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テレビから消えた芸人、村本大輔の3年間 奮闘、笑い、涙、そして…

日刊スポーツ 2024年7月8日 7時0分

5年くらい前から、お笑いコンビ、ウーマンラッシュアワーの村本大輔(43)をテレビで見かけなくなった。

13年の「NHK上方漫才コンテスト」と「THE MANZAI」を制したコンビは、「AMEBA Prime」への出演をきっかけに村本が政治ネタを作るようになってから一転テレビに居場所を失った。

「アイアム・ア・コメディアン」(7月6日公開)は、「東京クルド」などで知られる日向史有監督が、テレビから消えた村本の3年間を追った作品だ。

序盤、敬愛する米国のコメディアン、ジョージ・カーリン(08年71歳没)に村本がちらっと触れる場面がある。放送禁止用語を多用しながら、ユーモアたっぷりに政治や社会を風刺したこの人のように、当たり前に政治ネタをやりたい。そんな思いが伝わってくる。

テレビに出番を失ってからも、年に1度の「THE MANZAIマスターズ」(フジテレビ系)への出演に際しては局側に意向に耳を傾け、政治ネタのテレビの「限界点」を手探りする。嫌われ芸人、炎上芸人と揶揄(やゆ)されながら、その姿勢はどこまでもポジティブだ。

被災地で、減らない仮設住宅に腹を立て、それをネタにそこに住む人たちの笑いを取る。在日韓国朝鮮人の輪に飛び込んで酒を飲み、韓国に渡ったミニライブでは観客も予期しないタブーネタで若者たちの笑いを誘う。これと思ったらまっしぐらの、笑いへの純粋な姿勢にいつの間にか引き込まれる。

スタンダップコメディーの本場、ニューヨークでの「武者修行」も自然の成り行きに見えてくる。知り合いの米国人の案内でネタ帳片手に街を歩き、ライブハウスを巡りながら、習い始めた英語で頭に浮かぶままに書き殴っていく。

先輩コメディアンに「陳腐」と言われてもめげない。「日本でも通ってきた道だから」。そのバイタリティーには気押される。小さなライブハウスでの「お試し興行」で試行錯誤を繰り返すうちに爆笑も勝ち取る。思わず見せたドヤ顔がおかしい。

無敵に見えた村本が涙を見せるシーンが印象的だ。テレビには出なくても独演会は札止めだった彼を襲ったコロナ禍だ。客の反応をひろいながら進めるスタンダップの手法には致命的。「リモートは嫌だ」と涙声になる。ライブを主戦場にしていた人たちが、コロナ禍でこうむった打撃の大きさを改めて考えさせられる。そんな彼がZOOMを使ったライブで救われていく過程もカメラは淡々と追っていく。

離婚している両親それぞれとの対話シーンも父と母が対をなして、まるでドラマのような展開だ。そして、予期せぬ別れもある。

日向監督はテレビから消えた芸人への興味からカメラを回し始めたのだろうが、公私内外でいろいろあった3年間の密度は濃すぎるくらいだ。

ジョージ・カーリンは愛妻を失ったときに「-人生は呼吸の数で決まるのではなく、どれだけハッとする瞬間があったかで決まるー」と、その心中を友人への長文メールでつづったが、村本はこれと対極の笑いで「最愛の人」を送る。

「嫌われ芸人」がいつの間にか好きになる。そんな魅力に満ちた1時間48分だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

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