木村正人
<金価格の高騰が続くなか、820億ドル相当の金塊がニューヨークに集まる事態に。トランプの動きを懸念する取引業者や金融機関が先手を打った形だ>
[ロンドン発]「ドナルド・トランプ米大統領の関税発動を懸念するトレーダーたちが820億ドル相当の金塊(金地金)をニューヨークにかき集めている。英中央銀行・イングランド銀行からの金塊引き出しの待ち時間が数日から4~8週間に延びている」
英紙フィナンシャル・タイムズ(1月29日付)は事情通の関係者の話として「ニューヨークに大量の金塊が送られている。新たな金塊を手に入れるため列に並ばなければならない」「ロンドン市場の流動性は低下している」と報じた。
FT紙によると、昨年11月の米大統領選で全輸入品に一律10~20%の関税をかけると宣言していたトランプ氏が勝利して以来、金取引業者や金融機関がニューヨーク商品取引所の保管庫に金塊393トンを移動させた。このため金塊の備蓄は74%増の926トンに達した。
金地金にもいわゆる「トランプ関税」との懸念
トランプ氏は2月1日からカナダとメキシコからの全輸入品に25%、中国には10%の関税を課すと表明している。市場ではこれまで対象外だった金地金にいわゆる「トランプ関税」が適用されるのではないかとの懸念が膨らんでいる。金塊の大移動は先手を打った関税回避だ。
世界金融危機、欧州債務危機、コロナ経済対策で日米欧中銀は異次元の量的緩和を行い、インフレ対策で利上げを行った現在でも18兆3000億ドルの資金が世界中を彷徨う。これが株高、金や仮想通貨の価格高騰を生み、金価格は一時、史上最高値の1キログラム当たり9万ドルを突破した。
米国への金塊流入は表面化しているよりはるかに多い可能性がある。ロンドンの現物市場よりニューヨークの先物市場の価格が高いことに目をつけたトレーダーたちが価格差を利用した裁定取引を行っていることが金塊大移動の理由の一つになっているという。
英中銀総裁「100年前は金本位制、現在は金本位制ではない」
イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁は1月29日、英下院財務委員会でニューヨークへの金塊流出について下院議員に追及され「リスクの観点からはそれほど大したことではない。 第一に金はかつてのような役割を果たしていない」と火消しに努めた。
「 100年前にこの問題を議論していたら、私たちは全く異なる世界にいた。100年前は金本位制、現在はそうではない。その意味で政策上重要ではない。(トランプ)関税の影響に備えているようなことをほのめかしているようだが、果たしてどうだろう」(ベイリー総裁)
「ロンドンは依然として世界最大の金市場だ。世界をリードする金市場だ。その市場に関与し、取引を行ったり、金を利用したりしたいのであればロンドンに金を持っていなければならない。金はロンドンに出入りしている。金が動くからといって大げさに考える必要はない」(同)
世界中のおカネがニューヨークを目指す
FT紙は翌日の1月30日付でニューヨーク商品取引所のデータをもとに金塊の備蓄は850億ドル相当、946トン近くに達したと報じた。米長期金利の上昇、ドル高、株高で世界中のおカネがニューヨークを目指している。そして今、金塊もニューヨークに集まり始めた。
トランプ氏は仮想通貨について「よく知らない」と言いながら独自の仮想通貨「TRUMP(トランプ)」を発行。米証券取引委員会(SEC)が昨年、仮想通貨ビットコインの現物ETF(上場投資信託)を承認し、第2次トランプ政権の登場でビットコインは史上最高値圏に突入した。
トランプ氏は「利下げ」「ドル安」をたびたび口にするが、ロシアのウクライナ全面侵攻や中国の軍事的な台頭など地政学的な懸念と米国のドル高、トランプ関税は米国1強の状況を作り出し、「トランプバブル」を醸成している。
資金が流出するライバルの中国は苦しくなる。しかし、その他の先進国、新興・途上国も苦境に追い込まれるのは必至だ。ウィンウィンでなければ世界経済は回らない。そして米国の貿易赤字、財政赤字は膨らんでいく。その代償はいずれ米国に跳ね返ってくるだろう。
<金価格の高騰が続くなか、820億ドル相当の金塊がニューヨークに集まる事態に。トランプの動きを懸念する取引業者や金融機関が先手を打った形だ>
[ロンドン発]「ドナルド・トランプ米大統領の関税発動を懸念するトレーダーたちが820億ドル相当の金塊(金地金)をニューヨークにかき集めている。英中央銀行・イングランド銀行からの金塊引き出しの待ち時間が数日から4~8週間に延びている」
英紙フィナンシャル・タイムズ(1月29日付)は事情通の関係者の話として「ニューヨークに大量の金塊が送られている。新たな金塊を手に入れるため列に並ばなければならない」「ロンドン市場の流動性は低下している」と報じた。
FT紙によると、昨年11月の米大統領選で全輸入品に一律10~20%の関税をかけると宣言していたトランプ氏が勝利して以来、金取引業者や金融機関がニューヨーク商品取引所の保管庫に金塊393トンを移動させた。このため金塊の備蓄は74%増の926トンに達した。
金地金にもいわゆる「トランプ関税」との懸念
トランプ氏は2月1日からカナダとメキシコからの全輸入品に25%、中国には10%の関税を課すと表明している。市場ではこれまで対象外だった金地金にいわゆる「トランプ関税」が適用されるのではないかとの懸念が膨らんでいる。金塊の大移動は先手を打った関税回避だ。
世界金融危機、欧州債務危機、コロナ経済対策で日米欧中銀は異次元の量的緩和を行い、インフレ対策で利上げを行った現在でも18兆3000億ドルの資金が世界中を彷徨う。これが株高、金や仮想通貨の価格高騰を生み、金価格は一時、史上最高値の1キログラム当たり9万ドルを突破した。
米国への金塊流入は表面化しているよりはるかに多い可能性がある。ロンドンの現物市場よりニューヨークの先物市場の価格が高いことに目をつけたトレーダーたちが価格差を利用した裁定取引を行っていることが金塊大移動の理由の一つになっているという。
英中銀総裁「100年前は金本位制、現在は金本位制ではない」
イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁は1月29日、英下院財務委員会でニューヨークへの金塊流出について下院議員に追及され「リスクの観点からはそれほど大したことではない。 第一に金はかつてのような役割を果たしていない」と火消しに努めた。
「 100年前にこの問題を議論していたら、私たちは全く異なる世界にいた。100年前は金本位制、現在はそうではない。その意味で政策上重要ではない。(トランプ)関税の影響に備えているようなことをほのめかしているようだが、果たしてどうだろう」(ベイリー総裁)
「ロンドンは依然として世界最大の金市場だ。世界をリードする金市場だ。その市場に関与し、取引を行ったり、金を利用したりしたいのであればロンドンに金を持っていなければならない。金はロンドンに出入りしている。金が動くからといって大げさに考える必要はない」(同)
世界中のおカネがニューヨークを目指す
FT紙は翌日の1月30日付でニューヨーク商品取引所のデータをもとに金塊の備蓄は850億ドル相当、946トン近くに達したと報じた。米長期金利の上昇、ドル高、株高で世界中のおカネがニューヨークを目指している。そして今、金塊もニューヨークに集まり始めた。
トランプ氏は仮想通貨について「よく知らない」と言いながら独自の仮想通貨「TRUMP(トランプ)」を発行。米証券取引委員会(SEC)が昨年、仮想通貨ビットコインの現物ETF(上場投資信託)を承認し、第2次トランプ政権の登場でビットコインは史上最高値圏に突入した。
トランプ氏は「利下げ」「ドル安」をたびたび口にするが、ロシアのウクライナ全面侵攻や中国の軍事的な台頭など地政学的な懸念と米国のドル高、トランプ関税は米国1強の状況を作り出し、「トランプバブル」を醸成している。
資金が流出するライバルの中国は苦しくなる。しかし、その他の先進国、新興・途上国も苦境に追い込まれるのは必至だ。ウィンウィンでなければ世界経済は回らない。そして米国の貿易赤字、財政赤字は膨らんでいく。その代償はいずれ米国に跳ね返ってくるだろう。