サム・ポトリッキオ
<絶対忠誠を誓うメンバーで政権を固めたオレ様大統領を止められるのはマスクだけ?>
第47代米大統領としてホワイトハウスに復帰するドナルド・トランプは、最も手ごわい敵に直面することになる。それは期待だ。
世論調査では、アメリカ人の55%がトランプの政権移行プロセスを支持し、54%が大統領としてもよくやるだろうと予想。トランプがアメリカに変化をもたらすと期待する人は68%にも上る。こうした数字は、トランプが権力の座に返り咲くため、サンタクロース並みに気前のいいプレゼントを約束した結果だ。
だが、大きな期待は、2025年をかえって困難な年と感じさせることになるかもしれない。何しろ、トランプが最も大胆な選挙公約を実行に移せば、アメリカの経済は大打撃を被る恐れがある。とてつもない規模の関税は、報復関税や貿易戦争、さらには物価の高騰を招くだろう。移民の一斉取り締まりは、米経済を支える中小企業に大打撃を与えて、倒産する企業も出てくるだろう。
トランプにとって厄介なのは、公約を実行に移せば、米経済を転覆させる恐れがある一方で、公約を実現しなければ、ジョー・バイデン大統領と同じように国民の不満の矛先が向くかもしれないことだ。
トランプは別のプレッシャーにもさらされている。それは時間だ。
共和党は1月から上下両院で過半数を握ることになるが、その差はわずか。中間選挙では大統領の政党が議席を減らすのが定石だから、トランプが自らの公約を比較的簡単に実現できる時間は限られている。選挙日程を考えると、26年11月の中間選挙に向けた選挙戦が本格化するのは同年4月。従ってトランプは、就任後すぐに全力で仕事を片付け始めなくてはいけない。
そのためにトランプが集めている政権幹部のカギは忠誠心(とテレビ映えするルックス)だ。1期目は、その分野で本格的な経験があることを重視したが、今回は違う。幹部が素人的なミスを犯しながらも、トランプに忠実な政策を実行しようとする一方で、経験豊かな実務官僚が抑制と均衡の役割を果たすという統治パターンが生まれるかもしれない。
トランプは最高裁判事など連邦判事を指名する権限によって司法を味方に付けているし、おそらく近年のどの大統領よりも党に対して強い支配力を持つ。こうした環境は、トランプが自らのレガシーを築く上では悪くない。
「関税大統領」の危険な賭け
トランプは、「米経済の成功の立役者」を自負しているから、経済面での公約実現にはとりわけ力を入れるだろう。特にエネルギー生産でアメリカを世界一にするという公約の実現は確実だ。また、経済に流動性をたっぷり供給し、大手テクノロジー企業のAI(人工知能)投資に好ましい環境をつくるだろう。
連邦政府は巨大な財政赤字を抱えているが、トランプが減税を断行するのは間違いない。バイデン政権が導入した規制を緩和し、電気自動車(EV)への移行推進策を覆すのもほぼ確実だ。
最も懸念されるのは、「関税大統領」になるというトランプの公約だ。あらゆる国からの輸入品に10〜20%の関税をかけ、一部の中国製品は関税率を最大60%にするという。これは物価を押し上げ、米経済に大きな波乱をもたらすかもしれない。
カギを握るのは、大手EVメーカーの経営者であり、政権入りもするイーロン・マスクだ。マスクがトランプの側近にとどまるなら、中国と合意をまとめて、貿易戦争が米経済に致命的なダメージを与えるのを防ぐかもしれない。何しろマスクのビジネスにとっては、中国市場が開放されていたほうが都合がいい。
プーチンと手を切る可能性
外交面では、トランプはウクライナにおける戦争を1日で終わらせると豪語してきた。これは当初、ウクライナに負けを認めさせて、ロシアへの領土割譲をのませるという意味だと解釈されていた。
だが、ロシアは今、中東で支援してきた国や組織のリーダーが次々と破滅し、仲良くしてきたイランの体制も揺らいでいる。そんななか、トランプ政権の外交の要で、対ロシア強硬派であるマイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)やマルコ・ルビオ国務長官がうまく丸め込めば、トランプがロシアをノックアウトしに行く可能性はある。
第2次トランプ政権は、アメリカの文化に恒久的な影響を与えるかもしれない。トランプはセレブや有名ブランドが大好きで、大手メディアのインタビューを受けるのも大好きだが、24年大統領選でトランプの勝利に大きく貢献したのは、保守系ポッドキャストやニュースサイトを運営するジョー・ローガンやテオ・ボン、ベン・シャピロだった。
現代は、数千人の記者がいる由緒あるメディアよりも、個人ベースで発信する「メディア」のほうが、はるかに多くの注目を集められる。このトレンドは定着し、今後も拡大していくだろう。そしてトランプは、彼らにお墨付きを与える存在になる。トランプの17歳の孫娘カイ・トランプが新たなメガセレブになるのも時間の問題だ。
<絶対忠誠を誓うメンバーで政権を固めたオレ様大統領を止められるのはマスクだけ?>
第47代米大統領としてホワイトハウスに復帰するドナルド・トランプは、最も手ごわい敵に直面することになる。それは期待だ。
世論調査では、アメリカ人の55%がトランプの政権移行プロセスを支持し、54%が大統領としてもよくやるだろうと予想。トランプがアメリカに変化をもたらすと期待する人は68%にも上る。こうした数字は、トランプが権力の座に返り咲くため、サンタクロース並みに気前のいいプレゼントを約束した結果だ。
だが、大きな期待は、2025年をかえって困難な年と感じさせることになるかもしれない。何しろ、トランプが最も大胆な選挙公約を実行に移せば、アメリカの経済は大打撃を被る恐れがある。とてつもない規模の関税は、報復関税や貿易戦争、さらには物価の高騰を招くだろう。移民の一斉取り締まりは、米経済を支える中小企業に大打撃を与えて、倒産する企業も出てくるだろう。
トランプにとって厄介なのは、公約を実行に移せば、米経済を転覆させる恐れがある一方で、公約を実現しなければ、ジョー・バイデン大統領と同じように国民の不満の矛先が向くかもしれないことだ。
トランプは別のプレッシャーにもさらされている。それは時間だ。
共和党は1月から上下両院で過半数を握ることになるが、その差はわずか。中間選挙では大統領の政党が議席を減らすのが定石だから、トランプが自らの公約を比較的簡単に実現できる時間は限られている。選挙日程を考えると、26年11月の中間選挙に向けた選挙戦が本格化するのは同年4月。従ってトランプは、就任後すぐに全力で仕事を片付け始めなくてはいけない。
そのためにトランプが集めている政権幹部のカギは忠誠心(とテレビ映えするルックス)だ。1期目は、その分野で本格的な経験があることを重視したが、今回は違う。幹部が素人的なミスを犯しながらも、トランプに忠実な政策を実行しようとする一方で、経験豊かな実務官僚が抑制と均衡の役割を果たすという統治パターンが生まれるかもしれない。
トランプは最高裁判事など連邦判事を指名する権限によって司法を味方に付けているし、おそらく近年のどの大統領よりも党に対して強い支配力を持つ。こうした環境は、トランプが自らのレガシーを築く上では悪くない。
「関税大統領」の危険な賭け
トランプは、「米経済の成功の立役者」を自負しているから、経済面での公約実現にはとりわけ力を入れるだろう。特にエネルギー生産でアメリカを世界一にするという公約の実現は確実だ。また、経済に流動性をたっぷり供給し、大手テクノロジー企業のAI(人工知能)投資に好ましい環境をつくるだろう。
連邦政府は巨大な財政赤字を抱えているが、トランプが減税を断行するのは間違いない。バイデン政権が導入した規制を緩和し、電気自動車(EV)への移行推進策を覆すのもほぼ確実だ。
最も懸念されるのは、「関税大統領」になるというトランプの公約だ。あらゆる国からの輸入品に10〜20%の関税をかけ、一部の中国製品は関税率を最大60%にするという。これは物価を押し上げ、米経済に大きな波乱をもたらすかもしれない。
カギを握るのは、大手EVメーカーの経営者であり、政権入りもするイーロン・マスクだ。マスクがトランプの側近にとどまるなら、中国と合意をまとめて、貿易戦争が米経済に致命的なダメージを与えるのを防ぐかもしれない。何しろマスクのビジネスにとっては、中国市場が開放されていたほうが都合がいい。
プーチンと手を切る可能性
外交面では、トランプはウクライナにおける戦争を1日で終わらせると豪語してきた。これは当初、ウクライナに負けを認めさせて、ロシアへの領土割譲をのませるという意味だと解釈されていた。
だが、ロシアは今、中東で支援してきた国や組織のリーダーが次々と破滅し、仲良くしてきたイランの体制も揺らいでいる。そんななか、トランプ政権の外交の要で、対ロシア強硬派であるマイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)やマルコ・ルビオ国務長官がうまく丸め込めば、トランプがロシアをノックアウトしに行く可能性はある。
第2次トランプ政権は、アメリカの文化に恒久的な影響を与えるかもしれない。トランプはセレブや有名ブランドが大好きで、大手メディアのインタビューを受けるのも大好きだが、24年大統領選でトランプの勝利に大きく貢献したのは、保守系ポッドキャストやニュースサイトを運営するジョー・ローガンやテオ・ボン、ベン・シャピロだった。
現代は、数千人の記者がいる由緒あるメディアよりも、個人ベースで発信する「メディア」のほうが、はるかに多くの注目を集められる。このトレンドは定着し、今後も拡大していくだろう。そしてトランプは、彼らにお墨付きを与える存在になる。トランプの17歳の孫娘カイ・トランプが新たなメガセレブになるのも時間の問題だ。