Infoseek 楽天

【トランプ2.0】「少数の金持ちによる少数の金持ちのための政治」の時代がやってきた

ニューズウィーク日本版 2025年1月22日 22時40分

ヒュー・キャメロン
<英慈善団体オックスファムは、このままIT富豪の資産が増え続ければ、世界は数人の「兆ドル」長者に経済も政治も支配されかねないと警告。その先駆けが2期目のトランプだという>

イギリスを拠点とする国際慈善団体オックスファムは1月20日に公開した年次報告書で、2024年に世界のビリオネア(資産10億ドル超を保有する最富裕層)の資産総額が前年から2兆ドル増えて、15兆ドルに達したことを明らかにした。

彼らの資産が今後も急速なペースで増え続ければ、今後10年以内に資産1兆ドル長者が5人誕生する可能性があるという(昨年の予測では1人だけだった)。

オックスファムとその支持者たちは、このような富の集中は不公平で政治的な影響力に歪みをもたらすと警告している。

 

一方で、ビリオネアは経済的に困窮している人々に恩恵をもたらしたり、集団的な問題を解決したりする上で政府よりも役に立つことが多いと指摘する声もある。

20日に行われたトランプ米大統領の就任式にテクノロジー業界のビリオネアが数多く出席したことで注目を集めることとなった。

■大統領就任式にこぞって出席したIT富豪たちは、歴代大統領やトランプの家族の隣りなど最高の席で歓迎を受けた



データベースサービスを提供する英アルトラタが2024年11月に発表した報告書によれば、世界のビリオネアの大半は純資産が10億ドルから50億ドルだが、そのうちかなりの富が、保有資産ランキング上位の超富裕層に集中している。

貧困ライン以下の人口はほぼ変わらず

世界の億万長者500人の純資産をランク付けするブルームバーグ・ビリオネア指数を見ると、世界の超富裕層トップ10人の純資産は合計で2兆ドルを超えている。ランク1位はテスラCEOでトランプの最側近とも目さえるイーロン・マスクの純資産は、20日時点で4490億ドル。トップ10人のうち9人がアメリカ人で、その多くがテクノロジー部門の出身だ。

 

トップ10人のうち高級ブランドを傘下に持つ仏LVMHのベルナール・アルノーCEOを除く全員が、過去12カ月で資産を激増させた。テクノロジー業界の急成長の反映だと、米シンクタンク「政策研究所」のオマー・オカンポ研究員は本誌に語った。

「人工知能(AI)をめぐる熱狂とその開発に投じられた数十億ドルの投資により、2024年はテクノロジー株が大幅に高騰した。その結果、テクノロジー分野のビリオネアの資産も膨らんで前例のない水準に達している」



オックスファムが引用した最近の世界銀行の報告書によれば、富裕層に追い風が吹く一方で、上位中所得国の貧困ラインである1日あたり6.85ドル未満で暮らしている人々の割合はざっと5割で一定している。全体の人口は増加しているため、絶対数は1990年以来「ほとんど変わっていない」という。

これら貧困層の大半は、経済発展の水準が低く政治的な影響力も弱いとされるグローバルサウス(途上国の大半が位置する南半球)に位置している。この地域では豊かな国々による天然資源の採取や安価な労働力の搾取が横行しており、オックスファムはこれを「現代の植民地主義」と批判する。

また億万長者の富の水準が新しい次元に到達するのに伴って、彼らが政治的な影響力をも増大させていることに警鐘を鳴らす。

 

莫大な富の蓄積は努力や創意工夫の結果であり、それ自体が本質的に悪いものではない、と主張する人々もいる。ビリオネアは、恵まれない立場にいる人々を助ける上で、政府より役立つ場合もあるという。

学者のジェシカ・フラニガンとクリス・フレイマンは2022年に発表したエッセイ「Wealth Without Limits: In Defense of Billionaires(限りない富:ビリオネア擁護論)」の中で、ビリオネアはその莫大な富を慈善活動のために使うことが多いと指摘。彼らの富は増税によって政府の手に渡るよりも、彼ら自身が管理した方がより効果的に使われると主張した。

同様に、アメリカン・エンタープライズ研究所のエコノミスト、マイケル・ストレインは2024年1月、「ビリオネアのイノベーターは、社会に莫大な価値をもたらしている」と書いた。ノーベル経済学賞受賞者のウィリアム・ノードハウスも2004年に著した論文で、技術革新が社会にもたらすリターンの大半は、イノベーションを主導した者より消費者に流れていることを発見したという。



オックスファムのエグゼクティブ・ディレクター、アミターブ・ベハールは、こう述べている。「特権的地位にある少数の者によるグローバル支配は、かつては想像もできなかったほどの高みに達している。億万長者を押しとどめることができない中で、今や、総資産が1兆ドルを超えるトリリオネア予備軍も生まれている。億万長者への富の蓄積がこれまでの3倍に加速しているだけでなく、こうした大富豪が持つ支配力も加速度的に強まっているのだ」

 

「こうしたオリガルヒ(新興財閥による寡頭政治)に君臨するのが、ビリオネアの大統領だ。彼は、世界一の大富豪のイーロン・マスクから資金提供を受け、世界最大の経済大国を率いている」と、ベハールは指摘した。

ジョー・バイデンは、大統領としての最後の演説の中で、こう述べた。「現在、極端に多くの富と権力、影響力を有する者たちの寡頭政治がアメリカに現れようとしている。これは、民主主義そのもの、我々の基本的権利と自由、そしてすべての人が成功を目指す平等なチャンスを脅かす存在だ」

その是正策として、バイデンは以下の提案をした。「我々は税法を改正しなければならない。ビリオネアに最大の減税を繰り返す代わりに、相応の負担を求め始めるべきだ」



だがジェシカ・フラニガンとクリス・フライマンは、以下のように説く。「ビリオネアに高い税率を課すのは非生産的だ。(中略)彼らの富は、市場に投資されるほうが、税金として徴収・再配分されるよりも、社会への貢献度が高いからだ」

「例えばアマゾンは、多くの消費財の価格を引き下げ、実店舗を訪れる手間を省いて、多くのアメリカ人が自由に使える時間を大幅に増やした。(中略)、(創業者のジェフ・)ベゾスが受け取っている報酬は、彼が社会にもたらした大きな恩恵のごく一部にすぎない」

 

オックスファムは世界各国の政府に対し、「不平等を緩和し、極端な富の偏在を終わらせるためにすぐ行動を起こす」よう呼びかけている。具体的には、タックスヘイブン(租税回避地)の撤廃、「新たな貴族階級の解体」を目的とする相続税の増税、そして、世界屈指の富をもつ個人や企業が「相応の負担をする」ようにする税制などを提言する。

オックスファムの報告書は、スイスのダボスで世界経済フォーラム(WEF)の年次会合が始まるタイミングで発表された。WEFの年次会合では、ビジネス界のリーダーや政治家、研究者が集まり、世界経済の課題について議論する。ドナルド・トランプ大統領も23日にライブ中継でリモート参加する予定だと、AP通信が伝えている。
(翻訳:ガリレオ)



この記事の関連ニュース