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大学と学生のミスマッチ? この10年で急増する「仮面浪人」

ニューズウィーク日本版 2025年1月22日 10時30分

舞田敏彦(教育社会学者)
<高校卒業の時点で将来展望を固めるのは難しい。大学・学部間の移行制度の充実を>

今年度の大学入試共通テストが終了した。志願者は49万5171人で、そのうち高校等の既卒者は6万4974人。割合にすると13.1%だ。

多くは浪人組と思われているが、前年の統計を見ると「浪人組はここまで多いか」という疑問がわく。前年(2024年春)の大学・短大入学志願者は67万7462人で、大学・短大入学者は66万2243人。惜しくも入学が叶わず、今年の試験に再トライしてくる浪人組は、最大に見積もっても1万5219人ということになる。だが上述のように、今年の大学入試共通テストの志願者(既卒者)は6万4974人。大きな差がある。

大手の駿台予備校は、この差は、現在大学等に在学しているものの、別の大学等を受け直そうという「再受験者」によるのではないか、という推測をしている(「大学入学後の『再受験』急増 9年で60倍、予備校調査」朝日新聞WEB版、2013年2月7日)。いわゆる「仮面浪人」だ。

今年だと、6万4974人から1万5219人を引いて4万9755人ということになる。結構な数だ。計算の過程を整理すると、<表1>のようになる。

共通テスト(以前はセンター試験)の高校等既卒の志願者から、最大に見積もった浪人数を引いた値を「再受験者」とみなす。先ほど書いたように2025年では4万9755人で、10年前の2015年(3万6839人)よりもかなり増えている。

この中には、高校卒業時点では大学進学を希望しなかったものの、一定期間たってから進学を志した人も含まれる。だが多くは、現在大学等に在籍し、思うところがあって別の大学等を受け直そうという「再受験組」ではないか。

前年の大学・短大入学者数に占める割合にすると2025年では7.5%。大雑把に言うと、大学等の入学者の13人に1人が「やはり違うな」と、別の大学等を受け直す、ということになる(再受験者の全てが1年生とした場合)。前掲の朝日新聞記事で矢野眞和教授(教育社会学)は「家計の事情で浪人をあきらめて不本意な大学に入る学生が目立ってきている」と指摘しているが、そういう事情もあるだろう。

現在、大学全入時代に突入している。どこそこの大学のオープンキャンパスに行けばチヤホヤされ、いい気分になって「ここにするか」と安易に決めてしまう者もいる。AO入試や推薦等で簡単に入れる大学に流れる、ということも多くなっている。こういう状況の中で、入学後に違和感を抱き、「やっぱり別のところを受け直そう」と思い立つ学生が増えるというのは、ある意味当然のことだ。

「大学選びは慎重に」と言うのは簡単だが、18歳の時点までに将来展望を固めるのは難しい。大学間の移行(transfer)のルートを広げるのも必要かもしれない。編入の制度はあるものの、間口は狭い。学びの場の選択肢(高等教育機関の数)が増えているだけに、変更の機会を確保することも求められるだろう。

<資料:文科省『学校基本調査』、
大学入試センター「平成27年度大学入試センター試験の志願者数について」「令和7年度大学入学共通テストの志願者数について」>

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