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「禁酒ゲーム」が新時代のトレンドに?...今年はアメリカ人の3分の1が参加「ドライ・ジャニュアリー」とは?

ニューズウィーク日本版 2025年1月23日 12時2分

ポール・ローズ(ジャーナリスト)
<禁酒推奨月間からゲーム感覚で楽しめる「禁酒アプリ」まで──アメリカで広がりを見せる「ノンアル生活」。ただし「特定の場」では酒がないことによる気まずさも・・・>

ロサンゼルス生まれのアンドリア・マッカーシー(28)は2024年1月に1年間の禁酒を誓った。達成できたら来年1月にはお酒を飲んで祝うつもりだと家族や友人にも話していた。だがいざその日が近づくと、気が変わったという。

25年1月1日、時計が午前0時を示したら、まる1年アルコールを断ったご褒美に「ショットグラスにテキーラを注いでぐいっと飲むつもりだった」と、彼女は本誌に明かした。

ところが今では飲みたいと思わないどころか、「飲酒なんてまっぴら」だと言うのだ。「1年間の禁酒で気分もスッキリし、体調も良くなった。もう元に戻ろうとは思わない」

アメリカ人の約60%は時々飲酒をする。ニューコンシューマー/コエフィシェントキャピタルの消費者動向調査によれば、この数字は1940年代から現在までほとんど変わっていないという。

しかし、そんな長年の飲酒習慣にも変化の兆しが見えてきた。世論調査ではアメリカ人の26%が今年は飲酒量を減らすつもりだと答えている。理由は? 「健康のため」が47%、「長生きしたいから」が32%、「減量のため」が24%、「メンタルヘルスの改善」が23%だ。

「量にかかわらず、アルコールが体に良くないことは多くの研究で分かっている」と、ヘーゼルデン・ベティ・フォード財団(Hazelden Betty Ford Foundation)の理事長兼CEOのジョセフ・リーは本誌に語った。

24年1月から禁酒中のマッカーシー COURTESY OF ANDREA CELESTE

WHO(世界保健機関)は22年12月、「アルコールに関しては健康にとって安全な摂取量は存在しない」と警告。今年1月3日にはビベック・マーシー米公衆衛生局長官が酒類に発癌リスクを警告する表示を義務付けることを勧奨している。

こうしたニュースの影響か、ギャラップ社の最近の世論調査では1日に1、2杯の飲酒も健康に悪いと答えたアメリカ人は過去最高の45%に上った。

新年の1カ月は禁酒しようというイギリス発の健康キャンペーン「ドライ・ジャニュアリー(禁酒の1月)」がアメリカにも広がり、1月1日から禁酒に取り組む人が増えている。

1カ月では飽き足らず1年間、あるいはもっと長期にわたる禁酒を試みる人たちもいる。ニューコンシューマーの調査によると、完全な禁酒に減酒も含めて、今年はアメリカ人の3分の1近くが何らかの形でドライ・ジャニュアリーに参加するという。20代〜40代の年齢層に絞れば、この割合は49%にも上る。

「アメリカ人は2番目に多く私たちのプログラムを利用している。素晴らしいことだ」と話すのは、13年にこのキャンペーンを始めた英慈善団体アルコール・チェンジ(Alcohol Change)のリチャード・パイパーCEOだ。

アメリカではテネシー州ナッシュビルのメハリー医科大学がアルコール・チェンジと提携してこのキャンペーンを運営している。キャンペーンのアプリ「トライ・ドライ(禁酒に挑戦)」は世界中で13万人以上が登録。

Guess what's just around the corner?!If you're thinking of taking on the Dry January® challenge, get ready to #BossIt with #TryDry.Double your chances of having a totally alcohol-free month and download the free Try Dry® app.https://t.co/MXdzTXNriw#DryJanuaryChallenge... pic.twitter.com/FxJheHqmJu— Dry January (@dryjanuary) December 16, 2024

アメリカでも20年にこの取り組みが導入されて以降、毎年何万人もの人たちがアプリに登録して、禁酒にチャレンジしている。

ドライ・ジャニュアリーを始めたパイパー COURTESY OF DR. RICHARD PIPER

あの手この手で禁酒をサポート

「キャンペーンは現在8カ国以上で運営されているが、アプリは173カ国で使われている」と、パイパーは言う。彼によれば、アプリのゲーム的な機能がモチベーション維持に役立つという。「何かを達成すればご褒美が付く仕組みになっている」

アプリのユーザーは小さなチャレンジを重ねることになる。野球の試合観戦やパーティーなど「普通なら酒を飲む場に酒を飲まずに参加するというチャレンジだ」と、パイパーは説明する。「しらふでいるとどんな感じになるか試してみるわけだ」

パイパーによれば、「アプリのユーザーの年齢は18歳から104歳までと幅広いが、人口の年齢構成にほぼマッチした分布で、どの年齢層も偏りがなく、突出して多い年齢層はない」そうだ。

アプリに登録すれば、チャレンジ継続の意欲が湧くような経験談や事例紹介、禁酒による体の変化を解説したテキストが毎日メールで送られてくる。フェイスブック上のドライ・ジャニュアリーの公式ページには、キャンペーン参加者は匿名で投稿でき、悩みの相談などもできる。

ドライ・ジャニュアリーの公式フェイスブックに掲載された「お悩み相談」

「アメリカはプログラムに参加する人が多い一方で、自分なりのやり方で禁酒を試みる人も多い」と、パイパーは言う。「1人でやるのも大いに結構だが、プログラムに参加して(仲間と一緒に)やれば、たいがいははるかに素晴らしい経験ができるし、成功率もぐっと高まる」

イベントが全てアルコール付きなのは「ひどく奇妙な話だ」とリーは言う COURTESY OF DR. JOSEPH LEE

ドライ・ジャニュアリーが終われば、多くの参加者がまた酒を飲むようになると、このプログラムを批判する声も聞かれる。しかし飲酒を控えようとする人が増えていることは確かだ。

調査分析会社モーニング・コンサルタント(Morning Consult)の23年の世論調査では、飲酒者の10人中3人が前年よりも酒量を減らすつもりだと答えた。

姓は伏せるという条件で取材に応じたカリフォルニア州在住の40代の女性レイチェルは、ドライ・ジャニュアリーのキャンペーンとアプリのおかげで飲酒量を減らせたと話す。

「ドライ・ジャニュアリーは本当に特別なもの。『お酒を飲まなくてもいいじゃない』と思わせてくれる参加者みんなの後押しがあるから」と、レイチェルは語った。

「それに私とお酒の関係を振り返り、自分の人生にアルコールが及ぼす影響をもっと意識する機会にもなった。今は『ソバーキュリアス』(しらふの状態をあえて選択すること)に強く引かれている。ドライ・ジャニュアリーのように決まった『休み』を取るたびに、お酒を飲まないときの気分の良さや、アルコール抜きでも楽しめることを痛感する」

パーティーにはアルコールが付き物だが DANIEL SUHRE/ISTOCK

冒頭のマッカーシーが夫ルーク(27)と出会ったのは大学時代。卒業後は禁酒したり飲んだりする生活が何年も続いたが、この機にアルコールとの関係を見直すことにした。

「ここ2~3年は、3カ月間お酒をやめたのに、また飲み始めて、次の2カ月は外で飲むようになって......。どんどん状況が悪化して最後は毎週外出したり、必要以上に飲んでしまったりした。こうなっちゃいけないと思っていたのに」

「そして23年の半ばに『1年間ずっと禁酒したらどんな気分になるか試してみたい』と思った。それで夫と2人、日常生活にどんな影響があるのか一緒にやってみようってなった」と、マッカーシーは振り返る。

「私たちは一緒に大学に通っていたから、飲み会とか夜遊びとか、ハチャメチャなことを一緒に経験した。だから、アルコールとの関係をもっと良いものにしたいと思った。大学時代からずっと、『お酒を飲むなら外に出かけなきゃ、思いっきりはじけなきゃ』みたいな感じだった」

マッカーシーにとって特に大変だったのは、アルコール抜きで仕事や人付き合いをこなすことだった。「お酒がなきゃ無理だとずっと思っていた。でもアルコール抜きでイベントに参加して、自分が他の人とどう接するかを体験してみるのは、本当に楽しい挑戦だった」という。

「最初は本当に気まずくて、飲み物を片手に持たないで誰かに話しかけるのは苦痛に近かった。でも、話すことにすごく自信が持てるようになった。たぶん、最高にうれしかったことの1つだと思う」

※後編はこちら:Z世代の45%は「酒を飲んだことがない」...アルコールを出さない「しらふバー」が「意外な目的」で人気に?

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