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星条旗が、いつの間にか「デザイン変更されている」...拡散される「改変された旗」画像の真相

ニューズウィーク日本版 2025年2月9日 13時5分

ジェナ・デヨング、レイチェル・ドブキン
<米政府機関の各サイトに掲載されている星条旗のデザインが、かつての南部連合の旗に似たものになっているとして、トランプ政権発足と絡めた陰謀論が沸騰>

アメリカの国旗といえば赤白のストライプの左肩に、青地に白い星が並んだお馴染みの「星条旗」。だが、実はそのデザインが2025年に変更されたのではないか......という噂がインターネット上で流れている。一部の人はその根拠として、米政府機関の複数のサイトにある「改変された旗」の画像を挙げている。

■【画像】いつの間に? アメリカ国旗が「デザイン変更されている」...SNSで拡散される「改変された旗」画像

SNSユーザーのなかには、この変更はドナルド・トランプ大統領のホワイトハウス復帰と関係していると推測する人もいる。さらには、新しい旗のデザインは南部連合の最初の旗を彷彿させると主張する人もいる。実際、各政府系サイトに載っている星条旗のデザインは、南部連合の旗の1つに似て見える。

「噂」は正しいのか。ネットに流れる主張を精査するファクトチェックにより、米国旗に公式な修正が施された事実はないことが示された。

バージニア工科大学で南北戦争を研究するポール・キグリー(Paul Quigley)准教授は本誌の取材に対し、「9つの星が描かれた旗は、初期の南部連合旗の1バージョンとして1861~63年に使用され、しばしば『スターズ・アンド・バーズ(Stars and Bars)』と呼ばれるものだ」と語った。

「この旗は、当初7つの星が描かれていた。それぞれの星は、最初に合衆国から脱退して南部連合を結成した7つの州を表していた。合衆国から脱退して南部連合に加わる州が増えるにつれ、旗の星の数も増えていった」

アメリカ国旗が公式に変更された事実はない

2025年に、米国旗が公式に変更された事実はない。現在でも50個の星が描かれたデザインのままで、これはハワイが州になった1960年から変わっていない。では、ネット上で「改変の証拠」とされ、陰謀論を煽っている政府機関の各サイトにある旗のデザインは何なのか。それは、実際に国旗に変更が施されたのではなく、デジタルデザイン上の要素が誤解されたことから生じたものだった。

米国旗は国の象徴であり、変更されたと認識されれば、それがどのようなものであれ世間の混乱と政治的な憶測につながりかねない。SNSのユーザーは、米国旗が変更された証拠として、疾病予防管理センター(CDC)や社会保障庁などのサイト上に見られる、実際の米国旗とは異なる旗のアイコンの存在を挙げている。また、トランプ政権下で連邦政府サイトに各種の変更が加えられている現状に対する懸念も、こうした憶測に拍車をかけているようだ。

一部の政府系サイトで見られるいわゆる「9つ星」の旗は、米国旗のデザインを公式に変更したものではない。そうではなく、連邦政府サイト全体で一貫性を保つために存在する米国政府のWebデザインシステムの一環として、Webバナーで使われている小アイコンだ。

9つの星の国旗デザインは数年前から使われている

9つの星が使われているのは、政治上や歴史上の意図ではなく、むしろデザイン上の制約に起因している。ネット上の憶測とは裏腹に、このアイコンは、ジョー・バイデン前大統領の時代も含めて、数年前から使われ続けている。

ノースカロライナ州シャーロットを拠点とするNBC系列のWCNC-TVによる最新の報道では、連邦政府サイトの米国旗が変更されたとする噂の虚偽が暴かれている。

ファクトチェックサイト「スノープス」が実施した、この問題に関するファクトチェックでは、トランプ政権下で国旗が変更された証拠は見つからなかった。インターネットアーカイブ「ウェイバック・マシン」がキャプチャーしていた履歴でも、バイデン時代を含む以前の政権の時代からこのデザインが存在していたことが裏づけられている。

連邦政府一般調達局(GSA)の広報担当者は、本誌に次のように説明した。「この旗は、公式の.govまたは.milドメインであることを明らかにするために用いられている。これらのサイトは安全なHTTPS接続であることを示し、来訪者の接続しているサイトが、米国政府の公式サイトだと保証するためのものだ」

バージニア工科大学のキグリーは、本誌にこう述べた。「政府のサイトにある小さなグラフィックは、スターズ・アンド・バーズのようには見えない。それよりも、赤と白のストライプが多い。また、星の配置についても、南部連合のスターズ・アンド・バーズ旗で通常見られる円形の配置ではなく、まっすぐの列で並んでいる」

「わたし個人としては、南部連合へのオマージュというよりは、単純なグラフィックデザイン上の判断である可能性が高いのではないかと思う。小さなグラフィックのなかに13本のストライプと50個の星を入れるのは難しすぎるため、この解決策になったのだと想像している」

ネット上では今も意見が分かれ、噂が拡散中

SNSでも、多くの人がキグリーと同じ考えを表明している。「小さなアイコンだから、50個の星を表示できるほどのピクセルがなかっただけでしょ。ストライプの数も少ない」「この手の基準を採用している政府のサイトはたくさんある。このほうが見栄えがいい、とウェブデザイナーが思ったからだ」といった具合だ。

しかし、ネット上では「デザイン的な制約」説に納得しない人も多いようだ。「この旗が意図的なのは間違いない。絵文字の旗ですら、これよりもはるかに多くの星がある。これほどわかりきったことについて、合理的な反論ができるとは思えない」

「わたしも今日、この話を聞いた。みんなが心配しすぎて疑心暗鬼になっているだけで、民主主義の破壊のようなことではないと願いたい」と心配する声もある。

SNSでは米国旗の変更をめぐる噂が依然として拡散されている状況だが、政府の記録と文書の履歴は、そうした主張を裏づけていない。事実としては、米国旗は今も1960年から使われている50個の星が描かれたデザインのままだ。
(翻訳:ガリレオ)


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