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夏枯れの夏ドラマ、夏らしい「海のはじまり」に救われる/夏ドラマ評

日刊スポーツ 2024年7月31日 11時29分

7月期の夏ドラマが出そろった。ただでさえ在宅率が低い夏にパリ五輪が重なり、各局の編成に攻めにくさがにじむ。列島がスポーツの熱戦に沸く中、ドラマも熱い踏ん張りを期待したい。「勝手にドラマ評」59弾。今回も単なるドラマおたくの立場から勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(深夜枠、シリーズものは除く)。

◇   ◇   ◇

◆「海のはじまり」(フジテレビ系、月曜9時)目黒蓮/有村架純

★★★★★

亡き元カノとの間に6歳の娘がいることを知った主人公の葛藤と、周囲への波紋。テーマは暗くて重いが、人物たちの傷と再生が丁寧に描かれ、静かな夏の海のようなキラキラした余韻に勇気をもらえる。波風立てずに生きてきた結果、波風のど真ん中にいる主人公の1歩1歩を目黒蓮が端正に演じ、子役の泉谷星奈ちゃんとの不器用な時間がしみじみと絵になる。産んだ人、生まなかった人、授からず苦労した人、血のつながらない母親。4通りの母親を通した女性描写のすごみ。「母親ってポジションが欲しかっただけでしょ」「好きなタイプは家族を大切にする人ですっていうアレ」。作家性あふれるせりふに生き生きと体温が乗る。

◆「マウンテンドクター」(フジテレビ系、月曜10時)杉野遥亮/大森南朋

★★★☆☆

山岳医療チーム「MMT」の活躍。ヘリでの人命救助から“死者ゼロ”を目指すお題目まで、前期の気象チーム「SDM」っぽいが、雄大な映像や主演の丁寧な演技に作品の志はちゃんとにじむ。ヘタレな主人公が1話のラストで留学して国際山岳医になり、ある程度立派になって帰国。失敗や壁に学ぶ若い伸びしろが欠けてしまい、あのままヘタレの成長物語にした方が広々とした山のテーマに合っていたのでは。医療過誤問題やモンスタークレーマーなど、特に山である必要がない暗い話より、素直じゃない親子登山の結末がキラキラと描かれた2話のような感動をもっと見たい。

◆「西園寺さんは家事をしない」(TBS系、火曜10時)松本若菜/松村北斗

★★★☆☆

夢の“家事ゼロ生活”を手に入れた38歳独身女性が、ワケあって社内のシングルファーザーと同居することに。家事に対する思想が異なる男女が「とびっきり前例のない関係になってみようよ!」。どんなラブコメの新機軸かと思ったら、「偽家族になる」という定番で、家事への問題提起なら「私の家政夫ナギサさん」の方がオリジナリティーがあった。無邪気な4歳児が勝手に部屋に上がり込んだり居座ったりしてお膳立てし、ラブコメの階段がすいすい進む。主人公が家事を遠ざける過去のトラウマは共感できるので、家事やおふくろの味を美化しない方向で幸せの形を見せてほしい。

◆「新宿野戦病院」(フジテレビ系、水曜10時)小池栄子/仲野太賀

★★★☆☆

宮藤官九郎氏が歌舞伎町を舞台に医療ドラマ。ホスト、キャバ嬢、反社、家出少女、外国人など究極の人間交差点に加え、やってきた助っ人医師は本物の野戦病院を知るアメリカ軍医(小池栄子)という盛り盛りな設定。急患、医療、警察、NPOなど常に混雑する画面はいかにも歌舞伎町だが、ボケの同時多発でどこが本線かよく分からず、「この社会は平等ですか」のテーマに集中できなかった。ネットを賑わせる小池栄子の英語せりふ問題。ネタの域を超えた字幕量で、ちょっと見落とすとついていけなくなる設計は、劇場に閉じ込めてスクリーンに集中させる映画や演劇でないと無理だと思う。

◆「スカイキャッスル」(テレビ朝日系、木曜9時)松下奈緒/木村文乃/小雪

★★★☆☆

高級住宅街スカイキャッスルに暮らすセレブ妻たちのお受験バトル。本家の韓国版に比べ、家、インテリア、服装から作品全体の奥行きまで、仕上がりがチープで泣きそう。1話から死者も出るミステリーは、偏差値アップだけでは済まない韓国の受験システムだから起こる話で、日本の受験でどう表現するのか手腕に期待。そもそも宣伝ワードは「ドロ沼」「ギラドロ」「マウントバトル」のキャットファイトで割り切っており、そのジャンルの固定ファンや配信狙いという意味では手堅い。今後、受験コーディネーター(小雪)がどんな魔物感で主人公ファミリーをかき回すかがポイントに。

◆「ギークス~警察署の変人たち~」(フジテレビ系、木曜10時)松岡茉優/田中みな実/滝沢カレン

★★☆☆☆

「定時に帰る」をモットーとする警察署の3人娘が、ギーク(賢いオタク)な知見で事件を解決。鑑識(松岡茉優)、心理分析(田中みな実)、交通課の地図マニア(滝沢カレン)というラインアップだが、ギークが機能しているのはギリギリ松岡茉優のみ。井戸端会議でうっかり解決、がテーマゆえ、行きつけの店での恋バナ、職場のグチなどゆるーい女子トークがほとんど。このゆるさが好きな人はぜひ。ボディータッチで世渡りする女性陣も、仕事と家庭を両立できなかったことを「お恥ずかしいこと」とするせりふにもモヤモヤ。ガラの悪い事務職員、あのちゃんの面白さに救われる。

◆「笑うマトリョーシカ」(TBS系、金曜10時)水川あさみ/玉山鉄二/櫻井翔

★★★★★

43歳で初入閣したスター政治家とその秘書。栄光の裏にある数々の不審死事件に女性記者が迫る。原作の時系列、相関図を大胆に分解し、女性記者水川あさみの視点で連ドラに再構築できていて、人間の業や不気味さといったテーマがしっかりある。ドラマ化のカギは政治家「清家一郎」をどう立体化できるかにかかっていて、櫻井翔は大当たり。カリスマなのか、誰かに支配されているだけのニセモノなのか。人を引きつけるアイドル性と強いパブリックイメージを持つ人だからこそ出せる雰囲気をナチュラルに表現し、違和感を掘っていくと別の違和感が飛び出すマトリョーシカな展開に見入る。

◆「GO HOME~警視庁身元不明人相談室~」(日本テレビ系、土曜9時)小芝風花/大島優子

★★★☆☆

身元不明のご遺体をテーマにした警視庁のバディもの。「死者」というデリケートな題材ゆえ、小柴風花と大島優子がどちらも似たような行動派として描かれ、バディ感がいまひとつ。アナログ×ハイテク、理系×文系、アネゴ×お嬢さまなど、正反対な化学反応もので見てみたかった。1話完結で手堅い感動はあるが、スポーツ選手の死の真相、謎の大金を残した独居老人の人生など、お話が類型的でワンランク上がってほしい感じ。一瞬出てきた「人骨で人体模型を作っていた中学教師」の方がよほど強キャラで気になる。2人の人生にも行方不明者をめぐる物語がありそうで、今後に期待。

◆「マル秘の密子さん」(日本テレビ系、土曜10時)福原遥/松雪泰子

★★★★☆

ファッションからメンタルまで、トータルコーディネートで依頼者を成功に導くヒロインが、地味なシングルマザーを大企業トップに導く。内面よりまず外見の大変身で自信を、というアプローチに説得力があり、ビフォーアフターが一目で分かるのも映像向き。「あなたが変われば世界は変わる」を精神論で終わらせない展開力に好感がもてる。メルヘンな笑顔で、挑発したり薬で眠らせたりと、やることが怖すぎる密子さん。敵陣営、九条開発とは因縁がありそう。フレンチレトロなファッション&インテリア、陰影のあるパステルな映像など、怖め童話みたいなトータルコーディネートがうまい。

◆「ブラックペアン シーズン2」(TBS系、日曜9時)二宮和也/竹内涼真

★★★☆☆

金、金、金の“オペ室の悪魔”再び。続編なのに主演だけ新キャラというややこしい試みだが、腕を武器にした大胆不敵ワールドは懐かしい。シーズン1の渡海先生が「陰」なら、今回の天城先生は「陽」。よくしゃべるタイプの悪魔像を、二宮和也がすごい手さばきでシレッと立ち上げる。渡海先生との関係や、抱えた事情がまだ出て来ず、患者とのギャンブル勝負→公開手術で抵抗勢力にギャフン、という“華麗なる医療ショー”が現状続く。冷酷に見えるギャンブルも実は慈悲深い提案で、ファミリー視聴にも向く。今回もスナイプを愛する高階先生(小泉孝太郎)。速攻でガラクタ呼ばわりされていて泣ける。

◆「降り積もれ孤独な死よ」(日本テレビ系、日曜10時半)成田凌/吉川愛

★★★☆☆

13人の子どもの白骨遺体が発見された「灰川邸事件」の真相。原作漫画の表現力がすごすぎて、映像化に燃えて気負いすぎの感。画面を暗くし、不協和音のBGMで恐怖をあおるパターンに苦笑いするしかなく、ノイジーで関係者たちのせりふが頭に入ってこないのはサスペンスとしてしんどかった。暗い事情を背負った刑事役の成田凌ははまっているので、デコラティブに演出しない方向で持ち味を見たい。親や邸宅所有者など、さまざまな虐待のテーマは重く、子どもにとって周りにどんな大人がいるかは切実な問題。原作は未完なので、ドラマがどんな真相を描くのか期待。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)

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