藤井聡太叡王(竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖=21)と同学年の伊藤匠七段(21)が20日、第9期叡王戦5番勝負第5局で藤井を下し、3度目のタイトル挑戦で栄冠を手にした。
藤井の全8冠独占の一角を崩し、新時代の到来となった。
圧倒的な終盤力を誇る藤井に競り勝った。最終盤で連続王手にも「進めていくうちに詰まないかなと思った」と読み切った。初の栄冠を手にし、「苦しい将棋が多かったので、運が良かったかなと思う。1つ結果が出たのはよかった」と謙虚に話した。
注目の一戦は両者得意の「角換わり腰掛け銀」の戦型。研究の生きる最先端の将棋は、藤井が穴熊、伊藤は右玉を志向した。「考えていた」と58手目に4筋の敵陣深くへ角を打ち込む作戦を繰り出した。「自信のない展開だったが、なんとか辛抱強く指すことができた」。極限の戦いでも最後まで冷静だった。
12年1月の全国小学生将棋大会の準決勝で藤井を負かし、大泣きさせたことから「藤井を泣かせた男」と呼ばれるようになった。伊藤は17歳でプロ入りしたが、藤井は14歳7カ月の史上最年少で中学生プロとなった。先を走り続ける“ライバル”に追いつこうと、ひたすら将棋の研究に没頭した。
昨年10~11月の竜王戦、今年2~3月の棋王戦では藤井から1つも白星を上げられず敗退。タイトル戦で負け続けても「はっきりと実力差があるととらえ、棋力を上げていくしかない」。心は折れなかった。
3年前、新人王戦で初優勝したとき、師匠の宮田利男八段は「同い年の4冠王(当時藤井は竜王・王位・叡王・棋聖)とのタイトル戦が必ず来る。そうだよね? 宮田門下は酒とギャンブルは25歳まで絶対にダメ!」。師匠の「禁酒令」を守り? 21歳8カ月の歴代8位の最年少でタイトルを手にした。「藤井を泣かせた男」が「藤井から初めてタイトルを奪った男」になった。【松浦隆司】