ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
<韓国の観光名所として知られる慶州市で起きた盲導犬入店拒否事件。KBSのホ・ウリョン・アナウンサーが体験した「見えない壁」に、ネット上では怒りの声が相次ぎ──>
世界各国でインクルーシブな社会を目指して障害者の社会進出が進みつつある。韓国では公共放送KBSの昼のニュースに2011年から障害者がサブアンカーとして出演し、生活情報コーナーを担当している。ところが、そのサブアンカーを務める視覚障害者ホ・ウリョン・アナウンサーが、旅行先で立ち寄ったダイソーで、盲導犬と一緒に入店することを断られるというトラブルが起きて議論を呼んでいる。韓国メディアYTN、ニューシス、マネーSなどが報じた。
【動画】ホ・ウリョン・アナウンサーと盲導犬ハヤン
古都の旅を楽しんでいたが......
韓国東部の慶尚北道慶州市(キョンサンプクドキョンジュし)は、紀元前57年から約1000年にわたって新羅王国の都だった風光明媚な古都。市内には石窟庵、仏国寺、そして慶州歴史地域と3つの世界遺産があることもあって国内外から旅行客が訪れる人気の観光都市だ。
そんな街をホアナウンサーは、自身のユーチューブチャンネル「ウリョンのユーディオ」のプロデューサー、そして盲導犬のハヤンとともに訪れた。
ユーチューブに投稿された動画「私が何を聞いたんでしょうか? 盲導犬と慶州で経験した突発状況...」の中で、ホアナウンサーは天馬塚(チョンマチョン)、大陵苑(デルンウォン)といった古墳をまわった後、レストランや市場を訪れ、ニュースを見ているという視聴者から声をかけられるなど、慶州の旅を楽しんだ。
KBSの昼のニュースに出演する視覚障害者のホ・ウリョン・アナウンサー KBS News / YouTube
「安全上、盲導犬の入店はできません」
そして、最後にちょっと必要なものがあったというホアナウンサーたちはダイソーに立ち寄った。韓国でもダイソーは「チョンウォンショップ」(日本の100円均一に対して、為替レートが円の10倍になるウォンで1000ウォン均一としているため)と呼ばれてソウルをはじめとした各地にあり、人気が高い。
ところが、そこでトラブルが起きた。売場の店員がホアナウンサーと盲導犬のハヤンを見るやいなや、こう言った。
「安全上の問題から盲導犬の入店はできません」
これに対しホアナウンサーが「安全の問題と盲導犬が入ることは関係ないのではないですか?」と尋ねると、その店員は「私たちは他のお客さんの安全も考えなければないません。ここには物が沢山あるんです」と答えたという。
それでもホアナウンサーが「私たちはダイソーの他の店舗にも行きますし、そこでは盲導犬が入ることができますよ」と話し、また同行しているプロデューサーも「安全かどうかは私たちが決めることではないですか?」と説得したが、店員は「商品にぶつかって倒れたりするかもしれないですし」と話して埒が明かない。
ホアナウンサーたちは「転んだりはしませんから」と店員をなんとか安心させて、急いで買い物をして店を出たという。
盲導犬を断ると罰金300万ウォン
実は日本同様、韓国でも盲導犬の入店を断ることは法律で禁止されている。障害者差別禁止法と障害者福祉法に基づいて、盲導犬などの補助犬を同伴した障害者の公共交通、公共施設、宿泊施設、食品接客業者の利用を正当な理由なしに拒否できないことになっており、これに違反した場合は300万ウォン(約32万円)以下の罰金が科せられる。
今回のホアナウンサーが体験したダイソーでのトラブルの動画を見たネットユーザーたちからは、「従業員の教育からしなければならないような...... 呆れてものが言えないですね」「この映像を見てダイソーのホームページにサービス改善文を載せます」「うちの近所のダイソーは普通の犬も全部入れるのに盲導犬を拒否するなんてあの店はひどいですね」といったコメントが付けられた。
さらには「私がダイソーに苦情を申し立てて、今日担当者から電話を受けました。 適切な措置を取ると言っています。必ず改善されると思います」というコメントまで登場した。
これに対してホアナウンサーは、「慶州で楽しく挨拶して歓迎してくださったレストラン、観光名所のすべての方々に感謝いたします!! 私たちが気楽に行ける所、いい思い出を作れる所をたくさん探してみます。今日もドタバタした私たちの日常 The end ps.*映像アップロード後、ダイソーの方々と直接連絡をとって、盲導犬に関して今後職員の教育をしてくださるという約束を受けました。盲導犬パートナーが快適に利用できるダイソーになることを願い、多くの部分に気を配ってくださってありがとうございます!」というメッセージを残している。
KBSの昼のニュースに出演しているホ・ウリョン・アナウンサーと盲導犬のハヤン KBS News / YouTube
慶州市が調査へ
とはいえ、この問題がニュースなどで報道されたこともあって、慶州市はダイソーへの立入調査を行うと発表している。問題となった慶州市内のダイソーの店舗と韓国ダイソー本社を対象に調査し、違法な点が確認されれば関連法令に従って対応する方針だ。
市の関係者は「今回の事件は市民の人権と障害者権利に対する重要な問題であり、迅速で徹底した調査を通じて法的手続きを履行する計画だ」とし、「地域内の公共機関と商業施設を対象に障害者福祉法遵守と人権教育を強化する」と話している。
なお、韓国のダイソーは、日本のダイソーから商品の供給はあるものの、資本関係は2023年末になくなっており100%韓国企業だ。
過去にも起きた盲導犬の入店拒否事件
韓国では2020年に大手スーパーの「ロッテマート」ソウル蚕室(チャムシル)店でも盲導犬の入店拒否が大きな問題になったことがある。
この事件では、当初ロッテマート側は盲導犬の入店を許可したものの、店内のあるお客から「健常者なのに盲導犬を連れている」という苦情があったという。実はこの時、盲導犬を連れていたのは盲導犬学校の健常者スタッフで、さまざまな場所に行くことに犬を慣れさせる「パピーウォーキング」という訓練のため訪れていたのだ。
だが、こうした事情を知らなかった店長は「店の外に連れて行ってほしい」と大きな声で呼び止めたため、盲導犬を連れていたスタッフも反発して「正当なパピーウォーキング中だ」と怒鳴り返し、双方が大声で言い争いだして、驚いた盲導犬が食品販売コーナーの床に粗相をしてしまったという。
ロッテマート側は翌日謝罪文を発表したが、ソウル市松坡区(ソンパく)から200万ウォンの罰金を課せられた。
<韓国の観光名所として知られる慶州市で起きた盲導犬入店拒否事件。KBSのホ・ウリョン・アナウンサーが体験した「見えない壁」に、ネット上では怒りの声が相次ぎ──>
世界各国でインクルーシブな社会を目指して障害者の社会進出が進みつつある。韓国では公共放送KBSの昼のニュースに2011年から障害者がサブアンカーとして出演し、生活情報コーナーを担当している。ところが、そのサブアンカーを務める視覚障害者ホ・ウリョン・アナウンサーが、旅行先で立ち寄ったダイソーで、盲導犬と一緒に入店することを断られるというトラブルが起きて議論を呼んでいる。韓国メディアYTN、ニューシス、マネーSなどが報じた。
【動画】ホ・ウリョン・アナウンサーと盲導犬ハヤン
古都の旅を楽しんでいたが......
韓国東部の慶尚北道慶州市(キョンサンプクドキョンジュし)は、紀元前57年から約1000年にわたって新羅王国の都だった風光明媚な古都。市内には石窟庵、仏国寺、そして慶州歴史地域と3つの世界遺産があることもあって国内外から旅行客が訪れる人気の観光都市だ。
そんな街をホアナウンサーは、自身のユーチューブチャンネル「ウリョンのユーディオ」のプロデューサー、そして盲導犬のハヤンとともに訪れた。
ユーチューブに投稿された動画「私が何を聞いたんでしょうか? 盲導犬と慶州で経験した突発状況...」の中で、ホアナウンサーは天馬塚(チョンマチョン)、大陵苑(デルンウォン)といった古墳をまわった後、レストランや市場を訪れ、ニュースを見ているという視聴者から声をかけられるなど、慶州の旅を楽しんだ。
KBSの昼のニュースに出演する視覚障害者のホ・ウリョン・アナウンサー KBS News / YouTube
「安全上、盲導犬の入店はできません」
そして、最後にちょっと必要なものがあったというホアナウンサーたちはダイソーに立ち寄った。韓国でもダイソーは「チョンウォンショップ」(日本の100円均一に対して、為替レートが円の10倍になるウォンで1000ウォン均一としているため)と呼ばれてソウルをはじめとした各地にあり、人気が高い。
ところが、そこでトラブルが起きた。売場の店員がホアナウンサーと盲導犬のハヤンを見るやいなや、こう言った。
「安全上の問題から盲導犬の入店はできません」
これに対しホアナウンサーが「安全の問題と盲導犬が入ることは関係ないのではないですか?」と尋ねると、その店員は「私たちは他のお客さんの安全も考えなければないません。ここには物が沢山あるんです」と答えたという。
それでもホアナウンサーが「私たちはダイソーの他の店舗にも行きますし、そこでは盲導犬が入ることができますよ」と話し、また同行しているプロデューサーも「安全かどうかは私たちが決めることではないですか?」と説得したが、店員は「商品にぶつかって倒れたりするかもしれないですし」と話して埒が明かない。
ホアナウンサーたちは「転んだりはしませんから」と店員をなんとか安心させて、急いで買い物をして店を出たという。
盲導犬を断ると罰金300万ウォン
実は日本同様、韓国でも盲導犬の入店を断ることは法律で禁止されている。障害者差別禁止法と障害者福祉法に基づいて、盲導犬などの補助犬を同伴した障害者の公共交通、公共施設、宿泊施設、食品接客業者の利用を正当な理由なしに拒否できないことになっており、これに違反した場合は300万ウォン(約32万円)以下の罰金が科せられる。
今回のホアナウンサーが体験したダイソーでのトラブルの動画を見たネットユーザーたちからは、「従業員の教育からしなければならないような...... 呆れてものが言えないですね」「この映像を見てダイソーのホームページにサービス改善文を載せます」「うちの近所のダイソーは普通の犬も全部入れるのに盲導犬を拒否するなんてあの店はひどいですね」といったコメントが付けられた。
さらには「私がダイソーに苦情を申し立てて、今日担当者から電話を受けました。 適切な措置を取ると言っています。必ず改善されると思います」というコメントまで登場した。
これに対してホアナウンサーは、「慶州で楽しく挨拶して歓迎してくださったレストラン、観光名所のすべての方々に感謝いたします!! 私たちが気楽に行ける所、いい思い出を作れる所をたくさん探してみます。今日もドタバタした私たちの日常 The end ps.*映像アップロード後、ダイソーの方々と直接連絡をとって、盲導犬に関して今後職員の教育をしてくださるという約束を受けました。盲導犬パートナーが快適に利用できるダイソーになることを願い、多くの部分に気を配ってくださってありがとうございます!」というメッセージを残している。
KBSの昼のニュースに出演しているホ・ウリョン・アナウンサーと盲導犬のハヤン KBS News / YouTube
慶州市が調査へ
とはいえ、この問題がニュースなどで報道されたこともあって、慶州市はダイソーへの立入調査を行うと発表している。問題となった慶州市内のダイソーの店舗と韓国ダイソー本社を対象に調査し、違法な点が確認されれば関連法令に従って対応する方針だ。
市の関係者は「今回の事件は市民の人権と障害者権利に対する重要な問題であり、迅速で徹底した調査を通じて法的手続きを履行する計画だ」とし、「地域内の公共機関と商業施設を対象に障害者福祉法遵守と人権教育を強化する」と話している。
なお、韓国のダイソーは、日本のダイソーから商品の供給はあるものの、資本関係は2023年末になくなっており100%韓国企業だ。
過去にも起きた盲導犬の入店拒否事件
韓国では2020年に大手スーパーの「ロッテマート」ソウル蚕室(チャムシル)店でも盲導犬の入店拒否が大きな問題になったことがある。
この事件では、当初ロッテマート側は盲導犬の入店を許可したものの、店内のあるお客から「健常者なのに盲導犬を連れている」という苦情があったという。実はこの時、盲導犬を連れていたのは盲導犬学校の健常者スタッフで、さまざまな場所に行くことに犬を慣れさせる「パピーウォーキング」という訓練のため訪れていたのだ。
だが、こうした事情を知らなかった店長は「店の外に連れて行ってほしい」と大きな声で呼び止めたため、盲導犬を連れていたスタッフも反発して「正当なパピーウォーキング中だ」と怒鳴り返し、双方が大声で言い争いだして、驚いた盲導犬が食品販売コーナーの床に粗相をしてしまったという。
ロッテマート側は翌日謝罪文を発表したが、ソウル市松坡区(ソンパく)から200万ウォンの罰金を課せられた。