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東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか

ニューズウィーク日本版 2025年1月29日 11時40分

舞田敏彦(教育社会学者)
<子育て世帯の年収には最大で3倍近くの格差があり、これが学力の差にも表れている>

東京都は数年間隔で、子どもの生活実態を把握するため『とうきょうこどもアンケート』を実施している。対象は、3歳、小3、小5、中2、17歳の子がいる世帯で、世帯の年収もたずねている。

東京の子育て世帯の年収は、どれくらいあるのか。2024年調査の報告書に出ている帯グラフを見ると、特別区(23区)では、年収1000万以上の割合が45.8%となっている。半数近くが、年収1000万円以上だ。無回答を除いた分布から中央値を計算すると966万円。都内23区では、子育て世帯のフツーの年収はおよそ1000万円ということだ。

教育費が高騰しているので、これくらいの稼ぎがないと、子を持つのは難しくなっているのだろう。結婚・出産の階層的閉鎖性の強まりだ。大都市の東京では、それが顕著に進んでいるとみられる。

だが上記のデータは都内23区を一括りにしたもので、各区別にみると大きな違いがある。『とうきょうこどもアンケート』(2024年)の個票データを使って、子育て世帯の年収中央値を区別に計算してみた。区ごとに分けると回答世帯の数が少なくなるので、信ぴょう性に問題はあるものの、参考資料として提示する意義はあるだろう。<図1>は、それぞれの区を3つの階級区分で塗り分けた地図だ。

23区中12の区で、中央値が1000万円を超えている。5つの区では1200万円超えで、都心に固まっている(濃い色)。地価が高く、早期からの習い事や「お受験」も盛んなので、こうなるのだろう。最も高い区では、子育て世帯の年収中央値は1833万円にもなる。

その一方で、年収が低い区もある。白色は年収中央値が1000万円に満たないエリアだが、最も低い区では674万円で、最も高い区のおよそ3分の1でしかない。東京の子育て世帯は裕福と思われがちだが、大きな格差(分断)を内包していることにも注意しなければならない。

こうした生活条件の違いは、子どもの教育達成にも影響する。筆者の手元に、東京都が独自に実施している学力調査の地域別の結果表がある。小学校5年生の算数の平均正答率を、先ほど計算した年収中央値と絡めてみると<図2>のようになる。

年収が高い区ほど、子どもの学力水準が高い傾向にある。相関係数は+0.8337とかなり高い。通塾や習い事の費用負担能力といった経済資本は、子どもの学力、どの段階の学校まで進めるかという教育達成に影響する。それは当然、自宅の蔵書数や保護者の勉学嗜好といった文化資本とも重なる。<図2>のような相関関係が出るのは頷ける。
   
散布図の横軸を見ると、同じ東京23区でも、子育て世帯の年収には大きな地域差があり、それが子ども世代の「教育格差」に転化してしまっている。東京都はこういう問題を認識しているのか、保育や私立高校の学費無償化といった政策に熱心だ。

だが、公費による一律無償化というのは、富裕層の優遇という側面も持っている。格差是正の政策の基本は、持たざる側を優遇することだ。所得制限をつけ、浮いた財源で低所得層への支援を手厚くする制度設計も求められる。

<資料:東京都『とうきょうこどもアンケート』(2024年)、
    東京都教育委員会『児童・生徒の学力向上を図るための調査』(2019年)>

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