イアン・ランドル(科学担当)
<「レム睡眠」出現の遅れと健康な眠りの重要性について>
夢を見る睡眠段階に入るまでの時間が長すぎるのは、アルツハイマー病の初期兆候の可能性がある──。
アルツハイマー病の患者と軽い認知障害のある患者、認知機能に問題のない人の睡眠パターンを比較した国際チームが1月下旬、そんな研究結果を発表した。
通常の夜間睡眠では、深い眠りと浅い眠りから成る周期を繰り返す。夢をよく見るのは、1つの周期の最後の段階であるレム睡眠中だ。このときに脳は一時的記憶を処理して、長期記憶に変換する。
レム睡眠に入るのに要する時間は一般的に、加齢とともに長くなる。「レム睡眠の出現が遅れると、学習や記憶に関わるプロセスが阻害され、脳の記憶固定化能力に混乱が生じる」
今回の研究報告の上席著者の1人で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校精神医学・行動科学部のユエ・ラン准教授は、声明でそう指摘する。
「レム睡眠が不十分、または遅れる場合、ストレスホルモンのコルチゾールが増加しかねない。その結果、記憶固定化に重要な脳部位である海馬が損なわれる可能性がある」
ランらの研究に参加したのは、中国・北京にある中日友好医院神経内科の患者128人(平均年齢約70歳)。そのうちアルツハイマー病患者は64人で、同病の一般的な前兆である軽度認知障害の患者は41人。残りの23人は認知機能に問題がなかった。
研究チームは、参加者全員に医院内で一晩過ごしてもらい、睡眠中の脳波活動や呼吸、眼球運動、心拍数を測定。レム睡眠に入るまでの時間に応じてグループ分けした。
入眠から最初のレム睡眠出現までの時間は「早い」グループの場合、総じて98分以内だったが、「遅い」グループは193分以上かかった。
アルツハイマー病患者はレム睡眠の出現が遅くなる可能性がはるかに高く、アルツハイマー病に関連するタンパク質のβアミロイドとタウの量がより多いという。
「睡眠ホルモン」の効果
研究によれば、レム睡眠の出現が遅い参加者は早い参加者よりタウが29%、βアミロイドは16%多かった。その一方で、アルツハイマー病などの場合に発現が低下するタンパク質、脳由来神経栄養因子(BDNF)は39%少ない。
「病気の進行を改善する可能性があるため、睡眠パターンに影響を与える薬剤の効果を将来的に研究すべきだ」と、ランは述べている。
一例が、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンだ。レム睡眠を増やす効果が知られ、マウスを用いた研究では、βアミロイドやタウの凝集抑制との関連が確かめられている。
アルツハイマー病のリスクを懸念するなら、レム睡眠へのスムーズな移行に役立つ健康な睡眠習慣を実践すべきだと、研究者はアドバイスする。
「その一環が、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの疾患を治療し、過度の飲酒を避けることだ。いずれも、健康な睡眠サイクルを妨げかねない」
上級著者の1人である中日友好医院の彭丹涛(ポン・タンタオ)神経内科長は、声明でそう指摘している。
「レム睡眠を減少させる作用のある抗鬱剤や鎮静剤を服用している場合、アルツハイマー病の懸念があるなら担当医に相談してほしい」
【参考文献】
Jin, J., Chen, J., Cavaillès, C., Yaffe, K., Winer, J., Stankeviciute, L., Lucey, B. P., Zhou, X., Gao, S., Peng, D., & Leng, Y. (2025). Association of rapid eye movement sleep latency with multimodal biomarkers of Alzheimer's disease. Alzheimer's & Dementia.
<「レム睡眠」出現の遅れと健康な眠りの重要性について>
夢を見る睡眠段階に入るまでの時間が長すぎるのは、アルツハイマー病の初期兆候の可能性がある──。
アルツハイマー病の患者と軽い認知障害のある患者、認知機能に問題のない人の睡眠パターンを比較した国際チームが1月下旬、そんな研究結果を発表した。
通常の夜間睡眠では、深い眠りと浅い眠りから成る周期を繰り返す。夢をよく見るのは、1つの周期の最後の段階であるレム睡眠中だ。このときに脳は一時的記憶を処理して、長期記憶に変換する。
レム睡眠に入るのに要する時間は一般的に、加齢とともに長くなる。「レム睡眠の出現が遅れると、学習や記憶に関わるプロセスが阻害され、脳の記憶固定化能力に混乱が生じる」
今回の研究報告の上席著者の1人で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校精神医学・行動科学部のユエ・ラン准教授は、声明でそう指摘する。
「レム睡眠が不十分、または遅れる場合、ストレスホルモンのコルチゾールが増加しかねない。その結果、記憶固定化に重要な脳部位である海馬が損なわれる可能性がある」
ランらの研究に参加したのは、中国・北京にある中日友好医院神経内科の患者128人(平均年齢約70歳)。そのうちアルツハイマー病患者は64人で、同病の一般的な前兆である軽度認知障害の患者は41人。残りの23人は認知機能に問題がなかった。
研究チームは、参加者全員に医院内で一晩過ごしてもらい、睡眠中の脳波活動や呼吸、眼球運動、心拍数を測定。レム睡眠に入るまでの時間に応じてグループ分けした。
入眠から最初のレム睡眠出現までの時間は「早い」グループの場合、総じて98分以内だったが、「遅い」グループは193分以上かかった。
アルツハイマー病患者はレム睡眠の出現が遅くなる可能性がはるかに高く、アルツハイマー病に関連するタンパク質のβアミロイドとタウの量がより多いという。
「睡眠ホルモン」の効果
研究によれば、レム睡眠の出現が遅い参加者は早い参加者よりタウが29%、βアミロイドは16%多かった。その一方で、アルツハイマー病などの場合に発現が低下するタンパク質、脳由来神経栄養因子(BDNF)は39%少ない。
「病気の進行を改善する可能性があるため、睡眠パターンに影響を与える薬剤の効果を将来的に研究すべきだ」と、ランは述べている。
一例が、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンだ。レム睡眠を増やす効果が知られ、マウスを用いた研究では、βアミロイドやタウの凝集抑制との関連が確かめられている。
アルツハイマー病のリスクを懸念するなら、レム睡眠へのスムーズな移行に役立つ健康な睡眠習慣を実践すべきだと、研究者はアドバイスする。
「その一環が、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの疾患を治療し、過度の飲酒を避けることだ。いずれも、健康な睡眠サイクルを妨げかねない」
上級著者の1人である中日友好医院の彭丹涛(ポン・タンタオ)神経内科長は、声明でそう指摘している。
「レム睡眠を減少させる作用のある抗鬱剤や鎮静剤を服用している場合、アルツハイマー病の懸念があるなら担当医に相談してほしい」
【参考文献】
Jin, J., Chen, J., Cavaillès, C., Yaffe, K., Winer, J., Stankeviciute, L., Lucey, B. P., Zhou, X., Gao, S., Peng, D., & Leng, Y. (2025). Association of rapid eye movement sleep latency with multimodal biomarkers of Alzheimer's disease. Alzheimer's & Dementia.