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米国を「孤立主義」から「拡張主義」に転換...「ガザ長期管理」唱えたトランプの狙いは?

ニューズウィーク日本版 2025年2月6日 17時44分

木村正人
<パレスチナ自治区ガザを「アメリカが管理する」とし、「パレスチナ人は近隣諸国に移住すべき」と訴えたトランプに各国から批判が殺到している>

[ロンドン発]ドナルド・トランプ米大統領は2月4日、ホワイトハウスでイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と共同記者会見し、パレスチナ自治区ガザを「米国が長期的に管理する。倒壊した建物や不発弾を撤去して経済開発を進める」と述べ、世界中を唖然とさせた。

「パレスチナ人がガザに戻りたいと望む唯一の理由は他に選択肢がないからだ」とトランプ氏は述べた。ガザに住む180万人のパレスチナ人は「人道的な心」を持つ豊かな近隣諸国に移住すべきだと主張し、ネタニヤフ氏は「これは歴史を変える可能性がある」と歓迎した。

パナマ運河、グリーンランド、カナダ併合をほのめかし、メキシコ湾の名称をアメリカ湾に変えるというトランプ氏は中東の地政学をひっくり返した。米CNNは「彼は『米国の所有権に基づく立場』と言うが『21世紀の植民地主義』と表現するのが適切だろう」と報じた。

公約では米国の海外での役割を縮小する

米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は「トランプ氏は米国の海外での役割を縮小することを公約に掲げていた。しかし就任以来、トランプ氏は孤立主義というよりも、時に拡張主義に近い世界観を明確に示している」と論評した。

英紙ガーディアンの記者はホワイトハウスの混乱ぶりを「エイブラハム・リンカーンが安置され、パブロ・カザルスがチェロを演奏した由緒あるイーストルームはライブハウスの最前列と化した。バイデン時代には決して起こらなかったことだ」と伝えた。

英紙フィナンシャル・タイムズの社説(2月5日付)は「あまりに馬鹿げた計画なので日の目を見ることはないだろう。世界最強のリーダーが外交政策を遂行する上での無責任さを浮き彫りにした。米国がガザを管理することはあらゆる国際規範に違反している」と批判した。

トランプ氏は「米国がガザを引き継ぐ。われわれが管理し、敷地内の危険な不発弾やその他の兵器をすべて解体し、破壊された建物を撤去し、平らに整地し、その地域の住民に無制限の数の雇用と住宅を供給する経済開発を行う。中東のリビエラとなる可能性がある」と発言した。

「2国家、1国家、その他の国家は何も意味しない」

ロイター通信によると、イスラエルの空爆で破壊された5000万トン以上の瓦礫の撤去には21年を要し、最大12億ドルの費用がかかる可能性がある。パレスチナ保健省は瓦礫の下に1万体の遺体が埋もれていると推定する。ガザを復興できるのはトランプ氏の言うように米国だけだ。

「ガザを長期管理することは中東の一部、ひょっとしたら中東全体に大きな安定をもたらす。ガザにあるのは死と破壊と瓦礫、倒壊した建物ばかり。恐ろしい場所だ。2国家、1国家、その他の国家は何も意味しない。人々に生活のチャンスを与えたいということだ」(トランプ氏)

ジョー・バイデン前米大統領の対話路線で増長したイランについて「核兵器は持たせない。彼らに1つでも持たせるわけにはいかない。もしイランが核兵器を持つことになれば、彼らにとって非常に不幸なことになる」と明確なレッドライン(越えてはならない一線)を引いた。

中国やサウジアラビアはトランプ氏を批判

トランプ氏は「反ユダヤ主義的」として国連人権理事会から脱退し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への支援も打ち切った。イランに対して強力な制裁を再び発動。イエメンの反政府武装組織フーシについても再びテロ組織に指定した。

イスラエルと停戦合意したイスラム組織ハマス高官はトランプ氏の発言について「馬鹿げており、不合理だ。このような考えはこの地域に火をつける恐れがある」とロイター通信に語った。中国外務省報道官は「パレスチナ人がパレスチナ人を支配することを信じている」と述べた。

サウジアラビアは声明でパレスチナ人をその土地から追い出す試みを拒否することを強調し、パレスチナ国家が樹立されない限りイスラエルと国交を樹立しないと述べた。他の中東諸国もトランプ氏の発言に強く反発した。

WSJ紙によると、ガザの長期管理はトランプ政権のシニアアドバイザーの間で極秘裏に進められていたという。米民主党は「これは民族浄化だ」とトランプ氏を批判した。世界は帝国主義のような「力による支配」の時代に逆戻りしたのだろうか。


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