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中国発DeepSeekの戦略思考に、輸出規制一辺倒のアメリカは勝てるのか【トランプ2.0】

ニューズウィーク日本版 2025年1月29日 16時7分

マイカ・マッカートニー
<生成AIにおけるアメリカのリードを守るため、対中輸出規制をさらに強めるべきだ、という専門家もいるが、果たして従来通りのやり方でディープシークやその予備軍を突き放せるのか>

生成AI開発の先駆者「オープンAI」のライバル、DeepSeek(ディープシーク)の出現は、中国が最重要テクノロジー分野でアメリカのリードを侵食しつつあることを示した。シリコンバレーを含むアメリカのテック産業は厳しい現実を突きつけられたといえる。

ある著名なベンチャーキャピタリストはこれを「AIのスプートニク・モーメント(アメリカが軍事力や技術力で他国に出し抜かれる瞬間)」と表現し、ある科学者は生成AIの分野で「中国はおおむねアメリカに追いついた」と語ったほどだ。



中国浙江省杭州市を拠点とするディープシークは、先週登場した同社のAI モデル「DeepSeek-R1」について構築費用は600万ドル未満で、AI専用の半導体の数も少なく、訓練期間は2カ月だったと発表した。このアプリは話題の的となり、中国だけでなく、アメリカのアップルストアでもダウンロード数トップの無料アプリとなった。

アメリカは以前、人工知能などの最先端技術に使われる先端半導体が中国の手に渡るのを防ぐため、国家安全保障上のリスクを理由に輸出規制を強化した。

ディープシークの新モデルは、一般に公開されているアメリカのモデルと同等レベルであり、特定の分野では、オープンAIのGPT-4や人工知能スタートアップ「アンソロピック」のクロード・ソネット3.5などを上回っているとさえ言われている。

グラフィック半導体(GPU)市場を独占するメーカーのエヌビディアの株価は27日に17%急落し、時価総額5890億ドルが吹き飛んだ。1日の消失額としては過去最大だ。



この売りはニューヨーク証券市場に大きな影響を与え、ナスダック上場企業全体で時価総額が1兆ドル以上消失した。中国の技術躍進とそれがアメリカのテック産業支配に及ぼす潜在的脅威に投資家が反応したためだ。

ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンは、Xへの投稿でDeepSeek-R1を「AIのスプートニク・モーメント」と呼んだ。スプートニクは1957年に打ち上げられたソビエトの衛星で、アメリカと旧ソ連の宇宙開発競争の幕開けを象徴する存在だ。

ディープシークAIを発案したのは、元ヘッジファンド・マネジャーで2023年にAI開発に転身した梁文峰。同社のフラッグシップ・モデルであるDeepSeek-R1は今年1月に発売され、瞬く間に米アップルのアップストアでチャットGPTを上回るダウンロード数を記録し、トップに躍り出た。

ディープシークの魅力は、R1推論エンジンに支えられた消費者向けの無料利用モデルにある。このモデルは最小限の計算リソースで高いパフォーマンスを達成するため強化学習を統合している、と言われる。

ディープシークは、梁のヘッジファンド幻方(High-Flyer)が資金提供するR&D部門として誕生した。ディープシークの躍進は、地政学的な課題に対する同社の型破りな解決策によるところも大きい。



たとえば、2022年10月のアメリカの輸出規制は、中国のAI開発を厳しく抑制する恐れがあった。だが、ディープシークはエヌビディアのH100チップを1万個備蓄しており、それを使用して作業を続けたという。

利用者に月額20ドルから200ドルを請求するオープンAIとは異なり、ディープシークは個人ユーザーには無料でプラットフォームを提供し、開発者にも100万トークンあたり0.14ドルしか請求しない。オープンソースのディープシークが中小企業や開発者の人気を博しているのはそのためだ。

DeepSeek-R1は、推論と数学的問題解決においてオープンAIの最新モデル「o1」に匹敵するといわれている。チャットGPTよりも効率的にプログラミング言語バイソンのコードを生成するこのプラットフォームの能力は、ネット掲示板レディットのようなコミュニティでテクノロジー愛好家の議論の的になっている。



認知科学者で『リブーティングAI』の著者であるゲイリー・マーカスは、本誌にこう語った。「まだ誰も完全な成功は達成していないか、近いうちに達成するという状態だ。そして中国は、まだ欠陥だらけとはいえ、流行りの生成AIでアメリカに追いついたといえそうだ」

サンフランシスコの人工知能企業スケールAIのアレクサンドル・ワンCEOは、Xにこう投稿した。



「ディープシークはアメリカに対する警鐘だが、戦略変更を迫るものではない。アメリカは技術革新で先を行き続けるために半導体の輸出規制を強化し、将来の優位的立場を維持できるようにするべきだ。 AIにおける大きなブレークスルーは、すべてアメリカが成し遂げてきたことを忘れてはならない」

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