木村正人
<短期滞在の観光客向け賃貸物件にする目的で、外国人による不動産投資が急増。住宅費高騰が地元住民を駆逐する事態を招いてきた>
[ロンドン発]太陽の光が燦々と降り注ぎ、地中海に面するスペインは天候に恵まれない英国人にとって別荘を買いたい憧れの「太陽の国」。しかしスペインのペドロ・サンチェス首相は非居住の欧州連合(EU)域外国籍者による不動産購入に100%の税金を課す方針を表明した。
ご存知の通り、英国は2020年1月末にEUを離脱した。サンチェス首相は「前例のない措置は住宅危機に対処するために必要だ。西側諸国は決定的な課題に直面している。富裕な地主と貧しい借家人という2つの階級に分断された社会にならないようにすることだ」と述べた。
非居住のEU域外国籍者による不動産購入は23年、スペインでの全不動産取引58万3000件のうち2万7000件を占めた。「住むためではなく、利益を得るためだ。われわれが直面している住宅不足の状況ではそれは許されることではない」とサンチェス首相は語気を強めた。
外国人投資家の需要が地元住民を駆逐する
スペインでは1年間に183日未満しか同国内に居住しない場合、非居住者とみなされる。少数政権のサンチェス首相の政権基盤は不安定だ。そのため議会に提出して100%課税を実施するまでの日程はまだ明らかにされていない。
この処置が実施されれば非居住のEU域外国籍者による不動産購入価格は実質的に2倍になる。スペイン国民向け住宅を確保するため、非居住のEU域外国籍者や外国資本による投機的な不動産投資を冷え込ませ、不動産価格の高騰を抑えるのが狙いだ。
大量のインバウンドを狙った短期滞在の観光客向け賃貸物件がマドリードやバルセロナなど大都市の住宅費高騰を招いている。外国人投資家による需要の高まりは、その地域に長年住んできた地元住民を駆逐する事態を招いている。
公営住宅の増設、賃貸住宅優遇策も
外国人所有の物件が長期間空き家のまま放置され、住宅不足の一因になっているとの指摘もある。住宅市場への外国資本流入による弊害から自国民を守るため、サンチェス政権は公営住宅の増設、手頃な家賃で住宅を貸し出す大家に対する税制優遇も約束している。
格安航空の普及、中国やインドなど新興国の中流階級増加、ソーシャルメディアによる人気スポットの拡散で特定の目的地への訪問者数が押し寄せるオーバーツーリズムが世界各地で住宅問題を引き起こす。特に海辺のリゾート都市など観光地でその傾向が顕著になっている。
不動産への海外投資を規制または制限する国が増えている。カナダのブリティッシュコロンビア州は2016年にバンクーバーの住宅用不動産を購入する外国人や外資系法人を対象に15%課税を導入。18年に20%に引き上げた。オンタリオ州など他の州でも同様の税が導入されている。
年収倍率はひと昔前まで年収の3倍が目安だった
ニュージーランドは外国からの投資によるオークランドの不動産価格高騰に対処するため18年、非居住の外国人バイヤーによる中古住宅の購入を事実上禁止する法律を施行した。シンガポールでは住宅用不動産を購入する外国人に30%の印紙税を課していたが、60%に引き上げた。
日本でも東京などの大都市圏や観光地で中国資本による不動産の買い漁りが進み、不動産価格が高騰している。中国と比較して日本の不動産は歴史的円安もあって超割安。借り入れ金利も低い上、日本政府が外国からの投資に対し比較的オープンな政策をとっていることが原因だ。
東京カンテイ(東京・品川)の集計によると新築マンションの平均価格が平均年収の何倍かを示す年収倍率は23年時点で10.09倍。東京17.78倍、長野15.88倍、京都14.38倍と続く。大阪は8位の11.82倍。年収倍率はひと昔前まで年収の3倍が目安、5倍は完全にアウトだった。
少子高齢化が加速し「負」動産と言われる日本にとって中国人の爆買いは天の恵みか、それとも地獄への入口か。1990年代のバブル崩壊を新聞社の事件記者として取材した筆者には悪夢の再現のように思えてならないのだが......。
<短期滞在の観光客向け賃貸物件にする目的で、外国人による不動産投資が急増。住宅費高騰が地元住民を駆逐する事態を招いてきた>
[ロンドン発]太陽の光が燦々と降り注ぎ、地中海に面するスペインは天候に恵まれない英国人にとって別荘を買いたい憧れの「太陽の国」。しかしスペインのペドロ・サンチェス首相は非居住の欧州連合(EU)域外国籍者による不動産購入に100%の税金を課す方針を表明した。
ご存知の通り、英国は2020年1月末にEUを離脱した。サンチェス首相は「前例のない措置は住宅危機に対処するために必要だ。西側諸国は決定的な課題に直面している。富裕な地主と貧しい借家人という2つの階級に分断された社会にならないようにすることだ」と述べた。
非居住のEU域外国籍者による不動産購入は23年、スペインでの全不動産取引58万3000件のうち2万7000件を占めた。「住むためではなく、利益を得るためだ。われわれが直面している住宅不足の状況ではそれは許されることではない」とサンチェス首相は語気を強めた。
外国人投資家の需要が地元住民を駆逐する
スペインでは1年間に183日未満しか同国内に居住しない場合、非居住者とみなされる。少数政権のサンチェス首相の政権基盤は不安定だ。そのため議会に提出して100%課税を実施するまでの日程はまだ明らかにされていない。
この処置が実施されれば非居住のEU域外国籍者による不動産購入価格は実質的に2倍になる。スペイン国民向け住宅を確保するため、非居住のEU域外国籍者や外国資本による投機的な不動産投資を冷え込ませ、不動産価格の高騰を抑えるのが狙いだ。
大量のインバウンドを狙った短期滞在の観光客向け賃貸物件がマドリードやバルセロナなど大都市の住宅費高騰を招いている。外国人投資家による需要の高まりは、その地域に長年住んできた地元住民を駆逐する事態を招いている。
公営住宅の増設、賃貸住宅優遇策も
外国人所有の物件が長期間空き家のまま放置され、住宅不足の一因になっているとの指摘もある。住宅市場への外国資本流入による弊害から自国民を守るため、サンチェス政権は公営住宅の増設、手頃な家賃で住宅を貸し出す大家に対する税制優遇も約束している。
格安航空の普及、中国やインドなど新興国の中流階級増加、ソーシャルメディアによる人気スポットの拡散で特定の目的地への訪問者数が押し寄せるオーバーツーリズムが世界各地で住宅問題を引き起こす。特に海辺のリゾート都市など観光地でその傾向が顕著になっている。
不動産への海外投資を規制または制限する国が増えている。カナダのブリティッシュコロンビア州は2016年にバンクーバーの住宅用不動産を購入する外国人や外資系法人を対象に15%課税を導入。18年に20%に引き上げた。オンタリオ州など他の州でも同様の税が導入されている。
年収倍率はひと昔前まで年収の3倍が目安だった
ニュージーランドは外国からの投資によるオークランドの不動産価格高騰に対処するため18年、非居住の外国人バイヤーによる中古住宅の購入を事実上禁止する法律を施行した。シンガポールでは住宅用不動産を購入する外国人に30%の印紙税を課していたが、60%に引き上げた。
日本でも東京などの大都市圏や観光地で中国資本による不動産の買い漁りが進み、不動産価格が高騰している。中国と比較して日本の不動産は歴史的円安もあって超割安。借り入れ金利も低い上、日本政府が外国からの投資に対し比較的オープンな政策をとっていることが原因だ。
東京カンテイ(東京・品川)の集計によると新築マンションの平均価格が平均年収の何倍かを示す年収倍率は23年時点で10.09倍。東京17.78倍、長野15.88倍、京都14.38倍と続く。大阪は8位の11.82倍。年収倍率はひと昔前まで年収の3倍が目安、5倍は完全にアウトだった。
少子高齢化が加速し「負」動産と言われる日本にとって中国人の爆買いは天の恵みか、それとも地獄への入口か。1990年代のバブル崩壊を新聞社の事件記者として取材した筆者には悪夢の再現のように思えてならないのだが......。