エリー・クック(安全保障・防衛担当)
<中国・ロシア・北朝鮮からのミサイル攻撃に備えて、米本土を覆う迎撃網計画をトランプがぶち上げた>
ロシアや中国、北朝鮮から無数の長距離ミサイルが飛んできたら、アメリカはどうするのか。
その備えは十分でないと指摘する報告書が出た。イスラエルの誇る対空防衛システム「アイアンドーム」の米国版を構築するというドナルド・トランプ大統領の公約を実現するための、いわばロードマップと言えそうだ。
執筆したのは第1次トランプ政権で核・ミサイル防衛政策担当の国防次官補代理を務めたロバート・スーファーで、米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」に提出した。
核弾頭搭載のICBM(大陸間弾道ミサイル)を使うような長距離攻撃の脅威が「現実的で増大しつつある」と指摘し、北朝鮮や中国やロシアによる攻撃を未然に防ぐには、報復攻撃の威力を誇示するだけでなく、有事に備えて迎撃体制の強化・拡大を急ぐべきだと提言する。
宇宙空間における迎撃や、複数の国で採用間近の「指向性エネルギー兵器」にも投資すべきだという。
国防総省ミサイル防衛局(MDA)の年間予算は現在30億ドルだが、年間40億~50億ドル追加すべきだとも主張し、「国防の最優先事項だから国防予算全体の1%くらいは割くべき」だとしている。
トランプは米国本土の上空に「アイアンドームを築く」ことにより「わが国民に誰も危害を加えることができない」ようにすると豪語しているが、それを実現する具体的な計画は明らかにしていない。
ロシア北西部の発射場から試験発射されたICBM RUSSIAN DEFENSE MINISTRY PRESS SERVICEーAP/AFLO
第2次トランプ政権は、1期目よりも世界が危険な状態で始まる。核兵器による威嚇が横行し、弾道ミサイルの実験が続くなか、2期目のトランプ政権はいかなる本土防衛計画を描くのか。
今の迎撃態勢はその場しのぎ
現状で、ロシアや中国から飛んでくる大量のICBMを全て迎撃できる統合システムは存在しない。ただし北朝鮮の撃ち込む比較的少数のミサイルなら撃ち落とせる。
しかし、所詮はその場しのぎの対応だ。
現在アメリカ国内には地上配備型迎撃ミサイル(GBI)が44基配備されている。うち40基はアラスカ州のサイロに格納されており、4基はカリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地に地上配備型ミッドコース防衛(GMD)の一環として配置されている。
なお国防総省は2028年をめどに、現在のGBI44基に加えて次世代迎撃ミサイル(NGI)20基を配備する予定だ。
迎撃できなかったミサイルには、海軍のイージス艦が対応することになる。スーファーによれば、イージス艦で国土の3分の1を守れる。ミサイル防衛局と海軍は20年11月、模擬弾頭のICBMに対する弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイル(SM3ブロック2A)の発射実験をしている。
グレン・バンハーク退役空軍大将は、米国北方軍と(アメリカとカナダの)北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)の司令官だった23年3月当時の議会証言で、「北朝鮮による限定的な弾道ミサイルの脅威から国土を防衛する現有能力には自信がある」としながらも将来の対応には懸念を示し、NGIの実戦配備が「決定的に重要」だと指摘していた。
アメリカ中央軍の運用するTHAADの発射台 CAPT. DUY NGUYENーDOD
まずはSM3ブロック2Aを増やすべきだと、スーファーの報告書は言う。その上でGBIも増やし、長期的には宇宙空間での迎撃を含む技術に投資し、レーザーなどを使う指向性エネルギー兵器も検討する。
イスラエルのアイアンドームは、同国の企業ラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズが構築したもので、短距離ロケット弾による攻撃を想定している。
だが、そんな攻撃はアメリカにとって主たる脅威ではない。そもそも国土の面積が桁違いだし、ミサイルがどこから飛んでくるかも分からない。
トランプは昨年12月にアリゾナ州フェニックスで開いた集会で「偉大なミサイル防衛となるアイアンドーム建設を始めるよう軍に指示する。
全て米国内で、その多くはここアリゾナで製造する」と述べた。新政権の安全保障担当大統領補佐官に起用されたフロリダ州選出の共和党下院議員マイク・ウォルツも、同時期に「アメリカにもアイアンドームが必要だ」と述べている。
ただしスーファーは、包括的な防衛構想としての「米国版アイアンドーム」はもっと多層的なものにすべきだと考える。
スーファーによると、想定すべきシナリオは複数ある。まずは北朝鮮が故意または偶発的に少数のミサイルを発射する可能性だが、核兵器も通常兵器も大量に保有するロシアや中国の猛攻に備える必要もある。
1期目のトランプ政権で核・ミサイル防衛を担当したロバート・スーファー MARINE CORPS SGT. DYLAN C. OVERBAYーDOD
専門家によると、北朝鮮の脅威とロシアや中国の脅威は異質なものだ。北朝鮮は敵意をむき出しにしてくるが、保有弾頭数に限りがある。
しかし中国かロシア、または両国からの攻撃となれば何千発もの弾道・巡航ミサイル、電磁兵器が使われ、妨害電波も飛んでくる。
米シンクタンク「スティムソン・センター」の客員研究員で、かつてNATOの軍備管理・軍縮・大量破壊兵器不拡散センターを率いたウィリアム・アルバークに言わせれば「とんでもない規模」になる。
現実的なのは限定攻撃だが
だが今回の報告書によると、中国やロシアはアメリカを威嚇するために限定的な攻撃を選ぶ可能性もある。
その目的は他国での紛争から手を引かせたり、集団防衛の約束を結んだ同盟国への支援を思いとどまらせることに限定されており、アメリカを過度に挑発して核兵器を使わせたり、大規模な報復攻撃を招いたりする事態は望んでいないはずだ。
ただし中国やロシアは、核兵器による報復攻撃を阻止するためにアメリカの核戦力や司令部を標的にする可能性もある。そうした事態に備え、主要基地を守る迎撃システムの用意が必要だと、スーファーの報告書にはある。
ミサイル防衛は「自国民の絶対的な保護」に注力するより、どんな攻撃を仕掛けても無駄だとロシアや中国に思わせることに重点を置くべきだとも書いてある。
今回の報告書によれば、ひたすらアメリカ本土を守るためにあるGBIは、SM3に加えてTHAAD(高高度防衛ミサイル)などの関連技術の全てと統合されるべきだ。
現状でアメリカはSM3を毎年12基製造しているが、それを2倍にする必要があるとスーファーは言う。
THAADは24年4月と10月にイスラエルを攻撃したイランの弾道ミサイルの撃墜に役立った。
アメリカは既にNGIを開発しており、開発担当に選ばれた防衛大手のロッキード・マーティンは、「アメリカ本土のミサイル防衛に革命を起こす」ミサイルだとしている。
同社によれば、このミサイルはイランや北朝鮮によるICBM攻撃からアメリカ本土全体を守るために設計されたものだ。
イージス艦やTHAADは降下してくるICBMを標的とするが、GBIは大気圏外を航行中のICBMに襲いかかる。ICBMを早い段階で撃ち落とすことになり、ミサイル防衛能力は格段に高まる。
SM3やGBIを使用する段階より前にICBMを迎撃する方法もいくつかある。発射の初期段階でミサイルを撃ち落とす「ブースト段階ミサイル防衛」を検討すべきだ、とスーファーは本誌に語った。
戦闘機を発射地点の近くの空中で静止させて迎撃する、あるいはドローンやレーザー兵器を同様の位置に配置するという考え方もあるが、これが有効なのは北朝鮮かイランの攻撃に対してだけだろう。
韓国にも、ひそかに開発中の対策がある。北朝鮮に核爆弾やミサイルを使用する兆候があれば彼らの核・ミサイル施設を先制攻撃するなどの「キル・チェーン」と呼ばれる複合的な戦略だ。
韓国はさらに、迎撃のためのミサイル防衛システムと、精密攻撃や特殊部隊を使って北朝鮮の高官や司令部機能を無効化する大規模反撃報復(KMPR)計画を組み合わせている。アルバークに言わせれば、この両者は韓国の剣であり盾だ。
アメリカの政策は「ミサイル発射を未然に防ぐための攻撃手段と重層的ミサイル防衛戦略を組み合わせることで、北朝鮮の長距離ミサイルの脅威に先手を打つ」ことであるべきだとスーファーは書いている。
もう1つの選択肢は、宇宙空間で迎撃ミサイルを発射することだ。これは米国版アイアンドームにとって欠かせないもので、もはや宇宙の「兵器化」は必要不可欠だとスーファーは主張する。
新大統領も同じ考えのようだ。トランプはアリゾナの集会で、「昔のロナルド・レーガンもそれをやりたかったが、当時はまだ技術がなかった」と言った。「しかし今なら、空から針1本でもたたき落とせる」
1980年代に東西冷戦を終結に導いたレーガン大統領は、一方で戦略防衛構想(SDI)を推進した。俗に「スター・ウォーズ」と呼ばれたこの構想には、宇宙空間でソ連(当時)の発射したICBMを迎撃するプランが含まれていた。
宇宙ベースの防衛は不可欠
SM3やGBIのようなシステムは、能力が限定された北朝鮮のICBMの撃墜には十分だろう、とスーファーは言う。だがロシアや中国のICBMの脅威に対処するには、宇宙ベースの迎撃ミサイルが唯一の方法だという。
ロシアが本気でアメリカに攻撃を仕掛けてきたら、アメリカ本土、とりわけ戦略核兵器の所在地に向けて1000発以上の核弾頭が降ってくるだろう。
そうなると、1発ずつ迎撃しつつ反撃用ミサイルの被弾を防ぐという寄せ集め的なアプローチでは間に合わないとスーファーは言う。
だから国防総省は「敵の開発能力を上回るために宇宙センサーやSBI(宇宙ベースの迎撃ミサイル)、指向性エネルギー兵器など物理的破壊を伴わない選択肢、将来の革新的な能力を開発するための投資にもっと重点を置くべきだ」と、報告書にはある。
ただし懐疑的な意見もある。「いったん宇宙空間にシステムを配備し始めたら、もう止まれない」とアルバークは言う。
「ロシアや中国が追随するのは必至だ」
言うまでもなく、ロシアも中国もミサイル迎撃システムの強化に励んでいる。
スーファーの報告書によれば、そうした迎撃システムは「ロシアと中国に非対称的な優位性をもたらす可能性がある。ロシアと中国の国土防空・ミサイル防衛の拡大は特定の状況における軍事バランスに影響を与え、アメリカの数少ない選択肢を混乱させかねない」。
ロシアと中国は早期警戒衛星の開発で協力し、ロシアの防空における優位性と中国の宇宙探査における経験知を融合させている。今は宇宙軍拡競争の真っただ中だ、とアルバークは警告する。
「スタート地点だと思うのは間違いだ」
■イスラエルのアイアンドーム
<中国・ロシア・北朝鮮からのミサイル攻撃に備えて、米本土を覆う迎撃網計画をトランプがぶち上げた>
ロシアや中国、北朝鮮から無数の長距離ミサイルが飛んできたら、アメリカはどうするのか。
その備えは十分でないと指摘する報告書が出た。イスラエルの誇る対空防衛システム「アイアンドーム」の米国版を構築するというドナルド・トランプ大統領の公約を実現するための、いわばロードマップと言えそうだ。
執筆したのは第1次トランプ政権で核・ミサイル防衛政策担当の国防次官補代理を務めたロバート・スーファーで、米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」に提出した。
核弾頭搭載のICBM(大陸間弾道ミサイル)を使うような長距離攻撃の脅威が「現実的で増大しつつある」と指摘し、北朝鮮や中国やロシアによる攻撃を未然に防ぐには、報復攻撃の威力を誇示するだけでなく、有事に備えて迎撃体制の強化・拡大を急ぐべきだと提言する。
宇宙空間における迎撃や、複数の国で採用間近の「指向性エネルギー兵器」にも投資すべきだという。
国防総省ミサイル防衛局(MDA)の年間予算は現在30億ドルだが、年間40億~50億ドル追加すべきだとも主張し、「国防の最優先事項だから国防予算全体の1%くらいは割くべき」だとしている。
トランプは米国本土の上空に「アイアンドームを築く」ことにより「わが国民に誰も危害を加えることができない」ようにすると豪語しているが、それを実現する具体的な計画は明らかにしていない。
ロシア北西部の発射場から試験発射されたICBM RUSSIAN DEFENSE MINISTRY PRESS SERVICEーAP/AFLO
第2次トランプ政権は、1期目よりも世界が危険な状態で始まる。核兵器による威嚇が横行し、弾道ミサイルの実験が続くなか、2期目のトランプ政権はいかなる本土防衛計画を描くのか。
今の迎撃態勢はその場しのぎ
現状で、ロシアや中国から飛んでくる大量のICBMを全て迎撃できる統合システムは存在しない。ただし北朝鮮の撃ち込む比較的少数のミサイルなら撃ち落とせる。
しかし、所詮はその場しのぎの対応だ。
現在アメリカ国内には地上配備型迎撃ミサイル(GBI)が44基配備されている。うち40基はアラスカ州のサイロに格納されており、4基はカリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地に地上配備型ミッドコース防衛(GMD)の一環として配置されている。
なお国防総省は2028年をめどに、現在のGBI44基に加えて次世代迎撃ミサイル(NGI)20基を配備する予定だ。
迎撃できなかったミサイルには、海軍のイージス艦が対応することになる。スーファーによれば、イージス艦で国土の3分の1を守れる。ミサイル防衛局と海軍は20年11月、模擬弾頭のICBMに対する弾道ミサイル防衛用能力向上型迎撃ミサイル(SM3ブロック2A)の発射実験をしている。
グレン・バンハーク退役空軍大将は、米国北方軍と(アメリカとカナダの)北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)の司令官だった23年3月当時の議会証言で、「北朝鮮による限定的な弾道ミサイルの脅威から国土を防衛する現有能力には自信がある」としながらも将来の対応には懸念を示し、NGIの実戦配備が「決定的に重要」だと指摘していた。
アメリカ中央軍の運用するTHAADの発射台 CAPT. DUY NGUYENーDOD
まずはSM3ブロック2Aを増やすべきだと、スーファーの報告書は言う。その上でGBIも増やし、長期的には宇宙空間での迎撃を含む技術に投資し、レーザーなどを使う指向性エネルギー兵器も検討する。
イスラエルのアイアンドームは、同国の企業ラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズが構築したもので、短距離ロケット弾による攻撃を想定している。
だが、そんな攻撃はアメリカにとって主たる脅威ではない。そもそも国土の面積が桁違いだし、ミサイルがどこから飛んでくるかも分からない。
トランプは昨年12月にアリゾナ州フェニックスで開いた集会で「偉大なミサイル防衛となるアイアンドーム建設を始めるよう軍に指示する。
全て米国内で、その多くはここアリゾナで製造する」と述べた。新政権の安全保障担当大統領補佐官に起用されたフロリダ州選出の共和党下院議員マイク・ウォルツも、同時期に「アメリカにもアイアンドームが必要だ」と述べている。
ただしスーファーは、包括的な防衛構想としての「米国版アイアンドーム」はもっと多層的なものにすべきだと考える。
スーファーによると、想定すべきシナリオは複数ある。まずは北朝鮮が故意または偶発的に少数のミサイルを発射する可能性だが、核兵器も通常兵器も大量に保有するロシアや中国の猛攻に備える必要もある。
1期目のトランプ政権で核・ミサイル防衛を担当したロバート・スーファー MARINE CORPS SGT. DYLAN C. OVERBAYーDOD
専門家によると、北朝鮮の脅威とロシアや中国の脅威は異質なものだ。北朝鮮は敵意をむき出しにしてくるが、保有弾頭数に限りがある。
しかし中国かロシア、または両国からの攻撃となれば何千発もの弾道・巡航ミサイル、電磁兵器が使われ、妨害電波も飛んでくる。
米シンクタンク「スティムソン・センター」の客員研究員で、かつてNATOの軍備管理・軍縮・大量破壊兵器不拡散センターを率いたウィリアム・アルバークに言わせれば「とんでもない規模」になる。
現実的なのは限定攻撃だが
だが今回の報告書によると、中国やロシアはアメリカを威嚇するために限定的な攻撃を選ぶ可能性もある。
その目的は他国での紛争から手を引かせたり、集団防衛の約束を結んだ同盟国への支援を思いとどまらせることに限定されており、アメリカを過度に挑発して核兵器を使わせたり、大規模な報復攻撃を招いたりする事態は望んでいないはずだ。
ただし中国やロシアは、核兵器による報復攻撃を阻止するためにアメリカの核戦力や司令部を標的にする可能性もある。そうした事態に備え、主要基地を守る迎撃システムの用意が必要だと、スーファーの報告書にはある。
ミサイル防衛は「自国民の絶対的な保護」に注力するより、どんな攻撃を仕掛けても無駄だとロシアや中国に思わせることに重点を置くべきだとも書いてある。
今回の報告書によれば、ひたすらアメリカ本土を守るためにあるGBIは、SM3に加えてTHAAD(高高度防衛ミサイル)などの関連技術の全てと統合されるべきだ。
現状でアメリカはSM3を毎年12基製造しているが、それを2倍にする必要があるとスーファーは言う。
THAADは24年4月と10月にイスラエルを攻撃したイランの弾道ミサイルの撃墜に役立った。
アメリカは既にNGIを開発しており、開発担当に選ばれた防衛大手のロッキード・マーティンは、「アメリカ本土のミサイル防衛に革命を起こす」ミサイルだとしている。
同社によれば、このミサイルはイランや北朝鮮によるICBM攻撃からアメリカ本土全体を守るために設計されたものだ。
イージス艦やTHAADは降下してくるICBMを標的とするが、GBIは大気圏外を航行中のICBMに襲いかかる。ICBMを早い段階で撃ち落とすことになり、ミサイル防衛能力は格段に高まる。
SM3やGBIを使用する段階より前にICBMを迎撃する方法もいくつかある。発射の初期段階でミサイルを撃ち落とす「ブースト段階ミサイル防衛」を検討すべきだ、とスーファーは本誌に語った。
戦闘機を発射地点の近くの空中で静止させて迎撃する、あるいはドローンやレーザー兵器を同様の位置に配置するという考え方もあるが、これが有効なのは北朝鮮かイランの攻撃に対してだけだろう。
韓国にも、ひそかに開発中の対策がある。北朝鮮に核爆弾やミサイルを使用する兆候があれば彼らの核・ミサイル施設を先制攻撃するなどの「キル・チェーン」と呼ばれる複合的な戦略だ。
韓国はさらに、迎撃のためのミサイル防衛システムと、精密攻撃や特殊部隊を使って北朝鮮の高官や司令部機能を無効化する大規模反撃報復(KMPR)計画を組み合わせている。アルバークに言わせれば、この両者は韓国の剣であり盾だ。
アメリカの政策は「ミサイル発射を未然に防ぐための攻撃手段と重層的ミサイル防衛戦略を組み合わせることで、北朝鮮の長距離ミサイルの脅威に先手を打つ」ことであるべきだとスーファーは書いている。
もう1つの選択肢は、宇宙空間で迎撃ミサイルを発射することだ。これは米国版アイアンドームにとって欠かせないもので、もはや宇宙の「兵器化」は必要不可欠だとスーファーは主張する。
新大統領も同じ考えのようだ。トランプはアリゾナの集会で、「昔のロナルド・レーガンもそれをやりたかったが、当時はまだ技術がなかった」と言った。「しかし今なら、空から針1本でもたたき落とせる」
1980年代に東西冷戦を終結に導いたレーガン大統領は、一方で戦略防衛構想(SDI)を推進した。俗に「スター・ウォーズ」と呼ばれたこの構想には、宇宙空間でソ連(当時)の発射したICBMを迎撃するプランが含まれていた。
宇宙ベースの防衛は不可欠
SM3やGBIのようなシステムは、能力が限定された北朝鮮のICBMの撃墜には十分だろう、とスーファーは言う。だがロシアや中国のICBMの脅威に対処するには、宇宙ベースの迎撃ミサイルが唯一の方法だという。
ロシアが本気でアメリカに攻撃を仕掛けてきたら、アメリカ本土、とりわけ戦略核兵器の所在地に向けて1000発以上の核弾頭が降ってくるだろう。
そうなると、1発ずつ迎撃しつつ反撃用ミサイルの被弾を防ぐという寄せ集め的なアプローチでは間に合わないとスーファーは言う。
だから国防総省は「敵の開発能力を上回るために宇宙センサーやSBI(宇宙ベースの迎撃ミサイル)、指向性エネルギー兵器など物理的破壊を伴わない選択肢、将来の革新的な能力を開発するための投資にもっと重点を置くべきだ」と、報告書にはある。
ただし懐疑的な意見もある。「いったん宇宙空間にシステムを配備し始めたら、もう止まれない」とアルバークは言う。
「ロシアや中国が追随するのは必至だ」
言うまでもなく、ロシアも中国もミサイル迎撃システムの強化に励んでいる。
スーファーの報告書によれば、そうした迎撃システムは「ロシアと中国に非対称的な優位性をもたらす可能性がある。ロシアと中国の国土防空・ミサイル防衛の拡大は特定の状況における軍事バランスに影響を与え、アメリカの数少ない選択肢を混乱させかねない」。
ロシアと中国は早期警戒衛星の開発で協力し、ロシアの防空における優位性と中国の宇宙探査における経験知を融合させている。今は宇宙軍拡競争の真っただ中だ、とアルバークは警告する。
「スタート地点だと思うのは間違いだ」
■イスラエルのアイアンドーム