周来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)
<訪日客が過去最多になったが、日本各地の観光地はその急増に悲鳴を上げている。私はこの冬、現代アートの聖地・直島(香川県)で解決のカギを見つけた>
年明け早々、行きつけの美容室で美容師とオーバーツーリズムの話になった。なんでも昨年夏、オーストラリアから遊びに来た留学時代の友人と箱根の温泉宿に泊まろうとしたところ、超高級リゾートホテルか民泊くらいしか空いていなかったらしい。仕方がないので結局、民泊に泊まったそうだ。
箱根だけではない。鎌倉も横浜も浅草も銀座も、そして関東圏外では京都や大阪、北海道、沖縄......と、定番の観光地はどこも外国人観光客の急増に悲鳴を上げていると聞く。年末年始、観光地や帰省先で実感した人も多いはずだ。
私はといえば、この正月、家族で瀬戸内海の直島(香川県)に行ってきた。強風のため草間彌生の『南瓜』(写真)は見られなかったものの、2泊3日の滞在中、島のあちこちに点在する現代アートをレンタサイクルで見て回ったり、地中美術館でのんびり作品を鑑賞したり、おいしい料理に舌鼓を打ったりと、現代アートの聖地を心ゆくまで堪能した。地元と企業が一体になって盛り上げ、それが功を奏している観光地との印象を持った。
【動画】外国人YouTuberによる「直島の見どころ紹介」を見る
それにしてもオーバーツーリズムは厄介な問題だ。訪れる観光客を適度な人数に抑えるのは至難の業。解決のカギとなり得るのは「分散」だろう。
観光客がもっと地方に流れれば、都市部の定番観光地は多少なりとも混雑が緩和される。実際、日本政府は「地方への誘客促進」を観光政策の1つとして掲げており、各自治体も経済活性化を狙って観光客誘致に力を入れている。
事実、地方に足を延ばす外国人観光客は徐々に増えてきているようだ。ニューヨーク・タイムズ紙が先日発表した「2025年に行くべき52カ所」に、富山市と大阪市が入って話題になった。影響力のあるランキングなので、今後欧米でも富山への関心が高まるだろう。
ただ私から見れば、地方はまだ、一部の個人旅行者が散発的に行くマイナーな場所。もっと継続的に観光客が来るよう手を打つ必要がある。
個人的には、観光客よりもまず人材の誘致が重要ではないかと思う。広島県のある地域で町おこしに奮闘している元経営者の知人がいるが、若者が少なく年寄りばかりで困るとこぼしていた。若者がいないと、単に人手が足りないだけでなく、新しい発想も出てきにくいらしい。
人材の重要性については、直島を訪れてより強く感じるようになった。直島には地元の元漁師が料理長を務めるREGALOというおいしいイタリア料理店があるのだが、そこには東京から移住した若者のほか、スリランカ人やフィリピン人もいた。また、泊まったホテルも従業員は多国籍だったが、素晴らしいホスピタリティーだった。
直島では30年ほど前に、現代アートによる地域再生の取り組みが始まった。事業が進展するにつれ島内外から注目されるようになり、移住者も増加。2018年度から2022年度までの5年間でその数は500人程度にまで膨らんだ。
REGALOで聞いた話によると客の9割は外国人だ。直島とてオーバーツーリズムと無縁なわけではない。それでも、「何の変哲もない」島に新たな魅力をつくり、人材を獲得することで、オーバーツーリズムにもうまく対応しているのだ。他の地域でも参考になるだろう。
都会にも豊かな自然を求める若者や夢を持った若者は多い。また人口減から日本政府も移民受け入れの方向に向かい始めている。
そうした若者や移民を都会のコンビニや工場ではなく、地方に向かわせることができれば、若者や外国人ならではの発想で、魅力ある「次の直島」を生み出し、観光客を分散させることができるのではないか。
あとはいかにして、人材となる若者や外国人を呼び込むか。政府や自治体の力量と本気度が試されるところだ。
周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院を修了。通訳、翻訳、コーディネーターの派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレントとしても活動している。
【動画】外国人YouTuberによる「直島の見どころ紹介」
<訪日客が過去最多になったが、日本各地の観光地はその急増に悲鳴を上げている。私はこの冬、現代アートの聖地・直島(香川県)で解決のカギを見つけた>
年明け早々、行きつけの美容室で美容師とオーバーツーリズムの話になった。なんでも昨年夏、オーストラリアから遊びに来た留学時代の友人と箱根の温泉宿に泊まろうとしたところ、超高級リゾートホテルか民泊くらいしか空いていなかったらしい。仕方がないので結局、民泊に泊まったそうだ。
箱根だけではない。鎌倉も横浜も浅草も銀座も、そして関東圏外では京都や大阪、北海道、沖縄......と、定番の観光地はどこも外国人観光客の急増に悲鳴を上げていると聞く。年末年始、観光地や帰省先で実感した人も多いはずだ。
私はといえば、この正月、家族で瀬戸内海の直島(香川県)に行ってきた。強風のため草間彌生の『南瓜』(写真)は見られなかったものの、2泊3日の滞在中、島のあちこちに点在する現代アートをレンタサイクルで見て回ったり、地中美術館でのんびり作品を鑑賞したり、おいしい料理に舌鼓を打ったりと、現代アートの聖地を心ゆくまで堪能した。地元と企業が一体になって盛り上げ、それが功を奏している観光地との印象を持った。
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それにしてもオーバーツーリズムは厄介な問題だ。訪れる観光客を適度な人数に抑えるのは至難の業。解決のカギとなり得るのは「分散」だろう。
観光客がもっと地方に流れれば、都市部の定番観光地は多少なりとも混雑が緩和される。実際、日本政府は「地方への誘客促進」を観光政策の1つとして掲げており、各自治体も経済活性化を狙って観光客誘致に力を入れている。
事実、地方に足を延ばす外国人観光客は徐々に増えてきているようだ。ニューヨーク・タイムズ紙が先日発表した「2025年に行くべき52カ所」に、富山市と大阪市が入って話題になった。影響力のあるランキングなので、今後欧米でも富山への関心が高まるだろう。
ただ私から見れば、地方はまだ、一部の個人旅行者が散発的に行くマイナーな場所。もっと継続的に観光客が来るよう手を打つ必要がある。
個人的には、観光客よりもまず人材の誘致が重要ではないかと思う。広島県のある地域で町おこしに奮闘している元経営者の知人がいるが、若者が少なく年寄りばかりで困るとこぼしていた。若者がいないと、単に人手が足りないだけでなく、新しい発想も出てきにくいらしい。
人材の重要性については、直島を訪れてより強く感じるようになった。直島には地元の元漁師が料理長を務めるREGALOというおいしいイタリア料理店があるのだが、そこには東京から移住した若者のほか、スリランカ人やフィリピン人もいた。また、泊まったホテルも従業員は多国籍だったが、素晴らしいホスピタリティーだった。
直島では30年ほど前に、現代アートによる地域再生の取り組みが始まった。事業が進展するにつれ島内外から注目されるようになり、移住者も増加。2018年度から2022年度までの5年間でその数は500人程度にまで膨らんだ。
REGALOで聞いた話によると客の9割は外国人だ。直島とてオーバーツーリズムと無縁なわけではない。それでも、「何の変哲もない」島に新たな魅力をつくり、人材を獲得することで、オーバーツーリズムにもうまく対応しているのだ。他の地域でも参考になるだろう。
都会にも豊かな自然を求める若者や夢を持った若者は多い。また人口減から日本政府も移民受け入れの方向に向かい始めている。
そうした若者や移民を都会のコンビニや工場ではなく、地方に向かわせることができれば、若者や外国人ならではの発想で、魅力ある「次の直島」を生み出し、観光客を分散させることができるのではないか。
あとはいかにして、人材となる若者や外国人を呼び込むか。政府や自治体の力量と本気度が試されるところだ。
周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院を修了。通訳、翻訳、コーディネーターの派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレントとしても活動している。
【動画】外国人YouTuberによる「直島の見どころ紹介」