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【超解説対談】第2次トランプ政権のキーワード「単一行政理論」「金ぴか時代」を読み解く

ニューズウィーク日本版 2025年2月12日 19時46分

千歳香奈子
<1月20日の就任直後から大統領令を連発し、追加関税だけでなく「ガザ所有」など驚天動地の政策をフルスロットルで打ち続けるトランプ大統領。第2次政権はどんな理論・理想に基づき、何を目指すのか。「日本で最もトランプ政権に詳しい教授」の解説>

米大統領に返り咲いたドナルド・トランプは、就任直後から次々と大統領令に署名。カナダ、メキシコ向けは延期したものの、中国に追加関税を発動するなど、国際社会を揺さぶる政策を連発している。2期目のトランプ政権は何を目指しているのか。米政治とトランプ政権に詳しい明海大学の小谷哲男教授に聞いた(聞き手は本誌編集長の長岡義博、1月31日収録)。

対談動画はこちら。

――就任式直前にアメリカを訪問された。ワシントンの雰囲気は?

来るものがついに来る、という感じでした。

もちろん民主党支持者には「この先どうなっていくんだろう」という不安があり、共和党支持者からすれば「ついに自分たちでやりたいことができる」というわけで、アメリカ社会の分断を表していると感じました。

――8年前はおっかなびっくりだったが、今回はトランプ大統領を「受容」、受け入れる気持ちが広がっているようにも感じられた。

トランプ氏を個人として受け入れるというより、アメリカ社会で保守化が進んで、トランプ氏が大統領に返り咲く環境が整ったと言った方がいいのではないか。

今回の選挙結果を見ていると、かなり従来、民主党が強いと言われていた地域でも共和党が勝っています。一つの背景に、これまで民主党政権が重視してきた多様性への反発が広まっていることがあります。

女子スポーツにトランスジェンダーの選手が入ってくる問題が今、アメリカでも議論されていますが、多様性が広まることへの警戒感、反発がトランプ氏を受け入れる土壌を生んだと思います。

――バイデン政権のDEI(多様性・公平性・包摂性)政策が行き過ぎていた?

必ずしも賛成していない人たちも一定数いて、その人たちが今回、投票行動として多様性への反発を示したと思います。

――8年前にトランプ氏が初当選したとき、アメリカにはリベラルな西海岸と東海岸だけでなく保守的な真ん中の地域があり、われわれは「真ん中のアメリカ」を忘れていた、という指摘があった。その「真ん中のアメリカ」が広がっているのか。

2020年の選挙結果と24年の選挙結果を比べて、どれくらい保守化が進んだか、あるいはリベラル化が進んだかを示す地図があるんですが、今回のを見ると、この4年間で東海岸と西海岸が真っ赤(共和党支持)になっている。つまり、元々民主党支持が強かった地域が、共和党支持にかなり切り替わっている。
これはカリフォルニア州も含めてで、両端の保守化がかなり進んでいる。

――カリフォルニア、その周辺のネバダ、あるいはテキサスなども民主党支持の移民が増え、これからデモグラフィー的に民主党が強くなると4年前には言われたのですが、そうなってない。

これから2030年、2040年と進んでいくと、従来マジョリティーだった白人、いわゆるWASPがマイノリティになっていく。その中でヒスパニック系や黒人、アジア系が広がって、より多様性を求めるリベラルな社会になるというのが定説でした。

今回の選挙結果が示しているのは、必ずしもそうはならないということ。むしろ、保守化が進む可能性の方が高いと思います。

――アメリカ社会の変容の原動力は何なのでしょうか。

その多様性の反発に加えて、今回はやはりヒスパニック系の人たちがトランプ氏に多く投票しました。

ヒスパニック系は従来、多様性の観点から民主党支持だったわけですが、今回は特にヒスパニック系男性の18%ポイントが前回に比べてトランプ氏に多く流れました。元々カトリック系で保守的な価値観を持っていたことに加えて、ハリス氏が非白人で女性であるということも影響したと思います。ヒスパニック系の男性からすると、まだ非白人の女性大統領を受け入れることができなかった。

――後になって考えてみると、セレブがこぞってハリス氏を支持したのもまずかった。

民主党はもはや多くのアメリカ人にエリートの党、お金持ちの党と見られている。労働者階級、中間層が大事だと言いながら、結局は金持ち優遇じゃないか、金持ちたちの仲間内で盛り上がっているだけじゃないか、と。

――以前は民主党が労働者の党、共和党がエスタブリッシュメントの党だったのが逆転している。

今、まさに逆転したと思います。

――就任直後だけでも50本以上の大統領令を連発した。中には、アメリカの国是である出生地主義の否定のような政策も含まれている。どこまで本気か?

全部本気です。不法移民の対策に関するもの、出生地主義の問題も結局不法移民対策ですが、メキシコ湾をアメリカ湾にする、グリーンランド購入の話、全部本気です。

――全部本気ですか。

今回、大統領選だけではなく上下両院の連邦議会も赤(共和党勝利)になりました。いわゆるトリプルレッドですが、しかも連邦最高裁の判事も保守派が多数派になっています。

16年の選挙も実はトリプルレッドだったのですが、17年に1期目の政権を始めてみると、議会はトランプ政権がやろうとすることに反対し、最高裁も大統領令を止めるのでやりたいことができなかった。でも今回は共和党自体がトランプ党化している。トランプのやろうとすることに反対する共和党系の議員はほとんどいない。最高裁も自分が決めて選んだ保守派が3人入っているので、おそらくトランプ氏のやろうとすることを止めない。

そのトランプ氏は選挙期間中にスタッフたちと考えて、「ユニタリー・エグゼクティブ・セオリー(単一行政理論)」に基づいて政権運営をしようとしています。これは要するに、三権分立の否定です。

三権には立法と行政と司法がありますが、国民から選ばれている大統領の権限が一番強いんだ、立法も司法も大統領に従うものなんだという理論に基づいた政権運営をしようとしているんです。

大統領令は本来、法的な基盤が必要ですし、憲法にも沿っていなければならないんですが、もうそんなのはどうでもいい、大統領令が一番大事なんだということで進めています。一番わかりやすい例がTikTokです。

すでに上下両院でTikTokをアメリカでは禁止するという法律が通っていて、最高裁も合憲判断を下している。だからサービスを止めなければいけないんですが、トランプ氏は大統領令を出して、75日間猶予を与えると言った。こんな権限はないんです。でも、やっている。

――アメリカの国、あるいはアメリカのシステムを根底から変えようとしている。まさに「トランプ革命」ということか?

三権分立の否定という意味では、革命に近いことをやろうとしています。

――トランプ氏はディール(取引)が好きだが、相手と交渉する中で100%でなくても、いくらか自分の要求を達成できればいいと考えているのでは。

トランプ流の交渉術というのは、一番最初に高い球を投げて、落とすところに落とすということなんですけど、この最初の高い球がブラフだと思われたら、そもそもディールが成立しない。高い球がディールの中で違うところに落ちることはありえますが、最初はもう本気で行く。

――先日のコロンビアとの移民の送還と関税をめぐるやり取りもまさにその一つだった。

そうですね。アメリカの軍用機でコロンビアの不法移民を送り返したのですが、その際手錠を掛けたままだったことにコロンビアが反発して着陸を認めなかった。その瞬間にトランプ氏は関税を50%まで上げ、入国禁止措置を取る、ビザの発給もやめるとし、即座にコロンビアのアメリカ大使館はビザの発給を止めた。

コロンビアはいったん、自分たちも報復関税で強気に出ようとしたが、アメリカの圧力に屈して、全ての条件を受け入れることになりました。トランプ流の交渉が成功した実例です。

――今後、同様の事態はほかの国でも起きうるか。

この不法移民を送り返すという文脈では、今後中南米の国で同じようなことが起こってもおかしくない。

――同じ交渉術を日本、アジアの国あるいはロシアやヨーロッパにも使ってくる?

これはもう、国・地域関係なく。1期目からそうでしたけども、最初に強烈な圧力をかけて、ディールを引き出す。ただトランプ氏のもう一つの特徴は、一旦ディールができたら、その中身に関心がないんです。

うまくディールはできたが、中身は必ずしもアメリカにプラスでなく、相手側にプラスでも、(トランプ氏にとっては)ディールをすることに価値がある。それがわかっていれば、激しい交渉にはなっても、必ずしも全部取られるわけではないとわかります。

――トランプ氏の理想の国家像について。

アメリカを再び偉大な国にする、Make America Great Again(MAGA)はもともとレーガン大統領のスローガンでした。レーガン大統領の「偉大なアメリカ」は、1950年代の豊かで、平和で安定したアメリカのことです。

トランプ氏もMAGAという言葉を使っているぐらいですから、当初は50年代のアメリカを意識しているのではないかと思っていたのですが、今回、一連の発言や大統領令を見ていると、それよりもっと前のアメリカ、南北戦争が終わった直後のアメリカに戻したいのではないかと。

この時代のことを「金ぴか時代」と言います。南北戦争が終わって、アメリカでは産業革命が一気に進み、元々世界最大の農業国だったのが世界最大の工業国にもなる。生産能力はどんどん上がっているのに、関税で国内産業を守ろうとする。

一方で、大企業と政府の癒着がどんどんと進んでいく時代でもありました。帝国主義の時代にも入り、米西戦争を機にキューバを保護国にし、ハワイを領有し、アラスカもそのとき手に入れた。領土拡張の野望が出た時期だが、今回の一連の大統領令(が目指すアメリカ)は「金ぴか時代」のアメリカに非常に似ている。

大企業は当時は鉄鋼や鉄道だったが、今回はビッグテックに変わった。選挙で選ばれていないビックテック系のCEOたちが政治に口を出す。「新しい金ぴか時代」と言ってもいいかもしれません。

――就任式で居並ぶビッグテックのCEOたちの様子を見ると、まさにそうだ。

もう一つ危険なのが、ウクライナを征服するべきだと言ったオリガルヒと同じ、ということです。新しい新興財閥の彼らは選挙で選ばれてもいないのに、お金という力を使って政治に口を出す。まさにアメリカのビッグテック系もオリガルヒになりつつある。

――トランプ氏自身に、自らの理想が南北戦争後のアメリカだという意識はあるのか。

これはわかりません。無意識かもしれない。本人はレーガン大統領と同じく50年代の、トランプ氏が知っているアメリカに戻したいと思っているのかもしれません。でも彼がやろうとしているのはニューディールの前、大きな政府・福祉国家になる前の「金ぴか時代」のアメリカに戻すことじゃないか、という気がします。

――閣僚人事について。驚くような人たちがどんどん閣僚になろうとしている。

一言で言うと忠誠心。これが全ての選考基準になっています。トランプ氏がやろうとすることを実現するのはもちろん、バイデン政権の間にトランプ氏は4つの裁判を起こされていますが、司法省に対する復讐のための人事も見られます。

もう一つはウォールストリート系の投資家たちを入れて、自分が進めようとしている経済政策をやらせる。そこに陰謀論者と思われる人たちも入ってこようとしているが、全て結びつけるのは忠誠心。いくつかのグループはあるが、トランプ氏の政策を実現するための閣僚ですから、トランプ氏に反対するような人は一切入っていない。

――第1次政権は四つ星の将軍やビジネスで成功したCEOが要所要所の閣僚ポストを担っていたが、彼らが常識を働かせてトランプ氏に反対するようになった結果、うまくいかなくなった。その反省を活かしている?

1期目はトランプ氏も自分が勝てると思ってなかったんです。だから人事の準備などもしていなかった。伝統的な共和党の人たちから閣僚を選んだ結果、やろうとすることに反対する人たちが出てきた。今回はもう入念に人事も含めて準備をし、その中で忠誠心を重視して進めてきた。

――能力よりも忠誠心?

能力よりも忠誠心です。

――忠誠心だけでアメリカ政府は回っていくのだろうか。

おそらく回らないと思います。やはり大統領の周りに異なる意見を持つ人たちがいて、初めてその政策はいい方向に行く。トランプ氏がやると言ったことをみんなでやるだけの閣僚たちになるので、非常に難しいと思います。

――各省庁の監察官をなくす、廃止するという動きも出ています。歯止めが利かなくなるのでは。

「金ぴか時代」と同じく、不正がまかり通る政治になっていく可能性は十分あると思います。

*後編に続く(2月19日公開予定)

小谷教授×長岡編集長の対談動画



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