Infoseek 楽天

大貫妙子、坂本龍一さん監修劇場で共作初アナログ盤楽曲聴き「耳が反応し涙止まらない」涙エピ明かす

日刊スポーツ 2024年7月15日 18時0分

シンガー・ソングライター大貫妙子(70)が15日、都内の東急歌舞伎町タワー109シネマズプレミアム新宿で行われた、坂本龍一さんとのアルバム「UTAU」の初アナログレコード盤と「UTAU LIVE IN TOKYO 2010」初ブルーレイ発売記念イベントに登壇した。檀上で、坂本さんが「犬の耳」と呼んでいたほど耳が良く、レコーディング中に音に感じ入って「耳が反応しちゃって、勝手に涙が止まらない」などと、しばしば泣いてしまうエピソードを披露した。

大貫は、坂本さんと音楽における盟友関係にあった。坂本さんが2003年(平15)から20年、ナビゲーターを務めてきたJ-WAVE(東京)の番組「RADIO SAKAMOTO」が、がんで闘病していた今年の3月5日深夜に最終回を迎えた際は、坂本さんに代わって進行を務め、番組を締めくくった。坂本さんが同28日に71歳で亡くなったことが4月2日に公表されると、Xに「荼毘(だび)に付す前日、お会いすることがかないました」とつづったほど、深い関係性だった。

「UTAU」は、2010年(平22)11月にリリースされた2人のコラボレーションアルバムで、札幌市の芸森スタジオで10日間にわたってレコーディングが行われた。大貫は「坂本さんはニューヨークに住んでいましたので、日本に戻ってきて何かをやる打ち合わせの時、坂本さんのマネジャーの方が『教授、ここからここまで空いていますよ。せっかくだから大貫さんと何かしたら?』と突然、言っていただいたみたいで」と、企画のきっかけを明かした。「具体的なイメージはなかった」というが「レコーディングのために、たくさんの人を集めるのは大変なので、一番シンプルなのは歌とピアノという形で」と、大貫の歌と坂本さんのピアノという、ミニマムな形で制作する方向性になったという。

具体的には、坂本さんの楽曲に大貫が言葉を紡いで詩をつけたもの、以前の2人の共同作品、童謡「赤とんぼ」と新曲「a life」で構成された。大貫は「私の方から『良かったら私の方で歌詞を乗っけていい?』と…。自分でも曲を書くけど、全て曲が先。自分で書いたメロディーではありながら、メロディーが言葉を呼ぶ」と、自ら楽曲に詩を付けたいとリクエストしたと振り返った。「坂本さんは、いい曲がたくさんあるので、聴いていると詩が浮かんでくる。1、2曲でも書かせていただけたらと思って、言ったら『いいよ』と。本当に聞いていたか、分からないけど」と、坂本さんが同意した様子を振り返った。

この日のイベントには、120人の観客が集った。その中で「UTAU」アナログ盤から「美貌の青空」「夏色の服」「鉄道員」の3曲を流した。うち「美貌の青空」は売野雅勇氏、「鉄道員」は奥田民生が作詞し、大貫が作詞したのは「夏色の服」1曲だった。大貫は時に目をつぶり、頭や肩を左右に振り、リズムを取りながら聞き入った。

大貫は「美貌の青空」の作詞は自らがしたと勘違いしていたが、レコーディングを取材したRITTO BASEディレクターでこの日、司会を務めた國崎晋氏から、売野氏が作詞だと指摘されると、照れ笑いを浮かべた。そして「自分で書いたんだと思ったけれど、何か違うと思った。自分で使わない言葉があったので」と口にした。

トークの中で、当時の記憶もよみがえってきたようだ。「(札幌の)スタジオの空気、自然の空気もあると思う。レコーディングしていても、割とプライベートな感じだった。坂本さんも朝、起きたら連ドラ(NHK連続テレビ小説)を見ながらご飯食べたり…私も知らなかったので意外だった」と、笑いながら当時の様子を明かした。

この日、イベントで上映された「UTAU LIVE IN TOKYO 2010」は、同年12月10、11日に東京国際フォーラムで行われた公演を収録したものだ。坂本さんが生前、音響監修を務めた東急歌舞伎町タワー109シネマズプレミアムに設置された、坂本さんこだわりのシアター音響「SAION-SR EDITION-」により、2チャンネルのブルーレイの原音を残したまま、サラウンド(立体)的に残響が再現され、当時の会場の音響を聞いたような感覚での鑑賞が可能となった。

大貫は、その説明を聞き「(坂本さんが)全部、監修したんですよね」と、しみじみと語った。そして、坂本さんの音に関するエピソードを披露した。

「坂本さんはね『犬の耳』みたいだと呼んでいたくらい、。本当に耳の良い人で。レコーディングしていて、彼がどれだけ涙を流していたか。私なんかには聞こえないような、すごい高音を若い頃は、特に聞こえていて。悲しいわけじゃなく、音に反応して涙が止まらない。聞こえちゃっているんでしょう、耳が? 聴いていて涙が出ちゃう。『私、悪いこと言ったのかな、泣いてる?』と聞いたら『いやいや、この音に耳が反応しちゃって、勝手に涙が止まらないんだけど』と…優しい人なので」

トークを終えた大貫は、客席に「お楽しみ下さい」と呼びかけて、笑顔で降壇した。【村上幸将】

この記事の関連ニュース