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上田春雨氏が「呪詛を受信しました」で作家デビュー 新聞記者で2児の母「呪いがあればいいな」

日刊スポーツ 2024年7月28日 10時22分

作家上田春雨氏(37)が小説「呪詛(じゅそ)を受信しました」(宝島社文庫)を7月3日に出版した。昨年の「第22回このミステリーがすごい!」の1次通過作品「死に至る6バイト」から改題した。この作品が小説家デビュー作となる上田氏は、北海道帯広市出身。筑波大社会学類卒で、現在は新聞社で記者として働く2児の母親でもある。上田氏に聞いた。

物語は、治安の悪い北海道の地方都市を舞台に、家庭環境に恵まれない女子高生がSNSを駆使して、同級生の間で連鎖する死の真相を解き明かしていくミステリー。

ミステリーを書くきっかけについて、上田氏は「大賞になると賞金が1200万円なんですよ(笑い)。欲しいじゃないですか、富と名誉。結局、賞金は逃しちゃったんですけど」と笑った。

「昔から作家になりたいという気持ちは強くありました。小さい頃から本が好きで、本の世界と現実の世界の区別がなかった。本を読んだり、空想をしたりすると頭の中に映像が流れて、白昼夢のようにその世界に没頭してましたね。学校の友達に対して『昨日、式部がさ~、源氏物語を書いてる途中にさ~』のように話しかけていたりで、友達は困惑してたと思います。こんな感じだからその時、友達はほとんどいなかったです。小学校高学年になるにつれて、現実は現実、物語は物語とやっと区別がつくようになりました」と振り返った。

書くことが好きで新聞社に就職してからも、物語を生み出す作家という職業に対する憧れをずっと持っていた。「憧れが強すぎて、自分にはできないと思っていました。だけど、3年前に知り合った10歳年下の友人が、趣味で小説を書いていて。『いいな、すごいね』と言ったら『書けばいいじゃないですか』って簡単に言うんですよ。もう、書くしかないですよね」。

そこから書き始めて、できあがったのが「呪詛を受信しました」だった。「昔から、オカルトが好きで、幽霊とか呪いとか、本当にあればいいのになとずっと思っていました。結構、切実に。特に事件記者をしている時に『呪いがあればいいな』と。例えば、未解決事件。呪いが本当にあるならば、警察の目を逃れても、被害者の怨念からは逃れられませんよね。素晴らしいなと。誰だってやったことの報いは受けるべきです」と話している。

そして「未解決事件じゃなくても、例えば、私が殺されたとして、犯人が捕まって裁判にかけられても、私の家族は苦しむと思います。犯人を恨んでしまうと思うし、誰かを恨むというのはしんどいことです。でも、呪いがあれば、私自身で犯人を呪い殺しに行けるし、もし犯人が私に呪い殺されなかったなら、家族は『ああ、娘は許したんだな』と納得してくれると思うんです。少なくとも、残された家族の心理的負担は減るんじゃないでしょうか」と自説を展開する。。

そして、実際には呪いが存在しないことが、創作意欲をかき立てたという。「呪いがあってほしいけれど、現実は、未解決事件は未解決のままだし、悪びれない犯人もいる、被害者遺族は苦しんだままだし。多分、呪いなんてないんですよね。だから、ちゃんと被害者が復讐(ふくしゅう)できるような、現実的な方法で呪いを考えてみようと思いました」と話している。

自身の出身地、北海道を作品の舞台にした。「故郷を惨劇の舞台にしてしまった関係で、まだ地元の家族や友達に出版を知らせていないんですよね(笑い)。主人公はじめ登場人物はみんな不幸なので、おいしいご飯も、美しい自然も、優しい人々も出しにくかったんですよ。もっと北海道のこと、褒めておくべきでした」と笑っている。

◆「呪詛を受信しました」(宝島社文庫) 北海道のある町で暮らす女子高生の湊。継母と険悪な関係の湊は、早く自立するためにパパ活をしている。ある日、湊の友人の飛鳥のスマートフォンに、事故死した中学時代の友人の美保から「死ね」というメッセージが届く。それから間もなくして飛鳥は非業の死を遂げる。。彼女の死は、死んだ美保の呪いによって引き起こされたのか。湊の周囲で連鎖する死の真相が明かされていく。

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