベラル層の購読解約が相次ぎ、著名な左派コラムニストのジェニファー・ルービン氏らが辞任。トランプ政権時代に活躍した有名記者たちも相次いで退社した。ポストのデジタル閲覧数も急落し、2021年の1日あたり2250万人から2024年には約300万人にまで落ち込んだ(Semaforが入手した内部データによる)。

一方で、アメリカの情報消費を変えるテック大手も「言論の自由絶対主義」という新たな理念を打ち出している。イーロン・マスク氏が率いるX(旧Twitter)は保守派の声を増幅し、マーク・ザッカーバーグ氏のMetaは先週、突然ファクトチェックプログラムやDEI(多様性・公平性・包括性)施策の廃止を発表した。その意図は明白で、ザッカーバーグ氏は続けてジョー・ローガンの番組で3時間にわたり、バイデン政権への不満を語った。

来週の大統領就任式を前に、紙媒体は報道方針を調整しているが、かつてワシントンの政治議題を主導していたケーブルニュースは、変化するメディア環境の中で立ち位置を見失っている。火曜日には、MSNBCの視聴率低迷を受け、同局社長のラシダ・ジョーンズ氏が辞任した。

MSNBCはリベラル視聴者の呼び戻しを狙い、看板キャスターのレイチェル・マドー氏を夜9時枠に週5回復帰させ、トランプ氏の最初の100日間を集中的に報道する戦略に出た。メディア分析家リアム・ライリー氏は「これは巧妙な戦略だが、同時にMSNBCが視聴率低迷に苦しんでいることの証でもある」と指摘する。

2024年選挙の教訓は、ゴールデンタイムの番組編成にとどまらない。ポッドキャストが世論形成に与える影響力を認識し、MSNBCはバイデン政権の元報道官で現在番組を持つジェン・サキ氏がホストを務める新しいポッドキャストの開始や、デジタル重視の番組展開を発表した。一方、Foxニュースは「ローガンスタイル」の形式を導入し、退社したベテランキャスター、ニール・カヴート氏の番組枠にはウィル・ケイン氏の新たな午後4時番組が登場予定だ。

こうした変化にもかかわらず、メディアが直面する現実は厳しい。視聴者はもはやトランプ氏や伝統的なメディアに以前ほど関心を示していない。Digidayによると、ニュース媒体は過去の選挙期間と比べて、トラフィックの増加がはるかに小さいという。これは「ニュース疲れ」の拡大と、YouTubeやSubstackなどのプラットフォームで活躍する独立系クリエイターの台頭が要因だ。

セズノ氏は「2016年から多くが変わった。メディアは長らく信頼性の問題に苦しみ、インターネットとSNSの台頭がその低下を加速させた」と述べる。

今、主流メディアに課せられている課題は、単にトランプ氏を報道することではない。信頼が揺らぎ、関心が薄れ、視聴者が離れつつある時代に、どのようにニュースを届けるかという根本的な変革が求められている。

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