パックン(パトリック・ハーラン)
<所得税が生じる「103万円の壁」を引き上げるよりも、「スロープ式」の所得税率を導入するなどの抜本改革で公平な制度にすることをハーバード大卒芸人のパックンが提案します>
現在日本は与野党で税制度の改正を審議している最中だが、良ければ以下の案を検討してください:
所得税は取るが、生活に必要な最低限度の収入を守るために基礎控除を作ろう。その金額は、そうだね、うん......48万円。
もちろん、国民には働いてほしいから、給与所得控除も作ろう。それを55万円とすれば、非課税所得の合計額がちょうど103万円になる。うん、すっきり!
医療保険や年金は全国民の権利だから......国民を分ける制度を作ろう!
会社員に対してはより手厚いサービスにして、料金の半分を会社に負担させよう。でも、よく働いて、稼ぐ人だけね。「皆保険」とか言っても、皆、同じじゃないからな。
みんなに子供や配偶者を養ってほしいから扶養控除や配偶者控除を作って、扶養で保険や年金もカバーできるようにしよう。
もちろん、学生や主婦にも働いてほしいから勤労学生控除や配偶者特別控除も作ろう。しかし、一定の年収を超えるとその控除が消えたり、社会保障料がかかったりするという、突然の負担増で「壁」を、所得103万円、106万円、130万円の辺りで設けよう!
ああ、気持ちいいね。複雑で分かりづらくて、不公平で、働かせようとしながらも、働き控えもさせるような制度だ!
この案がいいと思う人......?
「スロープ式」の所得税率なら、不公平感はだいぶ減る!
誰もいないだろう。だが、これが(ものすごく分かりやすくまとめた)現制度の要点だ。実にバカバカしいと僕は思っているが、国民民主党の178万円に壁を引き上げる案にも、与党の123万円への引き上げ案にも、僕は惹かれない(現状維持よりはいいけど)。
僕は「壁を引き上げる」ではなく、壁を完全に解消したい派。シンプルかつ公平な税制へと、抜本的な改革をお願いしたい!(下記の提案をするのは、僕が初めてではないことも、似たような改革案が前から議論されていることも重々わかっているが、僕もイチ押ししてみたいと思うので)さっそく説明しよう。
僕の案の大前提は、全員がしっかり税金を払うことだ!
「皆税制」?! 万歳!!
と、ならないのがわかるが、最後まで聞いてください。
道路、警察、消防、教育などなどの公的サービスは誰もがお世話になっている。公的医療保険や年金もそう。ゆえに、誰もがそれを支える税金や社会保険料を払うべきだ。当然だ。社会に参加する会費のようなものだから。
もちろん、消費税という形で、既に全員が税金を納めているのだが、僕の案では、所得税も所得のある全員から徴収する。
しかし、全員が納めるとしても、同じ税率ではない。所得の低い人は税率0.1%からでもスタートしよう。所得が増えると⇒0.2%⇒0.3%と、0.1%ずつ税率が上がっていく、現行制度で見られる5%⇒10%⇒20%......という「階段」ではなく、緩やかなスロープ式にしよう。
例えば現在、(手取りはあまり変わらないとはいえ)所得が329万9000円までは10%で、330万円以上が20%と、跳ね上がる税率が気になる人もいるだろう。が、それが19.9%から20.0%だと気づきもしないだろう。でもステルスとか言わないでください。壁無し税制だ!
次は社会保障。まず、国民保険・社会保険と国民年金・厚生年金の二重構造を解消しよう。分ける必要はない(どちらも英語のcupから来ているのに日本語では「コップ」と「カップ」に使い分ける二重構造もどうにかしたいけど、それはまた今度)。
現在の社会保障制度では、労働時間が週20時間以下の社員、従業員が50人以下の企業、などと線引きされているため、その線を超えないように働き控えする人もいれば「働かせ控え」や「雇い控え」する企業もある。もったいない!
もう分けないでいこう。全員同じ制度にまとめて、徴収も管理も窓口を一元化する。今の社会保険にみられる労使折半を維持してもいいけど、バイト代も含めて、全ての賃金に適応しよう。
自営業、フリーランスの方は全額負担になるが、もちろんそれは、提供している商品やサービスの値段に盛り込んでいいはず。所得のない人は当然公金で補助することになるが、それは現行制度と大して変わらない。
もっとシンプルにするなら、労使折半をやめて、以前から議論されている「税と社会保障の一体改革(本当の意味での)」を目指してもいいかもしれない(税収の問題を考えなければいけないけど)。そこにスロープ式課税を加えれば、僕も賛成だ。
とにかく、国民の間の隔たりをなくして制度も手続きも簡略化しよう。もったいない!も、面倒くさい!もなくそう。
そして、大胆に、控除もなくそう!
控除は高所得者ほど節税になる...いいのか?
いやいや「みんなが税金を払う!」とか「控除もなし!」とか、そんなキャッチコピーじゃ、絶対に売れないね、この案は!と、また突っ込まれそう。だが、やはり最後まで聞いてください。
現行制度にある、配偶者控除、扶養控除、医療費控除、ひとり親控除、寡婦控除などの狙いは素晴らしいと思う。国の支えが必要な時はもちろんある。だが、その目的達成のためには「控除」という形がベストな策ではない。
例えば、子を持つ親を応援したい!という思いは素晴らしい。それで、扶養親族の控除が設けられ、子供1人当たり38万円の所得が非課税になっている。だが、これでは親の所得税率次第で応援の度合いが変わるのだ。
例えば、課税所得が890万円で所得税率23%の人にとって、この控除で8万7400円の節税ができる。一方、所得が189万円で税率5%の人は1万9000円だけ。子育て中の低所得者が一番政府の助けを必要としているはずだが、収入が4倍以上の方を政府が4倍以上応援している形だ。間違った「推し活」ではないか。
その是正策と解釈できるものとして、既存の児童手当制度の拡充が近年、進んでいる。扶養控除の縮小は(国民民主党の反対もあって)実現できていないが、いいスタートだ。
全ての控除に関して同じ考え方が当てはまるだろう。今は、税率の高い人の方が大きな恩恵を受ける。他の救済策もあるが、少なくとも控除だけを見ると、配偶者がいる人、配偶者が亡くなった人、病気を抱えている人、どんな事情でも、低所得者は5%に所得税率を抑えるという形でしか応援してもらえない状態だ。
控除より、所得額と関係なく、定額の手当制度の方が公平で、目的達成への近道であろう。「控除なし!」は響きが悪いが「公平な手当を!」は悪くないでしょ?
まあ、政治家に任せるけど、現行制度を維持する場合はぜひ「低所得者を5%だけ応援します!」と、街頭演説などで公言してほしい。
ついでに、現行制度の控除にはだいたい所得制限がある。一定の収入を増えると控除や支援が受けられなくなる。これも「壁」だ。しかも、103万、106万、130万などだけではない。めったに聞かないけど、年収850万円以上にも複数の壁が立ちはだかっている。素直に稼がせてほしいと、思わない?
よっし、全部なくしちゃおう! 高所得者に、同じ定額の手当を与えて応援しよう。その方が、手続きがシンプルだし、どうせスロープ式の累進課税だから、彼らから税金でそれ以上を取り戻すから大丈夫でしょう。
では、まとめよう。
・壁のないスロープ式の税率を導入する
・医療保険や年金の二重構造をなくす
・控除をなくし、手当に変える
この3つの方法で、とっても公平かつシンプルな税制度になる。確定申告が簡単すぎて、税理士が暇になってしまうかもしれない。
しかも、1回できた制度の設定金額を物価上昇と連動させることができたら、今数年おきにやっている「所得いくらで税率何パーセントにする?」といった審議も部分的に楽になるから、議員も暇になる。
そして、複雑な説明を必要とするこんな面倒くさいコラムも書かなくて済むから、僕も暇になる。でも構わないよ。この件ではぜひ、働き控えさせてください。
<所得税が生じる「103万円の壁」を引き上げるよりも、「スロープ式」の所得税率を導入するなどの抜本改革で公平な制度にすることをハーバード大卒芸人のパックンが提案します>
現在日本は与野党で税制度の改正を審議している最中だが、良ければ以下の案を検討してください:
所得税は取るが、生活に必要な最低限度の収入を守るために基礎控除を作ろう。その金額は、そうだね、うん......48万円。
もちろん、国民には働いてほしいから、給与所得控除も作ろう。それを55万円とすれば、非課税所得の合計額がちょうど103万円になる。うん、すっきり!
医療保険や年金は全国民の権利だから......国民を分ける制度を作ろう!
会社員に対してはより手厚いサービスにして、料金の半分を会社に負担させよう。でも、よく働いて、稼ぐ人だけね。「皆保険」とか言っても、皆、同じじゃないからな。
みんなに子供や配偶者を養ってほしいから扶養控除や配偶者控除を作って、扶養で保険や年金もカバーできるようにしよう。
もちろん、学生や主婦にも働いてほしいから勤労学生控除や配偶者特別控除も作ろう。しかし、一定の年収を超えるとその控除が消えたり、社会保障料がかかったりするという、突然の負担増で「壁」を、所得103万円、106万円、130万円の辺りで設けよう!
ああ、気持ちいいね。複雑で分かりづらくて、不公平で、働かせようとしながらも、働き控えもさせるような制度だ!
この案がいいと思う人......?
「スロープ式」の所得税率なら、不公平感はだいぶ減る!
誰もいないだろう。だが、これが(ものすごく分かりやすくまとめた)現制度の要点だ。実にバカバカしいと僕は思っているが、国民民主党の178万円に壁を引き上げる案にも、与党の123万円への引き上げ案にも、僕は惹かれない(現状維持よりはいいけど)。
僕は「壁を引き上げる」ではなく、壁を完全に解消したい派。シンプルかつ公平な税制へと、抜本的な改革をお願いしたい!(下記の提案をするのは、僕が初めてではないことも、似たような改革案が前から議論されていることも重々わかっているが、僕もイチ押ししてみたいと思うので)さっそく説明しよう。
僕の案の大前提は、全員がしっかり税金を払うことだ!
「皆税制」?! 万歳!!
と、ならないのがわかるが、最後まで聞いてください。
道路、警察、消防、教育などなどの公的サービスは誰もがお世話になっている。公的医療保険や年金もそう。ゆえに、誰もがそれを支える税金や社会保険料を払うべきだ。当然だ。社会に参加する会費のようなものだから。
もちろん、消費税という形で、既に全員が税金を納めているのだが、僕の案では、所得税も所得のある全員から徴収する。
しかし、全員が納めるとしても、同じ税率ではない。所得の低い人は税率0.1%からでもスタートしよう。所得が増えると⇒0.2%⇒0.3%と、0.1%ずつ税率が上がっていく、現行制度で見られる5%⇒10%⇒20%......という「階段」ではなく、緩やかなスロープ式にしよう。
例えば現在、(手取りはあまり変わらないとはいえ)所得が329万9000円までは10%で、330万円以上が20%と、跳ね上がる税率が気になる人もいるだろう。が、それが19.9%から20.0%だと気づきもしないだろう。でもステルスとか言わないでください。壁無し税制だ!
次は社会保障。まず、国民保険・社会保険と国民年金・厚生年金の二重構造を解消しよう。分ける必要はない(どちらも英語のcupから来ているのに日本語では「コップ」と「カップ」に使い分ける二重構造もどうにかしたいけど、それはまた今度)。
現在の社会保障制度では、労働時間が週20時間以下の社員、従業員が50人以下の企業、などと線引きされているため、その線を超えないように働き控えする人もいれば「働かせ控え」や「雇い控え」する企業もある。もったいない!
もう分けないでいこう。全員同じ制度にまとめて、徴収も管理も窓口を一元化する。今の社会保険にみられる労使折半を維持してもいいけど、バイト代も含めて、全ての賃金に適応しよう。
自営業、フリーランスの方は全額負担になるが、もちろんそれは、提供している商品やサービスの値段に盛り込んでいいはず。所得のない人は当然公金で補助することになるが、それは現行制度と大して変わらない。
もっとシンプルにするなら、労使折半をやめて、以前から議論されている「税と社会保障の一体改革(本当の意味での)」を目指してもいいかもしれない(税収の問題を考えなければいけないけど)。そこにスロープ式課税を加えれば、僕も賛成だ。
とにかく、国民の間の隔たりをなくして制度も手続きも簡略化しよう。もったいない!も、面倒くさい!もなくそう。
そして、大胆に、控除もなくそう!
控除は高所得者ほど節税になる...いいのか?
いやいや「みんなが税金を払う!」とか「控除もなし!」とか、そんなキャッチコピーじゃ、絶対に売れないね、この案は!と、また突っ込まれそう。だが、やはり最後まで聞いてください。
現行制度にある、配偶者控除、扶養控除、医療費控除、ひとり親控除、寡婦控除などの狙いは素晴らしいと思う。国の支えが必要な時はもちろんある。だが、その目的達成のためには「控除」という形がベストな策ではない。
例えば、子を持つ親を応援したい!という思いは素晴らしい。それで、扶養親族の控除が設けられ、子供1人当たり38万円の所得が非課税になっている。だが、これでは親の所得税率次第で応援の度合いが変わるのだ。
例えば、課税所得が890万円で所得税率23%の人にとって、この控除で8万7400円の節税ができる。一方、所得が189万円で税率5%の人は1万9000円だけ。子育て中の低所得者が一番政府の助けを必要としているはずだが、収入が4倍以上の方を政府が4倍以上応援している形だ。間違った「推し活」ではないか。
その是正策と解釈できるものとして、既存の児童手当制度の拡充が近年、進んでいる。扶養控除の縮小は(国民民主党の反対もあって)実現できていないが、いいスタートだ。
全ての控除に関して同じ考え方が当てはまるだろう。今は、税率の高い人の方が大きな恩恵を受ける。他の救済策もあるが、少なくとも控除だけを見ると、配偶者がいる人、配偶者が亡くなった人、病気を抱えている人、どんな事情でも、低所得者は5%に所得税率を抑えるという形でしか応援してもらえない状態だ。
控除より、所得額と関係なく、定額の手当制度の方が公平で、目的達成への近道であろう。「控除なし!」は響きが悪いが「公平な手当を!」は悪くないでしょ?
まあ、政治家に任せるけど、現行制度を維持する場合はぜひ「低所得者を5%だけ応援します!」と、街頭演説などで公言してほしい。
ついでに、現行制度の控除にはだいたい所得制限がある。一定の収入を増えると控除や支援が受けられなくなる。これも「壁」だ。しかも、103万、106万、130万などだけではない。めったに聞かないけど、年収850万円以上にも複数の壁が立ちはだかっている。素直に稼がせてほしいと、思わない?
よっし、全部なくしちゃおう! 高所得者に、同じ定額の手当を与えて応援しよう。その方が、手続きがシンプルだし、どうせスロープ式の累進課税だから、彼らから税金でそれ以上を取り戻すから大丈夫でしょう。
では、まとめよう。
・壁のないスロープ式の税率を導入する
・医療保険や年金の二重構造をなくす
・控除をなくし、手当に変える
この3つの方法で、とっても公平かつシンプルな税制度になる。確定申告が簡単すぎて、税理士が暇になってしまうかもしれない。
しかも、1回できた制度の設定金額を物価上昇と連動させることができたら、今数年おきにやっている「所得いくらで税率何パーセントにする?」といった審議も部分的に楽になるから、議員も暇になる。
そして、複雑な説明を必要とするこんな面倒くさいコラムも書かなくて済むから、僕も暇になる。でも構わないよ。この件ではぜひ、働き控えさせてください。