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「お札パン」「栄一翁通り」…新デザイン1万円札の顔!渋沢愛が止まらない

日刊スポーツ 2024年7月20日 7時49分

<情報最前線:ニュースの街から>

7月3日、20年ぶりにデザインが一新された3種類の新紙幣が発行された。特に1万円札に関しては、40年ぶりの福沢諭吉からの「交代」で「近代日本経済の父」といわれる実業家の渋沢栄一が登場したが、ゆかりの地では今もブームが続く。晩年を過ごした東京都北区では、新紙幣をあしらった「お札パン」が、連日売り切れの大人気。出身地の埼玉県深谷市では、目抜き通りに渋沢の名を冠する案を市長がサプライズ発表。「渋沢愛」の熱気は今も、うせない。【中山知子】

■毎日食べても飽きない

東京都北区は生前の渋沢が私邸を構え、今もさまざまなゆかりの地域が残る。1873年(明6)、王子製紙の前身、抄紙会社を設立し今の王子地域に設置。同社工場が望める飛鳥山に4000坪の土地を購入して居を構え、61歳から亡くなるまで過ごした。跡地の庭園は「旧渋沢庭園」として飛鳥山公園に残り、一般にも開放されている。また、お札を印刷する「国立印刷局」の東京工場があるのも、この北区だ。

その北区の企業が、3種類の新札が発行された7月3日に合わせて「お札パン」を発売した。手がけたのは「旺栄」(永野博俊代表)。区や、渋沢と縁がある地域とも連携し、地方創生プロジェクトも進めている。

事業戦略部の鈴木知子部長によると、北区には「これ」というおみやげ品がなく、新しい「名物」を作れないかというのが「お札パン」の出発点だった。「お札が生まれる街、北区」をPRする区の代名詞になるような逸品を模索する中で、パンのアイデアが生まれた。サブレやクッキーはすでに存在しており、渋沢のイメージやお札を念頭に「身近に食べてもらえて、重厚感があるもの」。そこから、毎日食べても飽きないパンに至ったという。

札束感を出そうと、ふっくらではなく平らな形状にこだわった。1万円札と同じサイズのパンの型を特注で製作し、厚さは100万円の札束と同じ約1センチ。国産の小麦や発酵バターを使い、バター風味のブリオッシュ生地を、水を使わない無水製法で焼き上げ、しっとりした食感に仕上げた。「おさつ」だけに、ペースト状にしたサツマイモと甘露煮をちりばめ、甘さ控えめのケーキのような食感。現物よりかわいい? イラストもあしらい、帯封までつけるこだわりだ。

渋沢パンは今年4月から発売しているが、新5000円札の教育家・津田梅子、新1000円札の細菌学者・北里柴三郎のパンも、新紙幣発行に合わせて完成させた。津田パンには、津田の出生地、東京都小平市の名産ブルーベリーと、父の出身地、千葉県佐倉市のピーナツを、北里パンには出生地の熊本県小国町特産のリンゴと、甘さ控えめのクリームチーズを使った。

パンは、昨年オープンしたセレクトショップ「渋沢逸品館TSUNAGU marche(ツナグマルシェ)」で、1個550円(税込み)で発売。手作りのため1日に製造できるのは200~300個。店には40~50個置いているが、発売以来、売り切れが続き、20分で完売した日もあったそうだ。渋沢のトレードマークでもあるシルクハットを模したあんぱんや、ステッキをイメージした黒カレーパンの販売も始めている。

近代日本で500の企業にかかわった渋沢は、私邸では海外からの客をもてなし、海外と日本、地元の「接着剤」の役割も果たした。あのドジャース大谷翔平投手(30)も渋沢の「論語と算盤」を愛読したとされる。渋沢の教えは世代を超え、現代にもつながっている。

鈴木さんは今後、渋沢の縁を通じた地域のつながりを思い描く。その一助にと、13日から300万円を目標にしたクラウドファンディングも始めた。「お札パン」のほか、渋沢ゆかりの地の名産品などが返礼品に。集まった資金は「お札パン」のさらなる普及や、地域の盛り上げに使いたいとしている。「お札パン」は渋沢の出生地、埼玉県深谷市などでも販売を予定する。鈴木さんは「渋沢さんのご縁、お札つながりで、ゆかりの地域や人とつながっていけるようなことを考えています」と話している。

■道の名前が「栄一翁通り」になる?

渋沢の出生地、埼玉県深谷市では新札発行の3日に合わせてカウントダウンを実施した。19年4月に、新1万円札の肖像に渋沢の起用が発表されたことを受けて20年4月「渋沢栄一政策推進課」という部署も設置。この間、市をあげたPR活動を続けてきた。

14日には、JR深谷駅から市役所に通じる目抜き通りの「市役所通り」で市民らが参加した祝賀パレードを実施。朝から小雨が降る中、関連イベントと合わせて約8300人が集まり、約1時間のパレードを実施。渋沢の生涯を描いた21年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の出演者やダンシングチームなども加わり、華やかなパレードとなった。

セレモニーでは、小島進市長(63)がサプライズの計画を発表。市役所通りに、渋沢の名前を冠した愛称をつける意向を明かした。

渋沢をイメージしたシルクハットにステッキ姿で登場した小島氏は、集まった市民に「今日パレードした道の正式名称は知ってます? 『市役所通り』といって、役所っぽくてあんまり面白くない。通称でいいんだけど『栄一翁通り』にしてはどうですか」と提案。拍手が起きると「あそこの通りは『栄一翁通り』だからね。よろしくお願いしますよ」と呼びかけた。来賓の大野元裕知事も、市道であることから「どうぞ、やってください」と歓迎の意を示した。

市民の1人は「渋沢さんの功績を未来まで伝えていくのが市民の役割。いいんじゃない?」と話した。小島氏は「新札発行は全国から注目され、本当にありがたい。市民1人1人がいろんな場所で渋沢さんを盛り上げていただいている」と述べ「今日はある意味、スタートだ。これからも全国に渋沢さんを発信していきたい」と意欲をみせた。

市では、新紙幣発行日に日本銀行から寄贈された「記番号AA000006AA」の新1万円札の一般公開も、市庁舎で始めている。

◆その他の新紙幣ゆかりの地 北海道十勝清水町は渋沢栄一が開墾した地といわれる。未開の土地を耕し、発展させ、現在では酪農や農業がさかんな場所となった。昨年10月には、同じく渋沢ゆかりの東京都北区との間で「次世代を築く連携及び協力に関する協定書」を締結するなど、結びつきは強い。また、新1万円札の裏面にデザインされている東京駅の丸の内駅舎を設計した辰野金吾の出身地、佐賀県唐津市でも、お祝いのイベントなどが行われてきた。辰野は「近代建築の父」といわれ、重要文化財に指定されている日本銀行本店など、多くの歴史的建築物を設計したことで知られる。

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