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トランプ=マスクの連邦職員200万人解雇の脅しに、DEIの「equality」さえ危ないと書き込みから削除するリベラルエリートの悲哀

ニューズウィーク日本版 2025年2月5日 20時17分

ジェームズ・ビッカートン
<リベラル志向の連邦機関職員を「ディープステート(闇の政府)」として敵視するトランプが、イーロン・マスクと組んで大規模な復讐を開始した。世界にこれほど恐ろしいリストラはそうないが、連邦職員の一部は抵抗の兆しを見せている>

ドナルド・トランプは大統領選挙で、いわゆる「ディープステート(闇の政府)」の解体を誓った。第一期のトランプ政権でトランプの不興を買ってしまった連邦政府組織、そしてその職員の総称とも言うべきディープステートほど、トランプの再登板を恐怖してきた人々はいないだろう。官僚エリートの道を極めてきた人生が、今にも終わりを迎えようとしているのだから無理もない。だがそこはエリート、慎重に反撃も画策している。

複数の連邦政府職員が匿名で本誌に語ったところでは、彼らは恐怖の中で暮らしているが、違法と思われるホワイトハウスからの指示はすべて無視するつもりであり、単に圧力のために職を犠牲にすることはないと決意しているという。

 

トランプは1月20日に2度目の大統領に就任して以降、リモートワークの終了や「多様性、公平性、包摂性(DEI)」事業の廃止など保守反動的な政策を矢継ぎ早に打ち出し、職員の士気は低下する一方だと彼らは言う。これを「混沌として、やる気が削られる」状態と表現した職員もいた。

敵はトランプだけではない。政府効率化局(DOGE)を率いる億万長者のテスラCEO、イーロン・マスクも、連邦政府解体という脅威的かつ非生産的な計画を推進する存在だ。

何人の職員がこの非公式な抵抗運動に参加しているかは、明らかではない。だが、連邦政府職員のための安全な空間と言われるネット掲示板レディットのページ「r/fednews」(27万8000人)では、多くの職員が政権の政策に対する怒りや落胆、悲しみを表明している。

彼らは伝統的な抵抗のシンボルを避ける。その代わりに、星とホッチキスのイメージ、そして銃所持の権利をもじった「Come and take it(取れるものなら取ってみろ)」というスローガンをあしらった奇想天外な旗を団結の中心にしている。別のスローガン「立場を守れ。辞めるな」も広く共有されている。ある投稿は、このスローガンを繰り返して「私たちは国内外の脅威から憲法を守ることを誓った」と主張し、人気を博している。

Feds, do not give in, do not give up. Do not resign. byu/No_Lawyer5152 infednews

「取れるものなら取ってみろ」は、19世紀半ばにアメリカとメキシコがテキサスを奪い合ったとき、アメリカ軍がメキシコ軍に対して「この大砲を奪えるものなら奪ってみろ」と言ったことに由来するという。ただし大砲ではなく日常的な事務用具ホッチキスを使ったところが今回の抵抗の特質を表している。

トランプと彼の支持者に言わせると、ディープステートを構成するのは、進歩主義に傾いた連邦政府職員。彼らは、誰がホワイトハウスと議会を支配しようとも、官僚機構を操って実質的な権力を行使し続けている。歳出が高すぎると批判し、連邦政府機関は政府への信頼を回復するために、国民のニーズにもっと応える必要があると主張する。

 

共和党のジム・バンクス上院議員(インディアナ州選出)も、ディープステートを批判するトランプ支持者のひとりだ。

「アメリカ国民が圧倒的にトランプに投票したのは、政府の無駄を根絶し、ホワイトハウスに常識を取り戻すという彼の公約のためでもある」と、バンクスはNBCニュースに語った。「36兆ドルの国家債務を抱えるトランプ政権が、税金が無駄なく使われるよう、約束通り責任をもって努力することを歓迎する」

一期目のトランプ政権では、一部の連邦職員がホワイトハウスの指示に逆らってわざと対応を遅らせたり、完全に無視したりすることで、トランプの政策遂行を台無しにしようとしている、と広く報道された。

1月に発表された保守系シンクタンク、アメリカ第一政策研究所の報告書は、この間、連邦職員の「少数派」が積極的にトランプの政策を妨害するために、重要な進捗についてトランプ政権の閣僚に知らせないとか、「法的に使えない」政策草案を作成するといった戦術を用いた、と結論づけた。

 

1月20日のトランプ大統領就任後、ホワイトハウスは政府機関にリモートワークを禁じ、多くの連邦政府職員に、2月6日までに辞意を示せば、8カ月分の給与を支払うと「破格の」提案をした。トランプはまた、バイデン政権が任命した職員1000人以上を「アメリカを再び偉大にするというわれわれのビジョンに沿わない」存在とみなし、解雇すると述べた。



マスクは、連邦政府支出を「少なくとも2兆ドル」削減すると示唆してきた。

内務省およびその支局に30年近く勤めてきたベテラン職員によれば、こうした発言のせいで連邦政府内の士気は「今まで見てきたなかで最悪」だという。「連邦職員の98%は勤勉で、国民への奉仕を自分の使命と心得ている。『怠け者』の政府職員はほとんどいない」からだ。

 

「恐怖心とパラノイア(妄想性障害)のレベルも極端に高まっている。同僚の多くは、一週間の大半を費やしてウェブサイトを調べ、DEI(多様性、公正性、包括性)プログラムに関する言及をすべて削除していた」

「『公平性(equity)』という言葉さえ、省内外のデジタルプラットフォームから削除されている。これは、私の部署の最高レベルからの命令だ。職員たちは、トランプ政権の意にそぐわない表現が一つでも見つかれば解雇されるのではないかと怯えている」

米中西部の保健福祉省に勤める別の連邦職員も同じように感じている。

「全体的なムードは、不安、不信、狭まる包囲網だ」「我々の仕事は常に過小評価され、時には感謝されていないとさえ感じたが、いまは標的にされたとはっきり感じる」

マスクが連邦職員に送ってきた『重大な岐路(Fork in the Road)』というタイトルのメールは、条件のいい早期退職でいまやめるか、後で職を失うか、という二者択一を迫った旧ツイッター社員のやり方にそっくりだという見方もあるという。



連邦政府人事管理局が200万人以上の連邦職員に送ったこのメールは、辞職と引き換えに約8カ月分の給与を出すというもので、政権側は職員の5〜10%がこの提案を受け入れると予想していた。それでも職にとどまり、トランプに対する抵抗を示す職員もいる。

メリーランド州ボルチモアでソーシャルセキュリティ・アナリストとして20年働いてきた連邦職員マット・ウィルソンは、身分を明かした上で取材に応じてくれた唯一の職員だが、連邦政府人事管理局からのオファーを受けようとしている人は一人も知らないという。

 

「早期退職のオファーに乗ろうという人とは一人も話していない」とウィルソンは述べる。「我々の奉仕精神は強力だ。米国民が我々に期待する重要な仕事を、現在も将来も続けていく」

一方、メイン州にあるポーツマス海軍造船所を拠点とする国防総省の職員は、「テレワークがなくなれば、もっと多くの人が辞めるだろう」と言う。「年配の職員は、退職金の権利確定期間の問題があるので留まるかもしれない。若い職員は出て行くだろう」と付け加えた。

(翻訳:ガリレオほか)



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